2020(04)

■滑り込みのサポート

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「よーし。サキー、そっちどうだー? どうぞー」
『いい感じだと思うよ、どうぞ』
「そしたらこのレベルで継続する。どうぞー」
『了解』

 佐藤ゼミのラジオブースでやっている番組を、同時に第1食堂でも流すという実験から少しが経った。今日は実際の番組でそれを試すという日だ。あれから高木先輩がいろいろと改善点を探して微調整してくれていたらしい。俺は指示通りにやるだけだ。
 佐藤ゼミのブースでは果林先輩と高木先輩の番組が放送されることになっている。この2人は普段MBCC昼放送の金曜日の枠を担当しているから、ちょうど食堂が空いちまうんだよな。だからこその実験でもあった。
 とは言え、俺1人だと現場ではちょっとバタつく可能性があったから、サキを付き合わせた。お前もMBCCのミキサーなら、これから定例会で機材のことを中心に見ていくんなら付き合えって強引に引っ張ってきたよな。
 こないだ高木先輩とL先輩とやった実験では食堂に人が少ない状態だったから、実際の昼飯時にどうなるかっていうのは見れてなかったんだ。だからサキに現場の調査に行かせて、どんな風に聞こえるかを報告してもらう。
 こっちではこんな風に聞こえてますよというのはゼミのブースでミキサーをやってる高木先輩にもその都度連絡している。もし不備があればそのようにやってもらうっていう感じで。でも、こっち都合の不備なら俺が対応しなきゃいけないんだよな。

「シノ、しばらくはこっちにいていい?」
「おー、サキ、お疲れ!」
「でも、あのブースからここまで距離があるのに本当に届いちゃうんだね」
「そうなんだよ、よくわかんねーけど届くんだよ」
「高木先輩にどうやってるのか聞かなきゃね。それでなくてもシノは今後もやるかもしれないんだから」
「ホントに」

 人でごった返す食堂から事務所に引っ込んできたサキは、いつもより人が多いような気がするよと既に疲れた様子だ。学期の始めとかその終わりとか、年末みたいな区切りには大学に来る奴も増えるらしい。サボってる奴が復帰してくるとかで。

「でも、裏でこんな実験をしてるなんてね。俺も呼んでくれれば良かったのに」
「それはお前、高木先輩に言ってくれよ」
「それもそうか」
「つか今呼んだからセーフ!」
「そういうことにしておくよ。一応この放送って佐藤ゼミの管轄になるのかな」
「放送自体はそうだけど、同時放送は高木先輩の独断で、来たるその時に向けた暗躍の準備、とか何とか」
「高木先輩が“暗躍”とか言うと冗談じゃ済まなさそう。イメージだけど」
「だよなー。あの人のほほんとしたノリでとんでもないこと平気で言い出すし、悪乗りかと思いきやガチでやるだろ、今日のことにしてもそうだけど。俺も技術的に付いてけるかわかんねーわマジで。いや、付いてかなきゃいけねーんだけど」
「やってることは奇抜だけど、基礎が出来てるからこそ型を崩しても聞ける形を保ってるんだろうしね」

 MBCCで次期佐藤ゼミ生だからっていう理由で呼ばれた実験だけど、マジでそれに立ち会わせてもらってなかったら今後あの人がやり出すことにも付いていけなかったと思うし、その点に関してはマジで良かったとしか言えない。
 サキも言ってるけど、高木先輩が暗躍って言い出すと本当に裏でとんでもないことを仕込んでるのかなって思っちまうよな。実際この実験だって1月にやる高崎先輩との番組のためだし。まだ誰にも言ってねーぞ! 高木先輩に強く念押しされてるからな!

「シノ、俺1回レベル見てくる」
「了解」

 事務所に人がいないのをいいことに、事務所の機材から手元で音を確認する。マジで佐藤ゼミの番組だなあ。やれちまってんだよな。何なら今までが機材環境的にやれてたはずなのにやってなかったって高木先輩言ってたもんな。
 ずーっと古いバージョンのままアップデートをサボって、サポート対応のギリギリになって急にアプデしたら今までと仕様が全然違いすぎてワケわかんなくなる的な。そんな風にあの人は例えてたけど、要は新しいモンも使ってこうぜってことだよな。

「うん、まあこんな感じかなとは」
「サンキュ」
「俺普通に3限あるからおにぎり買ってきたけど、シノも食べる?」
「いくら?」
「サークルの時にミルクティーと交換で」
「了解。午後ティーのホットでいいんだろ?」
「うん。いただきます。でもさ、先週の向島との番組にしても、今日の実験にしてもそうだけど。インターフェイスでも生かせそうな技術だし、俺ももっと勉強しないと」
「それな。俺も勉強しねーと。MBCCのミキサーだからって慢心してたらゼミで白い目で見られちまう。ただでさえ成績も良くねーし」
「成績は、今からでも少しは何とかならない? ササもいるんだし」
「そうなんだけどさ。ヒゲさんもササに俺の成績をどうにかしろっつってんだよ。それもどうなんだっつーか、出来るところは自分でやんねーとなと。“俺が”どう考えてるかってのを問われるテストもあるだろうし」

 この先は、俺がどうしたいか、俺が何をしたいかという気持ちでやりたいことを考えて、実践してかなきゃなと思う。ミキサーのことにしても、その他のことにしても。周りの人をすげーなーって言ってるだけじゃ何も始まらないんだ。

「シノ、いつかは俺たちでこういう、今までやったことのないことをやりたいね」
「そうだな。高木先輩をビビらせてやるくらいじゃねーと!」


end.


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シノが1年生同士できゃっきゃしてる話でメインに来ることっていうのが少ないなという印象。現場にはいるんだけどね。すがくるサキがかわいいのが悪い
件の実験を行っている現場のシノとサキです。もちろん今回の実験もTKG主導ではあるんだけど、奴は番組やってて動けないのでね。
多分後々サキが次代のTKG枠として暗躍とか言ったら冗談じゃ済まないような感じのポジションになるんじゃないかと思ってみる。すがくるの勢いも借りてね

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