2020(04)
■完璧なタスク&胃袋管理
++++
「はい、5時半! 間に合いました!」
「すげーな。よく間に合ったな」
「完璧なタスク管理の結果と言ったところですね」
大晦日の夕方、東都へ遠征に出ていた慧梨夏が合流した。直接車で俺の家に来ても良かったんだけど、一応通り道にある最寄り駅まで迎えに行って出迎える。一応、2人でいろいろ打ち合わせと言うか、段取りを確認しといた方がいいかなと思った結果だ。
俺は助手席に乗り込み、これまでこっちで準備していたことだとか、これからのスケジュールの流れを確認していく。これから行われるのは浅浦家主催の年越し蕎麦大会という名の嫁のお披露目。その買い物は昨日のうちに済ませてあるから、今日は食べるだけでいいんだけど。
「ところで、戦利品はどうした」
「実家に送った。さすがに旦那さんの実家で広げられる物じゃないし」
「ああうん、そうだな。俺はともかく他の家族の目に触れると大変だ」
「それに、何だかんだお邪魔してる間は戦利品を楽しんでる暇なんかないだろうしね」
コミフェで買って来た物はまた今度下宿先に戻ってからじっくり楽しむことにして、今日から始まる……これは何だ、所謂「里帰り」でいいのだろうか、その期間中は家内行事などを目いっぱい楽しむことを主としてくれるようだ。
言ってしまえば、年越し蕎麦を食うだとか、元日のおせちだとか餅つき大会といったようなことを今時家族みんな揃ってやるという文化が残っている伊東家がレアとも言える。引き籠もりと言え慧梨夏はそんな行事が好きだし、楽しめるんじゃないかなとは思う。
「浅浦家には何時にいればいい?」
「6時に着くようにみんなで歩いて行くし、その辺は父さんとか京子さんとか、うちの人に任せてくれれば。一応荷物置くだけで行ける状態にはなってんだろ」
「そうね。もーうお腹ぺこぺこ。いつもなら軽くおやつとか摘まみながら帰って来るけど今日はほとんど食べてないから」
「ならよかった。パパさんめちゃ気合入ってるらしくてさ」
「浅浦クンのパパさんて、浅浦クンのパパさんなのが不思議なくらいに似てないんでしょ? お茶目と言うか」
「多分アイツ、パパさんを反面教師にしてるんじゃねーかと思う。それはともかく、腹の容量は大丈夫そうだな」
「うん、食べるよ」
「ほら、ママさんも何気にお前が来るの楽しみにしてくれてるっぽくて、ケーキ焼いてくれてるんだと」
「えー! 浅浦クンのママさんのケーキ!? って、カズの原点にして永遠の目標のヤツでしょ!?」
「それそれ」
「楽しみ過ぎるんだけど! ほら、ミートパイは食べさせてもらったことはあるんだけど、ケーキは食べたことないから! えー、おやつ摘まんでこなくてよかったー!」
ある程度喜ぶだろうとは思ってたけど、まさかここまでの反応をしてくれるとも思ってなかった。ママさんもケーキの焼き甲斐があるってモンだよな。でもママさんのケーキはマジで美味い。それこそ慧梨夏が言ったように俺の製菓の原点にして永遠の目標なんだよな。
そんなことを話しているうちに、うちに到着。慧梨夏はトランクからスーツケースとやたら大きい紙袋を取り出して、よっこらよっこらと玄関に辿り着く。運搬がちょっと酷そうだからスーツケースは預かる。つかこの紙袋何だよ。
「ただいまー」
「お帰りー。慧梨夏ちゃんも、長旅お疲れさま!」
「すみまさん時間ぎりぎりで。あっこれ、皆さんでどうぞ」
「わざわざありがとう。さ、上がって」
「お邪魔します」
件の紙袋はどうやら東都土産だったらしい。スーツケースは一旦リビングの隅に置いて、長旅を労う紅茶を。現在時刻は17時45分だから、浅浦家に行くまでにはもうしばらく余裕がある。
「京子さん、一応浅浦家にもお土産買って来たんですけど、和菓子で大丈夫ですかね。浅浦クンの好みで考えちゃってたんですけど」
「大丈夫大丈夫。雅弘が食べれる物は他のみんなも大体好きだから。って言うかそんなトコにまで気回さなくてよかったのに」
