2020(04)
■新生活の夢と希望と
++++
「次は冷蔵庫行くぞー」
「よーし、あと何回だー」
今日はシノの引っ越しの日。シノが入るアパートはコムギハイツⅡ。ムギツーという愛称で親しまれている。大学からは徒歩5分、原付なら2分もあれば着くという立地の物件だ。俺は引越しの手伝いのために招集されていた。
大体の物は引っ越し業者に運んでもらったけど、家電は自分たちで運び入れなければならない。それというのも、先にこの部屋に住んでいたのがあの高崎先輩で、自分の引っ越しついでに家電一式を譲ってくれるというので真上に住むL先輩に預けていたそうなんだ。
L先輩に挨拶を入れて始まった引っ越し作業だ。洗濯機に冷蔵庫、電子レンジに炊飯器といった家電群が揃えてあって、鉄骨の階段を下って部屋に運び入れていく。先に洗濯機を入れて、その接続はL先輩にやってもらっている。俺たちは次の物を運び入れるんだ。
「せーのっ。1、2、1、2」
「シノ、大丈夫か」
「大丈夫。はい、平地!」
「はい」
「せーの! 1、2、1、2、よーし! 立ててー、そーれっ!」
「おっ、ナイスパワー」
「この辺だな。冷蔵庫はどう足掻いてもここが1番ナイスな場所だな」
洗濯機と冷蔵庫を運んでしまえば後は1人でもどうにかなる物なので、L先輩の部屋との往復ペースも早くなる。そうこうしている間に運び入れる家電は入れてしまったし、L先輩がやってくれていた洗濯機の接続も完了していた。
「そしたら俺帰るわ。自分の部屋の掃除あるし」
「わかりました。家電預かってもらって、洗濯機まで繋いでもらってあざっした!」
「お疲れさまです」
シノの部屋は入ったばかりだから掃除をするほどでもないけど、今まで家電で埋め尽くされていたL先輩の部屋は、一気にぽっかりしたことで掃除のタイミングだとなっているのだろう。サークル室でもこまめに掃除してた人だけど、自分の部屋もやってるんだな。
少しすると上から人が歩いているんだなという音が響き始めた。ムギツーは安いアパートなので、ちょっとした生活音がすぐ隣の部屋に筒抜けてしまうんだそうだ。こうしてL先輩が掃除する音に起こされた高崎先輩が激昂するということも多々あったとか。
「いよいよここでの生活が始まるんだな。いやー、感慨深いぜ」
「新天地だもんな。あ、ホントに大学が目と鼻の先だ」
「この距離だったらさ、9時からの授業でも8時起きで余裕じゃんな! いや、ワンチャン8時半起きとかでも全然イケるのか!?」
「朝の身支度にどれくらいかかるかはともかく、8時半起きで十分余裕だな」
「マジかよ~…! 今まで1限出るのに7時の電車に乗ってたことを思えば……仮にだぜ? 7時に起きて飯食って、昼飯のおにぎりを作っても全然余裕なんだよな」
「2年になれば2限始まりが多くなるのが一般的みたいだぞ」
「は!? 2限始まり!? 10時40分じゃんな2限が始まるのって。え、普通に7時とか8時に起きて洗濯出来るじゃん」
今まで通学に1時間半ほどかかっていたシノは朝の早起きが凄く辛かったらしく、原付2分で通学出来るこの距離感に目をキラキラ輝かせている。朝起きてからの時間をどう使おうかということに夢が広がっているようなんだ。
1人暮らしを始めてからも、昼食のおにぎり作りは継続するつもりだそうだ。昼は量を食べるためにおにぎりを作って足しにして、逆に夜は大学の購買で買った物をテイクアウトして食べるということも可能になるんだ。
「あ、おにぎりで思い出した。ちょっと待ってて」
L先輩の部屋に置きっぱなしにしていた荷物がもうひとつあったんだ。それはシノへの引っ越し祝いとして用意していた物。階段を上がってそれを取りに行って、また戻る。こういうアパートでのやり取りもいいなあ。高崎先輩とL先輩との間でもあったんだろうか。
