2020(04)
■ブランクの裏側
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今日はMBCCの4年生追いコンという行事で豊葦市駅近くの飲み屋に来ている。4年生の先輩は当初は6人いたそうだけど、2年生になる頃にはアクティブからミディアムな感じに活動している人が4人になっていたそうだ。
追い出すのもその4人なのかなと思っていたら、4年生だと紹介された人は5人いる。高崎先輩と伊東さんはサークルの場でも会ったことがあるから知ってたし、岡崎先輩と武藤先輩は話に聞いていた。ここに来て5人目の先輩が現れるなんて。
「おい、誰だ鳴海に声をかけた奴は。岡崎が冗談じゃねえレベルで不機嫌じゃねえかよ」
「一応アタシたちがギリ知ってるMBCCの先輩だしって理由でLが声をかけてたみたいですね。まさか乗ってこないだろうとは高を括ってました。あっでもナルミー先輩はアタシたちみんなで追い出すだけの活動実績はないんで実費ですよ」
「りんりーん、活動実績がないのはその通りだけど、ちょっとストレート過ぎな~い?」
「あーもう! 寄ってこないでー!」
「りんりんは相変わらず可愛いな~!」
「や~あ~!」
MBCCとしては異色と言える派手な風貌に軽いキャラクターの鳴海先輩という人がいたそうだ。顔の造りは伊東さんとかなり似ている。鳴海先輩は果林先輩の額に軽いキスを落とした上で逃げられないようにバックハグ。必死の抵抗も空しく逃げられないようだ。
「あはは……ナルミーは相変わらずだなあ」
「伊東さん、あの人ってどういう人なんですか? 謎しかないんですけど」
「ナルミーはね、2年に上がるときくらいからネットで生放送をやってるんだよね。それまでは俺たちと一緒にMBCCで普通のラジオをやってたんだけど、ネットの可能性を見いだしたと言うか。見た目や言動はチャラいけど、ああ見えて奥底では真面目な面もちょっとだけある」
「ちょっとだけなんですね」
「放送自体は別にふざけてないし、ナルミーっていうキャラクターを忠実に守った面白さがあるね。介護とか社会福祉の業界に就職するらしいから、社会的にも逸脱してるワケではない」
「福祉と聞くとむしろいい人にすら思えます」
「でも、ヨシとはガチな犬猿だし、果林の天敵。ああ、それはさっきのを見ればわかると思うけど。もしヨシと話す機会があったらナルミーの話は振らないであげてね」
「わかりました」
色付き眼鏡だというそれに隠れて岡崎先輩の目の色が窺えないのだけど、あれはかなり不機嫌な状態なのだという。それを高崎先輩が宥めているようだ。ただ、その高崎先輩と武藤先輩とはまた犬猿の間柄だそうだから、4年生の相関図はなかなか激しい。
サークルへの出席頻度も違えば活動のスタンスも違う4年生は、とにもかくにも個人主義という感じで、サークルの現役中も基本的にはまとまりがなかったそうだ。ただ、その4年生の先輩たちがまとまった機会が1年生のときに1度だけあったとか。
「何なら今こうやって5人が揃うのも奇跡みたいなモンだし、すごい会になってるなーとは思うよね」
「そんなに揃わなかったんですか」
「そもそもナルミーは2年生以降はほとんど来てないし、籍も抜いてなかったんだって感じでしょ。育ちゃんも月に2、3回来ればいい方だったからね。だからまだ全員揃ってる今の1年生はすごいと思うよ。この時期なら1人か2人くらいはいなくなっててもおかしくないけど。あっ、でも3年生はゆずが復帰してきたからまた全員揃ってるのか」
「なになに、あたしの話ですか~?」
自分の話をされていると察知したのか、ゆず先輩がこちらにやってくる。この人は長時間労働+賃金未払い+恐喝紛いのブラックバイトを金と法の力で辞めて健全な社会生活を送れるようになった。1年近く大学にもまともに来れていなかったらしい。
「あっ、ゆず。学年みんな揃ってるのって奇跡みたいな物だよねって話だよ。ゆずはよく3年になって復帰してきたよね」
「3万円ぽっちのお金であの監獄みたいなバイト先からおさらば出来たんですよ~! おまけに未払い分の給料もぶんどることが出来て臨時収入100万円以上! 今年は日常生活を噛みしめてましたよ~」
