2020(04)

■お名前は風の噂で

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 ベティさんが企画してくれた俺の誕生会という名前のパーティーは、4年生の先輩数人とササと彩人が来てくれて、一見異色な顔ぶれだけど楽しく話させてもらっている。星ヶ丘の朝霞さんっていう先輩とも知り合ったけど、面白い人なんだって。
 少し前にササが口の端にケガをして来た時があったけど、その傷を作ったのは彩人を守ろうとした朝霞さんに殴られたからだとここで発覚。他の先輩たちのジャッジは、事情が事情にせよ短気すぎるのでは派が1人と、朝霞さんなら手が出たのも納得派が2人でした。

「陸、災難だったな。お前には悪いがここしばらくで一番笑わせてもらった」
「高崎先輩の笑い顔を見られたなら殴られたのも少しは報われます。玲那にもこれ以上ないほど笑われましたからね」
「玲那がそんだけ笑うんなら話聞いた奴全員爆笑するぞ。いや、伊東だったら同情するだろうけどな」
「いや、だから本当に悪かったって思ってんだってその件は」
「大丈夫ですよ朝霞さん」
「完全にリクの鉄板ネタになってんじゃんな」
「……ロイのいいところであり、欠点でもあり……」

 ササを殴った張本人の朝霞さんがいるからこそゲラゲラ笑えるネタ話なんだろうけど、レナが笑うならみんな笑うだろうっていう高崎先輩の意見には異を唱えたい。レナはササの情けない話がとんでもなくツボに入る性質なんだ。他の人は心配してくれると思いたい。
 そんな風に話していると、カランコロンと店のドアベルの音が鳴ってベティさんが応対をする。フロートを飲んでいた大石さんもソファから立ち上がってその人を迎えた。明るいオシャレ白髪か銀髪かの大きな男の人だ。

「あら拓馬、どうしたの?」
「明日休みだし、ちょっと飲みに来たんすけど。なかなか賑やかっすね」
「局でバイトしてる子の誕生会をやってるのよ。お食事メニューのおこぼれで良ければ出すけど」
「それじゃもらいます。あ? ユーヤに、朝霞までいるじゃねえか。朝霞お前、今日明日休みってこのためか」
「違いますよ、たまたまです。って言うか俺の明日の予定は塩見さんも知ってるはずじゃないですか」
「まあな。飲み過ぎて遅れんなよ。時間厳守だからな」
「了解です」
「朝霞さん、知り合いの人ですか?」
「俺が今短期でバイトしてる会社の社員さんだよ。バイトの他にもプライベートでちょっと付き合いがあって。……あ。サキ、塩見さんのトコ行こう。はい、酒とフルーツ持って」
「えっ?」

 朝霞さんは結構強引な所があるのか、思い立ったら動いてる人なんだろうな。俺をあの人の前に連れて行くと、これこれこういう……と事情を説明してカウンター席に座らせた。2人で俺を挟み込むように朝霞さんが逃げ場を封じて、うーん……どうすればいいのこれ。

「朝霞、どういう風の吹き回しだ」
「サキ、いろんなゲームやるって言ってただろ。塩見さんはゲームが凄く上手いんだよ」
「へえ。何をやられるんですか」
「好きなのはFPSだけど、割と何でもやる。APEXとかマイクラとか」
「俺もやってますよ。いろんな人の実況を見たり練習しつつ、立ち回りは日々勉強ですね」
「しばらくやらねえと勘も鈍るし難しいよな」
「サキはゲーム実況を見るんだな。誰か面白い人いたら教えてよ。俺も見てみたい」
「一番見てるのは“でじかも”で、この人の企画には俺もよく視聴者として参加してます。その派生で最近はUSDXってグループも少し見てて」
「げほっげおっえっほ」
「朝霞さん、大丈夫ですか?」
「や、大丈夫。急にUSDXとか言うから噎せた」
「朝霞、お前が去年の今頃俺の車の中でやったことだぞ」
「すみません、気持ちがやっとわかりました。やっぱキョドりますね」
「――とまあ、このリアクションからお察しだろうが、俺とコイツはその実況グループUSDXのメンバーだな」

 USDXを知ったのもでじかもとのコラボ企画からだったけど、最近はチータと裏で遊んだりしてたんだよね。作ってもらった曲を番組で使いましたって報告したらすごく喜んでくれて、その流れでゲームをするようになって。そうか。メンバーか。

「だったらチータはわかりますよね」
「アイツ推し? だったら本人に言ってあげたら死ぬほど喜ぶよ」
「俺、最近チータとよく遊んでるんですよね。もちろん裏でですけど。それから、俺用にラジオ用のBGMを作ってもらったりして」
「なるほどな。お前さては“DaiSak”か」
「ですね。ソルさんとは2回、ですか? ご一緒したことがあったかと」
「なかなかやり手だな。つか、結構昔からでじかもの動画にいるよな」
「そうですね、5年くらい前からですか」
「俺も実況自体は10年近くやってるからな。でじかもは一応知ってるんだ。コラボっつーのはほとんどねえんだが、アイツ自分の配信でP&Sの話結構してただろ。今度は何を言いやがるんだって張ってたっつーのが正しいかな」
「あー、確かにしてましたね」

 P&Sという孤高のユニットがとにかく凄くってさ、みたいな話はでじかもの配信で何度も聞いてはいた。それを自分の目で確かめに行くことはあまりなかったけど、たまに見たときには確かに圧倒されてたかもしれない。まさかその人と一緒に遊ぶ時代が来るとは。

「まあ、何だ。頭数が必要なら声かけてくれ」
「こちらこそ。それから、チータによろしく伝えてください」


end.


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地味に遠い縁があったサキと塩見さんである。互いの事なんかちっとも知らないけど、一緒にゲームをしたことがある仲。そして仲介のチータ。
だけどもゲームをするという共通点だけでサキを塩見さんのところに連れて行った朝霞Pがやっぱりブレないわねこの人
実況界でそこそこの位置にあるという設定のでじかも氏をアイツと呼べるソルさんも何気に界隈ではそれなりの位置にある人なんだ

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