2020(04)
■仕事と夢と生活と
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「本当に……本当に、新婚夫婦の愛の巣にワタクシなんぞがお邪魔してよろしかったんでしょうか…!?」
「なんなら引っ越ししたばっかりでまだ全然片付けてない部屋に来てもらって恐縮だよ」
慧梨夏のテストが終わったということで、いよいよ俺たちは同居生活を始めることになった。引っ越してまだ本当に数日しか経ってないから開けてない段ボール箱が至る所に置いたままになってて、片付けを進めなきゃなーとは思ってるんだけどなかなか進まない。
そんな中、新居初のお客さんとしてアヤさんが遊びに来てくれた。今までも慧梨夏が住んでた部屋とか俺が住んでた部屋とかに遊びに来ては2人で迎えてたけど、2人の家としてお客さんを招くのは本当に初めてだから、ちょっと特別感がある。
「改めてたまちゃんカズさん結婚おめでとうございます」
「アヤちゃんありがと~!」
「これ、つまらないものですがご祝儀代わりに」
「いつもいつも本当にありがとう。あっ、お紅茶ですね!」
「たまちゃんと言えば紅茶だからね。結婚祝いなのにいつもと同じ紅茶で色気も何もないのがホントにゴメンなんだけど、でも、新居には2人のこだわりで生活用品を揃えるだろうし、消え物の方がいいかなって思って無難にね。なんならたまちゃんにはカズさんの作ったケーキを食べながらこのお茶を飲んでほしい」
「そしたらさっそくアヤさんのお茶淹れようか。ケーキも作ってあるし」
アヤさんを迎えるに当たってケーキは必須かなと思って焼いてたよな。水回りは完璧に片付けてあるからお菓子作りも楽勝でした。今回のケーキはオートミールとおからパウダーを少々、それからGREENsの節分で残った豆をふんだんに使った物になっている。
それというのも、結婚式に向けて慧梨夏のカロリーコントロールをやっているところなんだ。ドレスを着るからちょっとでも絞っておきたいっていう本人の意向がとても強くあって、ここしばらくはダイエットメニューの献立を組んでいる。
「これがカズの作ってくれた罪悪感カットのケーキですよ」
「パサパサとかもそもそしてたらごめんね。お茶でごまかしながら食べてもらわなきゃいけないかも」
「ううん、美味しいですよ。えっ、オートミールとおからパウダーと、節分豆? えー……すっごい。さすがカズさん上手」
「お口に合ったようでよかった。いくら体を絞ってても適度に間食を入れないとストレス溜まっちゃうからね」
「それなのよ。ダイエット中でも美味しい物食べたいんだもん」
「でもたまちゃんはバスケやってるし体は動かしてるからね。すぐ絞れるでしょう」
「ここだけの話なんですけど、原稿やってるとイスから動かないんですよ」
「……知ってました」
結婚したからと言って特に大きく変わったことはまだない。就職すれば変わって来るだろうけど、今現在はまだ学生だし。結婚式と新婚旅行を除けば至って普通の春休みって感じだ。で、慧梨夏は相変わらず原稿三昧の生活を送ってますよね。
「たまちゃんって確かイベント関係の会社に就職するんだよね」
「そうね。バタバタ走り回ることにはなると思うよ」
「カズさんはどんな会社に就職するんですか?」
「俺は星港市交通局。地下鉄の駅員だね」
「えー! すごーい! それじゃあどこかで会うかもですね!」
「アヤさんは今度4年になるんだっけ」
「そうですねー」
「じゃあそろそろ進路のことも考えてるんだよね」
「それなんですけど、私、大学を出てからも演劇を続けたいなって気持ちがあって、就活……一般企業? どうする? っていう感じですよ」
「問題は、生業としての演劇にするのか、趣味としての演劇なのかっていうところだね。でも、アヤさんの言い方からすると生業として、それで食べて行きたいんだよね」
「そうですねー、今のところは。そんなに甘い世界じゃないのはもちろんわかってるんですけど、それでもやってみたいなって」