「……かなり壮絶だったんだね」
「授業にも出れてなかったですもん!」
「でも100万以上って、凄い金額だね」
「それなんですけど、あたしが丸々1年を犠牲にした結果なんですよね。2年で履修してた授業もほとんど出てないですし」
「理系ってめちゃめちゃ授業あるんじゃなかったっけ。文系より履修コマ数の上限多いっしょ?」
「メガ盛りですよー。テストだけはLに助けてもらって何とかしたんですけど、いっそ留年して授業を受け直した方が良かったかなとも思って」
「ちゃんと目的を持って学部を選んだなら勉強しておきたいよね」
「そーなんですよ! 4年生で履修をキツキツにすることも出来るんですけど、それはそれで時間がなさ過ぎるんで、いっそ5年生になってやろうかなと思ってるんですよね。お金ならあります!」
人の時間の使い方という点で、今日の追いコンはいい話が聞けたなと思う。点字の勉強をしていたという岡崎先輩に、各地へ旅に出ていたという武藤先輩。鳴海先輩は生放送をやっていたし、ゆず先輩はブラックなバイトに捕まっていた。
俺たち6人もいずれは自分のやりたいことをサークルの外に見つけてそこに比重を置くようになるのかもしれないけれど、ここで出会えた縁は大切にしておきたいと思う。ただ、今のところ俺の一番やりたいことはここにある。
「そーゆーコトだからササ、あと2年ヨロシクね」
「あ、はい。改めてよろしくお願いします」
「それじゃーかんぱーい! ってグラス空なんだけど!?」
「まだ次頼んでないですね」
「頼め頼めー、飲め飲めー!」
end.
++++
MBCCの4年生追いコンはそれこそゆずじゃないけど「お金はあります!」と財力で叩く豪華なコースです。
ナルミーとか久し振り過ぎるしゆずも今年度は復帰以来ほとんど触れてなかったしここらで触っとかないとなかったことになりかねん
今の2年生もカノン(向島ではない)が軽音に一本化して4人になってます。なので向島1年のカノンがカノンと名乗れるようになったのです
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今日はMBCCの4年生追いコンという行事で豊葦市駅近くの飲み屋に来ている。4年生の先輩は当初は6人いたそうだけど、2年生になる頃にはアクティブからミディアムな感じに活動している人が4人になっていたそうだ。
追い出すのもその4人なのかなと思っていたら、4年生だと紹介された人は5人いる。高崎先輩と伊東さんはサークルの場でも会ったことがあるから知ってたし、岡崎先輩と武藤先輩は話に聞いていた。ここに来て5人目の先輩が現れるなんて。
「おい、誰だ鳴海に声をかけた奴は。岡崎が冗談じゃねえレベルで不機嫌じゃねえかよ」
「一応アタシたちがギリ知ってるMBCCの先輩だしって理由でLが声をかけてたみたいですね。まさか乗ってこないだろうとは高を括ってました。あっでもナルミー先輩はアタシたちみんなで追い出すだけの活動実績はないんで実費ですよ」
「りんりーん、活動実績がないのはその通りだけど、ちょっとストレート過ぎな~い?」
「あーもう! 寄ってこないでー!」
「りんりんは相変わらず可愛いな~!」
「や~あ~!」
MBCCとしては異色と言える派手な風貌に軽いキャラクターの鳴海先輩という人がいたそうだ。顔の造りは伊東さんとかなり似ている。鳴海先輩は果林先輩の額に軽いキスを落とした上で逃げられないようにバックハグ。必死の抵抗も空しく逃げられないようだ。
「あはは……ナルミーは相変わらずだなあ」
「伊東さん、あの人ってどういう人なんですか? 謎しかないんですけど」
「ナルミーはね、2年に上がるときくらいからネットで生放送をやってるんだよね。それまでは俺たちと一緒にMBCCで普通のラジオをやってたんだけど、ネットの可能性を見いだしたと言うか。見た目や言動はチャラいけど、ああ見えて奥底では真面目な面もちょっとだけある」
「ちょっとだけなんですね」
「放送自体は別にふざけてないし、ナルミーっていうキャラクターを忠実に守った面白さがあるね。介護とか社会福祉の業界に就職するらしいから、社会的にも逸脱してるワケではない」
「福祉と聞くとむしろいい人にすら思えます」
