2020(04)
■体裁を整える
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ゴローさんに呼び出されて大学の部室棟、その放送部の部室に向かう。俺は基本的にミーティングルームの班ごとのブースだとか、戸田班時代から練習に使ってた談話室で活動をしてるから、部室にはほとんど入ったことがない。模様替えを経てすごく良い空間になったって話だけどどうなってんだろ。
「失礼しまーす。……あれっ?」
「ああ、谷本君ですか。どうしたんです?」
「えーと……俺、ゴローさんに呼ばれて来たんすけど、ゴローさんはどちらに…?」
「え? 源に呼ばれた? はーっ……相変わらず何の相談もなしに…! すみません谷本君、適当なところにかけて待っていてください。呼び出します」
監査の所沢さんがスマホでゴローさんに連絡をしてるようだけど、今の反応だとか電話口での話し方からすると日頃から部長としてのゴローさんに振り回されてるっていう感じなのか? つかめちゃこえ~…! 絶対怒ってんじゃん所沢さん。
「「今ブース漁ってるからもうちょっと待って」だそうです。きっと源のことですから、用事のついでに思いついたタスクを追加でやってるんでしょう」
「所沢さんは何しに来てるんすか?」
「俺は諸々の雑務ですよ。ファンフェス関係の資金をどうやり繰りするか考えたり、参加希望者を見て枠を割り振ったり。それから、卒業式関係の仕事もいくつかありますからね」
「へー、いろいろやることがあるんすね」
「年度によって部長のカラーというのは大きく変わりますが、源は部長席や事務作業が好きではないようで、現場の最前線にいたがるんですね。なので書類仕事などは俺の仕事になります」
「ファンフェスへの参加希望者ってどれくらい集まったんすか?」
「まあまあ集まりましたよ。15人程でしょうか」
――などと話していると、バタバタとゴローさんが部室にやって来る。その手には紙の束があって、多分それをブースから漁って来てたのかな。ゴローさんの姿を見るなり所沢さんの説教が始まりそうな空気だったけど、俺が本題を求めたので一旦それは後回しになったようだ。
「そうだ、彩人を呼んだのはね、ちょっと頼みたいことがあってさ」
「頼み?」
「これなんだけどね」
「これ……は、ステージの台本っすか?」
「そう。戸棚以外の場所にもいろいろ散らばってて、多分これで全部でもないと思うんだけど、これは全部朝霞先輩が現役の時に書いた台本」
「グロっ」
「源、過去の台本をどうするつもりですか?」
「追いコンで朝霞先輩と話したっていう1年生の子が、朝霞先輩の書いた台本を読みたいって言って来たから部室にあるよって通したんだよ。だけど、朝霞先輩の台本って部のフォーマットとは全然違う書き方をしてるから読んでもよくわかんないって言われたんだよね」
「ああ……確かに独自の進化を遂げているとは思って見ていましたが」
「彩人に頼みたいのは、朝霞先輩の台本を部のフォーマットに沿った形式に変換するっていう仕事だね。朝霞先輩の書いた台本はその量もだけど、内容も凄い。だからこそ誰でも読めるように、誰が読んでも理解出来るようにしておきたい」
紙の束の表紙には「可」や「不可」というハンコが押された物と、そうでないものがある。ハンコが押された物は一旦監査に提出された物だけど、ハンコのない物は書くだけ書いてどこかに埋もれていた物ということになる。いや、単純に量がえぐい。やっぱあの人只者じゃねーな。
ゴローさんがその変換作業を俺に頼むっていうのは、多分だけどプロデューサー修行をさせてくれているということなのかもしれない。国語の教科書や新聞をそのまま書き写す勉強法的な? でもただ写すだけじゃなくてフォーマット変換ってことは、内容を理解してないと出来ないことだよな。
「確かにこれは誰にでも出来る仕事ではありませんね。そういうことなら谷本君にお願いしましょう」
「ああレオ、それとさ」
「はい」
「ファンフェスでかかる費用の問題ってあったじゃん」
「はい、ありますね」
「それを合法的に手助け出来るかもしれない方法を思いついてさ」
「そんな方法があるんですか?」
「そのためには現状ある面倒な手続きのいくつかを簡単にしたりしなきゃいけないんだけど、結論から言えば、インターフェイス関係の行事の会場としてウチの大学を開放すれば、機材保障費の25%がもらえるっていう。そこまで大きな額じゃないけど、ないよりはいいかなと」
「どんな手続きを簡略化しようとしているのかはまた後で聞きますよ」
「メモとかしてないし後だと忘れるから今聞いてくれる?」
「仕方ありませんね。ではどうぞ」
……なるほど、部長としてのゴローさんってこんな感じなのか。物事をちゃんと考えているようで考えていないようで考えている? ゴローさんという人が放送部では変わり者としての認識なんだろうな。他の人とは物事を考える次元が違い過ぎると言うか。俺的には特に変だとは思わないけど。
インターフェイスでの経験だとか、朝霞班と戸田班っていう部の中でも特に尖った班での実践経験なんかがその考えの基礎になってるんだとは思う。……でも、思い付きでいきなり行動し始めてしまうのは確かに、所沢さんの立場からすると大変だろうなとは。心中お察しします。
end.
