2020(04)
■考査の影を晴らせ
++++
「あー……テストやべー、マジやべー」
小腹も空いたしたまには第1食堂の2階に行ってみようかと果林先輩と脚を運ぶと、机の上にプリントを広げて頭を抱えるシノ。この時期にはよく見られる光景だけど、これで食堂の回転率が下がるんだよね。
「シノ、しんどそうだねえ」
「あ、高木先輩果林先輩おざっす。あー! 先輩たちの顔を見たらヒゲさんの顔が浮かんでマジ焦る!」
「その言葉で俺も気が重くなった」
「アタシもごはんがマズくなりそう」
「すんませんっす」
果林先輩はともかく、俺とシノは秋学期の成績のことを先生からチクチクと言われている。一定以上の成績を取っていることを合格の条件としているらしい佐藤ゼミにおいて、それを度外視で採用された俺たちだけど、成績で取ってますって言ってる手前、成績はちゃんとしててもらいたいらしい。
つまり、このテスト期間が本当に勝負時。俺は朝がしんどくて1、2限が怪しくなってた。シノは1人暮らしをするためのバイトで夜遅くまで働いてたから、大学には何とか来てても授業中に寝てることも多々。ミキサー陣が本当にマズい。このままだと実技で取り返せるレベルじゃなくなる。
「でも、タカちゃんとシノには本当に頑張ってもらわないと。アタシがチクチク言われてもどうしようもないっての」
「すみません毎度毎度」
「ホントだよ。こればっかりはタカちゃんに抗議しないと」
「シノは頑張れてる?」
「ササがガチで良くしてくれてるんで何とか。アイツのためにも人並みの成績取らないとマズいじゃないっすか。つか、俺の成績をどうにかしろってアイツが言われてるじゃないすか現段階で」
「あー……それはササのためにも頑張らないとねえ」
「ササがまた嫌な顔ひとつしないんすよね、俺を助けることに。ありがたくもあり、心苦しくもあり。いっそ助けた分飯奢れって言われた方が楽っすよ、ビジネスライクで」
教科書とササのノート、それから真っ白な自分のルーズリーフを見比べながら、シノは大きく息を吐く。ササは確かにいい子だし、シノを相棒として本当に大事に思ってるからこそ無意識に出る無償の奉仕って感じなんだろうけど、シノ的には厚意を受けっ放しなのもしんどいらしい。
「シノ、フリスク買って来たぞ。あれっ、先輩たち。おはようございます」
「ササはおつかいに出てたんだね。おはよう」
「果林先輩は3年生ですからやっぱりテストも少ないんですか?」
「そうだね。だから結構余裕だけど、シノは苦しんでるねえ」
「こないだ先生の授業の後に俺たち2人捕まって、チクッと刺されてるんですよね」
「え、シノはともかくササも?」
「テストを頑張りなさいってのと、ラジオについてですね。あの、先週の番組あったじゃないですか。高崎先輩の。どうもあれが相当尾を引いてるのか、俺は高崎先輩ばりの技術を身に付けつつも、知的なトークを頼むよって物凄い圧で言われました」
「シノは何て? 成績の他に」
「俺は、君も高木君を見習ってミキサーを扱う練習をするんだよって言われたっす。まあ、言われなくてもするんすけど」
「あーもうさっそく1年生にツバつけてますよねー! まだ2年生にもなってないのに!」
果林先輩がそうとうご立腹だけど、これも先生のアレばりにいつものことなのであまり深追いしないのが吉。俺もあれから先生にいろいろ言われてるけど、俺は制約がないくらいの方が面白いことをすると思われてるようなので、成績のこと以外は割と自由にやらせてもらえるっぽい。
知的なトークって何だとササは頭を抱えているけど、それを果林先輩はバサッと斬る。万人にわかりやすい言葉を使ってノイズにならなければいいんだと。確かに、佐藤ゼミのラジオには万人受けと言うのが全くない要素ではあるし、それこそ以前言われたように文芸番組とかでいいじゃないかと。
「でも、ササはテストもやっぱりちょっとは余裕でしょ」
「いえいえ、そんなでもないですよ」
「またまたご謙遜を」
