2020(04)
■頼れる男と呼ばれるために
++++
「聞いてくれササ! お好み焼きでも食いながら聞いてくれ!」
「ああうん、わかった。その感じからすると大事な話なんだな」
シノが物凄い勢いで俺を第2学食に引き摺って来た。そして有無を言わさず豚のお好み焼きを握らせて来る。この時期に、そして倹約中のシノが俺にお好み焼きを握らせるということはテスト関係で何か手助けでも欲しいのだろうか。
秋学期の成績に関しては佐藤先生から既にチクチク言われているシノだ。明らかに実技型であるシノだけど、佐藤ゼミに入るからにはある程度の成績が求められている。俺も、シノが何とかそれなりの成績が取れるようサポートするように言われた。
「どうしたシノ。何かノートでも欲しいのか?」
「まあ、それもあるとありがたいけどそれは今日の本題じゃなくって」
「あ、そうなんだ。早とちりでごめん。それで、どうしたんだ」
「聞いて驚け! 何と、この俺、篠木智也は! 1人暮らしが決定しましたー!」
「おお、本当か! 良かったな! 貯金70万行った!」
「や、厳密にはまだだけど、2月末までには行くって親に貯金見込み額を提示して、次の1年との競争に負けるんで家の手続きさせてくださいってお願いしたらオッケーが出て」
「そうか、良かったな。でも結構話のわかる親御さんなんだな」
「それな。意外に話わかってくれる方だったわ」
今いる4年生が退去する時期もあるし、それに伴う次の1年生との競争もある。そして今現在ある程度貯金額があるということでシノの親は1人暮らしをしてもいいよと言ってくれたらしい。確かに、まだ19歳だから家の契約に親の同意が必要だもんな。
住む家を契約するなら早い方がいいという考えによく至ったなと思ったら、どうやらそれは高崎先輩がアドバイスしてくれていたらしい。そう言えばシノは個人的に高崎先輩とご飯を食べる機会があったとかで、そこで少し相談していたそうだ。
「でも、ゼミ合宿で結構マイナスになるのによく70万行けたな」
「ゼミ合宿は勉強に関する行事だから1万出してくれるって言ってくれて」
「あ、そうなんだ。ますます良かったな。それで、どんな部屋に住むとかは考えてるのか」
「とりあえず大学から近い方がいいなとは思ってる。徒歩圏内でさ。一応そこの不動産屋にも行って考えてんだけどさ。この辺に住むとなったら原付も必要だし、結構準備することってたくさんあるな」
大学近くに住むということだけははっきりと決まっていて、どのアパートに住むかの候補だけは絞ったらしい。シノがこれまで貯金したお金はこの準備資金。家具家電、それから原付などの必要な物を揃えるためのお金だ。
俺にお好み焼きをごちそうしてくれたのは、晴れて1人暮らしが決まって倹約の必要性が少し減ったからだそうだ。それでもまだまだ準備することはあるんだから、貯金するに越したことはないだろうに。
「こっちに住むとするだろ。バイトとかってどうするんだ」
「それな。ちょっと足を伸ばせばあるんだろうけど、近くだったら全然ないもんな。ササが住んでるトコらへんだったらいろいろあるよな」
「そうだな。本屋にスーパー、洋服屋に“髭”……原付で10分行くだけでもいろいろあるな」
「やっぱそっちの方に行くのかなー。豊葦の地理があんまよくわかんないからアレなんだけどさ」
「でも、大学から一番近いスーパーは本当にうちの方だし、嫌でも来ることになるとは思う」
「あ、そうなんだ。まあ、それは原付を入手してから地元民にいろいろ案内してもらうことにしてっと」
「その辺は任せてくれ。豊葦生まれ豊葦育ちだから」
「さあっすがササ! 頼りにしてるぜ!」
大きなことを言ったけど、俺は自分でスーパーにはあまり行かないし、どのスーパーにどんな特色があるとかはあんまり知らない。その辺りはあの辺に住んでいた伊東さんに聞いておこう。確か、サークルでも4年生追いコンというのがあるらしいし。
「で、さっきササが触れてくれた問題に戻るワケな」
「あ、テスト?」
