2020(04)
■みかんは免罪符？
＋＋＋＋
「すーっ……うー……」
「シノ、大丈夫か？」
手をポケットに突っ込んでガチガチになりながら歩くシノは、傍から見ていてもかなり寒そうだ。大学構内には５、６センチほど雪が積もっていて、至る所に小さな雪だるまが飾られている。ここ何日間かは本当に寒かったなあ。
一緒に履修しているスケートの授業でも薄々思ってたんだけど、どうやらシノは寒いのが苦手らしい。今までは薄々思ってただけだったんだけど、今日の様子を見て疑惑が確信に変わったっていう感じだ。寒いのが嫌いなんだな。
「学食にでも行ってあったかいの飲むか？」
「行く。寒い。もームリだ」
テストが近くなるにつれ学内には人が増えるという風には聞いていたんだけど、本当にどんどん増えてるなっていう感じがする。机の上にプリントやノートを広げて勉強しているような人もいて、テストが近いんだなって思う。
「カフェモカだ」
「俺はキャラメルマキアートにしよう」
第２学食のカフェコーナーで俺はキャラメルマキアートと豚のお好み焼き、シノはカフェモカとカスタードの大判焼きを買ってカウンター席に陣取る。広い席は勉強してる人で埋まってしまっていて、俺たちみたくちょっと座りたい人はカウンターに行くしかなくなっていた。
「はー、あったけー」
「シノって寒いのが苦手なんだな」
「お前さ、考えてみろよ。西形はみかんの産地！ つまり温暖なんだぜ？ つか豊葦寒すぎじゃね？ 雪積もるとか大学休みにするだろこんだけ寒いんだし」
「豊葦は向島エリアの中じゃ降る方だぞ」
「星港がたまの雪で麻痺るみたいなニュースは見るけどさ、その影に隠れて豊葦もめっちゃ大変なんじゃん！」
「この程度の雪でそんなに騒いでたらハナ先輩に怒られるぞ」
「いや、雪国の人の基準で語るのって違くね？ ここ向島だぜ？ つか、西形はみかん作ってんだって。寒いのマジムリ」
「だからみかんで語るなっての」
シノが寒さ耐性をみかんで語るのはよくわからないけど、その理屈で言ったらみかんの産地として有名な山羽から出て来ている彩人も寒いのには弱いということなのだろうか。最近は屋内で会うことの方が多いからよくわかんないな。今度一緒に外に出てみようか。
ちなみに俺は、剣道部だったときに寒稽古があって、寒い中気合で動いてた経験がある。だから今もある程度の寒さまでなら気合で何とか出来ているような気がする。ただ、パーカーは裏起毛になっているし、その上から防風素材のジャケットを着ている。原付だと寒いんだ。
「あっ！ ササ、シノー！」
「ああ、くるみ。やっぱり甘いの食べるんだな」
「運動後の甘い物が最っ高に美味しいの！ すがやんとサキも来るよ」
サキとすがやん、それからくるみは学部も全員違うのに一緒にいる時間が長いなと思う。俺とシノは同じ学部学科で同じゼミだから一緒の動き方になるのもわかるんだけど。まあ、普通に仲がいいんだろうな。
「くるみって学内のジムに通ってるんだっけ」
「通ってるって程じゃないけど、最低でも週２は行くようにしてるよ。意識的に体を動かさないとただただ太る一方だからね」
「その割に、甘い物を食べるのはやめないみたいだけど」
「こればっかりはやめられないからねー。運動はせめてもの抵抗って感じ。スクワットはなんとか週６やれてるけど」
「でも、やらないよりはいいと思う。筋トレやってるとポジティブになるって言うし。体も強くなりそう」
「くるみが今以上ポジティブになったらヤバくね？」
「と言うか、そんな件をちょっと前にやった気がするんだよ。何だったっけ」
いつだったかなーと３人揃って考えていると、キャメルのフェイクレザーのジャケットを着たすがやんと、もこもこなサキがこっちに来た。すがやんがつるんとしてるからか、サキが異様にもこもこしているように見える。ボアジャケットにマフラーにニット帽って。おまけに手袋までしてる。
「お、すがやんにサキ。おはよう」
「おっす！」
