2020(04)
■三箇日を取り戻す
++++
「ハルちゃーん、ちーいー。……ハルちゃーん、ちぃーいー」
ハルちゃんとちーと一緒に初詣に行くのが毎年の流れになってて、今年もそういう話になってたから大石家に来てみた。だけど、インターホンを鳴らしてもしばらく反応がない。でも車はあるし、なんならハルちゃんとちーのじゃない車もある。
もしお客さんが来てるんだったら迷惑かな。また後で連絡してからにしようかあと思って帰ろうとした瞬間に、のっそりとハルちゃんが玄関先にやってきた。何て言うか、ハルちゃんらしからぬオフ感って感じ。普通にすっぴんの男装だし。
「ああ、あずさ。おはよう」
「ハルちゃん、寝起き?」
「寝起き。何ならちーはまだ寝てるし」
「え、っと……また後で来たらいい?」
「ちょっと、部屋の片付けもぼちぼち始めたいし、見てるだけでいいからいてくれない? 人の目がある方が緊張感が出るし」
「わかったよ。手伝わなくていい?」
「それは大丈夫。それじゃあ、何時にも増して汚い家だけど、どうぞ」
――と通された家は本当にいつもよりごちゃっとしてるなって。で、荒れ放題のリビングのソファには、ちーと塩見さん。腕を組んで座って寝てる塩見さんの、脚を枕にちーが寝てる。あ、あの車、塩見さんのだったんだ。でもいい車だし、塩見さんのだって言われればそんな雰囲気がある。
「塩見さんも来てたの?」
「うちもちーと2人だし、拓馬も家を出て1人でしょう。3人でお正月をやる方が楽しいと思って。それで元日からさっきまで延々とやってて」
「塩見さんて、お酒もいっぱい飲むしご飯もいっぱい食べるよね。大石家に混ざったらいろいろ凄そう」
「全員同じレベルで飲み食いするから遠慮がなくて楽しいのよ」
「一理あるのかなあ」
部屋の片付けをするのにグラスやお酒の瓶が立てる音にもちーと塩見さんは全く気付いてないのか、眠り続けてる。部屋もまだ何となくお酒を飲んでたんだなっていう感じの空気が籠もってるし、本当にさっきまでやってたんだなって。
机の上には全部食べて空になったおせちのお重や、ハルちゃん曰くローストビーフと生ハムが盛り付けられていたらしいお皿が載っている。もちろんそれらは全部食べ尽くされていて、さすがの食べっぷりだなあと思って感心しちゃう。おせちって残りがちだもんね。
「でも、さすがに少し飲み過ぎたかも。久々にしんどいわ」
「ハルちゃん、おかゆでも食べたら?」
「あずさ、悪いけど作ってくれる?」
「うん、作るよ。ただ片付けを見てるのも退屈だったし。冷蔵庫の中見てもいい?」
「好きにしてもらって」
おかゆを作るのはいいけど、どんなのにしようかな。具だくさん路線なのか、本当にご飯だけで作るあっさり優しい路線か。ちーの話では塩見さんは卵が主食みたいな感じでゆで卵ばっかり食べてるらしいけど、だからって玉子粥ってのもこの惨状の後にはどうかなと。……卵かあ。
「あずさ?」
「あ、ううん。おかゆ作るね」
「どうしたの、卵なんかジッと見て」
「朝霞クンのことを思い出しただけ。卵好きだったなあと思って。うん、普通のおかゆにしよう」
これだけたくさん飲み食いした後だったら、いろいろ混ざってる物よりあっさりした物の方がきっと優しくって美味しいだろうから。ごくごく普通の白いおかゆにしとこう。うーん、今ではまた友達とは言えもうちょっと引き摺ってるなあ。
「ハルちゃん、おかゆ。梅干し使ったよ」
「ありがと」
「って言うか、仮にも今度就職する会社の先輩なのに、その人の脚を借りて寝てるって。ちーは何気に度胸があるねえ」
「これも正月だからね。拓馬はオンオフの切り替えがちゃんと出来る人間だし、これでいいのよ。ん、おいしい」
「……ん。……あー、千晴君、すんません」
「拓馬、体は? お酒は残ってない?」
「まだちょっと残ってるっすね」
「とりあえず水と、おかゆがあるけど食べる?」
「もらいます。あ、でも俺動けないんで、悪いんすけど持たせてもらえますか」
