2020(04)
■トップランナーの憂鬱
++++
ゼミ合宿に向けての準備が始まった。合宿では卒論の発表以外に、通常の授業のような感じでワークショップが開かれる。学生が企画して進行するんだけど、社会学的な内容でという条件が付いている以外の内容は特に定められていない。
学年ごとに企画を用意しなくちゃいけないんだけど、それも全員でやるんじゃなくて何人かでやることになってるんだよね。この時期にもなると行事で動くメンバーも何だか固定されてきてるっぽくて、例によって自然な流れで企画メンバーの中に入ってましたよね。
3年生の先輩は映像を使った企画にするようで、パソコンの前では小田先輩が作業をしている。もちろん他の人たちもいるんだけど、みんな買い出しに出ているとかで留守にしているらしい。3年生の先輩たちだけに、買い出しの規模が凄そうだ。
「俺らもそろそろ休憩にするか。結構やってんじゃん? とりあえず何か食ってまたやろうぜ」
「そしたら車出すし何か買いに行く?」
「あ、俺はもうちょっと素材選びをやってるよ」
「そしたら高木お前何食う?」
「パスタがあれば嬉しいかな。カルボナーラかボロネーゼがいいな」
「了解」
買い物に行ってくれたみんなを見送って、素材選びをすると言った俺も少しだけ休憩。チラリと周りを見渡すと、作業をしていた小田先輩もヘッドホンを外して一息つこうとしているところだった。目が合ったので、会釈をひとつ。
「2年生も休憩?」
「そうですね、いい時間なので。ごはんでも食べようって感じで。3年生の先輩も買い出しに出てるんですよね」
「そうだね。ひらっちゃんと千葉さんが出てるから結構時間かかると思うし、少しでも進めておいた方がいいかなと思って残ってはみたものの、結局俺の独断で進めちゃっていいものかって、躊躇しちゃってるよね」
小田先輩が作業に躊躇する気持ちは少しだけわかる。作業をするにしても、何をどう進めるかという作業表みたいな物だとか、相談できる人がいないとどう進めていいやらわからなくなるんだ。細かく指示してもらえるなら助かるんだけどね。自分1人でやってる物じゃないから。
「1人でやるんだったらどこまでもこだわるんですけどね」
「そうだよね。俺もこだわりたい方だからわかるよ」
「そう言えば、小田先輩は卒論を卒業制作にしたっていう風に聞いたんですけど」
「そうなんだよ。せっかくこういうゼミにいるんだから映像作品を作りたいなって思って先生に相談したらそれで行くことになったはいいんだけど……」
「何か問題があったんですか?」
「俺が卒業制作をやるならいいカメラ買うことにするって先生意気込んじゃって。どんなの買っちゃうんだろうって怖くもあるよね。仮にそれを持たされるなら、卒制に求められるレベルも上がっちゃうし、ちょっと気持ちがしんどいよね」
先生は新しい物好きだし、どうせ買うならいい物をっていうタイプの人だから、今回買おうとしているカメラのグレードも今ある物よりずっと上がって来るだろう。元々買うつもりだったのかもしれないけど、小田先輩の卒業制作がトリガーとなったとするなら、小田先輩にかかるプレッシャーは並大抵じゃないはずだ。
「でも、そんなに良いカメラを使わせてもらえるんですね。すごいです」
「俺はカメラが比較的得意だからね。高木君もラジオの機材は真っ先に触るでしょ、それと一緒だよ」
「そう言われればそうなんですかねえ」
「そういう物に興味があってこういうゼミに入ったんだし、見せてもらったり実際にやらせてもらうのもありがたい機会ではあるんだけどね。先生の見栄と圧がね」
「ですよねえ。でも、俺もカメラには興味はありますね。どういう性能で、何をどう撮るのが適してるとか」
「君たちぃ、やってるぅ?」
