2020(04)
■星ヶ丘放送部・現場最前線
++++
「あ、みんな来てくれてありがとう」
「それで源、話って何ですか」
「資料があるからそれを見てもらえるかな」
部長の源によって放送部の幹部と班長が集められ、緊急の会議が行われようとしています。俺は事前に少しだけ話を聞いていたのですがほんの触りだけだったので、ちゃんとした話として聞くのはこれが初めてです。もらった資料に目を通します。
資料には「ファンタジックフェスタブース出展要項」とありました。ファンタジックフェスタと言えば、5月の大型連休明けに花栄の街のど真ん中で行われる野外イベントです。公園の南北にステージが設置され、その間には無数のテントが立ち並んで出店などを出しているんですね。
「放送部としては、大学祭から夏の丸の池まで大きなステージってやらないでしょ? ちょっとそれってどうかなーと思って。ファンフェスのステージに星ヶ丘放送部として出てみたらどうかなと思うんだよ」
「僕たちが1年生の時にも出てたんだ。確かその時は、みんなバタバタしてたと思うんだ」
「星野の記憶の通りですね。当時の日高部長の独断でステージ出展が決まり、直前になってからの通達でしたから。それで、ファンフェスに出たいという源の意向はわかりました。ですが、問題はいろいろありますよ」
問題を挙げればキリがありません。例えば、3年生の引退による部員の減少。部員が減って、班によってはプロデューサーなど、ステージをやるに当たって肝となるパートの人員が無くなったということもあるでしょう。
それから、一言でステージ出展と言っても何時間の枠を取るつもりなのか。一班当たりの時間配分も重要になってきます。源は少ない人数でどれだけの時間をやれると考えているのでしょうか。そして春という季節柄、環境が変わって多忙を極める者も出て来るでしょう。
「その辺りは考えてるよ。部で取るステージの枠は最大でも3時間」
「3時間!? ……って、多いんだ? 少ないんだ?」
「3年生がいないことを考えれば、妥当だと思いますよ」
「それから、このファンフェスのステージに参加するのは有志っていう形にしようと思ってるんだ。出たいと思うなら出ればいいし、無理そうなら別に強制はしない。昔は班の枠組みに関係なくヘルプとかに行ったり来たりしてたって話だし、しっかりと打ち合わせさえ出来ればどの班の人だろうがやれないかな」
「それで、源はインターフェイスとの兼ね合いも出てきますが、部長自身はどうするつもりで?」
「部で出るのは日曜日の予定だから、インターフェイスとは重ならないようにしてあるよ。やれるならやりたいよね」
「抜け目有りませんね。今年の部長はとにもかくにも最前線に出たがって困ります」
この話を、事前に聞かされていた俺以外の部員は複雑な表情で聞いているようです。参加するのは有志、班の枠組みを取り払って誰とやるかわからないというステージに対する不安もあるのかなという風に見受けられます。
言ってしまえば、源は1年生の頃から朝霞班、戸田班と経てスパルタ育成だとか英才教育を受けて来ているのでどんなことでも出来てしまいます。ですが、一般の部員はそうではありません。自分に出来ることはみんなにも出来ると思う節がありそうですね。
「ファンフェスの申し込み自体はもう少し先だから、班長のみんなには班員の子たちに周知してもらって、追いコンまでに返事をもらえたら助かるな」
「源、仮にその“有志”が集まらなければどうするつもりなんですか。まさか源班で3時間の枠をやるとは言い出しませんよね」
「集まらなければ申し込みをしなければいいだけの話だけど、やりたい人も、出来る人もいると思ってるから。もし人が集まらなかったら放送部としての有り方をちょっと考えていかないとなあ。活動実績を作れば部費も潤沢になるかなと思ったんだけど」
暗に「出ろよ」と言っているような物ですね。まあ、ミキサーに関しては源が1人で3時間を回すことも出来てしまうので、残りのパートになりますね。俺は部長が動き回っている以上構えていなければならないので、ディレクターも1人は確保されましたが。
