2020(04)
■怒りの初日の出配信
++++
「うー、さむっ。マ~ジさみぃ~…!」
「早朝だもんね。でも、喋ってるうちにあったまるよ」
バンデンとやってきたのは山羽エリア湖西市の某所。現在時刻は午前6時。年が変わったけど、まだ日の出前。これから何を始めるのかと言うと、USDXサブチャンネルでの初日の出配信だ。初日の出の時間は7時前なので、それまでは少し歩きながら雑談をしようかと思っている。
USDXというゲーム実況グループには6人のメンバーの他にも何人か裏で協力してくれている人がいるらしい。たまにナレーションを入れてくれている天の声さん。それから放送部で菅野班だった小林は、組み上げたシステムのデバッグや動画撮影時に裏方として手伝ってくれているらしい。
バンデンは、向島大学でゼミの後輩として京川さんと知り合い、NOと言えない性格の所為で京川さんのワガママに振り回され続けて現在に至っている。サーバー関係のあれこれを担当しているとは聞いているけど、京川さんが言う以上の仕事を押し付けられているはずだとは塩見さん談。
「そしたら薫君、1回配信チェックする?」
「そうだな。やるかあ」
そもそも、どうしてこんな配信をしようとしているのかと言うと、昨日の音楽ライブにある。と言っても、俺がそのライブに参加していたわけではない。USDXから参加していたのは元々バンドマンの4人だ。だけど、そんな楽しそうなイベントにどうして呼んでくれなかったのかと!
それがあまりに腹立たしくて、その音楽ライブに参加するっていう壮馬に詞だけ託してやった。それが結局どんな曲になったのかを俺は知らない。ただ、曲のテーマが大まかに言えば「朝への誘い」だから、俺自身新しい気持ちで今年を始めようと思ったんだ。
配信自体はギター練習なんかでちょこちょこやってるけど、家の外からやったことはなかったからバンデンに手伝ってもらうことにした。元々高校の友達だし、去年も普通に初詣に行ってる間柄だから、配信の方がついでみたいな感はちょっとある。
「それじゃあ、あとは薫君のタイミングで」
「了解。……えー、皆さんおはようございます。USDXレイです。新年一発目ということで、これから初日の出を見ようかなと思って外に出てます」
事前の告知もしてないし、時間が時間だから視聴者数はさほど多くない。だけど、それが突発感とかドッキリ感があっていいなと思う。たまたまそれに遭遇出来たことの嬉しさや、後から配信があったことに気付いてアーカイブを見たりする悔しさは俺も体験したことがある。
「今いるところからもうちょっと登るといい感じに初日の出が見えるそうなので、頑張って、山頂まで行きたいと思います。……うん、普段運動なんか全然しないんで、そこまで高くないとは言え登山はキツイですね。さすがに冬の早朝だから装備はそれなりにちゃんとしてるんですけど。え、どこの山かって? そんな有名なトコではないですよ。有名なところだと人が多すぎて周りの人のプライバシーにもなかなか配慮出来ないですし。なので、人が少なめでありながら、初日の出は綺麗な場所っていうのを調べてます。そう、穴場ってヤツですね」
そう、一応装備はちゃんとしてるんだよな。防寒をメインにしながらも、USDXレイとしてのキャラクター衣装に沿った白いアウターっていうのを探し回って。って言うか、キャメルのダッフルコートは持ってるけどあれは山には不向きだしな。
暗がりの中の風景を見せつつ、配信画面からコメントを拾いながらの雑談は続く。コメントの流れ方を見てる感じだと、少しずつ視聴者が増えてるなっていう感覚がある。一応時間に余裕を持たせて配信を開始してるから、初日の出までには山頂に着くとは思うけど。