ケーキをつつきながら、アヤさんは今まで誰にも話していなかったという想いを打ち明けてくれた。演劇で食べていくのはもちろんそう簡単じゃないけど、やらないと絶対に後悔するし、やるだけやってみたいんだそうだ。
言ってしまえば芸能の道だけじゃなくて、一般企業にも夢を抱いて飛び込むことだってあるんだ。その夢が打ち砕かれることだってそんなに珍しくもない。そもそも仕事に夢を求められるのって、ロマンだよなって思う。仕事はお金を得るための手段だしな。
「そしたらこれからアヤちゃんは劇団に所属したり、オーディションを受けたりするような感じ?」
「うーん、そうなるのかなー。いろいろ調べてるところ。生活に関してはコスプレである程度頂けてるからそれでやりくりすればいいんだけど」
「そっか、忘れかけてたけどアヤさんてすげーコスプレイヤーだったわ」
「そうだよカズ。界隈では名前が通るのよ玉置アヤ様は」
「いえいえ、雨宮先生ほどじゃあ。私なんてまだまだ駆け出しですから」
「え、慧梨夏ってそんなに名のある同人作家なの?」
「もう! 何千人が雨宮先生の結婚を祝福したことか!」
「そう聞くとお前やべーのな」
「あのね、それはアヤちゃんが話を大きくしてる。さすがに何千人ではないね。うちのフォロワーは1300人。アヤちゃんのフォロワーは2.4万人! 桁が違うんですよ……」
「私のフォロワーさんもたまちゃんの結婚をお祝いしてくれたもん! だから何千人でいいもん!」
「ええー……」
end.
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いちえりちゃんが同居を始めたとのことで、おうちはまだ段ボール箱で大変なことになっているようです。
カナコの手土産と言えばお紅茶なんですけど、いち氏のケーキがついてくるのもお馴染みって感じ。今回は進路に関するお悩みも少々。
いちえりちゃんたちが大学卒業とか言ってるけど、フェーズ1の時は1年生だった子たちが3年生になるんだから時の流れってヤツァー
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「本当に……本当に、新婚夫婦の愛の巣にワタクシなんぞがお邪魔してよろしかったんでしょうか…!?」
「なんなら引っ越ししたばっかりでまだ全然片付けてない部屋に来てもらって恐縮だよ」
慧梨夏のテストが終わったということで、いよいよ俺たちは同居生活を始めることになった。引っ越してまだ本当に数日しか経ってないから開けてない段ボール箱が至る所に置いたままになってて、片付けを進めなきゃなーとは思ってるんだけどなかなか進まない。
そんな中、新居初のお客さんとしてアヤさんが遊びに来てくれた。今までも慧梨夏が住んでた部屋とか俺が住んでた部屋とかに遊びに来ては2人で迎えてたけど、2人の家としてお客さんを招くのは本当に初めてだから、ちょっと特別感がある。
「改めてたまちゃんカズさん結婚おめでとうございます」
「アヤちゃんありがと~!」
「これ、つまらないものですがご祝儀代わりに」
「いつもいつも本当にありがとう。あっ、お紅茶ですね!」
「たまちゃんと言えば紅茶だからね。結婚祝いなのにいつもと同じ紅茶で色気も何もないのがホントにゴメンなんだけど、でも、新居には2人のこだわりで生活用品を揃えるだろうし、消え物の方がいいかなって思って無難にね。なんならたまちゃんにはカズさんの作ったケーキを食べながらこのお茶を飲んでほしい」
「そしたらさっそくアヤさんのお茶淹れようか。ケーキも作ってあるし」
アヤさんを迎えるに当たってケーキは必須かなと思って焼いてたよな。水回りは完璧に片付けてあるからお菓子作りも楽勝でした。今回のケーキはオートミールとおからパウダーを少々、それからGREENsの節分で残った豆をふんだんに使った物になっている。
それというのも、結婚式に向けて慧梨夏のカロリーコントロールをやっているところなんだ。ドレスを着るからちょっとでも絞っておきたいっていう本人の意向がとても強くあって、ここしばらくはダイエットメニューの献立を組んでいる。
