2020(04)
■お土産話はまた今度
++++
「所属バンド、または名義と名前をお願いします」
「CONTINUE、mish-mashの菅野と菅野です」
「はーい、たいっちゃんとカン君ね。どうぞー」
「ありがとうございます」
受付の青山さんが手の甲にハンコを押してくれて、入場が完了した。今日は年末の音楽祭で、今年は去年と同じでCONTINUE、それからUSDXのバンドマン4人を寄せ集めた“mish-mash”という新しいバンドで参加することになっている。今回ヴィ・ラ・タントンはなし。
去年はシャッフルバンド音楽祭という形で、その時になるまで誰と課題曲をセッションするのかわからないという形式だった。だけど今年はシャッフルの要素は控えめに、でも他のバンドのカバーはやりたいし自分たちの曲もやろうというスタイルのライブになったようだ。
「あーっ! やぁーっとゆっくり出来るぜー!」
「お疲れさん」
「マジでどんだけ走り回ってたか」
カンは同人音楽のジャンルでコミフェにサークル参加していた。CONTINUEだとかUSDXチータとは別名義で、完全に自分個人の名義での活動になる。と言うかバンドとゲーム実況の他に自分の個人名義での曲まで作って、例によっていつ寝てるんだというのが素直な疑問だ。
それから、昨今ではゲーム実況者もコミフェにサークル参加する時代らしく、カンはUSDX代表として交流のある人が出しているスペースへのあいさつ回りをしていたそうだ。ちなみに、現地にはプロさんもいたそうだけど、プロさんは別件で個人の買い物をしていたらしい。
「キョージュの野郎、人のこと扱き使いやがって。人にUSDXのあいさつ回りしろとか言っといて自分は趣味の買い物ばっかりしてやがるし。その上リンも俺におつかいして来いとか言ってただろ。手数料取ってやらねーと気が済まねー! 1点につき100円計算で、1500円は取ってやんねーと!」
「手数料を取るのはさすがにやりすぎじゃないか」
「いーや、そんだけ俺はエライ目に遭ってんだ、自分のサークルだのあいさつ回りだのの合間を縫ってリンの買い物をしてんだから、褒められて然るべきだろ」
今日も普通にコミフェだったし、夜からはこのライブがある。予定がぎゅうぎゅうに詰まっているのはいつものことだけど、東都でも星港に戻ってもバタバタ走り回っていたカンは、ライブハウスの椅子に腰掛けた瞬間気が抜けたようにだるんとしている。
「所属バンドとお名前を」
「ブルースプリング、mish-mashの林原」
「はーいリン君、さっき振り~。はいハンコ」
「どうも」
――とか何とか話していると、リン君がやってきた。リン君は今年もブルースプリングとしての参加だけど、青山さんは基本主催の仕事をしているのであまりゆっくり話す時間もなさそうだ。そして俺たちの姿を見つけ、彼はこっちに寄って来る。
「お前たち、思ったより早かったな」
「って言うか、カンがでしょ」
「そうとも言うな。東都から戻ったばかりなのではないか」
「そーだよ、ついさっき戻ったんだよ。お前のおつかいも完璧にこなしてやったんだ、金はちゃんと取るからな! 手数料を取ったっていいくらいだ!」
「元より購入1点につき200円を上乗せするつもりではあった」
「え、マジで? や、お前、結構俺のこと扱き使ってんだろ。お前のおつかいで15点買ってんぞ。3000円も上乗せしてくれんの?」
「交通費や滞在費を考えるとその程度は安いからな。通販を使うにしても送料がかかる」
「いや、でも3000円は引くわ。2000円でいいよ」
何気にカンはそういうところがあるんだよな。ああだこうだとぎゃあぎゃあ喚いていても、いざ相手が自分の想定を超えたお礼とか反応とかをしてくれると良識が働いて引いてしまうんだ。
「そうか。では厚意に甘えるとしよう」
「あと、浮いた1000円分で俺のことを褒めちぎってくれればいーわ」
「……それが何より難しいのだが」
「ンだとテメー! 俺が書く曲はすげーだろ!」
「それはそうだが、それとお前を褒めちぎることとは結び付かん」