「特にPとアナさん、出てくれたらいいなあ」
「ゲンゴロー、僕が出てもいいんだ?」
「もちろんだよ!」
「さすがに3時間はムリなんだ。だけど、ちょっとやってみたいんだ」
「やったあ。後はPか。まあ、ウチの班に話を投げれば盛り上がるとは思うけど、他の班からも出て欲しいなあ。みんな、本当によろしく」
やっぱり源班にも話を投げる気マンマンだったんですね。確かにあの班であればインターフェイスとステージをどっちもやろうとすることは想像に難くありませんが。班の礎を築いた人がそれで謹慎を食らっていた覚えがありますからね。
「ところで源、ファンフェスに出るという意向はわかりましたが、その費用はどうするつもりですか? 部費は丸の池と大学祭を柱として算出されているはずです。急にファンフェスを入れるとなると部の財政状況に影響しかねません。先回りしておきますが、朝霞班や戸田班は特別倹約が上手かっただけで、他の班はもっと派手にお金を使っていたんですよ」
「えっ、そうなの!? みんなあれだけのお金でやってるんだと思ってたけど、違うの!?」
「はい、違いますね。ですので、予算のことも考えてくださいよ」
ですが、それを現場の最前線で動き回る部長に求めるのも酷ですね。俺と会計の手腕でどうにかしてみせましょう。
end.
++++
ゲンゴロー部長は星ヶ丘の放送部の中でもステージに向けてガツガツ動いて行くタイプの部長のようですね。現場の最前線か。そうなのか。
朝霞班と戸田班で揉まれたゲンゴローにとってステージをやる上での基準が結構変なことになっているのですが、それを一般的尺度に寄せていくのがレオの仕事なんだろうね
ゲンゴロー部長のことをやれやれって感じで見守るレオがなかなかいい。自分をディレクターの人数としてカウントしているのもまた良き。
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「あ、みんな来てくれてありがとう」
「それで源、話って何ですか」
「資料があるからそれを見てもらえるかな」
部長の源によって放送部の幹部と班長が集められ、緊急の会議が行われようとしています。俺は事前に少しだけ話を聞いていたのですがほんの触りだけだったので、ちゃんとした話として聞くのはこれが初めてです。もらった資料に目を通します。
資料には「ファンタジックフェスタブース出展要項」とありました。ファンタジックフェスタと言えば、5月の大型連休明けに花栄の街のど真ん中で行われる野外イベントです。公園の南北にステージが設置され、その間には無数のテントが立ち並んで出店などを出しているんですね。
「放送部としては、大学祭から夏の丸の池まで大きなステージってやらないでしょ? ちょっとそれってどうかなーと思って。ファンフェスのステージに星ヶ丘放送部として出てみたらどうかなと思うんだよ」
「僕たちが1年生の時にも出てたんだ。確かその時は、みんなバタバタしてたと思うんだ」
「星野の記憶の通りですね。当時の日高部長の独断でステージ出展が決まり、直前になってからの通達でしたから。それで、ファンフェスに出たいという源の意向はわかりました。ですが、問題はいろいろありますよ」
問題を挙げればキリがありません。例えば、3年生の引退による部員の減少。部員が減って、班によってはプロデューサーなど、ステージをやるに当たって肝となるパートの人員が無くなったということもあるでしょう。
それから、一言でステージ出展と言っても何時間の枠を取るつもりなのか。一班当たりの時間配分も重要になってきます。源は少ない人数でどれだけの時間をやれると考えているのでしょうか。そして春という季節柄、環境が変わって多忙を極める者も出て来るでしょう。
「その辺りは考えてるよ。部で取るステージの枠は最大でも3時間」
「3時間!? ……って、多いんだ? 少ないんだ?」
「3年生がいないことを考えれば、妥当だと思いますよ」
