2020(04)
■先輩の経験値
++++
「ナ、ナンダッテー!?」
……とは叫んでしまったものの、俺がこうして春風からクレープ屋に呼び出されている時点で例の件がどういう着地の仕方をしたのかはほぼ確定していたようなもので。でも条件反射、いや、脊髄反射的な感じで出るよな。
「はい。おかげさまで、徹平くんとお付き合いすることになりました」
「よかったじゃん。あと、クレープが美味い」
「お口に合って良かったです。本店は緑風にあるそうなんですよ」
すがやんとのデートが上手く行ったら相談に乗ってもらったお礼としてクレープをご馳走します、という風に言われてたんだよな。まあ、気持ちだけ受け取るつもりでいたし社交辞令的なアレかと思ってたけどガチだったっていう。
まあ、このクレープ店自体地下鉄丸の池線の終点……と言うか俺的には始点? 要は端にあって比較的行きやすいということもあり、尾行してはいたものの、デートの詳細も気になったから話を聞きに出て来たというワケだ。
結果から言うと春風は無事すがやんと付き合うことになったそうだ。例のデートの終わりにすがやんから告白されて、それでオッケーの返事をしたと。出会って2週間とかそんなレベルのスピード展開。恋愛は勢いが大事だとは圭斗先輩も仰っていたと思う。身に沁みるぜ。
「まあ、付き合う前にキスもされてるし。いろいろ展開が早いけど、体はきちんと守っていくことをおすすめする。ムードに流され過ぎないように。望まない妊娠の可能性だってあるんだ」
「はい。その辺りは徹平くんからも、付き合い始めたからには本当に大事にするからと。まずはお互いをゆっくり知っていこうという話になっています」
「幸せそうで何より」
「はい。ありがとうございます」
一方、菜月先輩と知り合って丸3年になろうとしている俺はと言えば、勢いもクソもなく完全に後込みしたまま現在に至り、先輩の卒業を迎えようとしている。そしてその前には先輩が下宿先から退去して実家に戻られるのだ。それも片手で足りるくらいの日数しか残されていない。
もちろん、先輩が実家に戻ったという程度のことで消える想いではないし、何なら日毎に募る一方のそれをどうしたものかと持て余している。そんなところに勢いのある春風の話だろ。これに乗じずしてどうすると思い始めてもいる。せめて会う機会くらい作れるだろうと。
「ただ、非常に性格の悪いことを言わせてもらえば、インターフェイスの現場に出たときに、彼氏を追いかけて表に出て来た女という見方をされる可能性もある」
「ああ……確かに構図的にはそうなりますよね」
「IF内カップル自体は珍しくないけど、付き合い始めてからの現場デビューっていうタイミングの問題かな。まあ、今の1年にそういう穿った目で見る奴はそうそういないと思いたいけど、桜貝さんの復帰とかもあるし未知数な面もあるから。現場ではいちゃつき過ぎない方がいい」
IF内カップルと言えばLと直クン、ミドリとユキ、それから厳密にはサークル内カップルのテルと加奈、それからササとレナがいるけど、当人たちの性格もあるのかあんまりベタベタしてないんだよな。嫌な感じは少ない。
「まあ、周りがすがやんをほっとかないし、言うほどいちゃつく時間はないだろうけど」
「徹平くんはそれだけ人望があるということですか?」
「結構なコミュ強だし、かと言ってガンガン行きすぎてウザいタイプでもないから自然と周りに人がいるって感じかな」
「野坂先輩、少し相談してもいいですか?」
「どうした?」
「あの……」
春風は、幼馴染みの奏多を除く人に対しては非礼のないように丁寧な言葉遣いや態度を心がけているという。さん付け君付け、丁寧語など。ただ、それが少し堅すぎるという印象をもたれるらしく、なかなか友達が出来にくいそうなのだ。
インターフェイスデビューをするに当たって、せめて同じ学年の人とは少しフランクに話せるようになりたいそうなのだけど、かと言って体に染み着いた話し方を今更急に改めることも出来そうになくて悩んでいる、とのことだった。
