2020(04)

■外野の戯言

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 薪ストーブを売りにしたコテージに2泊3日で旅行に来た。ササが幹事をやってくれて開催されたMBCC同期6人で初めての遠出は順調な滑り出し。俺はドライバーという重要な役割を任されたし、目的地に辿り着いた時点でふあ~って。
 飯を食って、風呂にでも入ろうかって流れになる。一応男風呂と女風呂があるんだけど、そこまで大きな風呂じゃないから男は2人ずつに分かれて入ろうかという話になった。俺は長距離運転でちょっと疲れてたから、後のことを気にせず入りたかったし後攻で。

「2人だけだと、薪の音がはっきり聞こえていいね」
「そうだな。薪の音が聞こえる方がそれっぽいな」

 俺と一緒に後攻になったのはサキだ。サキは自分の家で風呂に入る時間がちょっと遅めだからという理由で後攻になっている。俺たちの事にはお構いなくゆっくりしてきてくれとはササとシノには言ってあるし、しばらくは2人で火の番だ。

「すがやん、尋問お疲れさま」
「ホントに。薄々覚悟はしてたけどさ。ササの奴、自分がオープンにしてるからってうっかりにも程があるんだよ」

 ササが行きの車の中で、すがやんの彼女が~などとあまりにナチュラルに言うもんだから、春風と付き合い始めたことは同期全員に知れ渡ることとなってしまった。いや、いずれ明らかにはなるから遅いか早いかの違いなんだろうけど。
 相手はどういう子なんだとか、いつ、どこで出会って、どんな成り行きで付き合うことになったのかとか、いろんなことを聞かれ続けた。逃げ切れるとも思わなかったから支障がない程度には話したけど、みんな好きなんだなーと思って。疲れた理由はそれもある。

「なあサキ」
「何」
「やっぱ、出会ってすぐ付き合うのって、早すぎ? 普通じゃない?」
「当人同士が納得してるんならいいんじゃないの」
「……良かった。サンキュ」
「恋愛なんか当人同士のことなんだから外野の言うことは気にしない方がいいよ。ただでさえすがやんは人の言葉を聞き過ぎるんだから。すがやんは彼女のことが好きで、彼女もすがやんを好きだって言ってくれてるなら、それでいいんだよ」
「そうだよな。うん」

 恋愛なんか当人同士のこと。確かにそうなんだけど、出会って1ヶ月も経たないうちに付き合い始めたから手が早いと言われても仕方ないし、相手のことをちゃんと分かってるのかとか、やっぱいろいろ言われるよなあとは。

「確かに春風とは出会ってそんな時間は経ってないし、幼馴染みの奏多と比べたら全然春風のことをわかってないとは思う。それは仕方ない。でも、互いを知って行くのが今の俺たちの楽しみでもあると思うから。その中で相容れないことも出てくるかもしれないけど、そういうところとも向き合って行きたいんだ」
「……外野の戯言だけどさ、すがやんに彼女が出来たのは、すごくいいことだと思う」
「何で?」
「だって、すがやんが自分の意思で喋ってるから。誰かの後からそうだなーとかって共感するんじゃなくて、彼女に対する思いは他でもないすがやん自身の気持ちでしょ。俺は、それが聞けただけでも結構嬉しい」
「……あー……サキ、お前~……」
「ちょっと、何で泣いてんの。すがやんが泣き上戸だった覚えはないんだけど」
「いや、俺にもわかんないけど、サキ~」

 出所がわからない涙がぽろぽろこぼれて来る。ただ、サキが嬉しいなら俺も嬉しいなあとは思うんだ。サキはいつも俺に対して「人の共感ばっかりでお前自身はどう考えてるんだ」という風に言っていた。だからこその言葉なんだろう。

「あー、はいはい。すがやん、みんなが上がってくるまでに落ち着いてよ」
「や、もう大丈夫。サキ、やっぱお前いい奴だよ。お前は頭いいし、人のことをちゃんと考えられるし、言いにくいこともズバッと言えるだろ。お前はいつも自分下げだけどさ、全然そんなことないんだって。つか、俺は前々から俺自身の言葉でそう言い続けて来てんだろ」
「そうだけど、すがやんは俺のことを上げ過ぎなんだよ」
「上げ過ぎじゃねーっつーの。謙虚過ぎんのも考え物だぞ。……サキ、お前のこと春風に紹介したい」
「え、何で。まあ、すがやんがそうしたいって言うなら別にいいけど」
「ありがとう。何にせよ、サキと友達になれて良かった。これからもよろしく」
「こちらこそ」

 ストーブの前で改めて乾杯していると、くるみとレナが風呂から上がって来た。つか意外に女子の方が早いんだな。いや、ササとシノが長風呂なのか?

「あっ、すがやん! お風呂の天井に窓がついてるんだけどさ、外、星がすっごい綺麗だよ! 彼女に写真撮って送ってあげたら?」
「え、スマホのカメラで星なんか撮れんの?」
「あたしも北星から教えてもらったんだけど、カメラの設定をちゃんとしてあげたら撮れるんだよ!」
「陸さん結構長風呂する人だから、時間までくるみからカメラ教えてもらったら?」
「あ、夜の撮影は興味あるな。くるみ、俺にも教えて」
「いいよ! サキも一緒に写真撮ろう! 三脚持って来てるから、これを使ってーっと」

 薪ストーブに夢中で外なんか全然見てなかったけど、周りに何もないから本当に星空が綺麗だ。確かにこれは春風にも見せたいし、実際にこういう星空が見られるところに行ければいいんだけどな。今はくるみの星空撮影講座だ。

「ああ、それからすがやん、豊葦の山の方に大きな天体望遠鏡のある施設があるんだって。陸が知ってるから教えてもらったらいいと思う」
「ありがと。後で聞くわ」


end.


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MBCCの1年生たちが旅行にやってきました。長距離運転のすがやんは雪道も走ってるだろうから本当にお疲れ。ドライバーの宿命である
きっとこれからもやんややんや言われると思うけど、すがやんはサキの言葉を胸にバリ強メンタルでがんばれ。外野の戯言だ。
そしてくるみもスマホカメラの性能だとか使い方をガッツリ理解してきてるみたいだし、夜空まで撮影出来るだなんて何気に凄いね

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