2020(04)
■モーニンググローリー
++++
「ユーヤ、お前この曲どう思う」
「端的に言って、めちゃくちゃ好きっす」
「お前の好きそうな感じだよな。ま、俺も好きだけどな」
「でも、壮馬が書いてる感じじゃないなっていう印象も受けます」
星港市内某所ライブハウス、ここで今年も長谷川と青山さん主催の音楽祭と称した内輪のライブが行われている。集まったのはほぼ去年と同じメンバーだが、今年はもう少し人が増えたという印象がある。青山さんの人脈が伸びたんだろう。
俺はバーカウンター越しに、酒を飲んでいる拓馬さんと一緒に壮馬のステージを見ていた。本業のトリプルメソッドとしてはこの時間帯がオフであるのはどうなんだと思うが、一応昨日はライブだったらしい。ならまあいいのか。
ついこないだ出来たばっかりの新曲だというその曲は、確かに俺の琴線を揺さぶってきた。拓馬さんにも思うところがあったのかと察したのは、この曲をどう思うと俺に話を振ってきたところから。
「ありがとうございました。トリプルメソッド長崎壮馬でした」
「いいぞー」
ステージから降りた壮馬に、拓馬さんがちょいちょいと手招きをした。それに気付いた壮馬はこっちに駆け寄って来る。悠哉君何か飲むモン下さいと言うのでビールを出してやった。ライブハウスらしいグラスだ。
「壮馬、今の曲すげえ良かったぞ。俺もユーヤも気に入った」
「あざっす~! ホントに最近出来たばっかりで、まだどこにも出してなかったんすよー! 拓馬さんと悠哉君がそう言ってくれるってことは相当良かったんすね! 自信になるっす!」
「壮馬、あの曲本当にお前が書いたのか。曲はともかく詞だ。どうもお前以外の奴が書いてんじゃないかって気がしてならねえ。いや、好きな詞ではあるんだ」
「さすが悠哉君、付き合い長いだけあってバレるっすね。確かにこの曲の詞は俺が書いたんじゃないっす。あー、えー……どう言えばいいんすか? USDXのレイ君? それとも薫君でいいんすかね。彼がこの音楽祭の存在を聞きつけて、そんなイベントズルいっつって詞を書き下ろしてくれたんす。拓馬さんや太一君が組んだのってインストバンドじゃないすか」
「なるほど、朝霞の差し金か」
拓馬さんがやっているらしいゲーム実況グループには元々バンドをやっているメンバーが何人かいる。そのメンバーで即興バンドを組んで今回の音楽祭に殴り込んでいるのだが、作詞出来る人間がいないという理由でインストバンドになったそうだ。
ただ、こういうイベントにグループのメンバーの大半が参加していて、自分がハブられた(?)ことに対して憤りを感じたらしい朝霞が裏で手を回していたようだ。さすがに始めたばかりのギターでは参戦出来ないから、せめて言葉だけでもと。
「つか何だ、『そんなイベントズルい』って。アイツは帰省するだろうから声かけないでおくかって言ってたんだけどな」
「や、でもホントにそんな感じだったんすよ。何で誘ってくれなかったんだーってめちゃ怒ってたっす」
「映像で再生出来るな」
「ホントっすね」
「で、出来たのが今回の曲か」
「そうっすね」
「どういうテーマの曲なんだ?」
「えーと、薫君曰く『真夜中の感性に任せて書き殴った希死念慮で人の感情を揺さぶるような歌や、絵や、言葉に対抗する朝への誘い』? みたいなことを言ってたっす。ちょっと俺にはまだ理解が追いついてないんすけど、いろいろ経験を積んだらわかるようになるんすかね」
真夜中に研ぎ澄まされた感覚や感性は、それこそ破滅や死すら美しく綴るように見える。尤も、真夜中には大体寝ている俺には無縁ではあるのだが。そうやって形作られたもので、人の心を不安定に揺さぶるものに対抗してやるということなのか。
朝への誘い、というそれは壮馬の曲にも現れていたように思う。決して直接的に歌われていたわけではないが、朝と書いてあしたと読むような、「いつまでもそこには留まっていられないぜ、お前も行くぞ」というテイストがあった。
