2020(04)
■コムギハイツ最後の晩餐
++++
「この、餃子が焼けるのを待ってる時間も今から思えばなかなかいいモンだったな」
「そーゆーモンすかね」
「月並みだけどよ、機会がなくなるとそのありがたみに気付くんだ」
「そーゆーモンなんすね」
高崎先輩を部屋に招いて、サシでの餃子大会だ。先輩はこないだムギツーを出て、星港市内にある新居に引っ越して行った。話によれば、先輩が出て行った後の102号室にはシノが入って来るらしい。その話を聞いた時は、思わずマジかよと声が出た。
俺の部屋は今現在高崎先輩が使っていた家電で埋め尽くされている。先輩とシノの間で家電を譲る契約が結ばれているそうで、シノが越して来るまでの間、うちでそれらを預かることになっているんだ。で、シノの引っ越し日は明日。
洗濯機や冷蔵庫なんかのデカいモンもだし、電子レンジやトースター、湯沸し器なんかの細かい物も所狭しと置かれている。ここ最近俺は自分の部屋の掃除が出来なくて悶々としてるけど、明日これらをシノの部屋に送り込んだら即行で掃除してやると心に決めている。
「とりあえず、飯とビールっすよね」
「ああ。サンキュ」
「……確かに、餃子を作っても食ってくれる人がいなくなるってのはなかなか寂しいモンすね」
「智也でも呼べばいいだろ。アイツもそこそこ食うし、俺がいなくなっても大した問題じゃねえよ。つか、たくさん作るんなら冷凍でも何でもすりゃいいだろ」
「まあ、そうなんすけどね。でも、シノは酒が飲めないんで純粋な飯の場になりそうっすね」
俺はそんなに量を食べる方じゃないから、作り過ぎた餃子を捌けさせるために高崎先輩を招集していた。だけど高崎先輩はすごく食べる人だから、餃子を焼くのに飯を炊いてないと怒られた。それから、俺の中で餃子と飯はセットで用意する物になった。
「ああ、そういや冷蔵庫とか掃除サンキューな」
「いえ、俺も楽しかったんで。今日の餃子でもまた油汚れが付いたと思うんで、後でまたサッと拭いときたいっすね」
「ホント、よくやるよな。智也が入って来てからも、あんま掃除でうるさくしてやるなよ」
「高崎先輩が過剰だったんすよ」
「あ? 人が寝てる時間にあんなどったんばったんデカい音で掃除しやがるから響くんだろうがよ」
そうやって俺の掃除がうるさいと下から棒か何かで突いて抗議されることもこれからはなくなるんだろう。シノはさすがに俺の部屋に対してそんな風にアクションを起こしに来ることはなさそうだし。一応2個上の先輩だしな。
ちなみに、先輩の部屋から上がって来た家電などは、簡単に掃除をしてからシノに引き渡すことになっていた。やっぱり、これまで使っていたときに付いた汚れなんかを落としておいた方がいいという判断だったんだろう。
高崎先輩の部屋の掃除をたまにやらせてもらうことはあっても、家電や小物類の掃除をしたことはなかった。だから、4年分の汚れが付いたそれを落とすときの気持ちの高揚感ったらなかった。実際それらを綺麗にするのはとても楽しかった。
「そろそろいいかな。先輩、食えますよ」
「それじゃ、いただくか。うん、うめえ。やっぱこれだな」
焼けた餃子を皿に移したら、もう一度フライパンいっぱいに餃子を並べて焼き始める。大して大きなフライパンでもないから、2回3回くらいは焼くことになる。高崎先輩は量を食う人だから、飯とビールがあればそれくらいは余裕で平らげる。
一方で、俺はあまり量を食わないから、もっと食えと先輩からはいつも怒られる。5つ6つ食べれば十分満足と言うか。そのレベルでしか食べないのにわざわざ自分で餃子を作るっていうのはよくよく考えればおかしいのかもしれない。次からは冷凍か。
「そう言えば、高崎先輩の新居って星港っすか?」
「そうだな」
「やっぱムギツーなんかよりも断然グレードの高い家なんすよね」
