2020(04)

■Enjoy other people's crushes

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 磐田先輩から「天文部の後輩の子に野坂くんの連絡先を教えたよ」と連絡があったから何事かと思えば、その後輩というのがこないだMMPに入りましたと紹介のあった春風だった。相談があるとのことで、出向いてみたんだけども。
 正直、俺の管轄じゃないし全く力になれませんが? という気持ちでいっぱいだ。春風は真面目と言うか品行方正なタイプだ。勉強のことやサークル関係のことであれば話は聞けた。ただ、今日の主題が恋愛って。俺じゃない! 4年生になら素敵な方がいらっしゃいますが!

「恋愛相談かー……悪いけど、経験に乏しいからそれといった助言は出来そうにないんだけど」
「すみません。野坂先輩は人脈もあると聞いたので、てっきり恋愛経験も豊富なのだと勝手に思ってしまい」
「でも、せっかく勇気を出してくれてるし、ちゃんと考えてみるよ」
「ありがとうございます」

 生憎ながら、片想いの経験だけは今も現在進行形で積み重なっている。その辺の心情であればしんどいくらいにわかりそうだ。ただし、想いが実った後のことになると管轄からは外れてしまう。妄想で語るしかなくなる。

「あの……男の人にとって、キス、というのは挨拶代わりにするような物なのでしょうか」
「は!? いや、ゴメン。想像より話の段階がいくらか飛んでて驚いた。えーっと、そういう軽い人種もいるにはいると思うけど、少なくとも俺は違うと思います。もしかして、そういう軽い男に引っかかった?」
「軽い人ではないと思いたいのですが……それからも、彼は何事もなかったかのように普通なので、あれは何だったんだろうって、1人で悶々としているところで」
「相手との関係は? 友達とか?」
「あの、内緒にしてくださいね?」
「もちろん」
「徹平くんなんです。えっと、インターフェイス的には、すがやんでしたっけ」
「は!? すがやんだと!? ちょっ、ゴメンけど、経緯を聞かせてもらっていい? 嫌ならいいけど」

 話によると、半分MMPみたいなモンだからという理由ですがやんを紹介されたそうだ。そのときに、すがやんの専攻である考古学と、それを絡めた天文学の観点で星に関する話が盛り上がり、一緒に星港市科学館へ行くことになったらしい。
 科学館ではプラネタリウムを、たまたまそこしかなかったという理由でカップルシートで見ていたそうだ。体が密着するほど近い距離で、終わる頃には自然と手を繋いでいた。そしてデート終わりに送ってもらった車の中でキスをした、と。
 一言で言えば俺の妄想する菜月先輩と歩きたいデートコースと内容そのものだったので、ここがカフェでなくサークル室などであればイスくらいは軽くひっくり返していたかもしれない。すがやんの奴、やるじゃねーかこの野郎。

「えっと、確認だけど、付き合ってはない?」
「――と、思います。私も何も言っていませんし。それからもラジオの練習で会ってはいるのですが全くもって普通なので、あれは挨拶代わりだったのかなと」
「いや~、すがやんはそういう奴じゃないと思うけどなあ。えっと、無理矢理だった? だったら問題だと思うけど」
「いえ、その……ごく自然にと言うか……私も、無意識に求めていたのかもしれません。その時のことを思い出すとドキドキして。また徹平くんに会いたいな、お話ししたいなと思う一方で、あれだけ普通にされているのであれば、私だけが舞い上がっているのではないかと不安で仕方ないのです」

 恋じゃん。多分そうだ。会ってそんな経ってないのにすげースピード展開だとは思うけど、交際0日婚などがあることを考えればそれくらいはあるのかもしれない。春風はウブそうだし、ムードに流されやすいとか、ちょっとしたことでオチやすいのかもな。

「普通にされてたって、それは2人で会ってる時に?」
「いえ、あれから2人きりでは会っていません。ラジオの練習で、希くんや、奏多も一緒にいます」
「だったらそれはカノンと奏多に春風と何かあったって悟られないようにするために平静を装ってる可能性もある。2人で会ってみてかなー」
「やっぱり、そうなりますよね……どうしましょう、こんな顔では会えませんよね」

 すると、春風のスマホがピンポンと鳴る。つーかわかりやすい顔だな。こっちからは何の画面も見えてないんだけど、多分すがやんからLINEか何かが来たんだろうな。……まさか俺もこんなにわかりやすい顔じゃないだろうな? 自信がなくなってきた。

「野坂先輩! どうしましょう…! 徹平くんからお誘いが…!」
「おー、こっちの状況が見えてんじゃないかってくらいにはタイムリーだな。でも良かったじゃん、こっちから声かける手間が省けて。会いたかったんだしちょうどいい」
「で、でも、緊張します…! ここですぐにはいって返事でもしたら軽い女だと思われて引かれないでしょうか!?」
「いや、天地がひっくり返っても春風を軽い女だと見るには無理がある。大丈夫だ。ここで乗らないと向こうが引いて二度と誘われなくなる可能性もあるぞ。押されてるうちに波に乗るんだ」
「はい師匠」
「師匠ではない」

 春風は緊張混じりだからか、物凄い形相ですがやんへの返信の文面を考えている。デートの誘いに対する返事を考えるような顔じゃないんだよな。大丈夫かな。死なないかな。いや、もしかして俺もこんな風になってるのでは? ……大丈夫かな。

「はーっ……はーっ……野坂先輩、送りました…!」
「すごい汗だくだけど、大丈夫?」
「お水ください…!」
「どうぞ。お疲れさま」
「ありがとうございます。はーっ、お水が美味しいです」
「うん、美味そうに飲んでたよ」
「あの、野坂先輩。もし都合が良ければですけど、その日、こっそりついて来てもらえませんか? 緊張すると思うんですけど、後ろに先輩がいると思ったらちょっと安心しますし」
「ええー……俺で本当にいいの?」
「お願いします! ちゃんとお出かけ出来た暁にはクレープをご馳走させて下さい!」

 片想いの気持ちは死ぬほど理解出来るから春風のことは応援したいんだけども、俺自身はどうなってる? 時間はもうほとんど残されてない。ここを逃すと道はさらに険しくなるんだぞ。


end.


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春風は真面目なのでそのうち勉強に関する相談もするようになるとは思います。同じ情報科学部だしね。
MMPで恋愛相談と言えば愛の伝道師サマの管轄になるワケだけど、あの人異名の割に見えるところでそれらしい働きはあんましてないのよね
人の振り見て我が振り直せじゃないけど、自分もこんな感じなのでは?と不安がっているノサカ。お前はもっと挙動不審だ。

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