「闇に溶けるような詞も一応書けるけど、そういうのよりはこういう前を向く曲の方が好きだなって言ってたっす薫君。歌でも、絵でも、小説でも、これからやる仕事でも、そういうスタンスでやっていきたいって。でも、暗いのがいいって言われたら仕事としてそのようにやるっつってたっす」
「その辺割り切れてる辺りが根っからのクリエイターだな」
「そういや壮馬、拳悟から聞いたけどお前朝霞にギター練習曲作ってたとか何とかっつってただろ」
「そーなんすよ悠哉君! いやー、多分俺薫君との相性いいんじゃないっすかね! あれもまた名曲なんすよ! えー、拓馬さ~ん、USDXとTCFでコラボしません? 悠哉君が公務員になっちまう前に! 何かしましょう!」
「壮馬、USDXの音楽窓口は俺じゃなくてあっちだ」
「太一君っすね! 了解っす! おーい、太一くーん! 大事な話がー!」
窓口はあっちだと示された途端バタバタとそっちへ行っちまうんだから、壮馬も職業音楽家のクセして勢いだけでやってんなって感じがする。まあ、今はまだそれでもやっていけるんだろう。っつーか。
「拓馬さん、まだ俺何の返事もしてないんすけど、やる前提なんすか」
「何だユーヤ、やらないのか」
「拓馬さんにそう言われたらやるしかないじゃないすか」
end.
++++
年末の音楽祭の現場から。今年はさすがに誠司さんの乱入などはなかったかな。忙しいかおうちでまったりですかね。
楽しそうなイベントからハブられた(?)とわかった人が裏で何やら動いていた様子。話を予め聞いてたらスケジュール合わせてたなこれ
USDXの音楽窓口は別にあったのね。と言うかいつの間にか音楽窓口になってやがったチータ君です。まあその方が話が早いか。
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「ユーヤ、お前この曲どう思う」
「端的に言って、めちゃくちゃ好きっす」
「お前の好きそうな感じだよな。ま、俺も好きだけどな」
「でも、壮馬が書いてる感じじゃないなっていう印象も受けます」
星港市内某所ライブハウス、ここで今年も長谷川と青山さん主催の音楽祭と称した内輪のライブが行われている。集まったのはほぼ去年と同じメンバーだが、今年はもう少し人が増えたという印象がある。青山さんの人脈が伸びたんだろう。
俺はバーカウンター越しに、酒を飲んでいる拓馬さんと一緒に壮馬のステージを見ていた。本業のトリプルメソッドとしてはこの時間帯がオフであるのはどうなんだと思うが、一応昨日はライブだったらしい。ならまあいいのか。
ついこないだ出来たばっかりの新曲だというその曲は、確かに俺の琴線を揺さぶってきた。拓馬さんにも思うところがあったのかと察したのは、この曲をどう思うと俺に話を振ってきたところから。
「ありがとうございました。トリプルメソッド長崎壮馬でした」
「いいぞー」
ステージから降りた壮馬に、拓馬さんがちょいちょいと手招きをした。それに気付いた壮馬はこっちに駆け寄って来る。悠哉君何か飲むモン下さいと言うのでビールを出してやった。ライブハウスらしいグラスだ。
「壮馬、今の曲すげえ良かったぞ。俺もユーヤも気に入った」
「あざっす~! ホントに最近出来たばっかりで、まだどこにも出してなかったんすよー! 拓馬さんと悠哉君がそう言ってくれるってことは相当良かったんすね! 自信になるっす!」
「壮馬、あの曲本当にお前が書いたのか。曲はともかく詞だ。どうもお前以外の奴が書いてんじゃないかって気がしてならねえ。いや、好きな詞ではあるんだ」
