2020(04)
■最後の共同作業
++++
「高崎ぃー! おーい!」
「……あ…? 何の用だ、ぶっ殺すぞ」
「ちょっ、物騒だな! さては寝起きか!」
「5分も10分もインターホン鳴らし続けて人が寝るのを邪魔しやがって、殺されてないのをありがたく思え」
人が気持ちよく寝ていたところに、飯野が押しかけて来た。正直部屋に入れるつもりなど毛頭ないのでそのまま追い返したかったが、どうしても話を聞けと言うので顔だけ洗って大学に行くことに。基本部屋には他人を入れたくねえからな。
「で、何の用だ」
「卒論だよ卒論! 提出が金曜日の5時までだろ!」
「お前、まだ仕上がってなかったのか」
「いや、一応書けるだけ書いた。で、学生課に出す方のヤツを印刷しなきゃいけねーんだろ? 何か、卒論の提出前には誤字脱字のチェックをしろって言うから、チェックしてくれよ」
「どうして俺が」
「第三者が見る方が見つかりやすいって聞いた」
「お前の卒論に付き合う程俺も暇じゃねえんだぞ」
「でもお前卒論なんかもう出来てんだろ?」
「とっくに出来てるな」
「ならいーじゃねーか! 今までだって何だかんだ言って手伝ってくれただろ! なら最後まで付き合ってくれよ!」
飯野が卒論を書くだけ書いたというだけでも驚きだが、それを添削しろというのはちょっと……いや、かなり面倒なことを押し付けてきやがったなという気がする。確かに今までもコイツのレポートだの論文だのの手助けをしてきたが、それは見返りがあったからだ。
ノートだの何だののやり取りには世の中ギブ&テイクというやり方でこれまでやって来ている。卒論だからと言ってそのスタンスを崩すことはない。むしろ卒論だからこそちゃんとやってもらわねえと。卒業出来るか否かの瀬戸際を、タダで乗り切ろうなんざ甘すぎる。
「それで、俺がその添削作業を手伝うとどんな良いことがあるんだ」
「お前はブレねーなー。つか、お前今年ゼミの出席どうなんだよ」
「安部ちゃんからはまだ忠告されてねえな」
「マジかよ! お前から出席率の低さを取ったら何が残るんだよ!」
「火曜日はFMにしうみでの番組もあったから規則正しく動けてたのがデカいな。寝坊しても何だかんだ0.5欠くらいに収まってたし」
「ちくしょ~…! それじゃ出席ボーナスに何のうま味もねーじゃねーか!」
「現状はな。さてどうする」
俺は現状出席がそこまでギリギリじゃない。だから飯野が自分の余らせている出席ボーナスをくれるという条件を出したとしても、正直そこまでの旨味はない。いや、出席を完璧に近付けておくに越したことはないだろう。でも、ギリギリじゃなければいいと思う。
「飯か、酒か」
「その路線で行くなら、いつものレートが1コマ分を160円分と換算してるから――」
「前はそれで2500円くらいのうな重を奢らされたな」
「じゃあそれくらいで行くか」
報酬として何をしてもらうかはまた後日決めることにして、とりあえず卒論の原稿を見てやることに。俺が今回見るのはあくまでも誤字脱字がないかということ。内容の粗まで探し始めると時間がかかるし、今更辻褄が合うように文章を直すだけの時間も能力も飯野にはない。
スマホで共有したファイルに目を通し、俺がチェックした部分を飯野がリアルタイムで直していくという共同編集モードを採用している。スマホ上の共同編集で推敲だの添削作業というのが場所を選ばず、最低限の道具で出来て楽だなと思う。
一応最初に文字数カウントでこのファイルの文字数を調べたら、1万8千字だと表示された。安部ちゃんが求める2万字という基準には届いていないが、飯野の論文と考えると大分書いた方だと思う。そこまで書いたならあと2千字くらい積めそうなものだが。
「つか、直し多くね?」
「それだけ漢字変換を間違えてたり、微妙に脱字が多かったりするんだろ。でも良かったじゃねえか、そのおかげで少しだけど文字数をかさ増し出来たじゃねえか」
「1文字2文字がどうしたってんだよ」