「『レイ君今年の抱負は?』 ……抱負なー。ガチな話すると今年は社会に出るんで、仕事でも頑張って行きたいし、もちろんUSDXの活動も続けたいなと。ゲーム、せめてもうちょっとは上手くなりたいな。パズルとかシミュレーションはそこそこ出来るんだけど、アクションとかPvPが入って来ると穴になるのは卒業したい。ゲーム初心者でプレーもへっぽこっていうのが“レイ”のキャラクターだけど、中の人的には正直それでいいのかとも思い始めてて。USDXっていう、元々あった箱の中に急にポンとレイっていうキャラクターが出て来て、タダ乗りしてんじゃねーかって感もちょっとあって。俺自身、自分発信で何が出来るのかっていうのを考えてたんですね。あっ、皆さんこないだの桃鉄配信見てくれてました? あー、「すごろくがベースならボードゲーム、つまり俺が最強だ」とかいう発言な。いや、でも1位だったから安心した。うん。もしそれで負けようものならどうしようかって内心めちゃくちゃビビってて」
――とか何とか話しながら歩いていると、目的のポイントまでたどり着く。穴場だけあって人はまばらで、プライバシーへの配慮もしっかり出来る。空が色づき始めると、喋ることをやめて映像だけを届ける。風で草木が揺れる音や、鳥の声。自然の音だけが鼓膜を揺らす。配信にもその音は乗っているだろうか。
朝だ。新しい朝が来た。
「さ、すっかり日が昇りましたね。いやー、よかった。心が洗われた。よし、また頑張ろう。実はまだ卒論の推敲中なんで、いい気分転換にもなったし」
「はい、あったかいココア」
「お、サンキュ。ああ、今回はUSDXの活動を裏で支えてくれているスタッフさんと一緒に登山してました。僕たちはココアを飲んだら帰ります。配信もここでおしまいかな。改めまして皆さま、今年もUSDXをよろしくお願いします! ばいばーい」
end.
++++
新年一発目、怒りのエネルギーで動き出したものの、その感情を山頂で焼きに来たハブられPさんです。
USDXのレイとしてのキャラクターと、自分発信ですべきこととを考えたときに、キャラクターをある程度はアップデートしていく必要性も考えた始めたのでしょうか
そして登山に巻き込まれた安定のバンデン。そう言えばこのメンツだと飯野ってどうしたのかしら。卒論大丈夫?
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「うー、さむっ。マ~ジさみぃ~…!」
「早朝だもんね。でも、喋ってるうちにあったまるよ」
バンデンとやってきたのは山羽エリア湖西市の某所。現在時刻は午前6時。年が変わったけど、まだ日の出前。これから何を始めるのかと言うと、USDXサブチャンネルでの初日の出配信だ。初日の出の時間は7時前なので、それまでは少し歩きながら雑談をしようかと思っている。
USDXというゲーム実況グループには6人のメンバーの他にも何人か裏で協力してくれている人がいるらしい。たまにナレーションを入れてくれている天の声さん。それから放送部で菅野班だった小林は、組み上げたシステムのデバッグや動画撮影時に裏方として手伝ってくれているらしい。
バンデンは、向島大学でゼミの後輩として京川さんと知り合い、NOと言えない性格の所為で京川さんのワガママに振り回され続けて現在に至っている。サーバー関係のあれこれを担当しているとは聞いているけど、京川さんが言う以上の仕事を押し付けられているはずだとは塩見さん談。
「そしたら薫君、1回配信チェックする?」
「そうだな。やるかあ」
そもそも、どうしてこんな配信をしようとしているのかと言うと、昨日の音楽ライブにある。と言っても、俺がそのライブに参加していたわけではない。USDXから参加していたのは元々バンドマンの4人だ。だけど、そんな楽しそうなイベントにどうして呼んでくれなかったのかと!
