2020(04)
■家を構える人の家
＋＋＋＋
「お邪魔します」
「あっ、塩見さん。おはようございますー」
「千景、これ」
「わー、すごーい！ いいお豆ですねー、ありがとうございます！ さっそく準備しますねー」
今年のお正月、兄さんが塩見さんに「せっかくなら一緒に」とうちでのお正月を勧めてたんだよね。塩見さんと一緒におせちを食べたりのんびりするっていうのは変な感じだったけど、不思議と馴染んでて、いい空気だったのを覚えている。
それに味を占めたのか、兄さんはまた塩見さんにお正月のお誘いをかけてたみたいだ。塩見さんが独立して基本１人だからって、塩見さんにも塩見さんの予定があるだろうにーって思ってたら、塩見さんも案外乗り気だったみたくって。
「でも、塩見さん、こんなにおせちの材料を用意してもらってすみません、ありがとうございます」
「一人暮らしだとなかなか黒豆なんか食わねえけど、お前が煮たのはすげえ美味かったからな。食わせてもらうんだから、それくらいは当然だ。そもそもおせちなんかそうそう食わねえんだよな」
「そうですよねー。うちでもしっかりしたのはなかなか作らないんですけど、黒豆だけはちゃんとしようっていうので毎年ちゃんとやってます」
「そんなに黒豆が好きなのか」
「特別好きって言うよりは、黒豆にかけたお願いが俺と兄さんにぴったりだからっていう理由ですね。黒豆にはまめに働いて、まめに……健康に過ごせますようにっていうお願いがかかってるんですよ」
「なるほどな。俺にもちょうどいい」
確かに、塩見さんも凄く働く人だし、健康に過ごすことが出来ますようにっていうのはぴったりかもしれない。塩見さんが風邪やケガで仕事を休んでるのは見たことがないから、元々頑丈な方ではあるんだろうけどね。
「千景、お前伊達巻きは自分で作ってるのか？」
「いえ、基本買ってきたのですね」
「なら良かった。卵関係の物はいつもの卵屋で買ってきたから、それを使ってくれ」
「えっ、あのお店そんな物まで売ってるんですか？」
「ちょっと前から定期配送の卵におせちの広告が付いてきててよ。元々だし巻き卵とかは売ってたし、その延長なんじゃねえか？ ま、何にせよ俺が食いたかったっていう理由でもある」
塩見さん御用達の卵屋さんの伊達巻きなんて絶対美味しいよね。なんなら俺も普通に食べたい。卵を売るお店はともかく、卵を生むニワトリに休みはないもんね。産んだ卵をどう売っていくのかっていうところで、お正月商品は理に適ってる。
「そう言えば、塩見さんって年末はまたライブとかで忙しいんですよね」
「そうだな。今日はまだ緩いが明日はライブだし、大石家にお邪魔するのはその後とかになるかな。多分千晴君が帰してくれないだろうし最低１泊は覚悟してるけど」
「ホント、兄さんがいつもすみません」
「いや、俺も楽しみにはしてるんだ。去年食った千晴君のローストビーフと生ハムが感動的な旨さだったし、今年も用意してくれてるとは聞いてる。お互いこれという酒を調達してとことんやり合いましょうっていう話になってんだ」
「俺の知らないところでそんな話になってたんですね」
「お前も飲むだろ？ 実際そこそこイケるんだし」
「ほどほどにですけど、いただきます」
兄弟２人で慎ましく過ごすお正月もそれはそれで良かったけど、実際今年のお正月みたいに賑やかに過ごすのも楽しかったんだよね。俺もそう感じたし、兄さんはもっと強く感じただろうからまた塩見さんに声をかけたんだろうね。
実際、お正月に向けて兄さんが何かいつもよりいろいろ準備してるなあとは思ってたんだよね。塩見さんを迎えるためだったかって思うと納得。兄さんって塩見さんに対してはベティさんてより千晴兄さんとしての顔なんだよね。相当気に入ってるのかな。
こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、塩見さんがうちでお正月を過ごしてたときは、それこそ塩見さんが仲のいい親戚のお兄さんとかそんな風にも思えて俺も凄く自然体でいられたって言うか。バレたら怒られそう。
実際親戚とは絶縁してるし、父さんと母さんが生きてた頃からそこまで深い付き合いもなかったから親戚のお兄さんというのがどんな物かはよく知らないし、覚えてもないんだけど。そもそもいとことかっていたのかな。ま、どうでもいいか。
「あの、参考までに聞きますけど、塩見さんって年明けはいつから出社ですか…？」
「安定の４日からだ」
「えっ!? 出荷があるなんて聞いてないですけど！」
「いや、通販分だけだ。でも、宮さんとかは３日から出てんだぞ」
「うわー」
「年末年始で配送が止まってた分が動き出すのが４日だから、それまでに少しでも減らしとこうっつー、いつもの流れな」
「えー……確かにいつもの流れですけどー、言ってくれれば俺も出るのにー」
「――って言うのがわかりきってるから誰もお前に言わねえんだろ。心配しなくても正社員になれば嫌でも出社日になる。今回は長い正月を楽しんどけ」
「あはは……そしたら、今回はそうさせてもらいます」
end.