「おはよう。ちなみに、さっきの既視感のある件は「レナが今以上に肯定感を強めたら敵なし」っていう、薪ストーブの話の時にやったね」
「ああ、薪ストーブの話か。さすがサキ。思い出した」
「あ～。ササはいっぱい稼がなきゃって話だね！」
「それはそうと、シノが元気ないね。大丈夫？」
「どうもシノは寒いのが苦手みたくて、この雪が相当堪えてるみたい」
「ああ、なるほど。そう言えばすがやん車でしょ。タイヤってどうしたの？ チェーンしてる？」
「ノーマルだと向島の道交法に引っかかるんだよなー。俺はチェーンすればよくねって思ったんだけど、親が「大学が豊葦なんだからスタッドレスにしろ」っつって。つか大学が山だし結構路面凍る日もあるだろ。親の言うことは聞いとくもんだなって思ったよ」
「すがやんお前、さては車だからそんな薄着なのか」
「え？ いや、中にヒートテックとか着てるぞ」
「サキを見ろ、このもこもこを！」
「外で動くことが増えたから、装備は手厚くしたよね」
「うう、さみーよー……」
くるみは体を動かしてテンションを上げることで寒さを乗り切っているし、もしかしなくても俺たち６人の中で一番寒さに弱いのはシノか。うーん、これから豊葦で１人暮らしをしたいって言ってるのにこの調子で大丈夫か？
end.
＋＋＋＋
単純に雪が降ったときのリアクションを見たかったというだけのヤツ。多分シノは寒さに弱い。地元はみかん作ってるし。多分彩人も山羽民の例に漏れてない。
レナ以外の１年生が揃ったけど、今回のポイントはすがやんとサキの服装。サキがもこもこしてて欲しかったしすがやんはジャケットだといいなと思った。
寒さとか雪云々の話でハナちゃんを持ち出すのがやっぱりMBCCだね。でもエイハナを持ち出すのって実は禁じ手なんだよなあ。そういやテスト期間のタカエイは同居するの？
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「すーっ……うー……」
「シノ、大丈夫か？」
手をポケットに突っ込んでガチガチになりながら歩くシノは、傍から見ていてもかなり寒そうだ。大学構内には５、６センチほど雪が積もっていて、至る所に小さな雪だるまが飾られている。ここ何日間かは本当に寒かったなあ。
一緒に履修しているスケートの授業でも薄々思ってたんだけど、どうやらシノは寒いのが苦手らしい。今までは薄々思ってただけだったんだけど、今日の様子を見て疑惑が確信に変わったっていう感じだ。寒いのが嫌いなんだな。
「学食にでも行ってあったかいの飲むか？」
「行く。寒い。もームリだ」
テストが近くなるにつれ学内には人が増えるという風には聞いていたんだけど、本当にどんどん増えてるなっていう感じがする。机の上にプリントやノートを広げて勉強しているような人もいて、テストが近いんだなって思う。
「カフェモカだ」
「俺はキャラメルマキアートにしよう」
第２学食のカフェコーナーで俺はキャラメルマキアートと豚のお好み焼き、シノはカフェモカとカスタードの大判焼きを買ってカウンター席に陣取る。広い席は勉強してる人で埋まってしまっていて、俺たちみたくちょっと座りたい人はカウンターに行くしかなくなっていた。
「はー、あったけー」
「シノって寒いのが苦手なんだな」
「お前さ、考えてみろよ。西形はみかんの産地！ つまり温暖なんだぜ？ つか豊葦寒すぎじゃね？ 雪積もるとか大学休みにするだろこんだけ寒いんだし」
「豊葦は向島エリアの中じゃ降る方だぞ」
「星港がたまの雪で麻痺るみたいなニュースは見るけどさ、その影に隠れて豊葦もめっちゃ大変なんじゃん！」
「この程度の雪でそんなに騒いでたらハナ先輩に怒られるぞ」
「いや、雪国の人の基準で語るのって違くね？ ここ向島だぜ？ つか、西形はみかん作ってんだって。寒いのマジムリ」
「だからみかんで語るなっての」
