2020(04)

■深夜帯の罠と自由

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「4年生の子いなくなるし、新しい子に来てもらうことにしたんだー。夜勤イケるって言ってたし、千葉ちゃんしばらく面倒見てあげてくれる?」
「はーい。わかりましたー」

 ――と店長から紹介を受けた新人の子が、まさかの後輩っていうね。高ピー先輩が引っ越して行った後のムギツーに入ったシノが、どうやらウチの店でバイトを始めることにしたらしい。まあ、普通に時給いいし近いもんね。
 基本、バイトに採用されてしばらくはマニュアルを見ながら接客の練習やらドリンクやフードの作り方の勉強をして、テストに受かったら現場で訓練してっていう段取りを踏むらしいんだけど、ウチの店長そういうの無視するよね。最初から現場で教えるスタンス。
 シノは夜勤もイケるっていう話だから、人の少ない時間帯に現場投入してアタシとか店長とか、その場にいる人がいろいろ教えていくっていう方針で行くことになった。正直机に向かっての勉強よりその方が断然いいですよねー。

「そーゆーコトなんで果林先輩よろしくお願いします!」
「それはいいんだけどさ、シノってずっと夜勤でやってくの?」
「俺、地元でバイトしてた時もたまに夜の番に入ってたんすよね。一旦深夜の味を覚えちまったら、もーう日中のきっかりした感じに戻れないんすよ」
「それはちょっとわかる」
「っすよね。え、この店も深夜はちょっと緩くなる感じっすか?」
「まあ、店長があんな感じの人だからねえ。緩い緩い」
「あ、でもちゃんと基本は覚えてから力を抜いてきますよ?」

 深夜の緩さを覚えちゃったら昼間のきっかりした感じに戻れないっていうのが真理なんだよね。得てして昼間よりも深夜の方がスタッフもお客さんも少なくて、働き方も人相手と言うより店相手っていう感じになるんだよね。明日の仕込みとか掃除とか。
 たまに来た知り合い相手に長話をするなんてことも深夜だと余裕。見つかってもあの店長はスルーするし。最終的にちゃんとやることをやってればオッケーだもんね。でも昼だとそうはいかない。バタバタ仕事する感じも嫌いじゃないけど、たまにでいいですよねー。

「深夜でやってくなら、乙4の資格取るのは必須だよ」
「オツヨン? て何すか?」
「危険物取扱者乙種第4類ね。ガソリンとか扱うのに必要な国家資格で、これを持ってる人がいるからセルフのガソリンスタンドで一般の人が給油したり出来るってワケ」
「へー、そーゆー人がいるんすねー。えっ、果林先輩も資格持ってるんすか?」
「もちろん。ちゃんと勉強しないと受からないからね」
「こんなところでも勉強すか~!」
「シノ、アンタ化学は得意? バケ学」
「化学なんか全然やってないっす」
「文系なら大体そうだよね。よっぽどわからないなら、解説動画探すとか、得意そうな友達に教えてもらうといいよ」
「解説動画探すかササ……は完璧超人と言え文系だから、サキか! サキなら理系だし頭いーし勉強に付き合ってくれねーかな!」
「それはシノの頼み方次第」

 勉強した感じだと、中学校レベルの化学が分かってれば食らいついていけるっていう感じの内容だった。だけど、文系の子は化学の勉強に触れる機会がそこまで多くないっていう傾向にあるから、勉強するにもワケが分からなくなるんだよね。
 MBCCの子を当てにするとすればやっぱり頭のいいササか、理系のサキレナになるのかな。シノは頑張る時には頑張れる子なんだけど、それは得意分野での話なんだよね現段階では。でも、この資格は生活していくのに必要だし、頑張ってもらわないと。

「乙4の資格以外に必要な勉強って何かありますか?」
「大まかには接客のマニュアルと、メニューの作り方かな。それから、給油がお得になるナントカをお客さんに勧めるための文章っていうのがあるけど夜勤はあんまり関係ないかな。一応セールス成功した数書いたグラフ貼ってるけど」
「えー、だったらやっぱ夜勤のがいいっすね」
「でも、夜勤やってたら朝起きられなくならない? 2年前期だったらまだ授業もいっぱいあるのに大丈夫?」
「家が近いんで大丈夫じゃねーかなーと思ってるっす。今まで起きてた時間のことを思えば余裕っす!」
「後々泣きを見ないようにね~」

 こう、余裕風を吹かせてるシノだけど、どうにもこうにもダメそうな感じしかしないっていうのは何だろうね。シノが1人暮らしをきっちりやってるイメージも今のところは残念ながら。タカちゃんと似たような感じになるような未来が見えます。バイトしてるだけまだいいけど。

「6時に仕事終わるじゃないすか」
「そうだね」
「2限始まりなら、10時起きでもまあ大丈夫なんで、そこそこ寝れません?」
「寝れるね。でもちゃんと寝ないと体調崩す人は本当に崩すし弱くなるからね。そこだけ気を付けなね。夜勤で8時間働けば日に1万円になるんだから。あんまりカツカツにバイトしなくてもよくなるし」
「すげー! 1万!?」
「1万」
「えっ、そしたらここだけの話、果林先輩てすっごいお金持ってるんすか?」
「ううん、働いた分は食費になるから手元にはあんまり残らないよ」
「あっ、そっすよね! 俺も飯はいっぱい食いたいんで、やっぱ稼ぎたいっすねー」
「まあ、ほどほどに頑張ってね」


end.


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シノがアルバイトを始めました。あのゆるい感じの店長なので、シノの面倒のことに関しても深夜帯で行けるなら現場にぶち込んじゃえ的な感じだったのかな?
フェーズ1のときにササシノがいた時間軸ではシノがちょっと病弱キャラみたいな感じになってたのよね。今は熱中症以外にはそれと言って体調を崩してないけれども
果林は何気にナノスパ屈指のショートスリーパーと言うか、短い時間でもすごくぐっすり眠れる子なんだろうなと。睡眠効率がいいんだろうね

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