＋＋＋＋
オミちーがきゃっきゃしてるのがただただかわいいというだけのセルフ需要と供給。大石兄弟に挟まれた塩見さんが真ん中のお兄ちゃんみたくて良い。
そう言えば塩見さん、USDXでの新年会とかは今年は企画されてないんですかね？ レイ君が帰ってきてからなのかしら。
ちーちゃん本人は思ってもないけど、何気にこれも親戚付き合いの一貫なのよね。ベティさんと塩見さんの間で共有されてる秘密です。
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「お邪魔します」
「あっ、塩見さん。おはようございますー」
「千景、これ」
「わー、すごーい！ いいお豆ですねー、ありがとうございます！ さっそく準備しますねー」
今年のお正月、兄さんが塩見さんに「せっかくなら一緒に」とうちでのお正月を勧めてたんだよね。塩見さんと一緒におせちを食べたりのんびりするっていうのは変な感じだったけど、不思議と馴染んでて、いい空気だったのを覚えている。
それに味を占めたのか、兄さんはまた塩見さんにお正月のお誘いをかけてたみたいだ。塩見さんが独立して基本１人だからって、塩見さんにも塩見さんの予定があるだろうにーって思ってたら、塩見さんも案外乗り気だったみたくって。
「でも、塩見さん、こんなにおせちの材料を用意してもらってすみません、ありがとうございます」
「一人暮らしだとなかなか黒豆なんか食わねえけど、お前が煮たのはすげえ美味かったからな。食わせてもらうんだから、それくらいは当然だ。そもそもおせちなんかそうそう食わねえんだよな」
「そうですよねー。うちでもしっかりしたのはなかなか作らないんですけど、黒豆だけはちゃんとしようっていうので毎年ちゃんとやってます」
「そんなに黒豆が好きなのか」
「特別好きって言うよりは、黒豆にかけたお願いが俺と兄さんにぴったりだからっていう理由ですね。黒豆にはまめに働いて、まめに……健康に過ごせますようにっていうお願いがかかってるんですよ」
「なるほどな。俺にもちょうどいい」
確かに、塩見さんも凄く働く人だし、健康に過ごすことが出来ますようにっていうのはぴったりかもしれない。塩見さんが風邪やケガで仕事を休んでるのは見たことがないから、元々頑丈な方ではあるんだろうけどね。
「千景、お前伊達巻きは自分で作ってるのか？」
「いえ、基本買ってきたのですね」
「なら良かった。卵関係の物はいつもの卵屋で買ってきたから、それを使ってくれ」
「えっ、あのお店そんな物まで売ってるんですか？」
「ちょっと前から定期配送の卵におせちの広告が付いてきててよ。元々だし巻き卵とかは売ってたし、その延長なんじゃねえか？ ま、何にせよ俺が食いたかったっていう理由でもある」
塩見さん御用達の卵屋さんの伊達巻きなんて絶対美味しいよね。なんなら俺も普通に食べたい。卵を売るお店はともかく、卵を生むニワトリに休みはないもんね。産んだ卵をどう売っていくのかっていうところで、お正月商品は理に適ってる。
「そう言えば、塩見さんって年末はまたライブとかで忙しいんですよね」
「そうだな。今日はまだ緩いが明日はライブだし、大石家にお邪魔するのはその後とかになるかな。多分千晴君が帰してくれないだろうし最低１泊は覚悟してるけど」
「ホント、兄さんがいつもすみません」
「いや、俺も楽しみにはしてるんだ。去年食った千晴君のローストビーフと生ハムが感動的な旨さだったし、今年も用意してくれてるとは聞いてる。お互いこれという酒を調達してとことんやり合いましょうっていう話になってんだ」
「俺の知らないところでそんな話になってたんですね」
「お前も飲むだろ？ 実際そこそこイケるんだし」
「ほどほどにですけど、いただきます」
兄弟２人で慎ましく過ごすお正月もそれはそれで良かったけど、実際今年のお正月みたいに賑やかに過ごすのも楽しかったんだよね。俺もそう感じたし、兄さんはもっと強く感じただろうからまた塩見さんに声をかけたんだろうね。
実際、お正月に向けて兄さんが何かいつもよりいろいろ準備してるなあとは思ってたんだよね。塩見さんを迎えるためだったかって思うと納得。兄さんって塩見さんに対してはベティさんてより千晴兄さんとしての顔なんだよね。相当気に入ってるのかな。
こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、塩見さんがうちでお正月を過ごしてたときは、それこそ塩見さんが仲のいい親戚のお兄さんとかそんな風にも思えて俺も凄く自然体でいられたって言うか。バレたら怒られそう。
実際親戚とは絶縁してるし、父さんと母さんが生きてた頃からそこまで深い付き合いもなかったから親戚のお兄さんというのがどんな物かはよく知らないし、覚えてもないんだけど。そもそもいとことかっていたのかな。ま、どうでもいいか。
「あの、参考までに聞きますけど、塩見さんって年明けはいつから出社ですか…？」
「安定の４日からだ」
「えっ!? 出荷があるなんて聞いてないですけど！」
「いや、通販分だけだ。でも、宮さんとかは３日から出てんだぞ」
「うわー」
「年末年始で配送が止まってた分が動き出すのが４日だから、それまでに少しでも減らしとこうっつー、いつもの流れな」
「えー……確かにいつもの流れですけどー、言ってくれれば俺も出るのにー」
「――って言うのがわかりきってるから誰もお前に言わねえんだろ。心配しなくても正社員になれば嫌でも出社日になる。今回は長い正月を楽しんどけ」
「あはは……そしたら、今回はそうさせてもらいます」
end.
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オミちーがきゃっきゃしてるのがただただかわいいというだけのセルフ需要と供給。大石兄弟に挟まれた塩見さんが真ん中のお兄ちゃんみたくて良い。
そう言えば塩見さん、USDXでの新年会とかは今年は企画されてないんですかね？ レイ君が帰ってきてからなのかしら。
ちーちゃん本人は思ってもないけど、何気にこれも親戚付き合いの一貫なのよね。ベティさんと塩見さんの間で共有されてる秘密です。
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