「秋学期は英語と第二言語の成績も出るじゃないですか。それがやっぱり緊張しますね。落としたらもう1回じゃないですか」
「確かに通年はちゃんと取っとくべきだね。でもササは授業サボってないっしょ? よっぽどの事がない限り大丈夫だって。英語って基礎? 応用?」
「応用です」
通年の授業、社会学部の場合だと英語や第二言語っていう科目はきっちり1年生のうちに終わらせておけとは諸先輩方からアドバイスをもらったよね。それから、必修科目も履修条件を満たしたそのセメスターに終わらせておけとは。
「ササ、先生は誰?」
「小谷さんですね」
「その先生だったら去年もそんなに難しくなかったよ。ササなら平気じゃないかな」
「えっ、高木先輩って英語、応用クラスだったんですか?」
「そうだよ」
「マジすか!? 高木先輩は仲間だと思ってたのに! 急に裏切られた気持ちっす! ヒドいっす!」
「どんな仲間だと思ってたのかはともかく、高校の主要5教科の中では英語が一番得意だっただけだよ。あと、テストは難しくなかったけど欠席が多かったから成績自体はBだよ」
「くあーっ! 何すか! 何なんすか! ササ! 俺もB取る!」
「いや、A以上を目指す方がいいんじゃないか…?」
きっかけが何であれ、シノがやる気になってくれて何より。と言うか、俺は人の心配をしてる場合じゃなかった。俺もちゃんとやらないと果林先輩に迷惑がかかるし。早く3年生になって実技系の授業が増えないかなあ。
end.
++++
MBCCの佐藤ゼミ勢がひーこら言ってます。主にTKGとシノが。果林はそろそろテストも少ないはず。ササは自分よりシノが大事。
ササの無償の厚意はありがたいんだけども、助けを得るならビジネスライクな方が気持ちが楽だと言うシノには高崎式が合ってるのかも。
そう、1年生の心配をしているTKGだけど、後輩よりも自分の心配をしなきゃいけないんですね。ヒゲさんにまーたチクチク言われるぞ
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「あー……テストやべー、マジやべー」
小腹も空いたしたまには第1食堂の2階に行ってみようかと果林先輩と脚を運ぶと、机の上にプリントを広げて頭を抱えるシノ。この時期にはよく見られる光景だけど、これで食堂の回転率が下がるんだよね。
「シノ、しんどそうだねえ」
「あ、高木先輩果林先輩おざっす。あー! 先輩たちの顔を見たらヒゲさんの顔が浮かんでマジ焦る!」
「その言葉で俺も気が重くなった」
「アタシもごはんがマズくなりそう」
「すんませんっす」
果林先輩はともかく、俺とシノは秋学期の成績のことを先生からチクチクと言われている。一定以上の成績を取っていることを合格の条件としているらしい佐藤ゼミにおいて、それを度外視で採用された俺たちだけど、成績で取ってますって言ってる手前、成績はちゃんとしててもらいたいらしい。
つまり、このテスト期間が本当に勝負時。俺は朝がしんどくて1、2限が怪しくなってた。シノは1人暮らしをするためのバイトで夜遅くまで働いてたから、大学には何とか来てても授業中に寝てることも多々。ミキサー陣が本当にマズい。このままだと実技で取り返せるレベルじゃなくなる。
「でも、タカちゃんとシノには本当に頑張ってもらわないと。アタシがチクチク言われてもどうしようもないっての」
「すみません毎度毎度」
「ホントだよ。こればっかりはタカちゃんに抗議しないと」
「シノは頑張れてる?」
「ササがガチで良くしてくれてるんで何とか。アイツのためにも人並みの成績取らないとマズいじゃないっすか。つか、俺の成績をどうにかしろってアイツが言われてるじゃないすか現段階で」
「あー……それはササのためにも頑張らないとねえ」
「ササがまた嫌な顔ひとつしないんすよね、俺を助けることに。ありがたくもあり、心苦しくもあり。いっそ助けた分飯奢れって言われた方が楽っすよ、ビジネスライクで」