「シノ、これ。引っ越し祝い」
「マジか! くれんの!? 何か悪いな、手伝ってもらった上に引っ越し祝いなんて」
「部屋の整備ついでに今日は泊めてもらうことになってるだろ。俺の食事も兼ねてるからな。これが定番の引っ越し蕎麦で、こっちが引っ越し祝いの米な」
「えー! 10キロ!?」
「言ってお前結構食うだろ。これくらいあればいいかなと思って。新生活始めるって言ってもさ、ゼミ合宿もあるから生ものを買うにも難しいだろ。でも、米があればご飯とふりかけだけでも食べれるから」
「そしたら、今日の晩飯はご飯のおかずに蕎麦食うか」
「スーパーかコンビニに行って惣菜買ってもいいし」
「あっ! スーパーがどこにあるかとか教えてくれよ!」
シノの原付ももう駐輪場に止まっている。シノの愛車は丸みを帯びていてなかなかかわいい黄色のビーノ。かわいく見えて坂道を上るだけのパワーはしっかり備えているので、坂道を上り下りする家の立地的にはとてもいいだろう。
今日はまだまだこれから。豊葦案内ついでに夕飯の買い物をしてもいい。ついでに、俺の家に置いていたゼミ合宿のための買い出しも持って帰ることに。何気にやることが結構あるな。帰りにカフェで休んでもいいくらいだ。
「そしたら、行くか」
「オッケー!」
end.
++++
とうとうシノがムギツーに引っ越して、新生活が始まります。高崎から預けられていた家電が一気に減ったLの部屋は掃除のタイミング。
今は早起きして出来た余裕でおにぎりを作ったり洗濯をしたりっていう風に夢を見てるけど、果たしていつまで続けることができるのか!
新天地でのアルバイトも探さなきゃいけないし、引っ越してからもまだまだ新生活の基盤整備は続きます。
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「次は冷蔵庫行くぞー」
「よーし、あと何回だー」
今日はシノの引っ越しの日。シノが入るアパートはコムギハイツⅡ。ムギツーという愛称で親しまれている。大学からは徒歩5分、原付なら2分もあれば着くという立地の物件だ。俺は引越しの手伝いのために招集されていた。
大体の物は引っ越し業者に運んでもらったけど、家電は自分たちで運び入れなければならない。それというのも、先にこの部屋に住んでいたのがあの高崎先輩で、自分の引っ越しついでに家電一式を譲ってくれるというので真上に住むL先輩に預けていたそうなんだ。
L先輩に挨拶を入れて始まった引っ越し作業だ。洗濯機に冷蔵庫、電子レンジに炊飯器といった家電群が揃えてあって、鉄骨の階段を下って部屋に運び入れていく。先に洗濯機を入れて、その接続はL先輩にやってもらっている。俺たちは次の物を運び入れるんだ。
「せーのっ。1、2、1、2」
「シノ、大丈夫か」
「大丈夫。はい、平地!」
「はい」
「せーの! 1、2、1、2、よーし! 立ててー、そーれっ!」
「おっ、ナイスパワー」
「この辺だな。冷蔵庫はどう足掻いてもここが1番ナイスな場所だな」
洗濯機と冷蔵庫を運んでしまえば後は1人でもどうにかなる物なので、L先輩の部屋との往復ペースも早くなる。そうこうしている間に運び入れる家電は入れてしまったし、L先輩がやってくれていた洗濯機の接続も完了していた。
「そしたら俺帰るわ。自分の部屋の掃除あるし」
「わかりました。家電預かってもらって、洗濯機まで繋いでもらってあざっした!」
「お疲れさまです」
シノの部屋は入ったばかりだから掃除をするほどでもないけど、今まで家電で埋め尽くされていたL先輩の部屋は、一気にぽっかりしたことで掃除のタイミングだとなっているのだろう。サークル室でもこまめに掃除してた人だけど、自分の部屋もやってるんだな。