「さすが悠哉君、付き合い長いだけあってバレるっすね。確かにこの曲の詞は俺が書いたんじゃないっす。あー、えー……どう言えばいいんすか? USDXのレイ君? それとも薫君でいいんすかね。彼がこの音楽祭の存在を聞きつけて、そんなイベントズルいっつって詞を書き下ろしてくれたんす。拓馬さんや太一君が組んだのってインストバンドじゃないすか」
「なるほど、朝霞の差し金か」
拓馬さんがやっているらしいゲーム実況グループには元々バンドをやっているメンバーが何人かいる。そのメンバーで即興バンドを組んで今回の音楽祭に殴り込んでいるのだが、作詞出来る人間がいないという理由でインストバンドになったそうだ。
ただ、こういうイベントにグループのメンバーの大半が参加していて、自分がハブられた(?)ことに対して憤りを感じたらしい朝霞が裏で手を回していたようだ。さすがに始めたばかりのギターでは参戦出来ないから、せめて言葉だけでもと。
「つか何だ、『そんなイベントズルい』って。アイツは帰省するだろうから声かけないでおくかって言ってたんだけどな」
「や、でもホントにそんな感じだったんすよ。何で誘ってくれなかったんだーってめちゃ怒ってたっす」
「映像で再生出来るな」
「ホントっすね」
「で、出来たのが今回の曲か」
「そうっすね」
「どういうテーマの曲なんだ?」
「えーと、薫君曰く『真夜中の感性に任せて書き殴った希死念慮で人の感情を揺さぶるような歌や、絵や、言葉に対抗する朝への誘い』? みたいなことを言ってたっす。ちょっと俺にはまだ理解が追いついてないんすけど、いろいろ経験を積んだらわかるようになるんすかね」
真夜中に研ぎ澄まされた感覚や感性は、それこそ破滅や死すら美しく綴るように見える。尤も、真夜中には大体寝ている俺には無縁ではあるのだが。そうやって形作られたもので、人の心を不安定に揺さぶるものに対抗してやるということなのか。
朝への誘い、というそれは壮馬の曲にも現れていたように思う。決して直接的に歌われていたわけではないが、朝と書いてあしたと読むような、「いつまでもそこには留まっていられないぜ、お前も行くぞ」というテイストがあった。
「闇に溶けるような詞も一応書けるけど、そういうのよりはこういう前を向く曲の方が好きだなって言ってたっす薫君。歌でも、絵でも、小説でも、これからやる仕事でも、そういうスタンスでやっていきたいって。でも、暗いのがいいって言われたら仕事としてそのようにやるっつってたっす」
「その辺割り切れてる辺りが根っからのクリエイターだな」
「そういや壮馬、拳悟から聞いたけどお前朝霞にギター練習曲作ってたとか何とかっつってただろ」
「そーなんすよ悠哉君! いやー、多分俺薫君との相性いいんじゃないっすかね! あれもまた名曲なんすよ! えー、拓馬さ~ん、USDXとTCFでコラボしません? 悠哉君が公務員になっちまう前に! 何かしましょう!」
「壮馬、USDXの音楽窓口は俺じゃなくてあっちだ」
「太一君っすね! 了解っす! おーい、太一くーん! 大事な話がー!」
窓口はあっちだと示された途端バタバタとそっちへ行っちまうんだから、壮馬も職業音楽家のクセして勢いだけでやってんなって感じがする。まあ、今はまだそれでもやっていけるんだろう。っつーか。
「拓馬さん、まだ俺何の返事もしてないんすけど、やる前提なんすか」
「何だユーヤ、やらないのか」
「拓馬さんにそう言われたらやるしかないじゃないすか」
end.
++++
年末の音楽祭の現場から。今年はさすがに誠司さんの乱入などはなかったかな。忙しいかおうちでまったりですかね。
楽しそうなイベントからハブられた(?)とわかった人が裏で何やら動いていた様子。話を予め聞いてたらスケジュール合わせてたなこれ
USDXの音楽窓口は別にあったのね。と言うかいつの間にか音楽窓口になってやがったチータ君です。まあその方が話が早いか。
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