2020(04)

■暮らしのサイクル

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「伊東、付き合ってくれてありがとな」
「いえいえ。俺で良ければまたいつでも呼んでよ」
「やっぱ家電のことはお前に聞くのがいいな」

 これから星港での新生活を始めるに当たって家電をどうしようかと考えた時に、自分で調べることも出来るには出来るが、家電に強い奴に付き合ってもらって実際に見るのがいいだろうという結論に達した。
 今日の本題は伊東を呼び出しての家電量販店巡り。家電はほぼ新調するつもりだ。その中でも特に重要だったのは冷蔵庫と洗濯機だ。これについてもしっかりとした意見をもらい、俺の中で条件を擦り合わせて買う物を決めた。
 無事に買う物を決めて、払う物も払ったので本題は終了。その謝礼として奴を引き連れて適当な飯を食いに来た。伊東とサシで飯を食う機会は意外になかったし、積もる話もある。ちょうどいい頃合いかなとも思っていたんだ。

「家電選びを見てて思ったんだけど、やっぱり高ピーはこだわるところにはこだわるよね」
「それなりに長く使って行くモンだからな。自分の生活に合ったモンを選ぶべきだろ。金がある程度あるんであれば。そう言うお前も、新居選びはこだわってたって話じゃねえか」
「まあね。でも、こればっかりは俺だけのこだわりで決められる物でもないし、お互いどう折り合いをつけていくかっていうのが難しかったよね」
「やっぱ所帯持ちは言葉の重みが違うな」

 伊東もこの春から実家を出て新居を構えることにはなっているが、俺とは圧倒的に違う事情が結婚だろう。秋に宮ちゃんと結婚して、ようやくちゃんと一緒に住み始めるということでその準備に忙しくしていたそうだ。
 家や家電、その他諸々を2人なら2人、そしてそれから先の計画なんかと照らし合わせながら考えていかなければならないのだから難しさは俺の比ではないだろう。尤も、折り合いの付け方に関しては問題なさそうな2人ではあるが。

「生活の仕方なんかは今までも実際半同棲みたいなモンだったし、ある程度シミュレーションは出来てたんじゃねえのか」
「まあね。オフの過ごし方はそれでいいんだけど、仕事をし始めるとどうなるかなって感じ。俺がまず一般的な日勤の働き方じゃないからさ」
「そうか、夜勤って概念があるんだな」
「その分休みはあるからそういう時に常備菜を作ったり家のことをしながら楽しむって感じになるのかな」
「ご苦労なこった。台所は変わらずお前の要塞か」
「慧梨夏にもやってもらわないと回らないよね。俺がいないときもあるし。でも、簡単なことは出来るようになってるし、今も段階を踏みながら練習はしてるから」
「……でもやっぱ信用ならねえな」
「高ピーは生死の境をさまよってるからね。わかるよ」

 自分の嫁さんが訝しげな目を向けられているにも関わらず「そんなことないよ、もう大丈夫だよ」的な否定をしてこない辺りが俺のトラウマを伊東がちゃんと理解してくれているという証明だろう。実際俺はアイツの作ったモンを食って死にかけたんだ。大袈裟な話じゃねえ。

「そういやお前、バイクはどうすんだ」
「一番の悩みがそれ。家自体は丸の池線の沿線で駅近だから地下鉄で何でも間に合うし、慧梨夏の車もあるんだけど。俺が個人で車を持つとなると維持費がネックになってくるんだよなー。高ピーはどうする?」
「俺はもうしばらく乗るつもりだ。さすがに今すぐ車を買うだけの金はねえからな」
「そうだよね」
「箱物の乗り物が致命的にダメな以上、移動手段としてとっとかなきゃいけねえんだよ」
「って言うか高ピーの新居ってどの辺?」
「星城線沿線だな。なんだかんだ環状線が利便性の点では優位だろ」
「わかる。官公庁舎に遊びに暮らしにって何でもカバーしてるからね」

 住む場所を選ぶのはなかなかに楽しかったが、楽しいだけでは生きていけないのが難儀だ。条件を入れすぎるとこれという物件がなくなるし、かと言って妥協もしたくはなかった。ただ、俺も最後まで悩んだのが駐車場だった。

「そう言えば高ピーっていつムギツーを出るの?」
「来週だな。出てすぐ新しい部屋に入る」
「……安定だねえ。実家にワンクッション置いたりしないんだ」
「置く必要性がねえからな」
「片付けとかあるじゃない」
「家電の類は智也にお下がりでやることになってるし、Lの部屋にぶち込めば後はアイツらが自分で引き取ってくからな。物もそこまで多くねえし、引っ越すときに直で新居に持ってってもらえばそこまででも」
「え、お下がり? 智也ってどの子だっけ、シノだっけ?」
「だな。俺が出てった後の部屋に入ることになったんだと」
「あー、それでか。リクがさ、シノが豊葦で暮らせるようになったからアドバイスするのにスーパーのこととか聞きたいって言ってきたんだよ。そういうことね」
「スーパーの情報を得るための人選としては間違ってねえな」
「へえ、高ピーが使ってた家電とかを、シノがそのままお下がりでもらうんだ」
「まだ普通に使えるし、売っても大した金にならねえ割に処分するにも金がかかるからな。タダでも欲しい奴にやった方がいいと思ったんだ」

 大学生活こそ約4年のサイクルである程度回っていくが、これから歩いていくのはどこまで続くかわからない社会の中だ。逆に言えば、物事のタイミングを自分で決めることも出来て自由ではあるのだが。飽きたから引っ越すとか、車を買い換えるとか。そういうのも自由だ。

「しかしまあ、お前も引っ越しに結婚式に大忙しだな」
「大学生のうちの2月3月が勝負だからね。国内だけどゆっくり新婚旅行にも行ってくるし」
「おっ、どこに行くんだ?」
「そりゃあもちろん北辰ですよ」
「もちろん? いや、まあ、ビールや飯は美味いだろうが」
「俺は少しでも花粉の少ない土地で極力快適に過ごしたい」
「ああ、そういうことか」


end.


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高崎といち氏が新生活に向けた話などをしているだけの話。高崎も引っ越しがすぐそこに迫っているよ=シノももうすぐ。
いちえりちゃんの新婚旅行が2月3月くらいの時期だと決まったときに、行き先を北にしたのは間違いなくいち氏だろうなと。強く圧してそう。
ところで、ササシノサキのササキトリオを名前で呼んだところでなかなかパッと名前が出てこないだろうなあ。下手したらMBCCの1年生でさえも。

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