「それよりこの論文、本当にお前が書いたのかよ。お前が書いたにしては筋道が整い過ぎてねえか。今までがゴミ過ぎたってのもあるけど、論文の体を成したモンには一応なってると言うか。大方朝霞とかどっかその辺の連中にも手伝わせてるんだろうけどな」
「わかってんなら今敢えてツッコむことじゃなくね!?」
「自白しやがった」
安部ちゃんに言わせれば、人に協力してもらってでも自分で書き上げる努力はしているという点が評価に値するのかもしれないが。まさかとは思ったが、本当に俺以外の奴にも協力を仰いでたのかという呆れが前面に来る。
「いやー、でも俺もめっちゃ頑張ったんだぜ? スマホがガチで便利過ぎた」
「調べものとか撮影とかにか」
「それもそうだけど、メモアプリでメモった言葉とか写真とかをそのまま今編集してるファイルに埋め込めるし、インタビュー音声とかも普通にメモれるし」
「情報戦をやるのが簡単になったっつーことか」
「それな」
俺は基本パソコンで作業していたが、スマホとファイルを同期しておけばちょっとした移動中にも作業が出来て良かったという。やり方は人それぞれと言え、最終的には校正作業や推敲をして、読める物にしていかなければならないということには変わりない。
「これが終わったら自由なんだ」
「いや、お前まだ単位全部取ってねえんだから普通に授業もテストもあるだろ」
「それは言わない約束じゃんか」
end.
++++
いつものヤツです。ただ、これが卒論となると時間制限がきっちりしてるし、誤字脱字にもいつもよりシビアになるんだろうなあ
高崎は高崎でいつも通り、ギブ&テイクを求めています。卒論だから甘くなるとかそういうことは全くないけど、出せばその分働いてくれるのも同じ。
飯野はながら作業と言うか、ちょっとしたスキマ時間にちょこちょことメモしたものを後から組み合わせていくという作業スタイルが合っていたらしいですね
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「高崎ぃー! おーい!」
「……あ…? 何の用だ、ぶっ殺すぞ」
「ちょっ、物騒だな! さては寝起きか!」
「5分も10分もインターホン鳴らし続けて人が寝るのを邪魔しやがって、殺されてないのをありがたく思え」
人が気持ちよく寝ていたところに、飯野が押しかけて来た。正直部屋に入れるつもりなど毛頭ないのでそのまま追い返したかったが、どうしても話を聞けと言うので顔だけ洗って大学に行くことに。基本部屋には他人を入れたくねえからな。
「で、何の用だ」
「卒論だよ卒論! 提出が金曜日の5時までだろ!」
「お前、まだ仕上がってなかったのか」
「いや、一応書けるだけ書いた。で、学生課に出す方のヤツを印刷しなきゃいけねーんだろ? 何か、卒論の提出前には誤字脱字のチェックをしろって言うから、チェックしてくれよ」
「どうして俺が」
「第三者が見る方が見つかりやすいって聞いた」
「お前の卒論に付き合う程俺も暇じゃねえんだぞ」
「でもお前卒論なんかもう出来てんだろ?」
「とっくに出来てるな」
「ならいーじゃねーか! 今までだって何だかんだ言って手伝ってくれただろ! なら最後まで付き合ってくれよ!」
飯野が卒論を書くだけ書いたというだけでも驚きだが、それを添削しろというのはちょっと……いや、かなり面倒なことを押し付けてきやがったなという気がする。確かに今までもコイツのレポートだの論文だのの手助けをしてきたが、それは見返りがあったからだ。
ノートだの何だののやり取りには世の中ギブ&テイクというやり方でこれまでやって来ている。卒論だからと言ってそのスタンスを崩すことはない。むしろ卒論だからこそちゃんとやってもらわねえと。卒業出来るか否かの瀬戸際を、タダで乗り切ろうなんざ甘すぎる。
「それで、俺がその添削作業を手伝うとどんな良いことがあるんだ」
「お前はブレねーなー。つか、お前今年ゼミの出席どうなんだよ」
「安部ちゃんからはまだ忠告されてねえな」
「マジかよ! お前から出席率の低さを取ったら何が残るんだよ!」