「野坂先輩は先輩に対する礼儀と同学年以下の人に対するフランクさを兼ね備えていると聞きました。人とのコミュニケーションのコツを教えていただければと思います」
「ナ、ナンダッテー……」
先輩に対する礼儀はともかく! 同学年以下に対しては俺がクズなだけだが!? だけど春風は目をキラキラさせて俺からコミュニケーション術を学ぼうとしている。無垢過ぎてこわい。なんなの。どういう状況だよ。
「あー、えーと……どうしたモンかなー……。多分番組制作会、の前に初心者講習があるのか。青敬と桜貝かー……。あー、えっと、番組制作会で一緒の班になった人とは嫌でも話すし、その人から慣れてったらその場はどうにかなる!」
「班はどうやって決まるんですか?」
「クジだな。時の運だ」
「時の運」
「運命力を信じろ」
「運命力」
「――っとっと、全部を真に受けるな? 俺今すっげー適当に喋ってるから」
「でも、何となくニュアンスはわかりました。コミュニケーションも番組も、どちらも頑張ります」
「おー、頑張れ。その意気だ」
「あの、徹平くんのことだけではなくいろいろな相談を聞いてくださってありがとうございました」
「いえいえ」
恋愛相談にしてもコミュニケーションのことにしても、俺自身が人にどうこう言える範囲を超えてたんだよなあ。俺も、少しずつでも段階を踏んでいかなければ。春風には学ばされてばっかりだ。
end.
++++
如何せんしっかりしているという印象を持たれやすいノサカですが、実際はクズだし性格が悪いし、そんなにいい人ではないです
ただ、性格が悪いからこそのアドバイスもしてあげられるので、インターフェイスの歩き方という点では悪くないかもしれない
IF内カップルで言えばもう一組いるにはいるけどそっちはあまり表沙汰にはなってないんですね。でも陸さん見えないところでベタベタしようとしてるから
.
++++
「ナ、ナンダッテー!?」
……とは叫んでしまったものの、俺がこうして春風からクレープ屋に呼び出されている時点で例の件がどういう着地の仕方をしたのかはほぼ確定していたようなもので。でも条件反射、いや、脊髄反射的な感じで出るよな。
「はい。おかげさまで、徹平くんとお付き合いすることになりました」
「よかったじゃん。あと、クレープが美味い」
「お口に合って良かったです。本店は緑風にあるそうなんですよ」
すがやんとのデートが上手く行ったら相談に乗ってもらったお礼としてクレープをご馳走します、という風に言われてたんだよな。まあ、気持ちだけ受け取るつもりでいたし社交辞令的なアレかと思ってたけどガチだったっていう。
まあ、このクレープ店自体地下鉄丸の池線の終点……と言うか俺的には始点? 要は端にあって比較的行きやすいということもあり、尾行してはいたものの、デートの詳細も気になったから話を聞きに出て来たというワケだ。
結果から言うと春風は無事すがやんと付き合うことになったそうだ。例のデートの終わりにすがやんから告白されて、それでオッケーの返事をしたと。出会って2週間とかそんなレベルのスピード展開。恋愛は勢いが大事だとは圭斗先輩も仰っていたと思う。身に沁みるぜ。
「まあ、付き合う前にキスもされてるし。いろいろ展開が早いけど、体はきちんと守っていくことをおすすめする。ムードに流され過ぎないように。望まない妊娠の可能性だってあるんだ」
「はい。その辺りは徹平くんからも、付き合い始めたからには本当に大事にするからと。まずはお互いをゆっくり知っていこうという話になっています」
「幸せそうで何より」
「はい。ありがとうございます」
一方、菜月先輩と知り合って丸3年になろうとしている俺はと言えば、勢いもクソもなく完全に後込みしたまま現在に至り、先輩の卒業を迎えようとしている。そしてその前には先輩が下宿先から退去して実家に戻られるのだ。それも片手で足りるくらいの日数しか残されていない。