シノが寒さ耐性をみかんで語るのはよくわからないけど、その理屈で言ったらみかんの産地として有名な山羽から出て来ている彩人も寒いのには弱いということなのだろうか。最近は屋内で会うことの方が多いからよくわかんないな。今度一緒に外に出てみようか。
ちなみに俺は、剣道部だったときに寒稽古があって、寒い中気合で動いてた経験がある。だから今もある程度の寒さまでなら気合で何とか出来ているような気がする。ただ、パーカーは裏起毛になっているし、その上から防風素材のジャケットを着ている。原付だと寒いんだ。
「あっ！ ササ、シノー！」
「ああ、くるみ。やっぱり甘いの食べるんだな」
「運動後の甘い物が最っ高に美味しいの！ すがやんとサキも来るよ」
サキとすがやん、それからくるみは学部も全員違うのに一緒にいる時間が長いなと思う。俺とシノは同じ学部学科で同じゼミだから一緒の動き方になるのもわかるんだけど。まあ、普通に仲がいいんだろうな。
「くるみって学内のジムに通ってるんだっけ」
「通ってるって程じゃないけど、最低でも週２は行くようにしてるよ。意識的に体を動かさないとただただ太る一方だからね」
「その割に、甘い物を食べるのはやめないみたいだけど」
「こればっかりはやめられないからねー。運動はせめてもの抵抗って感じ。スクワットはなんとか週６やれてるけど」
「でも、やらないよりはいいと思う。筋トレやってるとポジティブになるって言うし。体も強くなりそう」
「くるみが今以上ポジティブになったらヤバくね？」
「と言うか、そんな件をちょっと前にやった気がするんだよ。何だったっけ」
いつだったかなーと３人揃って考えていると、キャメルのフェイクレザーのジャケットを着たすがやんと、もこもこなサキがこっちに来た。すがやんがつるんとしてるからか、サキが異様にもこもこしているように見える。ボアジャケットにマフラーにニット帽って。おまけに手袋までしてる。
「お、すがやんにサキ。おはよう」
「おっす！」
「おはよう。ちなみに、さっきの既視感のある件は「レナが今以上に肯定感を強めたら敵なし」っていう、薪ストーブの話の時にやったね」
「ああ、薪ストーブの話か。さすがサキ。思い出した」
「あ～。ササはいっぱい稼がなきゃって話だね！」
「それはそうと、シノが元気ないね。大丈夫？」
「どうもシノは寒いのが苦手みたくて、この雪が相当堪えてるみたい」
「ああ、なるほど。そう言えばすがやん車でしょ。タイヤってどうしたの？ チェーンしてる？」
「ノーマルだと向島の道交法に引っかかるんだよなー。俺はチェーンすればよくねって思ったんだけど、親が「大学が豊葦なんだからスタッドレスにしろ」っつって。つか大学が山だし結構路面凍る日もあるだろ。親の言うことは聞いとくもんだなって思ったよ」
「すがやんお前、さては車だからそんな薄着なのか」
「え？ いや、中にヒートテックとか着てるぞ」
「サキを見ろ、このもこもこを！」
「外で動くことが増えたから、装備は手厚くしたよね」
「うう、さみーよー……」
くるみは体を動かしてテンションを上げることで寒さを乗り切っているし、もしかしなくても俺たち６人の中で一番寒さに弱いのはシノか。うーん、これから豊葦で１人暮らしをしたいって言ってるのにこの調子で大丈夫か？
end.
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単純に雪が降ったときのリアクションを見たかったというだけのヤツ。多分シノは寒さに弱い。地元はみかん作ってるし。多分彩人も山羽民の例に漏れてない。
レナ以外の１年生が揃ったけど、今回のポイントはすがやんとサキの服装。サキがもこもこしてて欲しかったしすがやんはジャケットだといいなと思った。
寒さとか雪云々の話でハナちゃんを持ち出すのがやっぱりMBCCだね。でもエイハナを持ち出すのって実は禁じ手なんだよなあ。そういやテスト期間のタカエイは同居するの？
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