塩見さんは起きたみたいだけど、ちーはまだ塩見さんの脚を借りて寝てる。塩見さんはちーを起こさないように最小限の動きで水を飲んで、そーっとソファから下りてちーの頭の下のクッションを敷いてくれた。
「それじゃ、お粥いただきます」
「おかゆはあずさが作ってくれたから」
「え? ああ、あずさか。来てたのか」
「塩見さん、あけましておめでとうございます」
「ああ。おめでとうございます。それじゃ、いただくな」
「どうぞ」
「……うん。美味い」
「よかったです。何も具とか入ってないですけど大丈夫でした?」
「俺は何でもシンプルなのが好きなんだよな。梅干しだけ乗ってるのがいいじゃねえか」
そう言って塩見さんは淡々とおかゆを食べている。その間にもハルちゃんは部屋の片付けを進めているし、ちーは相変わらずぐうぐうと寝てる。
「そういや、何しに来たんだ? 千景に用事か」
「あたし、毎年ハルちゃんとちーと初詣に行ってるんです。今年も今日行くことになってて」
「そうだったのか。……初詣か。今までの人生の中で行った覚えがねえな」
「それだったら拓馬も一緒に行く?」
「うん。せっかくですし、一緒にどうですか? 結構楽しいんですよ、出店もありますし」
「……そしたら、行ってみようかな」
「問題は、ちーをいつまでこうしとくかだけど。ハルちゃーん」
「外に出るならメイクしなきゃだし、もう少し時間ちょうだい。ちーはそんなにかかんないからもう少しそのままで大丈夫」
end.
++++
大石兄弟と塩見さんが遠慮なしで飲み食いしてるとそれはもう凄い量のお酒と食べ物が消えてったんだろうなあと想像出来ますね
ふしみんの中では卵と朝霞Pが結びついてる様子。まあそうなのかもしれないね。これまでも卵料理を作って来たのかしら
おそらくこのお正月、3人でわちゃわちゃしてたときのベティさんはすっぴんでオフってる感じの千晴君やったんやろなあ
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「ハルちゃーん、ちーいー。……ハルちゃーん、ちぃーいー」
ハルちゃんとちーと一緒に初詣に行くのが毎年の流れになってて、今年もそういう話になってたから大石家に来てみた。だけど、インターホンを鳴らしてもしばらく反応がない。でも車はあるし、なんならハルちゃんとちーのじゃない車もある。
もしお客さんが来てるんだったら迷惑かな。また後で連絡してからにしようかあと思って帰ろうとした瞬間に、のっそりとハルちゃんが玄関先にやってきた。何て言うか、ハルちゃんらしからぬオフ感って感じ。普通にすっぴんの男装だし。
「ああ、あずさ。おはよう」
「ハルちゃん、寝起き?」
「寝起き。何ならちーはまだ寝てるし」
「え、っと……また後で来たらいい?」
「ちょっと、部屋の片付けもぼちぼち始めたいし、見てるだけでいいからいてくれない? 人の目がある方が緊張感が出るし」
「わかったよ。手伝わなくていい?」
「それは大丈夫。それじゃあ、何時にも増して汚い家だけど、どうぞ」
――と通された家は本当にいつもよりごちゃっとしてるなって。で、荒れ放題のリビングのソファには、ちーと塩見さん。腕を組んで座って寝てる塩見さんの、脚を枕にちーが寝てる。あ、あの車、塩見さんのだったんだ。でもいい車だし、塩見さんのだって言われればそんな雰囲気がある。
「塩見さんも来てたの?」
「うちもちーと2人だし、拓馬も家を出て1人でしょう。3人でお正月をやる方が楽しいと思って。それで元日からさっきまで延々とやってて」
「塩見さんて、お酒もいっぱい飲むしご飯もいっぱい食べるよね。大石家に混ざったらいろいろ凄そう」
「全員同じレベルで飲み食いするから遠慮がなくて楽しいのよ」
「一理あるのかなあ」
部屋の片付けをするのにグラスやお酒の瓶が立てる音にもちーと塩見さんは全く気付いてないのか、眠り続けてる。部屋もまだ何となくお酒を飲んでたんだなっていう感じの空気が籠もってるし、本当にさっきまでやってたんだなって。