教科書とササのノート、それから真っ白な自分のルーズリーフを見比べながら、シノは大きく息を吐く。ササは確かにいい子だし、シノを相棒として本当に大事に思ってるからこそ無意識に出る無償の奉仕って感じなんだろうけど、シノ的には厚意を受けっ放しなのもしんどいらしい。
「シノ、フリスク買って来たぞ。あれっ、先輩たち。おはようございます」
「ササはおつかいに出てたんだね。おはよう」
「果林先輩は3年生ですからやっぱりテストも少ないんですか?」
「そうだね。だから結構余裕だけど、シノは苦しんでるねえ」
「こないだ先生の授業の後に俺たち2人捕まって、チクッと刺されてるんですよね」
「え、シノはともかくササも?」
「テストを頑張りなさいってのと、ラジオについてですね。あの、先週の番組あったじゃないですか。高崎先輩の。どうもあれが相当尾を引いてるのか、俺は高崎先輩ばりの技術を身に付けつつも、知的なトークを頼むよって物凄い圧で言われました」
「シノは何て? 成績の他に」
「俺は、君も高木君を見習ってミキサーを扱う練習をするんだよって言われたっす。まあ、言われなくてもするんすけど」
「あーもうさっそく1年生にツバつけてますよねー! まだ2年生にもなってないのに!」
果林先輩がそうとうご立腹だけど、これも先生のアレばりにいつものことなのであまり深追いしないのが吉。俺もあれから先生にいろいろ言われてるけど、俺は制約がないくらいの方が面白いことをすると思われてるようなので、成績のこと以外は割と自由にやらせてもらえるっぽい。
知的なトークって何だとササは頭を抱えているけど、それを果林先輩はバサッと斬る。万人にわかりやすい言葉を使ってノイズにならなければいいんだと。確かに、佐藤ゼミのラジオには万人受けと言うのが全くない要素ではあるし、それこそ以前言われたように文芸番組とかでいいじゃないかと。
「でも、ササはテストもやっぱりちょっとは余裕でしょ」
「いえいえ、そんなでもないですよ」
「またまたご謙遜を」
「秋学期は英語と第二言語の成績も出るじゃないですか。それがやっぱり緊張しますね。落としたらもう1回じゃないですか」
「確かに通年はちゃんと取っとくべきだね。でもササは授業サボってないっしょ? よっぽどの事がない限り大丈夫だって。英語って基礎? 応用?」
「応用です」
通年の授業、社会学部の場合だと英語や第二言語っていう科目はきっちり1年生のうちに終わらせておけとは諸先輩方からアドバイスをもらったよね。それから、必修科目も履修条件を満たしたそのセメスターに終わらせておけとは。
「ササ、先生は誰?」
「小谷さんですね」
「その先生だったら去年もそんなに難しくなかったよ。ササなら平気じゃないかな」
「えっ、高木先輩って英語、応用クラスだったんですか?」
「そうだよ」
「マジすか!? 高木先輩は仲間だと思ってたのに! 急に裏切られた気持ちっす! ヒドいっす!」
「どんな仲間だと思ってたのかはともかく、高校の主要5教科の中では英語が一番得意だっただけだよ。あと、テストは難しくなかったけど欠席が多かったから成績自体はBだよ」
「くあーっ! 何すか! 何なんすか! ササ! 俺もB取る!」
「いや、A以上を目指す方がいいんじゃないか…?」
きっかけが何であれ、シノがやる気になってくれて何より。と言うか、俺は人の心配をしてる場合じゃなかった。俺もちゃんとやらないと果林先輩に迷惑がかかるし。早く3年生になって実技系の授業が増えないかなあ。
end.
++++
MBCCの佐藤ゼミ勢がひーこら言ってます。主にTKGとシノが。果林はそろそろテストも少ないはず。ササは自分よりシノが大事。
ササの無償の厚意はありがたいんだけども、助けを得るならビジネスライクな方が気持ちが楽だと言うシノには高崎式が合ってるのかも。
そう、1年生の心配をしているTKGだけど、後輩よりも自分の心配をしなきゃいけないんですね。ヒゲさんにまーたチクチク言われるぞ
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