少しすると上から人が歩いているんだなという音が響き始めた。ムギツーは安いアパートなので、ちょっとした生活音がすぐ隣の部屋に筒抜けてしまうんだそうだ。こうしてL先輩が掃除する音に起こされた高崎先輩が激昂するということも多々あったとか。
「いよいよここでの生活が始まるんだな。いやー、感慨深いぜ」
「新天地だもんな。あ、ホントに大学が目と鼻の先だ」
「この距離だったらさ、9時からの授業でも8時起きで余裕じゃんな! いや、ワンチャン8時半起きとかでも全然イケるのか!?」
「朝の身支度にどれくらいかかるかはともかく、8時半起きで十分余裕だな」
「マジかよ~…! 今まで1限出るのに7時の電車に乗ってたことを思えば……仮にだぜ? 7時に起きて飯食って、昼飯のおにぎりを作っても全然余裕なんだよな」
「2年になれば2限始まりが多くなるのが一般的みたいだぞ」
「は!? 2限始まり!? 10時40分じゃんな2限が始まるのって。え、普通に7時とか8時に起きて洗濯出来るじゃん」
今まで通学に1時間半ほどかかっていたシノは朝の早起きが凄く辛かったらしく、原付2分で通学出来るこの距離感に目をキラキラ輝かせている。朝起きてからの時間をどう使おうかということに夢が広がっているようなんだ。
1人暮らしを始めてからも、昼食のおにぎり作りは継続するつもりだそうだ。昼は量を食べるためにおにぎりを作って足しにして、逆に夜は大学の購買で買った物をテイクアウトして食べるということも可能になるんだ。
「あ、おにぎりで思い出した。ちょっと待ってて」
L先輩の部屋に置きっぱなしにしていた荷物がもうひとつあったんだ。それはシノへの引っ越し祝いとして用意していた物。階段を上がってそれを取りに行って、また戻る。こういうアパートでのやり取りもいいなあ。高崎先輩とL先輩との間でもあったんだろうか。
「シノ、これ。引っ越し祝い」
「マジか! くれんの!? 何か悪いな、手伝ってもらった上に引っ越し祝いなんて」
「部屋の整備ついでに今日は泊めてもらうことになってるだろ。俺の食事も兼ねてるからな。これが定番の引っ越し蕎麦で、こっちが引っ越し祝いの米な」
「えー! 10キロ!?」
「言ってお前結構食うだろ。これくらいあればいいかなと思って。新生活始めるって言ってもさ、ゼミ合宿もあるから生ものを買うにも難しいだろ。でも、米があればご飯とふりかけだけでも食べれるから」
「そしたら、今日の晩飯はご飯のおかずに蕎麦食うか」
「スーパーかコンビニに行って惣菜買ってもいいし」
「あっ! スーパーがどこにあるかとか教えてくれよ!」
シノの原付ももう駐輪場に止まっている。シノの愛車は丸みを帯びていてなかなかかわいい黄色のビーノ。かわいく見えて坂道を上るだけのパワーはしっかり備えているので、坂道を上り下りする家の立地的にはとてもいいだろう。
今日はまだまだこれから。豊葦案内ついでに夕飯の買い物をしてもいい。ついでに、俺の家に置いていたゼミ合宿のための買い出しも持って帰ることに。何気にやることが結構あるな。帰りにカフェで休んでもいいくらいだ。
「そしたら、行くか」
「オッケー!」
end.
++++
とうとうシノがムギツーに引っ越して、新生活が始まります。高崎から預けられていた家電が一気に減ったLの部屋は掃除のタイミング。
今は早起きして出来た余裕でおにぎりを作ったり洗濯をしたりっていう風に夢を見てるけど、果たしていつまで続けることができるのか!
新天地でのアルバイトも探さなきゃいけないし、引っ越してからもまだまだ新生活の基盤整備は続きます。
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