2020(04)

■視線を逸らすことの意味

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 何か、すげー怪しいのがいるんだよなあ。春風に頼まれてすがやんとのデートを尾行してるんだけど、ちょっと離れたところにすげー怪しい、不自然な白いパーカーの奴がいるんだよな。俺も軽い変装のためにメガネをかけてるから見えてるんだけど。
 基本的な移動手段が車のすがやん相手にどうやって尾行するんだと春風に尋ねたところ、今回は世音坂で街歩きをするんだと言っていた。確かにそれなら車相手よりは尾行しやすい。と言うか、尾行を頼まれるってどういうアレだよ。語彙力早よ。
 待ち合わせ場所が地下鉄花栄駅の本屋の前というのがインターフェイス的だなと思いつつ、すがやんと春風が落ち合う瞬間を見届ける。おっ、来た来た。挨拶をして……どこ行こうか的な話でもしてるのかな? で? おー、手を繋いでるじゃないか。
 ――で、2人が歩き出した瞬間、隠しきれない怪しさの白パーカーの奴も動き出すんだからこれはもうアレだろ。なんなら向こうも俺のことに気付いてたっておかしくはない。これは多分同じ目的で来てるんだろうし、殴り込みに行ってやろうか。

「ササ」
「わっ!」
「おー、ガチでビビってんじゃん」
「あ、野坂先輩。おはようございます。えっと、ここで何を?」
「同じ目的だと思うから俺はこうしてササに声をかけたんだけども、俺のことに気付いてなかった?」
「全く気付いてませんでした。もしかして、先輩もすがやんのデートの尾行を?」
「だな。俺は春風から頼まれて、緊張するから程良い距離のところで付いて来てくれと」
「そうでしたか。俺もすがやんのことが気になって気になって」
「って言うか、隠れるの下手すぎ。怪しさ極まりなかった」
「え、本当ですか?」
「マジで」
「そしたら、俺が1人で追いかけるには限界があったかもしれないですね。あの、同じ目的なら協力しませんか?」
「いいだろう。協力しましょう」

 ササと協力体制で行くことになったので、お互い持っている情報をすり合わせる。キスの後の感情や何かが主語を入れ替えただけの同じ話だったので、俺とササの間では「今すぐにでも付き合えばいいじゃん」という結論に着地した。
 ただ、そんなことを本人たちは知る由もないので、お互い緊張しながらのデートになる。何なら最初よりもガチガチになってるんじゃないかとすら思う。俺がすがやんだったらこの状況だと手汗がびっしょびしょになってる気がする。

「まずは無難にタピオカか」
「流行る前から世音坂の定番だしな」
「相手の子、すらりとした感じの清楚系ですね」
「品行方正って言うのがぴったりな感じであるとは」
「そこはかとない透明感があって、なるほどな。すがやんが可愛いとか綺麗な子ってべた褒めしてたのもわかる」

 いや、透明感だとか可愛さと綺麗さのハイブリッドだとかっていうのはこの世の頂点にまず……いや、今日はやめておこう。今日の俺は春風(とすがやん)の応援だ。

「リク!」
「うわっ!」
「や、お前ビビりすぎじゃね?」
「彩人か。何やってんだ」
「キーボード用品を買いに来たら、すげー怪しいのがいるから何かと思えば。お前こそ何やってんだよ。あ、野坂さんもいるし」
「彩人か。久し振り」
「久し振りの挨拶なのに目も合わせてくれないってヒドくないすか?」
「ゴメン、ササと彩人が話してるなら俺があっちを見とかなきゃと思って。失礼なのは百も承知してるし申し訳ないとは思うが、俺たちは大事な任務の途中なんだ」

 彩人は音楽用品店に用事があったようだ。店から出たら見覚えのある白いパーカーが不審な挙動をしてるから何事かと思えば、とのこと。そりゃそうなるよなあ。俺もそうだったし。そしてこっちの事情を大まかに説明する。

「は!? すがやんのカノもごっ」
「しーっ! 限りなく両想いだけど、まだ彼女ではないんだ一応」
「はー……なるほど。それでデートの尾行を。悪趣味だな~リクも」
「何とでも言え。野坂先輩にも同じことが言えるのか」
「野坂さんは相手の子から頼まれてついてってるんすよね? 勝手に尾行してるお前とは事情がちげーよ」
「と言うか彩人の見た目は派手だし、向こうにバレないかな」
「いや、世音坂にはこの系統の髪とかファッションの奴はごろごろいる。何なら彩人よりササの方が目立つし怪しい」
「俺が怪しいなら野坂先輩はどうなるんですか。似たような物じゃないですか」
「ははっ。世音坂を歩き慣れてるオタクをナメてもらっては困る」
「あの、野坂さん。すがやん結構遠く行ってるっすよ」
「おー、危ない危ない。サンキュ」

 それからしばらくは彩人も加わってデートの様子を尾行してたんだけど、例によって俺の妄想する以下略だったので俺の煩悩が爆発しそうになってしまっている。リミットが来る前に俺も菜月先輩と街歩きをしてみたかった。

「すがやんとあの子、フツーにいい雰囲気っすよね」
「そうなんだよ。俺とササの間では今すぐにでも付き合ってしまえという結論で一致してるんだけど、本人たちは「相手を好きなのは自分だけなのでは?」ってなってるらしくて」
「キスしたのにその流れでヤらないんだなーと思って。車の中だったんだしホテルに行けただろ」
「リク、みんながみんなお前みたいに手が早くて慣れててガッツいてる性欲魔神じゃないんだぞ」
「野坂先輩もいるのに人聞きの悪い言い方をするな。いや、実際いい雰囲気の時って攻めないか? いざという時のゴム切れだけは回避するのが基本だろ」
「俺に聞くなよ」
「ああ、そうだった」
「いやー、ササとウチの某OGの先輩を会わせてみたかった。さぞかし下衆い話が聞けたんだろうなあ」
「……野坂先輩、目を見て言って下さいよ」
「いや、すがやんを見失うから」


end.


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佐々木陸ってのはね、こーゆー男なんですよ。これでもマイルドにはしてるんですけど基本こういう奴なんですよ。手が早いし慣れてるしガッツいてる。
確かにササの語り口で言えばフェーズ1で大活躍(?)していたMMPの極悪三人衆の中にぶち込んでみたかったという思いでいっぱい。お麻里様ぁ!
ササはおそらく圭斗さんと話が合うと思うんですよね。缶蹴りの鍋で同じ卓だったけど、そんな話にはなってなさそうだなあ。残念。

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