それがあまりに腹立たしくて、その音楽ライブに参加するっていう壮馬に詞だけ託してやった。それが結局どんな曲になったのかを俺は知らない。ただ、曲のテーマが大まかに言えば「朝への誘い」だから、俺自身新しい気持ちで今年を始めようと思ったんだ。
配信自体はギター練習なんかでちょこちょこやってるけど、家の外からやったことはなかったからバンデンに手伝ってもらうことにした。元々高校の友達だし、去年も普通に初詣に行ってる間柄だから、配信の方がついでみたいな感はちょっとある。
「それじゃあ、あとは薫君のタイミングで」
「了解。……えー、皆さんおはようございます。USDXレイです。新年一発目ということで、これから初日の出を見ようかなと思って外に出てます」
事前の告知もしてないし、時間が時間だから視聴者数はさほど多くない。だけど、それが突発感とかドッキリ感があっていいなと思う。たまたまそれに遭遇出来たことの嬉しさや、後から配信があったことに気付いてアーカイブを見たりする悔しさは俺も体験したことがある。
「今いるところからもうちょっと登るといい感じに初日の出が見えるそうなので、頑張って、山頂まで行きたいと思います。……うん、普段運動なんか全然しないんで、そこまで高くないとは言え登山はキツイですね。さすがに冬の早朝だから装備はそれなりにちゃんとしてるんですけど。え、どこの山かって? そんな有名なトコではないですよ。有名なところだと人が多すぎて周りの人のプライバシーにもなかなか配慮出来ないですし。なので、人が少なめでありながら、初日の出は綺麗な場所っていうのを調べてます。そう、穴場ってヤツですね」
そう、一応装備はちゃんとしてるんだよな。防寒をメインにしながらも、USDXレイとしてのキャラクター衣装に沿った白いアウターっていうのを探し回って。って言うか、キャメルのダッフルコートは持ってるけどあれは山には不向きだしな。
暗がりの中の風景を見せつつ、配信画面からコメントを拾いながらの雑談は続く。コメントの流れ方を見てる感じだと、少しずつ視聴者が増えてるなっていう感覚がある。一応時間に余裕を持たせて配信を開始してるから、初日の出までには山頂に着くとは思うけど。
「『レイ君今年の抱負は?』 ……抱負なー。ガチな話すると今年は社会に出るんで、仕事でも頑張って行きたいし、もちろんUSDXの活動も続けたいなと。ゲーム、せめてもうちょっとは上手くなりたいな。パズルとかシミュレーションはそこそこ出来るんだけど、アクションとかPvPが入って来ると穴になるのは卒業したい。ゲーム初心者でプレーもへっぽこっていうのが“レイ”のキャラクターだけど、中の人的には正直それでいいのかとも思い始めてて。USDXっていう、元々あった箱の中に急にポンとレイっていうキャラクターが出て来て、タダ乗りしてんじゃねーかって感もちょっとあって。俺自身、自分発信で何が出来るのかっていうのを考えてたんですね。あっ、皆さんこないだの桃鉄配信見てくれてました? あー、「すごろくがベースならボードゲーム、つまり俺が最強だ」とかいう発言な。いや、でも1位だったから安心した。うん。もしそれで負けようものならどうしようかって内心めちゃくちゃビビってて」
――とか何とか話しながら歩いていると、目的のポイントまでたどり着く。穴場だけあって人はまばらで、プライバシーへの配慮もしっかり出来る。空が色づき始めると、喋ることをやめて映像だけを届ける。風で草木が揺れる音や、鳥の声。自然の音だけが鼓膜を揺らす。配信にもその音は乗っているだろうか。
朝だ。新しい朝が来た。
「さ、すっかり日が昇りましたね。いやー、よかった。心が洗われた。よし、また頑張ろう。実はまだ卒論の推敲中なんで、いい気分転換にもなったし」
「はい、あったかいココア」
「お、サンキュ。ああ、今回はUSDXの活動を裏で支えてくれているスタッフさんと一緒に登山してました。僕たちはココアを飲んだら帰ります。配信もここでおしまいかな。改めまして皆さま、今年もUSDXをよろしくお願いします! ばいばーい」
end.
++++
新年一発目、怒りのエネルギーで動き出したものの、その感情を山頂で焼きに来たハブられPさんです。
USDXのレイとしてのキャラクターと、自分発信ですべきこととを考えたときに、キャラクターをある程度はアップデートしていく必要性も考えた始めたのでしょうか
そして登山に巻き込まれた安定のバンデン。そう言えばこのメンツだと飯野ってどうしたのかしら。卒論大丈夫?
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