「いや~……お前さあ、そんな曲を書く俺がすげーってコトになんね?」
「では単刀直入に聞くが、オレがお前を蝶よ花よと持て囃す様に違和はないか」
「気持ち悪いには気持ち悪いけど褒められる物は褒められておきたい」
「そこまで賛辞に飢えているのか」
俺が想像してもリン君がカンを褒めちぎる光景には違和感しかないんだけど、褒められる物は褒められておきたいというのはカンの心からの本音なのだろう。カンはとにかく褒められることに飢えている。俺はいつだってカンを認めてるけど、俺からの言葉は多分聞き飽きてるだろうし。
「ところで、コミフェではキョージュとも一緒だったのだろう」
「や、現地では基本別行動してた。ほら、カズの彼女いるじゃん。あの人の出してる本とか買いに行かなきゃって即どっか消えるだろ」
「わざわざコミフェの現地で買うのか…? その気になればその辺ででも会えそうな物だが。最悪オレか朝霞つてにやり取りすることも出来ただろうに」
「それはお前、アレよ。イベント特有の空気ってヤツじゃね?」
「わからんでもないが」
カンからのお土産話はまた今度、USDX新年会の時にとっておくとして、今日はこれから音楽ライブ。mish-mashはソルさんが来れば全員集合だ。去年のライブで出会って意気投合した体の寄せ集めのごちゃ混ぜバンド、カンの書いた曲はいつも通りカッコいい。
「所属バンドとお名前を」
「mish-mashの塩見です」
「は~い、塩見さん。どうぞー」
end.
++++
年末の音楽祭が始まる直前、慧梨夏とは別にもう1人、バタバタと走り回っている人が星港に戻ってきました。こちらも忙しかったカンDです。
どうやらカンDとプロ氏は一緒に東都遠征をしていたらしいのですが、ただ単に一緒に行っていただけで、特に何をしてたとかでもないのかしら。宿とかでは一緒だったのかな。
慧梨夏も時間の関係で回れなかったようなところはイシカー兄さんやカナコにおつかい頼んでたのかな。スケジュールは真っ黒なくらいがちょうどいい。
.
++++
「所属バンド、または名義と名前をお願いします」
「CONTINUE、mish-mashの菅野と菅野です」
「はーい、たいっちゃんとカン君ね。どうぞー」
「ありがとうございます」
受付の青山さんが手の甲にハンコを押してくれて、入場が完了した。今日は年末の音楽祭で、今年は去年と同じでCONTINUE、それからUSDXのバンドマン4人を寄せ集めた“mish-mash”という新しいバンドで参加することになっている。今回ヴィ・ラ・タントンはなし。
去年はシャッフルバンド音楽祭という形で、その時になるまで誰と課題曲をセッションするのかわからないという形式だった。だけど今年はシャッフルの要素は控えめに、でも他のバンドのカバーはやりたいし自分たちの曲もやろうというスタイルのライブになったようだ。
「あーっ! やぁーっとゆっくり出来るぜー!」
「お疲れさん」
「マジでどんだけ走り回ってたか」
カンは同人音楽のジャンルでコミフェにサークル参加していた。CONTINUEだとかUSDXチータとは別名義で、完全に自分個人の名義での活動になる。と言うかバンドとゲーム実況の他に自分の個人名義での曲まで作って、例によっていつ寝てるんだというのが素直な疑問だ。
それから、昨今ではゲーム実況者もコミフェにサークル参加する時代らしく、カンはUSDX代表として交流のある人が出しているスペースへのあいさつ回りをしていたそうだ。ちなみに、現地にはプロさんもいたそうだけど、プロさんは別件で個人の買い物をしていたらしい。
「キョージュの野郎、人のこと扱き使いやがって。人にUSDXのあいさつ回りしろとか言っといて自分は趣味の買い物ばっかりしてやがるし。その上リンも俺におつかいして来いとか言ってただろ。手数料取ってやらねーと気が済まねー! 1点につき100円計算で、1500円は取ってやんねーと!」
「手数料を取るのはさすがにやりすぎじゃないか」