「です。そもそも1人暮らしがしたいって言ってた理由が、授業出るのに朝起きるのがしんどいっていう体だったじゃんか。親相手にもそれなりの成績が求められてるワケよ」
「そうだったな」
「それにさ、ヒゲさんにも突っつかれてるだろ。自分で頑張らないとダサいってのは分かってるんだけど、抜けてるトコはやっぱササに頼るしかねーんだよ」
「俺はシノに頼ってもらえて嬉しいし、自分でも授業の復習が出来てありがたいけどな」
「お前聖人かよ! いろんな人に愛されるワケだな~。そうだよな、俺の相棒だもんな!」
「あ、いや、シノに褒められると照れるな」
頼られたからには期待に応えたいし、頼られたからにはこれからも頼ってもらえるように俺自身、高い水準で頑張っていないとなと思う。勉強は俺の得意分野だし、これからはゼミの座学でもそうあれるように。逆に、俺がシノを頼る場面も出て来るだろうし。こういうのは持ちつ持たれつで成り立つ物だと思うから。
「でも、町の案内にテスト対策にって、ササに頼りっ放しだな。何かあったら言ってくれよな! 出来る範囲で何でもやるぜ!」
「そうだな。1人暮らしを始めて最初に部屋に呼ぶ友達を俺にしてくれれば何でもいいよ」
「そんなことかよ。当たり前だろ! お前を呼ばないで誰を呼ぶんだよ! なんなら家具とか並べるの手伝ってほしいくらいだぜ!」
「あ、いいな。夢がある。ぜひ手伝わせて欲しい。それで、終わったら引っ越し蕎麦を食べるヤツだな」
「ソバなー。美味いけど、腹にはたまんなさそうだな」
end.
++++
テスト期間のお話ということで、ササがちょっと身構えてたら、本題は違うところにあるおめでたい話だったようです。シノの1人暮らしが決定しました。
学内にコンビニや購買があるとは言え、原付がないと生活をするにはなかなか厳しい環境です。アルバイトを探すにしても一苦労です。
ササのナチュラル口説きにも似た素振りもシノには全く通用しないどころか「当たり前だろ相棒!」になるんだからさすが相棒だぜ。
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「聞いてくれササ! お好み焼きでも食いながら聞いてくれ!」
「ああうん、わかった。その感じからすると大事な話なんだな」
シノが物凄い勢いで俺を第2学食に引き摺って来た。そして有無を言わさず豚のお好み焼きを握らせて来る。この時期に、そして倹約中のシノが俺にお好み焼きを握らせるということはテスト関係で何か手助けでも欲しいのだろうか。
秋学期の成績に関しては佐藤先生から既にチクチク言われているシノだ。明らかに実技型であるシノだけど、佐藤ゼミに入るからにはある程度の成績が求められている。俺も、シノが何とかそれなりの成績が取れるようサポートするように言われた。
「どうしたシノ。何かノートでも欲しいのか?」
「まあ、それもあるとありがたいけどそれは今日の本題じゃなくって」
「あ、そうなんだ。早とちりでごめん。それで、どうしたんだ」
「聞いて驚け! 何と、この俺、篠木智也は! 1人暮らしが決定しましたー!」
「おお、本当か! 良かったな! 貯金70万行った!」
「や、厳密にはまだだけど、2月末までには行くって親に貯金見込み額を提示して、次の1年との競争に負けるんで家の手続きさせてくださいってお願いしたらオッケーが出て」
「そうか、良かったな。でも結構話のわかる親御さんなんだな」
「それな。意外に話わかってくれる方だったわ」
今いる4年生が退去する時期もあるし、それに伴う次の1年生との競争もある。そして今現在ある程度貯金額があるということでシノの親は1人暮らしをしてもいいよと言ってくれたらしい。確かに、まだ19歳だから家の契約に親の同意が必要だもんな。
住む家を契約するなら早い方がいいという考えによく至ったなと思ったら、どうやらそれは高崎先輩がアドバイスしてくれていたらしい。そう言えばシノは個人的に高崎先輩とご飯を食べる機会があったとかで、そこで少し相談していたそうだ。
「でも、ゼミ合宿で結構マイナスになるのによく70万行けたな」
「ゼミ合宿は勉強に関する行事だから1万出してくれるって言ってくれて」