机の上には全部食べて空になったおせちのお重や、ハルちゃん曰くローストビーフと生ハムが盛り付けられていたらしいお皿が載っている。もちろんそれらは全部食べ尽くされていて、さすがの食べっぷりだなあと思って感心しちゃう。おせちって残りがちだもんね。
「でも、さすがに少し飲み過ぎたかも。久々にしんどいわ」
「ハルちゃん、おかゆでも食べたら?」
「あずさ、悪いけど作ってくれる?」
「うん、作るよ。ただ片付けを見てるのも退屈だったし。冷蔵庫の中見てもいい?」
「好きにしてもらって」
おかゆを作るのはいいけど、どんなのにしようかな。具だくさん路線なのか、本当にご飯だけで作るあっさり優しい路線か。ちーの話では塩見さんは卵が主食みたいな感じでゆで卵ばっかり食べてるらしいけど、だからって玉子粥ってのもこの惨状の後にはどうかなと。……卵かあ。
「あずさ?」
「あ、ううん。おかゆ作るね」
「どうしたの、卵なんかジッと見て」
「朝霞クンのことを思い出しただけ。卵好きだったなあと思って。うん、普通のおかゆにしよう」
これだけたくさん飲み食いした後だったら、いろいろ混ざってる物よりあっさりした物の方がきっと優しくって美味しいだろうから。ごくごく普通の白いおかゆにしとこう。うーん、今ではまた友達とは言えもうちょっと引き摺ってるなあ。
「ハルちゃん、おかゆ。梅干し使ったよ」
「ありがと」
「って言うか、仮にも今度就職する会社の先輩なのに、その人の脚を借りて寝てるって。ちーは何気に度胸があるねえ」
「これも正月だからね。拓馬はオンオフの切り替えがちゃんと出来る人間だし、これでいいのよ。ん、おいしい」
「……ん。……あー、千晴君、すんません」
「拓馬、体は? お酒は残ってない?」
「まだちょっと残ってるっすね」
「とりあえず水と、おかゆがあるけど食べる?」
「もらいます。あ、でも俺動けないんで、悪いんすけど持たせてもらえますか」
塩見さんは起きたみたいだけど、ちーはまだ塩見さんの脚を借りて寝てる。塩見さんはちーを起こさないように最小限の動きで水を飲んで、そーっとソファから下りてちーの頭の下のクッションを敷いてくれた。
「それじゃ、お粥いただきます」
「おかゆはあずさが作ってくれたから」
「え? ああ、あずさか。来てたのか」
「塩見さん、あけましておめでとうございます」
「ああ。おめでとうございます。それじゃ、いただくな」
「どうぞ」
「……うん。美味い」
「よかったです。何も具とか入ってないですけど大丈夫でした?」
「俺は何でもシンプルなのが好きなんだよな。梅干しだけ乗ってるのがいいじゃねえか」
そう言って塩見さんは淡々とおかゆを食べている。その間にもハルちゃんは部屋の片付けを進めているし、ちーは相変わらずぐうぐうと寝てる。
「そういや、何しに来たんだ? 千景に用事か」
「あたし、毎年ハルちゃんとちーと初詣に行ってるんです。今年も今日行くことになってて」
「そうだったのか。……初詣か。今までの人生の中で行った覚えがねえな」
「それだったら拓馬も一緒に行く?」
「うん。せっかくですし、一緒にどうですか? 結構楽しいんですよ、出店もありますし」
「……そしたら、行ってみようかな」
「問題は、ちーをいつまでこうしとくかだけど。ハルちゃーん」
「外に出るならメイクしなきゃだし、もう少し時間ちょうだい。ちーはそんなにかかんないからもう少しそのままで大丈夫」
end.
++++
大石兄弟と塩見さんが遠慮なしで飲み食いしてるとそれはもう凄い量のお酒と食べ物が消えてったんだろうなあと想像出来ますね
ふしみんの中では卵と朝霞Pが結びついてる様子。まあそうなのかもしれないね。これまでも卵料理を作って来たのかしら
おそらくこのお正月、3人でわちゃわちゃしてたときのベティさんはすっぴんでオフってる感じの千晴君やったんやろなあ
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