「これがカズの作ってくれた罪悪感カットのケーキですよ」
「パサパサとかもそもそしてたらごめんね。お茶でごまかしながら食べてもらわなきゃいけないかも」
「ううん、美味しいですよ。えっ、オートミールとおからパウダーと、節分豆? えー……すっごい。さすがカズさん上手」
「お口に合ったようでよかった。いくら体を絞ってても適度に間食を入れないとストレス溜まっちゃうからね」
「それなのよ。ダイエット中でも美味しい物食べたいんだもん」
「でもたまちゃんはバスケやってるし体は動かしてるからね。すぐ絞れるでしょう」
「ここだけの話なんですけど、原稿やってるとイスから動かないんですよ」
「……知ってました」
結婚したからと言って特に大きく変わったことはまだない。就職すれば変わって来るだろうけど、今現在はまだ学生だし。結婚式と新婚旅行を除けば至って普通の春休みって感じだ。で、慧梨夏は相変わらず原稿三昧の生活を送ってますよね。
「たまちゃんって確かイベント関係の会社に就職するんだよね」
「そうね。バタバタ走り回ることにはなると思うよ」
「カズさんはどんな会社に就職するんですか?」
「俺は星港市交通局。地下鉄の駅員だね」
「えー! すごーい! それじゃあどこかで会うかもですね!」
「アヤさんは今度4年になるんだっけ」
「そうですねー」
「じゃあそろそろ進路のことも考えてるんだよね」
「それなんですけど、私、大学を出てからも演劇を続けたいなって気持ちがあって、就活……一般企業? どうする? っていう感じですよ」
「問題は、生業としての演劇にするのか、趣味としての演劇なのかっていうところだね。でも、アヤさんの言い方からすると生業として、それで食べて行きたいんだよね」
「そうですねー、今のところは。そんなに甘い世界じゃないのはもちろんわかってるんですけど、それでもやってみたいなって」
ケーキをつつきながら、アヤさんは今まで誰にも話していなかったという想いを打ち明けてくれた。演劇で食べていくのはもちろんそう簡単じゃないけど、やらないと絶対に後悔するし、やるだけやってみたいんだそうだ。
言ってしまえば芸能の道だけじゃなくて、一般企業にも夢を抱いて飛び込むことだってあるんだ。その夢が打ち砕かれることだってそんなに珍しくもない。そもそも仕事に夢を求められるのって、ロマンだよなって思う。仕事はお金を得るための手段だしな。
「そしたらこれからアヤちゃんは劇団に所属したり、オーディションを受けたりするような感じ?」
「うーん、そうなるのかなー。いろいろ調べてるところ。生活に関してはコスプレである程度頂けてるからそれでやりくりすればいいんだけど」
「そっか、忘れかけてたけどアヤさんてすげーコスプレイヤーだったわ」
「そうだよカズ。界隈では名前が通るのよ玉置アヤ様は」
「いえいえ、雨宮先生ほどじゃあ。私なんてまだまだ駆け出しですから」
「え、慧梨夏ってそんなに名のある同人作家なの?」
「もう! 何千人が雨宮先生の結婚を祝福したことか!」
「そう聞くとお前やべーのな」
「あのね、それはアヤちゃんが話を大きくしてる。さすがに何千人ではないね。うちのフォロワーは1300人。アヤちゃんのフォロワーは2.4万人! 桁が違うんですよ……」
「私のフォロワーさんもたまちゃんの結婚をお祝いしてくれたもん! だから何千人でいいもん!」
「ええー……」
end.
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いちえりちゃんが同居を始めたとのことで、おうちはまだ段ボール箱で大変なことになっているようです。
カナコの手土産と言えばお紅茶なんですけど、いち氏のケーキがついてくるのもお馴染みって感じ。今回は進路に関するお悩みも少々。
いちえりちゃんたちが大学卒業とか言ってるけど、フェーズ1の時は1年生だった子たちが3年生になるんだから時の流れってヤツァー
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