もちろん、先輩が実家に戻ったという程度のことで消える想いではないし、何なら日毎に募る一方のそれをどうしたものかと持て余している。そんなところに勢いのある春風の話だろ。これに乗じずしてどうすると思い始めてもいる。せめて会う機会くらい作れるだろうと。
「ただ、非常に性格の悪いことを言わせてもらえば、インターフェイスの現場に出たときに、彼氏を追いかけて表に出て来た女という見方をされる可能性もある」
「ああ……確かに構図的にはそうなりますよね」
「IF内カップル自体は珍しくないけど、付き合い始めてからの現場デビューっていうタイミングの問題かな。まあ、今の1年にそういう穿った目で見る奴はそうそういないと思いたいけど、桜貝さんの復帰とかもあるし未知数な面もあるから。現場ではいちゃつき過ぎない方がいい」
IF内カップルと言えばLと直クン、ミドリとユキ、それから厳密にはサークル内カップルのテルと加奈、それからササとレナがいるけど、当人たちの性格もあるのかあんまりベタベタしてないんだよな。嫌な感じは少ない。
「まあ、周りがすがやんをほっとかないし、言うほどいちゃつく時間はないだろうけど」
「徹平くんはそれだけ人望があるということですか?」
「結構なコミュ強だし、かと言ってガンガン行きすぎてウザいタイプでもないから自然と周りに人がいるって感じかな」
「野坂先輩、少し相談してもいいですか?」
「どうした?」
「あの……」
春風は、幼馴染みの奏多を除く人に対しては非礼のないように丁寧な言葉遣いや態度を心がけているという。さん付け君付け、丁寧語など。ただ、それが少し堅すぎるという印象をもたれるらしく、なかなか友達が出来にくいそうなのだ。
インターフェイスデビューをするに当たって、せめて同じ学年の人とは少しフランクに話せるようになりたいそうなのだけど、かと言って体に染み着いた話し方を今更急に改めることも出来そうになくて悩んでいる、とのことだった。
「野坂先輩は先輩に対する礼儀と同学年以下の人に対するフランクさを兼ね備えていると聞きました。人とのコミュニケーションのコツを教えていただければと思います」
「ナ、ナンダッテー……」
先輩に対する礼儀はともかく! 同学年以下に対しては俺がクズなだけだが!? だけど春風は目をキラキラさせて俺からコミュニケーション術を学ぼうとしている。無垢過ぎてこわい。なんなの。どういう状況だよ。
「あー、えーと……どうしたモンかなー……。多分番組制作会、の前に初心者講習があるのか。青敬と桜貝かー……。あー、えっと、番組制作会で一緒の班になった人とは嫌でも話すし、その人から慣れてったらその場はどうにかなる!」
「班はどうやって決まるんですか?」
「クジだな。時の運だ」
「時の運」
「運命力を信じろ」
「運命力」
「――っとっと、全部を真に受けるな? 俺今すっげー適当に喋ってるから」
「でも、何となくニュアンスはわかりました。コミュニケーションも番組も、どちらも頑張ります」
「おー、頑張れ。その意気だ」
「あの、徹平くんのことだけではなくいろいろな相談を聞いてくださってありがとうございました」
「いえいえ」
恋愛相談にしてもコミュニケーションのことにしても、俺自身が人にどうこう言える範囲を超えてたんだよなあ。俺も、少しずつでも段階を踏んでいかなければ。春風には学ばされてばっかりだ。
end.
++++
如何せんしっかりしているという印象を持たれやすいノサカですが、実際はクズだし性格が悪いし、そんなにいい人ではないです
ただ、性格が悪いからこそのアドバイスもしてあげられるので、インターフェイスの歩き方という点では悪くないかもしれない
IF内カップルで言えばもう一組いるにはいるけどそっちはあまり表沙汰にはなってないんですね。でも陸さん見えないところでベタベタしようとしてるから
.