「でも、ヨシとはガチな犬猿だし、果林の天敵。ああ、それはさっきのを見ればわかると思うけど。もしヨシと話す機会があったらナルミーの話は振らないであげてね」
「わかりました」
色付き眼鏡だというそれに隠れて岡崎先輩の目の色が窺えないのだけど、あれはかなり不機嫌な状態なのだという。それを高崎先輩が宥めているようだ。ただ、その高崎先輩と武藤先輩とはまた犬猿の間柄だそうだから、4年生の相関図はなかなか激しい。
サークルへの出席頻度も違えば活動のスタンスも違う4年生は、とにもかくにも個人主義という感じで、サークルの現役中も基本的にはまとまりがなかったそうだ。ただ、その4年生の先輩たちがまとまった機会が1年生のときに1度だけあったとか。
「何なら今こうやって5人が揃うのも奇跡みたいなモンだし、すごい会になってるなーとは思うよね」
「そんなに揃わなかったんですか」
「そもそもナルミーは2年生以降はほとんど来てないし、籍も抜いてなかったんだって感じでしょ。育ちゃんも月に2、3回来ればいい方だったからね。だからまだ全員揃ってる今の1年生はすごいと思うよ。この時期なら1人か2人くらいはいなくなっててもおかしくないけど。あっ、でも3年生はゆずが復帰してきたからまた全員揃ってるのか」
「なになに、あたしの話ですか~?」
自分の話をされていると察知したのか、ゆず先輩がこちらにやってくる。この人は長時間労働+賃金未払い+恐喝紛いのブラックバイトを金と法の力で辞めて健全な社会生活を送れるようになった。1年近く大学にもまともに来れていなかったらしい。
「あっ、ゆず。学年みんな揃ってるのって奇跡みたいな物だよねって話だよ。ゆずはよく3年になって復帰してきたよね」
「3万円ぽっちのお金であの監獄みたいなバイト先からおさらば出来たんですよ~! おまけに未払い分の給料もぶんどることが出来て臨時収入100万円以上! 今年は日常生活を噛みしめてましたよ~」
「……かなり壮絶だったんだね」
「授業にも出れてなかったですもん!」
「でも100万以上って、凄い金額だね」
「それなんですけど、あたしが丸々1年を犠牲にした結果なんですよね。2年で履修してた授業もほとんど出てないですし」
「理系ってめちゃめちゃ授業あるんじゃなかったっけ。文系より履修コマ数の上限多いっしょ?」
「メガ盛りですよー。テストだけはLに助けてもらって何とかしたんですけど、いっそ留年して授業を受け直した方が良かったかなとも思って」
「ちゃんと目的を持って学部を選んだなら勉強しておきたいよね」
「そーなんですよ! 4年生で履修をキツキツにすることも出来るんですけど、それはそれで時間がなさ過ぎるんで、いっそ5年生になってやろうかなと思ってるんですよね。お金ならあります!」
人の時間の使い方という点で、今日の追いコンはいい話が聞けたなと思う。点字の勉強をしていたという岡崎先輩に、各地へ旅に出ていたという武藤先輩。鳴海先輩は生放送をやっていたし、ゆず先輩はブラックなバイトに捕まっていた。
俺たち6人もいずれは自分のやりたいことをサークルの外に見つけてそこに比重を置くようになるのかもしれないけれど、ここで出会えた縁は大切にしておきたいと思う。ただ、今のところ俺の一番やりたいことはここにある。
「そーゆーコトだからササ、あと2年ヨロシクね」
「あ、はい。改めてよろしくお願いします」
「それじゃーかんぱーい! ってグラス空なんだけど!?」
「まだ次頼んでないですね」
「頼め頼めー、飲め飲めー!」
end.
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MBCCの4年生追いコンはそれこそゆずじゃないけど「お金はあります!」と財力で叩く豪華なコースです。
ナルミーとか久し振り過ぎるしゆずも今年度は復帰以来ほとんど触れてなかったしここらで触っとかないとなかったことになりかねん
今の2年生もカノン(向島ではない)が軽音に一本化して4人になってます。なので向島1年のカノンがカノンと名乗れるようになったのです
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