「火曜日はFMにしうみでの番組もあったから規則正しく動けてたのがデカいな。寝坊しても何だかんだ0.5欠くらいに収まってたし」
「ちくしょ~…! それじゃ出席ボーナスに何のうま味もねーじゃねーか!」
「現状はな。さてどうする」
俺は現状出席がそこまでギリギリじゃない。だから飯野が自分の余らせている出席ボーナスをくれるという条件を出したとしても、正直そこまでの旨味はない。いや、出席を完璧に近付けておくに越したことはないだろう。でも、ギリギリじゃなければいいと思う。
「飯か、酒か」
「その路線で行くなら、いつものレートが1コマ分を160円分と換算してるから――」
「前はそれで2500円くらいのうな重を奢らされたな」
「じゃあそれくらいで行くか」
報酬として何をしてもらうかはまた後日決めることにして、とりあえず卒論の原稿を見てやることに。俺が今回見るのはあくまでも誤字脱字がないかということ。内容の粗まで探し始めると時間がかかるし、今更辻褄が合うように文章を直すだけの時間も能力も飯野にはない。
スマホで共有したファイルに目を通し、俺がチェックした部分を飯野がリアルタイムで直していくという共同編集モードを採用している。スマホ上の共同編集で推敲だの添削作業というのが場所を選ばず、最低限の道具で出来て楽だなと思う。
一応最初に文字数カウントでこのファイルの文字数を調べたら、1万8千字だと表示された。安部ちゃんが求める2万字という基準には届いていないが、飯野の論文と考えると大分書いた方だと思う。そこまで書いたならあと2千字くらい積めそうなものだが。
「つか、直し多くね?」
「それだけ漢字変換を間違えてたり、微妙に脱字が多かったりするんだろ。でも良かったじゃねえか、そのおかげで少しだけど文字数をかさ増し出来たじゃねえか」
「1文字2文字がどうしたってんだよ」
「それよりこの論文、本当にお前が書いたのかよ。お前が書いたにしては筋道が整い過ぎてねえか。今までがゴミ過ぎたってのもあるけど、論文の体を成したモンには一応なってると言うか。大方朝霞とかどっかその辺の連中にも手伝わせてるんだろうけどな」
「わかってんなら今敢えてツッコむことじゃなくね!?」
「自白しやがった」
安部ちゃんに言わせれば、人に協力してもらってでも自分で書き上げる努力はしているという点が評価に値するのかもしれないが。まさかとは思ったが、本当に俺以外の奴にも協力を仰いでたのかという呆れが前面に来る。
「いやー、でも俺もめっちゃ頑張ったんだぜ? スマホがガチで便利過ぎた」
「調べものとか撮影とかにか」
「それもそうだけど、メモアプリでメモった言葉とか写真とかをそのまま今編集してるファイルに埋め込めるし、インタビュー音声とかも普通にメモれるし」
「情報戦をやるのが簡単になったっつーことか」
「それな」
俺は基本パソコンで作業していたが、スマホとファイルを同期しておけばちょっとした移動中にも作業が出来て良かったという。やり方は人それぞれと言え、最終的には校正作業や推敲をして、読める物にしていかなければならないということには変わりない。
「これが終わったら自由なんだ」
「いや、お前まだ単位全部取ってねえんだから普通に授業もテストもあるだろ」
「それは言わない約束じゃんか」
end.
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いつものヤツです。ただ、これが卒論となると時間制限がきっちりしてるし、誤字脱字にもいつもよりシビアになるんだろうなあ
高崎は高崎でいつも通り、ギブ&テイクを求めています。卒論だから甘くなるとかそういうことは全くないけど、出せばその分働いてくれるのも同じ。
飯野はながら作業と言うか、ちょっとしたスキマ時間にちょこちょことメモしたものを後から組み合わせていくという作業スタイルが合っていたらしいですね
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