「いーや、そんだけ俺はエライ目に遭ってんだ、自分のサークルだのあいさつ回りだのの合間を縫ってリンの買い物をしてんだから、褒められて然るべきだろ」
今日も普通にコミフェだったし、夜からはこのライブがある。予定がぎゅうぎゅうに詰まっているのはいつものことだけど、東都でも星港に戻ってもバタバタ走り回っていたカンは、ライブハウスの椅子に腰掛けた瞬間気が抜けたようにだるんとしている。
「所属バンドとお名前を」
「ブルースプリング、mish-mashの林原」
「はーいリン君、さっき振り~。はいハンコ」
「どうも」
――とか何とか話していると、リン君がやってきた。リン君は今年もブルースプリングとしての参加だけど、青山さんは基本主催の仕事をしているのであまりゆっくり話す時間もなさそうだ。そして俺たちの姿を見つけ、彼はこっちに寄って来る。
「お前たち、思ったより早かったな」
「って言うか、カンがでしょ」
「そうとも言うな。東都から戻ったばかりなのではないか」
「そーだよ、ついさっき戻ったんだよ。お前のおつかいも完璧にこなしてやったんだ、金はちゃんと取るからな! 手数料を取ったっていいくらいだ!」
「元より購入1点につき200円を上乗せするつもりではあった」
「え、マジで? や、お前、結構俺のこと扱き使ってんだろ。お前のおつかいで15点買ってんぞ。3000円も上乗せしてくれんの?」
「交通費や滞在費を考えるとその程度は安いからな。通販を使うにしても送料がかかる」
「いや、でも3000円は引くわ。2000円でいいよ」
何気にカンはそういうところがあるんだよな。ああだこうだとぎゃあぎゃあ喚いていても、いざ相手が自分の想定を超えたお礼とか反応とかをしてくれると良識が働いて引いてしまうんだ。
「そうか。では厚意に甘えるとしよう」
「あと、浮いた1000円分で俺のことを褒めちぎってくれればいーわ」
「……それが何より難しいのだが」
「ンだとテメー! 俺が書く曲はすげーだろ!」
「それはそうだが、それとお前を褒めちぎることとは結び付かん」
「いや~……お前さあ、そんな曲を書く俺がすげーってコトになんね?」
「では単刀直入に聞くが、オレがお前を蝶よ花よと持て囃す様に違和はないか」
「気持ち悪いには気持ち悪いけど褒められる物は褒められておきたい」
「そこまで賛辞に飢えているのか」
俺が想像してもリン君がカンを褒めちぎる光景には違和感しかないんだけど、褒められる物は褒められておきたいというのはカンの心からの本音なのだろう。カンはとにかく褒められることに飢えている。俺はいつだってカンを認めてるけど、俺からの言葉は多分聞き飽きてるだろうし。
「ところで、コミフェではキョージュとも一緒だったのだろう」
「や、現地では基本別行動してた。ほら、カズの彼女いるじゃん。あの人の出してる本とか買いに行かなきゃって即どっか消えるだろ」
「わざわざコミフェの現地で買うのか…? その気になればその辺ででも会えそうな物だが。最悪オレか朝霞つてにやり取りすることも出来ただろうに」
「それはお前、アレよ。イベント特有の空気ってヤツじゃね?」
「わからんでもないが」
カンからのお土産話はまた今度、USDX新年会の時にとっておくとして、今日はこれから音楽ライブ。mish-mashはソルさんが来れば全員集合だ。去年のライブで出会って意気投合した体の寄せ集めのごちゃ混ぜバンド、カンの書いた曲はいつも通りカッコいい。
「所属バンドとお名前を」
「mish-mashの塩見です」
「は~い、塩見さん。どうぞー」
end.
++++
年末の音楽祭が始まる直前、慧梨夏とは別にもう1人、バタバタと走り回っている人が星港に戻ってきました。こちらも忙しかったカンDです。
どうやらカンDとプロ氏は一緒に東都遠征をしていたらしいのですが、ただ単に一緒に行っていただけで、特に何をしてたとかでもないのかしら。宿とかでは一緒だったのかな。
慧梨夏も時間の関係で回れなかったようなところはイシカー兄さんやカナコにおつかい頼んでたのかな。スケジュールは真っ黒なくらいがちょうどいい。
.