「いえ、お世話になるので」
「つーか、気遣い以前に慧梨夏はただ遠征土産を配り歩くのが好きなんだよ」
「そういうことなので。あっ、おじいちゃんの家にもありますよ」
遠征土産を配り歩くのが好きだとは知ってたけど、結構なクラスのヤツを伊東家と浅浦家、それからじっちゃんの家用に用意してたとか。これを買う時間も「完璧なタスク管理」のうちに入ってたんだろうな。ちなみに伊東家には洋菓子でした。嬉しい。
「慧梨夏ちゃん、実家にはお土産用意した?」
「それは郵送してあります」
「あー、そうじゃん。今年千春さん1人なんだろ」
「録画して積んでたドラマとか映画を消化するって言ってたよ。だからお土産も映画のおともになりそうなお菓子にした」
「やってることが完全に親子なんだよな」
「でも、慧梨夏ちゃんもたまには顔見せないとね」
「年に1回くらいでいいから気が向いた時にカズと一緒に帰って来いとは言われてますけど、別にお正月とかお盆とかっていう時期は問われてませんし。あ、カズ、うちの里帰りの時はエプロン持参でよろしく」
「わかってます」
そろそろ出られるようにな、と父さんがリビングに顔を出す。慧梨夏の顔を見つけるなりニッコニコだよ。元々穏やかな方だけどめちゃくちゃ機嫌がいいと見た。
「よーし、行くかー」
「手土産よーし、しっぽよーし」
end.
++++
しっぽのコンディションはある意味での正装。年越し蕎麦大会に至るまで、慧梨夏合流のお話でした。蕎麦大会は来年度以降。
本人曰く「完璧なタスク管理」とのことだけど、実際遠征中どのように動いていたのかは闇の中。プロ氏強襲編もあったんだろうなあ
ここから数日間伊東家で過ごすことになる慧梨夏だけど、お正月らしいお正月を大人数で過ごした経験もなさそうだからさぞ新鮮だろうなあ
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「はい、5時半! 間に合いました!」
「すげーな。よく間に合ったな」
「完璧なタスク管理の結果と言ったところですね」
大晦日の夕方、東都へ遠征に出ていた慧梨夏が合流した。直接車で俺の家に来ても良かったんだけど、一応通り道にある最寄り駅まで迎えに行って出迎える。一応、2人でいろいろ打ち合わせと言うか、段取りを確認しといた方がいいかなと思った結果だ。
俺は助手席に乗り込み、これまでこっちで準備していたことだとか、これからのスケジュールの流れを確認していく。これから行われるのは浅浦家主催の年越し蕎麦大会という名の嫁のお披露目。その買い物は昨日のうちに済ませてあるから、今日は食べるだけでいいんだけど。
「ところで、戦利品はどうした」
「実家に送った。さすがに旦那さんの実家で広げられる物じゃないし」
「ああうん、そうだな。俺はともかく他の家族の目に触れると大変だ」
「それに、何だかんだお邪魔してる間は戦利品を楽しんでる暇なんかないだろうしね」
コミフェで買って来た物はまた今度下宿先に戻ってからじっくり楽しむことにして、今日から始まる……これは何だ、所謂「里帰り」でいいのだろうか、その期間中は家内行事などを目いっぱい楽しむことを主としてくれるようだ。
言ってしまえば、年越し蕎麦を食うだとか、元日のおせちだとか餅つき大会といったようなことを今時家族みんな揃ってやるという文化が残っている伊東家がレアとも言える。引き籠もりと言え慧梨夏はそんな行事が好きだし、楽しめるんじゃないかなとは思う。
「浅浦家には何時にいればいい?」
「6時に着くようにみんなで歩いて行くし、その辺は父さんとか京子さんとか、うちの人に任せてくれれば。一応荷物置くだけで行ける状態にはなってんだろ」
「そうね。もーうお腹ぺこぺこ。いつもなら軽くおやつとか摘まみながら帰って来るけど今日はほとんど食べてないから」