そんな風に少し休憩をしていたら、先生がスタジオを覗きに来たようだ。俺と小田先輩しかいないという状況にも、休憩中なんだねと納得するのもさすがに早い。
「ああ、小田君の卒業制作の話をしてたのね」
「そうですね」
「高木君、君もそろそろ卒論に向けてしっかり考え始めなさいよ。3年生でどれだけ下地を作れるかが大事になってくるんだから」
「はい」
「それはそうと君、カメラに興味あるって言ったね?」
「え、あ、はい、そうですね」
「それなら3年生になったらメディア表現技法の授業は取りなさいね。それから、小田君の卒業制作の為にカメラを1台買い替えようと思うんだよ」
「買い足すんじゃなくて買い替えってことは、1台使わなくなる物が出るんですか?」
「君ぃ、MBCCの悪い癖だよ~。そうやってすぐ機材に目を付けて~。でも、MBCCは音声ばっかりで、映像はやってないでしょ?」
「MBCCはそうなんですけど、インターフェイスでは映像作品を作ったり配信をやろうっていう流れになってるので、俺もカメラの勉強はしたかったんですよ」
「そういうことなら君がカメラを扱えないと緑ヶ丘は何をやってるのって話になるねえ。佐藤ゼミの威信にかけてそんなことは許されないんだよ君ぃ。それから――」
こうなったらなかなか逃がしてもらえないんだよなあ。先生が長々と話してるとみんながそれを察知して帰って来なかったらどうしよう。巻き込まれたら面倒だってみんなわかってるもんなあ。あ~、助けて~。
end.
++++
佐藤ゼミでは学期が終わってもゼミ合宿があるのでもうしばらくスタジオに昼夜がなくなります。何気に忙しいんですね。
果林と店長の買い物が長くなるのは買って来る量もその原因のひとつなんだけど、小田ちゃんもその恩恵を受けるので文句はなし。ごはんは大事。
佐藤ゼミの威信やらが今後のインターフェイスの機材事情を変えていくのか!? どっちにしても実技型TKG、さらに特化されそうな感じだね。
.
++++
ゼミ合宿に向けての準備が始まった。合宿では卒論の発表以外に、通常の授業のような感じでワークショップが開かれる。学生が企画して進行するんだけど、社会学的な内容でという条件が付いている以外の内容は特に定められていない。
学年ごとに企画を用意しなくちゃいけないんだけど、それも全員でやるんじゃなくて何人かでやることになってるんだよね。この時期にもなると行事で動くメンバーも何だか固定されてきてるっぽくて、例によって自然な流れで企画メンバーの中に入ってましたよね。
3年生の先輩は映像を使った企画にするようで、パソコンの前では小田先輩が作業をしている。もちろん他の人たちもいるんだけど、みんな買い出しに出ているとかで留守にしているらしい。3年生の先輩たちだけに、買い出しの規模が凄そうだ。
「俺らもそろそろ休憩にするか。結構やってんじゃん? とりあえず何か食ってまたやろうぜ」
「そしたら車出すし何か買いに行く?」
「あ、俺はもうちょっと素材選びをやってるよ」
「そしたら高木お前何食う?」
「パスタがあれば嬉しいかな。カルボナーラかボロネーゼがいいな」
「了解」
買い物に行ってくれたみんなを見送って、素材選びをすると言った俺も少しだけ休憩。チラリと周りを見渡すと、作業をしていた小田先輩もヘッドホンを外して一息つこうとしているところだった。目が合ったので、会釈をひとつ。
「2年生も休憩?」
「そうですね、いい時間なので。ごはんでも食べようって感じで。3年生の先輩も買い出しに出てるんですよね」
「そうだね。ひらっちゃんと千葉さんが出てるから結構時間かかると思うし、少しでも進めておいた方がいいかなと思って残ってはみたものの、結局俺の独断で進めちゃっていいものかって、躊躇しちゃってるよね」
