2020(04)
■Fun and joyful Christmas
++++
「とうとう野坂たちも引退か。時間が経つのは早いね」
「ホントっすよね! でも、これから俺が奈々先輩と頑張ってMMPを盛り上げてくんで見といてください!」
12月25日、今年度のサークルが終了した。これで俺たち3年4人もサークルを引退することになり、今後のMMPは奈々とカノンの2人でやっていくことになった。次の1年生が何人入るか如何ではサークル存亡の危機が割と真面目に迫っている。
で、しみじみとサークルが終わるのかなと思っていたときのことだった。カノンが急に場を仕切り始めた。3年生の皆さん、今日は解散しないで飯に行きましょうと。だけど、足はこーたの軽四しかない。学食にでも行くのかと思っていたら、颯爽と現れたシルバーの乗用車だ。
「カノン、お前はどんだけ怖いもの知らずなんだ。最後の活動日にみんなで飯に行きたいからっつってまさか足みたいに圭斗先輩を招集するだなんて。圭斗先輩、この度はカノンが本当に申し訳ございません」
「えー、4年生の先輩たちも一緒の方が楽しいじゃないっすか。ねえ圭斗先輩菜月先輩」
「そうだぞノサカ、せっかく1年生がこうやって場を盛り上げようとしてくれたんじゃないか。その意図を酌んでやったらどうだ」
「それはわかるのですが」
「だったらいいじゃないか」
「ですが」
「僕たちもちょうど時間があったしね。1年生と話す機会もそうそうないから貴重な機会だよ」
「そう仰っていただけるならこちらとしてもありがたく思います」
何と、カノンはみんなで飯に行きましょうという“みんな”に4年生の先輩を含めていたんだ。圭斗先輩の車があれば、もう5人追加で遠くへ行くことが出来る。菜月先輩もいらっしゃったけど、それでも所詮は6人しかいないサークル、車2台で全員が乗れる。
いや、まあ、俺としては菜月先輩と圭斗先輩とご一緒する機会は一度でも多い方が嬉しい。それは認めよう。だけど、やっぱり、今年は4年生の先輩方を軽いノリで便利だから使おうっていうノリで頼ってしまっているような気がしてならない。
「そうだ菜月先輩、先週年末特番録ったんすけど、緑ヶ丘と合同で1時間番組作ったんすよ!」
「へえ、それは凄いな。合同って、どういう? あの留学に来てた子と一緒にやった的な?」
「こっちを拠点に、緑ヶ丘とパソコンで繋いで遠隔中継っす! さらにDiscordのグループ通話で緑ヶ丘のサークル室の外からも中継で飛ばして~」
「そんなことが出来るのか。え、それはネットを繋いだパソコンを2台用意してやったのか」
「えー、と。その辺は野坂先輩の管轄っすね」
「番組自体はMMP式でMDにも録音したのですが、パソコンは主にDiscord用です」
「どうやってパソコンをネットに繋げたんだ」
「スマホのテザリングですね。USB接続であれやこれやと。カノン、先週俺がやってたことをメモしてたんだろ」
「メモはしてたんすけど、見ながらじゃないと思い出せないんすよ」
「まあ、カノンが忘れてもタカティに聞けばわかるだろうから。対策委員でも、機材関係で困ったらタカティを頼ったらいい」
「了解っす」
それは原理的に可能なのかと菜月先輩が圭斗先輩に訊ねている。現役に聞くべきじゃないかいと圭斗先輩はそれを軽くあしらわれたのだけど、圭斗先輩もその手のことには比較的お強い。出来たんじゃないのかいと呆れたようにお答えになられた。
カノンは緑ヶ丘との交流会以後にあったことを4年生の先輩方にどんどん報告している。先週の番組にしてもそうだけど、4年生の先輩がやったことのない形式での番組で、それは言わば未来なんだ。想像もしなかった手法が現実になる時代の話。
「ところでノサカ、お前は今年はヒロの課題の手伝いとかはしなくて良かったのか? 去年のクリスマスはヒロに付き合わされてただろ」