「ならよかった。パパさんめちゃ気合入ってるらしくてさ」
「浅浦クンのパパさんて、浅浦クンのパパさんなのが不思議なくらいに似てないんでしょ? お茶目と言うか」
「多分アイツ、パパさんを反面教師にしてるんじゃねーかと思う。それはともかく、腹の容量は大丈夫そうだな」
「うん、食べるよ」
「ほら、ママさんも何気にお前が来るの楽しみにしてくれてるっぽくて、ケーキ焼いてくれてるんだと」
「えー! 浅浦クンのママさんのケーキ!? って、カズの原点にして永遠の目標のヤツでしょ!?」
「それそれ」
「楽しみ過ぎるんだけど! ほら、ミートパイは食べさせてもらったことはあるんだけど、ケーキは食べたことないから! えー、おやつ摘まんでこなくてよかったー!」
ある程度喜ぶだろうとは思ってたけど、まさかここまでの反応をしてくれるとも思ってなかった。ママさんもケーキの焼き甲斐があるってモンだよな。でもママさんのケーキはマジで美味い。それこそ慧梨夏が言ったように俺の製菓の原点にして永遠の目標なんだよな。
そんなことを話しているうちに、うちに到着。慧梨夏はトランクからスーツケースとやたら大きい紙袋を取り出して、よっこらよっこらと玄関に辿り着く。運搬がちょっと酷そうだからスーツケースは預かる。つかこの紙袋何だよ。
「ただいまー」
「お帰りー。慧梨夏ちゃんも、長旅お疲れさま!」
「すみまさん時間ぎりぎりで。あっこれ、皆さんでどうぞ」
「わざわざありがとう。さ、上がって」
「お邪魔します」
件の紙袋はどうやら東都土産だったらしい。スーツケースは一旦リビングの隅に置いて、長旅を労う紅茶を。現在時刻は17時45分だから、浅浦家に行くまでにはもうしばらく余裕がある。
「京子さん、一応浅浦家にもお土産買って来たんですけど、和菓子で大丈夫ですかね。浅浦クンの好みで考えちゃってたんですけど」
「大丈夫大丈夫。雅弘が食べれる物は他のみんなも大体好きだから。って言うかそんなトコにまで気回さなくてよかったのに」
「いえ、お世話になるので」
「つーか、気遣い以前に慧梨夏はただ遠征土産を配り歩くのが好きなんだよ」
「そういうことなので。あっ、おじいちゃんの家にもありますよ」
遠征土産を配り歩くのが好きだとは知ってたけど、結構なクラスのヤツを伊東家と浅浦家、それからじっちゃんの家用に用意してたとか。これを買う時間も「完璧なタスク管理」のうちに入ってたんだろうな。ちなみに伊東家には洋菓子でした。嬉しい。
「慧梨夏ちゃん、実家にはお土産用意した?」
「それは郵送してあります」
「あー、そうじゃん。今年千春さん1人なんだろ」
「録画して積んでたドラマとか映画を消化するって言ってたよ。だからお土産も映画のおともになりそうなお菓子にした」
「やってることが完全に親子なんだよな」
「でも、慧梨夏ちゃんもたまには顔見せないとね」
「年に1回くらいでいいから気が向いた時にカズと一緒に帰って来いとは言われてますけど、別にお正月とかお盆とかっていう時期は問われてませんし。あ、カズ、うちの里帰りの時はエプロン持参でよろしく」
「わかってます」
そろそろ出られるようにな、と父さんがリビングに顔を出す。慧梨夏の顔を見つけるなりニッコニコだよ。元々穏やかな方だけどめちゃくちゃ機嫌がいいと見た。
「よーし、行くかー」
「手土産よーし、しっぽよーし」
end.
++++
しっぽのコンディションはある意味での正装。年越し蕎麦大会に至るまで、慧梨夏合流のお話でした。蕎麦大会は来年度以降。
本人曰く「完璧なタスク管理」とのことだけど、実際遠征中どのように動いていたのかは闇の中。プロ氏強襲編もあったんだろうなあ
ここから数日間伊東家で過ごすことになる慧梨夏だけど、お正月らしいお正月を大人数で過ごした経験もなさそうだからさぞ新鮮だろうなあ
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