小田先輩が作業に躊躇する気持ちは少しだけわかる。作業をするにしても、何をどう進めるかという作業表みたいな物だとか、相談できる人がいないとどう進めていいやらわからなくなるんだ。細かく指示してもらえるなら助かるんだけどね。自分1人でやってる物じゃないから。
「1人でやるんだったらどこまでもこだわるんですけどね」
「そうだよね。俺もこだわりたい方だからわかるよ」
「そう言えば、小田先輩は卒論を卒業制作にしたっていう風に聞いたんですけど」
「そうなんだよ。せっかくこういうゼミにいるんだから映像作品を作りたいなって思って先生に相談したらそれで行くことになったはいいんだけど……」
「何か問題があったんですか?」
「俺が卒業制作をやるならいいカメラ買うことにするって先生意気込んじゃって。どんなの買っちゃうんだろうって怖くもあるよね。仮にそれを持たされるなら、卒制に求められるレベルも上がっちゃうし、ちょっと気持ちがしんどいよね」
先生は新しい物好きだし、どうせ買うならいい物をっていうタイプの人だから、今回買おうとしているカメラのグレードも今ある物よりずっと上がって来るだろう。元々買うつもりだったのかもしれないけど、小田先輩の卒業制作がトリガーとなったとするなら、小田先輩にかかるプレッシャーは並大抵じゃないはずだ。
「でも、そんなに良いカメラを使わせてもらえるんですね。すごいです」
「俺はカメラが比較的得意だからね。高木君もラジオの機材は真っ先に触るでしょ、それと一緒だよ」
「そう言われればそうなんですかねえ」
「そういう物に興味があってこういうゼミに入ったんだし、見せてもらったり実際にやらせてもらうのもありがたい機会ではあるんだけどね。先生の見栄と圧がね」
「ですよねえ。でも、俺もカメラには興味はありますね。どういう性能で、何をどう撮るのが適してるとか」
「君たちぃ、やってるぅ?」
そんな風に少し休憩をしていたら、先生がスタジオを覗きに来たようだ。俺と小田先輩しかいないという状況にも、休憩中なんだねと納得するのもさすがに早い。
「ああ、小田君の卒業制作の話をしてたのね」
「そうですね」
「高木君、君もそろそろ卒論に向けてしっかり考え始めなさいよ。3年生でどれだけ下地を作れるかが大事になってくるんだから」
「はい」
「それはそうと君、カメラに興味あるって言ったね?」
「え、あ、はい、そうですね」
「それなら3年生になったらメディア表現技法の授業は取りなさいね。それから、小田君の卒業制作の為にカメラを1台買い替えようと思うんだよ」
「買い足すんじゃなくて買い替えってことは、1台使わなくなる物が出るんですか?」
「君ぃ、MBCCの悪い癖だよ~。そうやってすぐ機材に目を付けて~。でも、MBCCは音声ばっかりで、映像はやってないでしょ?」
「MBCCはそうなんですけど、インターフェイスでは映像作品を作ったり配信をやろうっていう流れになってるので、俺もカメラの勉強はしたかったんですよ」
「そういうことなら君がカメラを扱えないと緑ヶ丘は何をやってるのって話になるねえ。佐藤ゼミの威信にかけてそんなことは許されないんだよ君ぃ。それから――」
こうなったらなかなか逃がしてもらえないんだよなあ。先生が長々と話してるとみんながそれを察知して帰って来なかったらどうしよう。巻き込まれたら面倒だってみんなわかってるもんなあ。あ~、助けて~。
end.
++++
佐藤ゼミでは学期が終わってもゼミ合宿があるのでもうしばらくスタジオに昼夜がなくなります。何気に忙しいんですね。
果林と店長の買い物が長くなるのは買って来る量もその原因のひとつなんだけど、小田ちゃんもその恩恵を受けるので文句はなし。ごはんは大事。
佐藤ゼミの威信やらが今後のインターフェイスの機材事情を変えていくのか!? どっちにしても実技型TKG、さらに特化されそうな感じだね。
.