「そしたら、1回来てみるか」
「えっ!? いや、つか、いいんすか? だって先輩、基本家の中に他人を入れない主義じゃないっすか」
「基本そうであることに違いはないが、お前は普通に入れてただろ」
「まあ……外に出たくないっていう理由で冬とかは呼びつけられてましたからね」
「大して面白い部屋でもねえけど、来たいっつーなら来てもいいぞ」
「それは行きますよ。そんなことでもないと今後は行ける気がしないっすからね」
まさかのお誘いに、俺はお邪魔になることを即決する。星港市内のマンションだし、ムギツーなんかよりも相当グレードが高いはずだ。金はそれなりに持ってるとも聞いてるし、何よりシノに家電を全部譲ったってことは自分は新しく買い替えてるんだ。生活の質は段違いだろう。
「ただ、今はちょっとドラムパッドが部屋の真ん中にあるから雑然として見えるっちゃ見えるんだけどよ」
「ドラムが出てるってことはこたつはさすがに片したんすか」
「まあ、春休みっつっても活動はしなきゃいけねえからな。こたつは罠だ。それに、ヒーターはある。前よか広いけど、さすがにベッドとこたつとドラムパッドを同時に置くと狭苦しくてよ」
「行っていい日教えてください。今なら大体暇なんで」
「まだあんまり物もねえし、必要なモンがあれば勝手に持って来てくれ」
end.
++++
コムギハイツでの最後の晩餐のような感じですかね。高崎とLの餃子大会です。こうやって食べることもなかなかなくなります。
今はまだ部屋に家電がぎちぎちに押し込められているのであまり広くないムギツーの部屋では男2人が食事するのにが不向きになってそう
4年間の汚れをきっちり掃除してるLの様子なんかも見てみたかったけど、それをやるとすれば次年度以降ですね。
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「この、餃子が焼けるのを待ってる時間も今から思えばなかなかいいモンだったな」
「そーゆーモンすかね」
「月並みだけどよ、機会がなくなるとそのありがたみに気付くんだ」
「そーゆーモンなんすね」
高崎先輩を部屋に招いて、サシでの餃子大会だ。先輩はこないだムギツーを出て、星港市内にある新居に引っ越して行った。話によれば、先輩が出て行った後の102号室にはシノが入って来るらしい。その話を聞いた時は、思わずマジかよと声が出た。
俺の部屋は今現在高崎先輩が使っていた家電で埋め尽くされている。先輩とシノの間で家電を譲る契約が結ばれているそうで、シノが越して来るまでの間、うちでそれらを預かることになっているんだ。で、シノの引っ越し日は明日。
洗濯機や冷蔵庫なんかのデカいモンもだし、電子レンジやトースター、湯沸し器なんかの細かい物も所狭しと置かれている。ここ最近俺は自分の部屋の掃除が出来なくて悶々としてるけど、明日これらをシノの部屋に送り込んだら即行で掃除してやると心に決めている。
「とりあえず、飯とビールっすよね」
「ああ。サンキュ」
「……確かに、餃子を作っても食ってくれる人がいなくなるってのはなかなか寂しいモンすね」
「智也でも呼べばいいだろ。アイツもそこそこ食うし、俺がいなくなっても大した問題じゃねえよ。つか、たくさん作るんなら冷凍でも何でもすりゃいいだろ」
「まあ、そうなんすけどね。でも、シノは酒が飲めないんで純粋な飯の場になりそうっすね」
俺はそんなに量を食べる方じゃないから、作り過ぎた餃子を捌けさせるために高崎先輩を招集していた。だけど高崎先輩はすごく食べる人だから、餃子を焼くのに飯を炊いてないと怒られた。それから、俺の中で餃子と飯はセットで用意する物になった。
「ああ、そういや冷蔵庫とか掃除サンキューな」