「はい! 今年は断固手伝う物かと先から宣言をしていましたし、今となっては履修もあまり被っていないのでヒロも俺は当てにならないと判断したようですね」
「え。ヒロ先輩ってそこまで単位ヤバいんすか」
「進級したのだってギリギリだったんだぞ。忘れもしない去年のクリスマスだ。俺はアイツに呼び出されて課題を教えろだの何だのというのに付き合ってやったにも関わらず、ちょっと居眠りしたまま置いて行かれてだなあ! しかも情報棟の設備点検とかでド深夜に寒空の下に放り出されるという有様だよ」
「それでどうなったんすか? 電車もなかったんすよね」
「菜月さんへの救援要請だったっけ?」
「あれほど悲壮感に溢れた電話はそうそうなかったな」
「いやはや、お恥ずかしい限りです」
「でもそう聞くとヒロ先輩のパスみマジでヤバくないすか? 自分の課題手伝ってくれてる人を放置して自分だけ帰るとか」
「そうなんだよ! カノン、よく言った! ヒロはそういう奴なんだよ!」
「今年は楽しいクリスマスじゃないか、野坂」
「あはは……ええ、全くです」
そう言えば、クリスマスっていう行事もあったなあ。でも今更サンタクロースがどうしたっていう歳でもないし、バイトでも特にそれと言って何もなかったし。うん、まあ、あれだな! 今年は楽しいクリスマスじゃないか! 4年生の先輩方ともご一緒出来たし!
end.
++++
何だかんだムラマリさんたちもそれなりにサークルには遊びに来てたし、菜圭が遊びに来るのもまあアリでしょう。
というワケでこれで3年生は完全に引退することになったのですが、きっとまだ4年生追いコンとかでぎゃあぎゃあと騒がしくなるんだろうなあ。
ノサカのクリスマスの思い出が本当に悲壮感に溢れてたし、ヒロのパスみがヤバいという結論に達したカノンは見どころがあるかもしれない。
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「とうとう野坂たちも引退か。時間が経つのは早いね」
「ホントっすよね! でも、これから俺が奈々先輩と頑張ってMMPを盛り上げてくんで見といてください!」
12月25日、今年度のサークルが終了した。これで俺たち3年4人もサークルを引退することになり、今後のMMPは奈々とカノンの2人でやっていくことになった。次の1年生が何人入るか如何ではサークル存亡の危機が割と真面目に迫っている。
で、しみじみとサークルが終わるのかなと思っていたときのことだった。カノンが急に場を仕切り始めた。3年生の皆さん、今日は解散しないで飯に行きましょうと。だけど、足はこーたの軽四しかない。学食にでも行くのかと思っていたら、颯爽と現れたシルバーの乗用車だ。
「カノン、お前はどんだけ怖いもの知らずなんだ。最後の活動日にみんなで飯に行きたいからっつってまさか足みたいに圭斗先輩を招集するだなんて。圭斗先輩、この度はカノンが本当に申し訳ございません」
「えー、4年生の先輩たちも一緒の方が楽しいじゃないっすか。ねえ圭斗先輩菜月先輩」
「そうだぞノサカ、せっかく1年生がこうやって場を盛り上げようとしてくれたんじゃないか。その意図を酌んでやったらどうだ」
「それはわかるのですが」
「だったらいいじゃないか」
「ですが」
「僕たちもちょうど時間があったしね。1年生と話す機会もそうそうないから貴重な機会だよ」
「そう仰っていただけるならこちらとしてもありがたく思います」
何と、カノンはみんなで飯に行きましょうという“みんな”に4年生の先輩を含めていたんだ。圭斗先輩の車があれば、もう5人追加で遠くへ行くことが出来る。菜月先輩もいらっしゃったけど、それでも所詮は6人しかいないサークル、車2台で全員が乗れる。