「あ、そうなんだ。ますます良かったな。それで、どんな部屋に住むとかは考えてるのか」
「とりあえず大学から近い方がいいなとは思ってる。徒歩圏内でさ。一応そこの不動産屋にも行って考えてんだけどさ。この辺に住むとなったら原付も必要だし、結構準備することってたくさんあるな」
大学近くに住むということだけははっきりと決まっていて、どのアパートに住むかの候補だけは絞ったらしい。シノがこれまで貯金したお金はこの準備資金。家具家電、それから原付などの必要な物を揃えるためのお金だ。
俺にお好み焼きをごちそうしてくれたのは、晴れて1人暮らしが決まって倹約の必要性が少し減ったからだそうだ。それでもまだまだ準備することはあるんだから、貯金するに越したことはないだろうに。
「こっちに住むとするだろ。バイトとかってどうするんだ」
「それな。ちょっと足を伸ばせばあるんだろうけど、近くだったら全然ないもんな。ササが住んでるトコらへんだったらいろいろあるよな」
「そうだな。本屋にスーパー、洋服屋に“髭”……原付で10分行くだけでもいろいろあるな」
「やっぱそっちの方に行くのかなー。豊葦の地理があんまよくわかんないからアレなんだけどさ」
「でも、大学から一番近いスーパーは本当にうちの方だし、嫌でも来ることになるとは思う」
「あ、そうなんだ。まあ、それは原付を入手してから地元民にいろいろ案内してもらうことにしてっと」
「その辺は任せてくれ。豊葦生まれ豊葦育ちだから」
「さあっすがササ! 頼りにしてるぜ!」
大きなことを言ったけど、俺は自分でスーパーにはあまり行かないし、どのスーパーにどんな特色があるとかはあんまり知らない。その辺りはあの辺に住んでいた伊東さんに聞いておこう。確か、サークルでも4年生追いコンというのがあるらしいし。
「で、さっきササが触れてくれた問題に戻るワケな」
「あ、テスト?」
「です。そもそも1人暮らしがしたいって言ってた理由が、授業出るのに朝起きるのがしんどいっていう体だったじゃんか。親相手にもそれなりの成績が求められてるワケよ」
「そうだったな」
「それにさ、ヒゲさんにも突っつかれてるだろ。自分で頑張らないとダサいってのは分かってるんだけど、抜けてるトコはやっぱササに頼るしかねーんだよ」
「俺はシノに頼ってもらえて嬉しいし、自分でも授業の復習が出来てありがたいけどな」
「お前聖人かよ! いろんな人に愛されるワケだな~。そうだよな、俺の相棒だもんな!」
「あ、いや、シノに褒められると照れるな」
頼られたからには期待に応えたいし、頼られたからにはこれからも頼ってもらえるように俺自身、高い水準で頑張っていないとなと思う。勉強は俺の得意分野だし、これからはゼミの座学でもそうあれるように。逆に、俺がシノを頼る場面も出て来るだろうし。こういうのは持ちつ持たれつで成り立つ物だと思うから。
「でも、町の案内にテスト対策にって、ササに頼りっ放しだな。何かあったら言ってくれよな! 出来る範囲で何でもやるぜ!」
「そうだな。1人暮らしを始めて最初に部屋に呼ぶ友達を俺にしてくれれば何でもいいよ」
「そんなことかよ。当たり前だろ! お前を呼ばないで誰を呼ぶんだよ! なんなら家具とか並べるの手伝ってほしいくらいだぜ!」
「あ、いいな。夢がある。ぜひ手伝わせて欲しい。それで、終わったら引っ越し蕎麦を食べるヤツだな」
「ソバなー。美味いけど、腹にはたまんなさそうだな」
end.
++++
テスト期間のお話ということで、ササがちょっと身構えてたら、本題は違うところにあるおめでたい話だったようです。シノの1人暮らしが決定しました。
学内にコンビニや購買があるとは言え、原付がないと生活をするにはなかなか厳しい環境です。アルバイトを探すにしても一苦労です。
ササのナチュラル口説きにも似た素振りもシノには全く通用しないどころか「当たり前だろ相棒!」になるんだからさすが相棒だぜ。
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