「いえ、俺も楽しかったんで。今日の餃子でもまた油汚れが付いたと思うんで、後でまたサッと拭いときたいっすね」
「ホント、よくやるよな。智也が入って来てからも、あんま掃除でうるさくしてやるなよ」
「高崎先輩が過剰だったんすよ」
「あ? 人が寝てる時間にあんなどったんばったんデカい音で掃除しやがるから響くんだろうがよ」
そうやって俺の掃除がうるさいと下から棒か何かで突いて抗議されることもこれからはなくなるんだろう。シノはさすがに俺の部屋に対してそんな風にアクションを起こしに来ることはなさそうだし。一応2個上の先輩だしな。
ちなみに、先輩の部屋から上がって来た家電などは、簡単に掃除をしてからシノに引き渡すことになっていた。やっぱり、これまで使っていたときに付いた汚れなんかを落としておいた方がいいという判断だったんだろう。
高崎先輩の部屋の掃除をたまにやらせてもらうことはあっても、家電や小物類の掃除をしたことはなかった。だから、4年分の汚れが付いたそれを落とすときの気持ちの高揚感ったらなかった。実際それらを綺麗にするのはとても楽しかった。
「そろそろいいかな。先輩、食えますよ」
「それじゃ、いただくか。うん、うめえ。やっぱこれだな」
焼けた餃子を皿に移したら、もう一度フライパンいっぱいに餃子を並べて焼き始める。大して大きなフライパンでもないから、2回3回くらいは焼くことになる。高崎先輩は量を食う人だから、飯とビールがあればそれくらいは余裕で平らげる。
一方で、俺はあまり量を食わないから、もっと食えと先輩からはいつも怒られる。5つ6つ食べれば十分満足と言うか。そのレベルでしか食べないのにわざわざ自分で餃子を作るっていうのはよくよく考えればおかしいのかもしれない。次からは冷凍か。
「そう言えば、高崎先輩の新居って星港っすか?」
「そうだな」
「やっぱムギツーなんかよりも断然グレードの高い家なんすよね」
「そしたら、1回来てみるか」
「えっ!? いや、つか、いいんすか? だって先輩、基本家の中に他人を入れない主義じゃないっすか」
「基本そうであることに違いはないが、お前は普通に入れてただろ」
「まあ……外に出たくないっていう理由で冬とかは呼びつけられてましたからね」
「大して面白い部屋でもねえけど、来たいっつーなら来てもいいぞ」
「それは行きますよ。そんなことでもないと今後は行ける気がしないっすからね」
まさかのお誘いに、俺はお邪魔になることを即決する。星港市内のマンションだし、ムギツーなんかよりも相当グレードが高いはずだ。金はそれなりに持ってるとも聞いてるし、何よりシノに家電を全部譲ったってことは自分は新しく買い替えてるんだ。生活の質は段違いだろう。
「ただ、今はちょっとドラムパッドが部屋の真ん中にあるから雑然として見えるっちゃ見えるんだけどよ」
「ドラムが出てるってことはこたつはさすがに片したんすか」
「まあ、春休みっつっても活動はしなきゃいけねえからな。こたつは罠だ。それに、ヒーターはある。前よか広いけど、さすがにベッドとこたつとドラムパッドを同時に置くと狭苦しくてよ」
「行っていい日教えてください。今なら大体暇なんで」
「まだあんまり物もねえし、必要なモンがあれば勝手に持って来てくれ」
end.
++++
コムギハイツでの最後の晩餐のような感じですかね。高崎とLの餃子大会です。こうやって食べることもなかなかなくなります。
今はまだ部屋に家電がぎちぎちに押し込められているのであまり広くないムギツーの部屋では男2人が食事するのにが不向きになってそう
4年間の汚れをきっちり掃除してるLの様子なんかも見てみたかったけど、それをやるとすれば次年度以降ですね。
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