いや、まあ、俺としては菜月先輩と圭斗先輩とご一緒する機会は一度でも多い方が嬉しい。それは認めよう。だけど、やっぱり、今年は4年生の先輩方を軽いノリで便利だから使おうっていうノリで頼ってしまっているような気がしてならない。
「そうだ菜月先輩、先週年末特番録ったんすけど、緑ヶ丘と合同で1時間番組作ったんすよ!」
「へえ、それは凄いな。合同って、どういう? あの留学に来てた子と一緒にやった的な?」
「こっちを拠点に、緑ヶ丘とパソコンで繋いで遠隔中継っす! さらにDiscordのグループ通話で緑ヶ丘のサークル室の外からも中継で飛ばして~」
「そんなことが出来るのか。え、それはネットを繋いだパソコンを2台用意してやったのか」
「えー、と。その辺は野坂先輩の管轄っすね」
「番組自体はMMP式でMDにも録音したのですが、パソコンは主にDiscord用です」
「どうやってパソコンをネットに繋げたんだ」
「スマホのテザリングですね。USB接続であれやこれやと。カノン、先週俺がやってたことをメモしてたんだろ」
「メモはしてたんすけど、見ながらじゃないと思い出せないんすよ」
「まあ、カノンが忘れてもタカティに聞けばわかるだろうから。対策委員でも、機材関係で困ったらタカティを頼ったらいい」
「了解っす」
それは原理的に可能なのかと菜月先輩が圭斗先輩に訊ねている。現役に聞くべきじゃないかいと圭斗先輩はそれを軽くあしらわれたのだけど、圭斗先輩もその手のことには比較的お強い。出来たんじゃないのかいと呆れたようにお答えになられた。
カノンは緑ヶ丘との交流会以後にあったことを4年生の先輩方にどんどん報告している。先週の番組にしてもそうだけど、4年生の先輩がやったことのない形式での番組で、それは言わば未来なんだ。想像もしなかった手法が現実になる時代の話。
「ところでノサカ、お前は今年はヒロの課題の手伝いとかはしなくて良かったのか? 去年のクリスマスはヒロに付き合わされてただろ」
「はい! 今年は断固手伝う物かと先から宣言をしていましたし、今となっては履修もあまり被っていないのでヒロも俺は当てにならないと判断したようですね」
「え。ヒロ先輩ってそこまで単位ヤバいんすか」
「進級したのだってギリギリだったんだぞ。忘れもしない去年のクリスマスだ。俺はアイツに呼び出されて課題を教えろだの何だのというのに付き合ってやったにも関わらず、ちょっと居眠りしたまま置いて行かれてだなあ! しかも情報棟の設備点検とかでド深夜に寒空の下に放り出されるという有様だよ」
「それでどうなったんすか? 電車もなかったんすよね」
「菜月さんへの救援要請だったっけ?」
「あれほど悲壮感に溢れた電話はそうそうなかったな」
「いやはや、お恥ずかしい限りです」
「でもそう聞くとヒロ先輩のパスみマジでヤバくないすか? 自分の課題手伝ってくれてる人を放置して自分だけ帰るとか」
「そうなんだよ! カノン、よく言った! ヒロはそういう奴なんだよ!」
「今年は楽しいクリスマスじゃないか、野坂」
「あはは……ええ、全くです」
そう言えば、クリスマスっていう行事もあったなあ。でも今更サンタクロースがどうしたっていう歳でもないし、バイトでも特にそれと言って何もなかったし。うん、まあ、あれだな! 今年は楽しいクリスマスじゃないか! 4年生の先輩方ともご一緒出来たし!
end.
++++
何だかんだムラマリさんたちもそれなりにサークルには遊びに来てたし、菜圭が遊びに来るのもまあアリでしょう。
というワケでこれで3年生は完全に引退することになったのですが、きっとまだ4年生追いコンとかでぎゃあぎゃあと騒がしくなるんだろうなあ。
ノサカのクリスマスの思い出が本当に悲壮感に溢れてたし、ヒロのパスみがヤバいという結論に達したカノンは見どころがあるかもしれない。
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