2020(04)

■春の嵐で皿が舞う

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「シノ、新生活は順調?」
「まあまあって感じっすかねー。でも、ゼミ合宿もあったっすし、今度同期6人で旅行行くんで案外ゆっくりもしてないんすけど」
「あ、旅行行くんだ。ホント仲良いねー」

 今日も今日とてバイトは夜勤。ドリンクメニューとか何とかっていうのは最低限は覚えることが出来たけど、まだまだ覚えることは多いしこれからって感じ。夜勤だとゆっくり勉強出来て気が楽だ。基本教育役として果林先輩もいるし。
 新生活とは言っても家のことをやったり買い物をしたり、こうやってバイトをするくらいでまだあんまり実感がないと言うか。大学が始まるとまたちょっと変わって来るんだろうけど、春休みだしこんなモンなのかな。

「6人で飲もうって話にもなってますし、春休みとかの方がスケジュールも合わせやすいんでしょうね」
「なるほどね。さすがムギツー、飲み会場にうってつけですよねー」
「高崎先輩も部屋も飲みの会場になったりしてたんすか?」
「ううん。高ピー先輩は部屋にとことん人を上げない人だからさ。いっちー先輩でも数えるくらいしか上がったことないと思う」
「マジすか。つか大学近くの部屋でそれが出来るって相当じゃないすか?」
「相当だねえ。あっでも、Lはちょこちょこ行ってたみたい」
「はー、やっぱ真上だからすか」
「それだけじゃないいろんな事情があるみたいよ」

 高木先輩の部屋にはエージ先輩が入り浸ってる……と言うレベルじゃないくらいに部屋のお世話なんかをしてるって話だし、ササも俺の部屋に入り浸りたいと言っている。1人暮らしの部屋ってそんなモンなのかなって思うけど、高崎先輩はプライベートな空間として守ってたんだな。
 俺の部屋は多分これからもササだけなくてMBCCのメンバーがそれぞれ遊びに来るんだろうとは予想が出来る。だからちゃんと綺麗な状態を保っとかないといけないなーと。まあ、元々そこまで部屋を汚くする方でもないしこれは大丈夫かな。それから、お客さん用の何かとかもいるのかなとはちょっと思い始めて来た。

「そうだシノ、みんなが遊びに来る予定ならお皿とかたくさんあった方がいいんじゃない?」
「そーなんすよねー。それを俺もちょっと考え始めてて、100均とかで適当にパーッと買って来た方がいいのかなーとか」
「欲しいんだったらちょうどよかった。アタシお皿たくさん持ってるからあげるよ」
「えっ、マジすか? ちなどんな皿っすか?」
「パンまつりのお皿。今年のももう結構たまったし、去年より前のもタカちゃんとかいっちー先輩にあげたりしてたけど、それでもまだ使ってないのがあるからさ」
「パンまつりって、何点で皿1枚でしたっけ」
「28点で1枚だね」
「まあ、果林先輩ならそれくらい食いますよね。俺も朝飯がパン派だったら溜まるの早かったかなーとは思うんすけど、今は白い飯が主食なんすよね。つか果林先輩自分では皿使わないんすか?」
「うちにはもうお皿の置き場所がないんだよ。でも、せっかくシールが集まるんだし、貰える物は貰っときたいじゃん」
「そしたらありがたく使わしてもらいます」

 パンまつりの皿は毎年デザインが違うし、何に使いやすいかというのも変わって来るみたいだ。今年の皿は深さがあってシチューとかを食うのにも重宝するというようにCMでもやってるし、確かにカレーとかを食う皿のことは考えてなかった。果林先輩が余らせてるならもらうのがいいだろう。
 それこそ1人暮らしだったらなかなか溜まりにくいのかなと思うんだけど、毎食菓子パン食ってりゃそれなりには行くのか。でも俺は飯食いたいな。やっぱ自力じゃなかなか溜まらなさそうだ。食う量だけならまあまあ食うんだけどな。俺は1日最低1回は飯が食いたいんだよ。

「そう言えば1年生で旅行行くって、どこ行くの?」
「あー、何か、薪ストーブか暖炉のあるコテージ? みたいなトコっす。ササが幹事で、すがやんと準備してくれてるらしいっす」
「へえ、ササが幹事なんだ。すがやんは何となくわかるけど、そういうのが好きなのってくるみかシノだと思ってた」
「サキの誕生会にハブられてイジけてたんすよアイツ」
「意図してハブったワケじゃないんでしょ?」
「そうっすね。すがくる主催の昼の会と、また別の人がやってた夜の会ってのがあって、アイツは夜の会に出てたらしいんすけど、MBCCみんな声かかってた昼の会に声がかからなかったっつって逆ギレした結果の幹事っすよ。俺は引っ越しの準備で忙しくて行けなかったんすけど」
「はあ」

 一見クールに思われがちなササだけど、こういうのは嫌いじゃないし誰かといたい方なんだよな。ただ、自分で幹事までやるっていう発想に至ったのは今回が初めてらしいし、これはこれでアイツの挑戦なんだろうな。誘われないなら自分から誘ったらいいじゃねーかっていう。

「まあ、何にせよ仲が良いのは良いことよ」
「今回の旅行の目的は薪ストーブか暖炉か知らないっすけどそれで焼き芋をやるっていう」
「あ~、絶対美味しいヤツ~。何本でも行けちゃう~」
「遠赤外線効果で美味くなるモンを焼いたりあっためたりして、それを食いつつ飲むっていう話にもなってるんすよ」
「最高。あー、お腹空いてきちゃった。まかない食べよっかなあ。せっかくだからシノに作ってもらおうかな、メニュー覚えてるかのチェックを兼ねて」
「任せてくださいよ!」


end.


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MBCCではお馴染み春のパンまつり、果林がお皿を押し付ける先がシノになりましたとさ。でも1人暮らしを始めたばっかりだし貰えるお皿は貰っておこう。
そう言えばササが6人旅行を企画してたのってサキの誕生会に誘われなかったことへの逆ギレだった。ドンマイ。
パンorライスだと絶対ライスを選びそうなシノですね。ゼミ合宿の朝食バイキングでもパンが美味しいって話だったけど絶対その後でご飯食べてるわ

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