2020(04)

■ハードワーカーの遠心力

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「それでは、乾杯しましょう。各自、グラスを掲げていただいて」

 前部長、柳井の音頭で乾杯をする。放送部の4年生追いコンに呼ばれたまでは良かったけど、まさか席順がクジで完全ランダムに決まるとは思っても見なかった。菅野は「去年は班ごとに席が固まってた」って言ってたから少し安心してたのに。
 4年にもなれば、宇部のような特殊なケースでない限り部に顔を出すことはそうそうない。俺に限らず他の連中も1年生の顔と名前なんか一致しない。なんならここではじめましてというレベルだ。そう、俺の周りには何人かの1年がいる。
 何だかんだでコミュ強と言われている俺だけど、放送部内の集まりとなれば話は別だ。かつて流刑地と呼ばれていた場所の主として自分が何て呼ばれていたかも知っているし、正直に言えば気まずさしかない。1年は俺のことを知らないけど、2、3年相手にどうしろと。

「朝霞さんって、今のどの班の人だったんですか?」
「今年の戸田班だな。俺がプロデューサーで、あそこにいる派手な頭した山口ってのがアナウンサーで」
「戸田班ってことは相当練習にストイックだったみたいなことですか?」
「やっぱり朝霞さんの時代も班の中の競争が激しかったんですか?」

 今年の1年生は謎の4年に臆することがないのか、結構ガツガツと質問攻めしてくる。と言うか、戸田班の評価もなかなかだな。1年生たちが戸田班に抱くイメージから、戸田がどんな風に班を運営していたのかがよくわかる。

「お前ら、朝霞さんは「ステージの鬼」とまで呼ばれたヤベー人なんだぞ。今は人当たりがいい感じだけど、ステージに関わると目付きからして別人になって、覇気がヤベーわどちゃくそキビシーのなんのって」
「ホントですか!?」
「おい小林、1年をビビらすな」
「でも、戸田さんもめちゃくちゃ厳しいし、元々班の風土がそんな感じだったんですねー」
「大丈夫っすよ朝霞さん。今年の1年は良くも悪くものびのびしてるんで。ちょっとやそっとじゃビビらないんすよ」
「まあ、そんな感じはあるな」
「だから、プロデューサー同士の競争が激しくて、班での練習もめっちゃガツガツやってる戸田班はストイックなエリート集団みたいな扱いなんすよね。朝霞さんからすれば当たり前の光景でしょうけど」
「ふーん、そんな感じなのか」

 俺の隣にいるのは菅野班の小林だ。例に漏れずコイツとも部活の現役中に絡んだことはない。ただ、USDXの関係で菅野から名前をチラチラ聞いている。コイツは菅野が組んだプラグインやデータパックなどのデバッグをしたり、撮影の時にカメラ役などで手伝ってくれているそうだ。

「俺、朝霞さんと1回ゆっくり話してみたかったんすよ。動画とか配信は見てるんで一方的に知ってはいるし、なんならギター配信見て親近感も抱いてたんすけど」
「話すことなんかあるか? そんなに面白くもない人間だぞ」
「いやいやいや! 何を言うんすか! 朝霞さんと言えばカンさんと同等の超ハードワーカー! すげーペースで曲が上がって来るのを見て興奮しない俺じゃないっす! つか、真面目にカンさんのペースについてける人を初めて見たっす……ギターの練習しながらあの作業量はマジでヤベーっすよ」
「確かに菅野の作業ペースはバカなんじゃねーかと思うけど、そう言ったら菅野は「お前だけはそれを言うな」って言うんだよな」
「泰稚さんは朝霞さんの注文通りにプラグイン作ったり、カンさんからのノルマを律儀に守ってドラム叩いてますから。おまけにキョージュさんの言うまま動画も編集してますし、きららとの打ち合わせも基本泰稚さんなんでね。しかもそれをバイトや院試の勉強しながらっす」
「それで言ったら菅野が一番ヤバいんじゃないか。俺や菅野は自分のペースで好き勝手にやってればいいだけだけど、それに振り回される側は大変だぞ」
「そう考えたら確かにそうかもっす。超ハードワーカー2人と自由人に振り回されても食らいついてる泰稚さんが最強ってワケっすね! いやーさすが俺の先輩!」
「菅野もお前の先輩なんじゃないのか」
「あ、泰稚さんって俺の高校の先輩なんすよ。吹奏楽部時代からリズム隊としてコンビ組んでたんす! あっ、そうだ。朝霞さんってインターフェイスの活動に出てたっすよね? 向島の神崎耕太って知ってます? 体型はちょっと丸くて、すげー面白い奴なんですけど」
「ああ、こーたな。知ってるぞ。面白いし、有能な奴だよな」
「あ、知ってます? アイツは俺の同期で、泰稚さんの次の部長だったんすよね」

 このままだと小林との話で会が終わってしまうので、後からDiscordで繋がることにしてコイツの話は打ち切ることに。USDXやってりゃ話す機会は作れるはずだしな。つか、すげー美形なのにあんまりツンケンしてないんだな。いや、そんな奴の隣に住んでたわ。

「朝霞さん朝霞さん」
「どうした彩人。俺とはいつでも話せるんだから他の人と話して来いよ」
「いや、言って前ほど話す機会ないっすよ。それはそうと、泣く子も黙る所沢さんがすげーおろおろしてるように見えるんすけど、洋平さんヤバないっすか? やっぱ、濃い影は強い光に弱いみたいなことっすか?」
「え? あ、山口は所沢と同じ卓になったのか。あれはな、濃い影がより深い闇に呑まれそうになったときのトラウマが蘇ってんだろ」
「え。より深い闇って。洋平さんを例えてんすか?」
「まあ、いろいろあったってことだ」
「え~! 聞かせてくださいよ!」


end.


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クレイジーサイコナントカだったときのやまよはどちゃくそ怖かったからなあ。今は彩人が持つイメージ通り、光のやまよなんだけども。
星ヶ丘の追いコンです。でも、朝霞Pと今の2、3年生が絡むイメージがあんまりなかったよね。まあ、実際絡んでないんだけども。コバヤス、君に決めた!
何やかんやでコバヤスはスガP大好き。高校の時から仲良くやってるからね。きっとこれからもスガPの右腕となってUSDXの裏側で働くのでしょうね

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