2020(04)

■契約期間を全う出来るか

++++

「それじゃ、今年もしばらくよろしくお願いします」
「こちらこそ、朝はよろしくお願いします」

 俺とエイジの間で交わされる秋学期末考査期間中の契約がある。それは、エイジが俺の部屋に1週間程度ホームステイして、朝も俺のことを起こしてくれるっていう互いにWIN-WINなやり取りだ。一見俺が物凄く得してるように見えるけど、ちゃんと2人にとって得だからね。
 エイジには俺の部屋にいることの何が得なのかと言うと、大雪などのリスクを回避しやすいのが第一。エイジの家のある山浪エリアの山間部は、大雪で公共交通機関が止まりやすいんだそうだ。そんなときに星港市内にある俺の部屋にいれば、とりあえず大学には行けるということ。

「まず、今日の夕飯からだな」
「そうだねえ。何にしよっか。今冷蔵庫の中あんまりないんだよね」
「買い物からか。まあいいべ。それは買いに行けばいいだけだからな。問題は何を食うかだっていう」
「寒いし鍋とかがいいな。せっかく2人だし」
「まあ、それもアリか。そうか、机があれば鍋も出来るんだな」

 去年の今頃はまだ机を買ってなかったから、食事をするときも皿を地べたに置いてたんだよね。エイジは神経質だからそれをかなり嫌がっていて、机を買った時の喜びようったらこれ以上はないっていう感じだったな。で、今年の冬は机に加えてカセットコンロと土鍋もある。
 鍋を食べることに決まって、スーパーへその材料を買いに行く。鍋と言ってもごちそうじゃなくて安いうどんをメインにしたちょっとした鍋だ。そこに気持ち程度の野菜と肉を入れて、あったかい物を食べようっていうささやかなヤツ。その程度でも味が良ければ全然いいんだよね。スープが大事。

「あー、っと。例によって朝霞さんだっていう」
「本当だ。お疲れさまです」
「あれ、高木君にエージ。緑ヶ丘ってテスト明日からじゃないの? 余裕だね」

 近場のスーパーでは、たまに朝霞先輩が試食販売員として派遣のアルバイトをしている。今日も豆腐を調理しながらなかなかに忙しそうだ。と言うか、大体セールストークに負けてその物を買っちゃうんだよなあ。

「俺がこっちにいるのは雪対策と、このバカをテストに間に合うよう叩き起こすためなんで、余裕ではないっす」
「あ、そういう。そっか、山浪の奥の方だっけ。確かに大雪になってそうだ」
「そうなんすよ。朝霞さんはバイトっすか?」
「そうだね。でもテスト期間に入ったらまーた仕事もらえなくなっちまって、大石からの仕事を受けようかなーと。あっ、ちょうどいいところに高木君」
「はい?」
「ところで、去年と同じような仕事に興味ない? 今年は去年よりちょっと日が多くて、2月末までなんだけど」

 去年の今頃、朝霞先輩から誘われてやっていたのは製品のタグの付け替えの作業だ。倉庫に入荷してきたカバンの値札タグを付け替えて、かつ備品の紐が付いていない物にはそれを付けるという作業を時給1000円で7日間ほどやっていた。

「ああいう仕事なら出来ますけど、問題は足ですね」
「去年と同じで大石が世話してくれるそうだから、その辺は心配なく」
「えっと、テスト期間と集中講義の日、それからゼミ合宿の日を外してもらえればありがたいですね。それから、2月は対策委員も入って来るので週の前半なら入りやすいかなとは」
「わかった。そのように言っとく。また細かいことは後からでいい?」
「はい」

 あー、よかった。またゼミ合宿で困窮するかなと思ってたんだけどゼミ合宿後に回復出来るならまあいいか。実際働きに行くのも合宿後がメインになりそうかな、この感じだと。ああいう仕事だったら得意だし、朝霞先輩もいるなら安心かな。あとお金はやっぱりあればあるだけいいからね。

「つか朝霞さんその試食の仕事何時までっすか?」
「6時上がりだね」
「だったらコイツん家で一緒に鍋やりません? 4年生の先輩だったらテストもないっすよね。俺らは明日からテストなんで酒は飲まないんすけど」
「混ぜてもらえるならお邪魔しようかな。そしたら彩人ん家寄って野菜貰って来るわ。白菜とかあるらしいから」
「おー、あざっす!」
「エイジ、白菜がもらえるならちょっと肉のグレード上げるか量増やす?」
「それもアリだな。俺らはテストに向けて気合入れなきゃダメだし。つか、今日の晩飯だけじゃなくてこの1週間分の買い物もするんだっていう」
「献立はエイジが考えてくれる方が安心だなあ」
「とりあえず豆腐は買ってこう。朝霞さん、その献立の紙も下さいっす」
「ありがとうございまーす」

 うどんと、豆腐と、気持ち程度の野菜にちょっとグレードアップしたお肉。鍋の材料はとりあえずこんな感じ。何味の鍋にするかはフィーリングで決めようって話にしてるから、これから。それから、2人で1週間分食べる買い物か。今日が鍋だし後は粗食かなあ。

「うどんと豆腐かー。寒いし、担々麺っぽい味の鍋もいいかなぁー、美味そうだっていう」
「あ、いいね。それ系の味だったら豚肉と、ひき肉も欲しくない?」
「欲しい。それ言ったらお前、ニラがマストになるべ」
「そうだね。あるとそれっぽいね」
「うどんもいいけどラーメンも食いたいっていう」
「うどんはごはんでシメがラーメンっていうのも俺的にはアリ。食べなかったら後日食べればいいんだし」
「そうだな! ラーメンも買ってくか!」


end.


++++

冬のテスト期間は夏と違ってエイジがTKG宅に住み込むことに難色を示さないので朝の心配が全くなくなるのがいいなあTKGは
確かフェーズ1でやってた公式+1年だかの話で、タカちゃんに朝霞Pからバイトのお誘いの電話が来てたことを思い出してここで回収。
うどんがごはんでシメがラーメンって、まるで果林みたいなことを言うなと思ったけど、果林だったらどっちもごはんだったし最悪おやつだったわ

.
47/100ページ