「それから、このファンフェスのステージに参加するのは有志っていう形にしようと思ってるんだ。出たいと思うなら出ればいいし、無理そうなら別に強制はしない。昔は班の枠組みに関係なくヘルプとかに行ったり来たりしてたって話だし、しっかりと打ち合わせさえ出来ればどの班の人だろうがやれないかな」
「それで、源はインターフェイスとの兼ね合いも出てきますが、部長自身はどうするつもりで?」
「部で出るのは日曜日の予定だから、インターフェイスとは重ならないようにしてあるよ。やれるならやりたいよね」
「抜け目有りませんね。今年の部長はとにもかくにも最前線に出たがって困ります」
この話を、事前に聞かされていた俺以外の部員は複雑な表情で聞いているようです。参加するのは有志、班の枠組みを取り払って誰とやるかわからないというステージに対する不安もあるのかなという風に見受けられます。
言ってしまえば、源は1年生の頃から朝霞班、戸田班と経てスパルタ育成だとか英才教育を受けて来ているのでどんなことでも出来てしまいます。ですが、一般の部員はそうではありません。自分に出来ることはみんなにも出来ると思う節がありそうですね。
「ファンフェスの申し込み自体はもう少し先だから、班長のみんなには班員の子たちに周知してもらって、追いコンまでに返事をもらえたら助かるな」
「源、仮にその“有志”が集まらなければどうするつもりなんですか。まさか源班で3時間の枠をやるとは言い出しませんよね」
「集まらなければ申し込みをしなければいいだけの話だけど、やりたい人も、出来る人もいると思ってるから。もし人が集まらなかったら放送部としての有り方をちょっと考えていかないとなあ。活動実績を作れば部費も潤沢になるかなと思ったんだけど」
暗に「出ろよ」と言っているような物ですね。まあ、ミキサーに関しては源が1人で3時間を回すことも出来てしまうので、残りのパートになりますね。俺は部長が動き回っている以上構えていなければならないので、ディレクターも1人は確保されましたが。
「特にPとアナさん、出てくれたらいいなあ」
「ゲンゴロー、僕が出てもいいんだ?」
「もちろんだよ!」
「さすがに3時間はムリなんだ。だけど、ちょっとやってみたいんだ」
「やったあ。後はPか。まあ、ウチの班に話を投げれば盛り上がるとは思うけど、他の班からも出て欲しいなあ。みんな、本当によろしく」
やっぱり源班にも話を投げる気マンマンだったんですね。確かにあの班であればインターフェイスとステージをどっちもやろうとすることは想像に難くありませんが。班の礎を築いた人がそれで謹慎を食らっていた覚えがありますからね。
「ところで源、ファンフェスに出るという意向はわかりましたが、その費用はどうするつもりですか? 部費は丸の池と大学祭を柱として算出されているはずです。急にファンフェスを入れるとなると部の財政状況に影響しかねません。先回りしておきますが、朝霞班や戸田班は特別倹約が上手かっただけで、他の班はもっと派手にお金を使っていたんですよ」
「えっ、そうなの!? みんなあれだけのお金でやってるんだと思ってたけど、違うの!?」
「はい、違いますね。ですので、予算のことも考えてくださいよ」
ですが、それを現場の最前線で動き回る部長に求めるのも酷ですね。俺と会計の手腕でどうにかしてみせましょう。
end.
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ゲンゴロー部長は星ヶ丘の放送部の中でもステージに向けてガツガツ動いて行くタイプの部長のようですね。現場の最前線か。そうなのか。
朝霞班と戸田班で揉まれたゲンゴローにとってステージをやる上での基準が結構変なことになっているのですが、それを一般的尺度に寄せていくのがレオの仕事なんだろうね
ゲンゴロー部長のことをやれやれって感じで見守るレオがなかなかいい。自分をディレクターの人数としてカウントしているのもまた良き。
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