2020(04)

■年末+帰省前の公式

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 12月最終日曜日。明日になれば、この部屋の家主は実家のある紅社へと帰ることになっている。ただ、その前にやらなければならないことがいくつかあった。コイツは帰省の度に毎回部屋を片付けやがらないから、それを遂行させるという仕事だ。
 やることは主に2つ。部屋の片付けと掃除、それから冷蔵庫整理だ。特に、冷蔵庫整理はしっかりやっておかないと帰って来た時に悲惨なことになるのがわかっている。コイツが次に帰って来るのは授業の始まる1日か2日前だ。それまでもたない物は食っておかなければならない。
 冷蔵庫に貼られた付箋には「ミネストローネ(帰省までに食べ切ること!)」と書かれている。果林先輩が作り置いて冷凍してくれたヤツだ。ジップロック袋に入ったヤツなんだけど、これがあと3袋残っている。まあ、これは2人で食えばすぐ片付くんだけど。

「おーいー、お前はー。いい加減このとっ散らかった部屋をどーにかしろっていう」
「今荷造り中なんだけどね」
「っつーか、そろそろ3年になって大学生活も折り返すっていう。この機に要らん物も一緒に実家に送り返したらどうだっていう」
「あー、そうだね。考えとくよ」
「ぜってーやらんヤツだっていう」

 高木は帰省するときには手持ちの荷物を最小限にしたいという理由で荷物や事前に買っといた土産物をその都度郵送している。これは普通に賢いと思うし、いいことだと思う。ただ、荷造りをするのにクローゼットの中を広げたまま帰るのが問題で。
 それから、俺が提案したのはこの部屋の荷物を少し実家に送り返すなりして減らしたらどうかということだ。元々あまり物は多くない部屋だけど、それでも少しは本だとか、服だとかが増えている。あまり使わない物を減らした方が掃除もしやすいし、部屋の見栄えも良くなるだろう。

「あー、でも確かに服は少し間引こうかなあ」
「間引け間引け。つか、例によってこっちに帰って来る時に荷物送り返すんだろ。それで物が増えるんだからガッツリ減らすくらいでちょうどいいべ」
「うーん。ねえエイジ、ずっと前に実家の方で買ってもらってまだ開けてない肌着とか下着とかがあるんだけど、これを機に整理したらいいかなあ」
「ああ、それがいいべ。せっかく買ってもらったんにタンスの肥やしにすんのも勿体ないっていう」
「一応吸湿発熱とかの肌着もあるんだよね」
「は!? あるんだったら着ろっていう!」
「勿体なくて開けられないんだよね」
「いや、そんなよくある肌着なんか開けられない間に毎年バージョンアップしてるべ。それも一応新品だけど、大分型落ちだっていう。着ろ着ろ」
「えっと、そしたら年明けからこの肌着類を着ることにして、っと。今着てるこの古いのは捨てちゃっていいかあ」

 これは着る、これは着ないと高木はクローゼットの中の整理を始めた。これまでタンスの肥やしになってた未開封の物も、開封だけしてパッケージは捨ててしまう。その作業をするだけでも場所に空きが出来たような気がする。

「あー、でも羽織れる上着くらいは買った方がいいよねえ」
「だべな。ジャケットの上に何か羽織ってねーと見てる方が寒いっていう」
「またゼミ合宿があるから、それに備えなきゃとも思うし」
「お前去年ゼミ合宿に金が必要だっつってバイトしてたべ。今年はどーするんだっていう」
「あー、バイトねー。出来れば短期でいい話が転がって来ないかなーって感じだよね」
「去年も朝霞サンが持ってきた話に乗っかっただけだったべ。そう都合よくまたああいう話が来るかね」

 去年コイツがやってた倉庫でのバイトでは、合計5万弱くらい稼いでた。それでゼミ合宿とやらに必要な資金を調達していたんだ。参加費で15000円、雑費にもいろいろかかるらしいんだよな。非常食が必要な雪山の中のコテージとか何とかって。大学の施設にそんなのがあるなんて知らないっていう。
 その卒論発表合宿という名のゼミ合宿は今年もある、と言うか今年からが本番らしいから、その分金が必要になるんだろう。コイツのことだから実家でお年玉をもらったりもするんだろうけど、それでも自分で稼ぐ方が圧倒的にいいような気がする。

「つかお前さ、成人式とかってどーすんだっていう」
「授業が8日の金曜日からでしょ、金曜日って重要度高いんだよね、履修の内容的に」
「あー、曜日で偏るのはわかるべ」
「金曜始まりを目掛けてこっちに帰って来て、成人式のためにまた帰って火曜日の授業のために戻って来るのもしんどいから成人式には出ないつもりだよ。光洋から出て来てるゼミの友達も成人式には出なかったって言ってたし、じゃあ俺も別にいいかあって。地元の友達とは通話しながらゲームもしてるし」
「成人式には出なかったって、過去形か。その友達、歳が1コ上とか?」
「あ、そうそう。年齢は1つ上だから、去年成人式だったんだよね。その人も光洋だし程よく距離がある同士として参考になるかなって相談したんだよ」
「ま、生きた経験談が聞けてよかったな。いい加減荷物まとめろよ。目途付いたらメシにするべ」
「あ、いいね。何食べるの?」
「冷蔵庫整理だっていう。ミネストローネも全部食うべ」


end.


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帰省前のいつものタカエイ。どうせ授業始まる前に起きれないとかで招集されることをわかっているので綺麗な部屋にしておきたかったエイジの思惑です。
佐藤ゼミのゼミ合宿に向けてもナノスパ内での動きが見られる頃かな。今年はササシノもいるしどんなことになるやら
そう言えばこの人たち成人式の年頃でしたね。でも今年はノサカイジリ的なアレがないのでナレーションベースだろうなあ

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