++++
どうやら源部長、歴代部長を近くで見て来たレオからするとなかなか暴れ馬系の部長だという印象のようです。がんばれレオ
ファンフェスにかかる費用を少しでも何とかしようという風にはゲンゴローも考えていた様子。なるほど、インターフェイスに開いて行くのか
そして元々朝霞PとスガPとの間で言ってた台本のフォーマット問題ですが、ここでかなり量のあるそれを誰でも読めるようにしていく様子がんばれ彩人
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ゴローさんに呼び出されて大学の部室棟、その放送部の部室に向かう。俺は基本的にミーティングルームの班ごとのブースだとか、戸田班時代から練習に使ってた談話室で活動をしてるから、部室にはほとんど入ったことがない。模様替えを経てすごく良い空間になったって話だけどどうなってんだろ。
「失礼しまーす。……あれっ?」
「ああ、谷本君ですか。どうしたんです?」
「えーと……俺、ゴローさんに呼ばれて来たんすけど、ゴローさんはどちらに…?」
「え? 源に呼ばれた? はーっ……相変わらず何の相談もなしに…! すみません谷本君、適当なところにかけて待っていてください。呼び出します」
監査の所沢さんがスマホでゴローさんに連絡をしてるようだけど、今の反応だとか電話口での話し方からすると日頃から部長としてのゴローさんに振り回されてるっていう感じなのか? つかめちゃこえ~…! 絶対怒ってんじゃん所沢さん。
「「今ブース漁ってるからもうちょっと待って」だそうです。きっと源のことですから、用事のついでに思いついたタスクを追加でやってるんでしょう」
「所沢さんは何しに来てるんすか?」
「俺は諸々の雑務ですよ。ファンフェス関係の資金をどうやり繰りするか考えたり、参加希望者を見て枠を割り振ったり。それから、卒業式関係の仕事もいくつかありますからね」
「へー、いろいろやることがあるんすね」
「年度によって部長のカラーというのは大きく変わりますが、源は部長席や事務作業が好きではないようで、現場の最前線にいたがるんですね。なので書類仕事などは俺の仕事になります」
「ファンフェスへの参加希望者ってどれくらい集まったんすか?」
「まあまあ集まりましたよ。15人程でしょうか」
――などと話していると、バタバタとゴローさんが部室にやって来る。その手には紙の束があって、多分それをブースから漁って来てたのかな。ゴローさんの姿を見るなり所沢さんの説教が始まりそうな空気だったけど、俺が本題を求めたので一旦それは後回しになったようだ。
「そうだ、彩人を呼んだのはね、ちょっと頼みたいことがあってさ」
「頼み?」
「これなんだけどね」
「これ……は、ステージの台本っすか?」
「そう。戸棚以外の場所にもいろいろ散らばってて、多分これで全部でもないと思うんだけど、これは全部朝霞先輩が現役の時に書いた台本」
「グロっ」
「源、過去の台本をどうするつもりですか?」
「追いコンで朝霞先輩と話したっていう1年生の子が、朝霞先輩の書いた台本を読みたいって言って来たから部室にあるよって通したんだよ。だけど、朝霞先輩の台本って部のフォーマットとは全然違う書き方をしてるから読んでもよくわかんないって言われたんだよね」
「ああ……確かに独自の進化を遂げているとは思って見ていましたが」
「彩人に頼みたいのは、朝霞先輩の台本を部のフォーマットに沿った形式に変換するっていう仕事だね。朝霞先輩の書いた台本はその量もだけど、内容も凄い。だからこそ誰でも読めるように、誰が読んでも理解出来るようにしておきたい」
紙の束の表紙には「可」や「不可」というハンコが押された物と、そうでないものがある。ハンコが押された物は一旦監査に提出された物だけど、ハンコのない物は書くだけ書いてどこかに埋もれていた物ということになる。いや、単純に量がえぐい。やっぱあの人只者じゃねーな。
ゴローさんがその変換作業を俺に頼むっていうのは、多分だけどプロデューサー修行をさせてくれているということなのかもしれない。国語の教科書や新聞をそのまま書き写す勉強法的な? でもただ写すだけじゃなくてフォーマット変換ってことは、内容を理解してないと出来ないことだよな。
「確かにこれは誰にでも出来る仕事ではありませんね。そういうことなら谷本君にお願いしましょう」
「ああレオ、それとさ」
「はい」
「ファンフェスでかかる費用の問題ってあったじゃん」
「はい、ありますね」
「それを合法的に手助け出来るかもしれない方法を思いついてさ」
「そんな方法があるんですか?」
「そのためには現状ある面倒な手続きのいくつかを簡単にしたりしなきゃいけないんだけど、結論から言えば、インターフェイス関係の行事の会場としてウチの大学を開放すれば、機材保障費の25%がもらえるっていう。そこまで大きな額じゃないけど、ないよりはいいかなと」
「どんな手続きを簡略化しようとしているのかはまた後で聞きますよ」
「メモとかしてないし後だと忘れるから今聞いてくれる?」
「仕方ありませんね。ではどうぞ」
……なるほど、部長としてのゴローさんってこんな感じなのか。物事をちゃんと考えているようで考えていないようで考えている? ゴローさんという人が放送部では変わり者としての認識なんだろうな。他の人とは物事を考える次元が違い過ぎると言うか。俺的には特に変だとは思わないけど。
インターフェイスでの経験だとか、朝霞班と戸田班っていう部の中でも特に尖った班での実践経験なんかがその考えの基礎になってるんだとは思う。……でも、思い付きでいきなり行動し始めてしまうのは確かに、所沢さんの立場からすると大変だろうなとは。心中お察しします。
end.
++++
どうやら源部長、歴代部長を近くで見て来たレオからするとなかなか暴れ馬系の部長だという印象のようです。がんばれレオ
ファンフェスにかかる費用を少しでも何とかしようという風にはゲンゴローも考えていた様子。なるほど、インターフェイスに開いて行くのか
そして元々朝霞PとスガPとの間で言ってた台本のフォーマット問題ですが、ここでかなり量のあるそれを誰でも読めるようにしていく様子がんばれ彩人
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