2020(04)
■よくある一般的なそれとは
＋＋＋＋
「彩人、明日授業は？」
「普通に１限からある」
「じゃああんまり遅くならない方がいいな、年末だし」
「そういう自分は大丈夫なのかよ、豊葦なのに」
今までクリスマスという行事を意識してたのは、それこそプレゼントをもらえるかもらえないかっていう年頃までの話で、陰キャを極めていた中学高校では単純に12月24日だなあ、25日で冬休みだなあっていうくらいで。
だけど今年は違った。リクからクリスマスの予定を聞かれた時に、授業とバイトしかないなって言ったら、じゃあ会おうって。もしやこれがクリスマスにデートをする恋人たちというヤツなのかと、俺は異文化のクリスマスをとうとう体験することになったんだ。
とは言え、やってることはいつもとそんなに変わらない。授業終わりに普通に買い物とか飯に行って、強いて違う点があったとすれば、イルミネーションをチラ見して帰ってきたくらいで。今も普通に部屋で飲んでるけど、至って普段通りだもんな。
「最近は玲那がお勧めしてくれた作品とか見るのに結構夜更かしが続いてるんだよな。でも割と平気だし、次の休みに寝溜める」
「俺さ、何をするにしても飯と睡眠時間を削るのは絶対やめろって部活の先輩たちからキツク言われてんだよな。リク、お前もちゃんと寝た方がいいぜ」
「と言うか、先輩たちがみんなして彩人にそう言ってるのか？」
「……と言うか、朝霞さんがステージの準備期間には寝ず食わずで台本書く人だったんだって。出来上がって来るのは確かにすげー台本なんだけど、朝霞さん本人はみるみる痩せてくし顔もクマが凄くて鬼気迫ってるし、それでステージが終わった後にはぶっ倒れてたからっつって」
「すげーな、そこまで来ると」
「で、先輩たちが「プロデューサーならまず自分の体調管理をしろ」っつって」
「あれ、そう言えば今日朝霞さんは？ やっぱりイブだし彼女とデートとか」
「や、ちょっと黙ってみ？」
そして俺たちは耳を隣の、301号室方面に集中する。すると多少の生活音が聞こえる。ちなみにバイトは日中だったらしいから、今は普通に部屋にいるのかな。安いアパートだから、そうやって在宅か留守かっていうのを確認出来るんだよな。
前まではそれで勝手に部屋に行き来してたんだけど、例の件があって以来はこうやって在宅を確認した上で連絡してから行くようにはしてるよな。もっと安いトコだとちょっと水道を強く回したりするだけでも音が聞こえたりするらしいけど、うちはさすがにそこまでではないかな。
「あ、いる」
「何か俺も最近聞いたんだけど、結構前に彼女さんと別れてたらしいわ」
「そっか。いい人なのにな」
「あの人、クリエイターを恋愛対象として見れないっぽいんだわ」
「ああ、同じ土俵で切磋琢磨し合う間柄を抜けきらなかった的な？」
「そうそう、そんな。でも全く関係が変わってないとかで、普通に元カノさんが朝霞さん家で部活の……ああ、映研で映像作品の脚本書いてる人なんだけど元カノさん、その人の書いてる脚本を読んだり、作ってくれた飯食ったり映画見たりしてるって」
「……それは付き合っているのでは？」
「別れたんだって。その話を聞いてさ、関係性って名前だけで測ったり、縛ったり出来るモンじゃねーのかなとも思ったりもした」
朝霞さんに聞いたら、元カノさんは“同志”と言うのが一番適切な表現かもしれないと言っていた。俺はリクと付き合ってるけど、恋人らしさとは、的な。いや、別に何がしたいとかそういうアレはないんだけど、難しいな～と思って。
朝霞さんと元カノさんはまだ付き合ってると思われても誤解されかねないけど実際は付き合ってない。例えばだけど、俺とリクは付き合ってるけど、付き合ってるようにはよほどじゃない限りは見えないんだろうなとは。高木さんはともかくみちるにバレたのはやっぱ特殊なケースだとは思う。
「そういや、レナとはデートとかしないのか？ 明日？」
「いや、玲那とは初詣に行くことにしてるんだ。その頃は彩人、実家だろ？」
「ですね、はい」
「だから、お前がこっちにいる間はお前といて、お前が実家に帰ったら玲那と過ごすことにしてる」
「へー。初詣の他には何すんの？」
「玲那お勧めの作品鑑賞会を、ビジホに部屋取って２泊３日コースでガッツリ。映画とかドラマとかのDVDを持ち込んでアーリーチェックインからのレイトチェックアウトで延々と見るっていう」
リクによれば、レナは最近になって自分のガチな趣味をリクにプレゼンし始めたそうだ。ロボットなどが活躍するアクション洋画から始まり、リクが釣れた段階で戦隊モノやライダー系という本番に入ったそうで、今度の鑑賞会も延々とそういう会になるらしい。
「鑑賞会はともかく、初詣は俺も行きてーなぁー」
「まあ、初詣にはいつまで行かなきゃとかいう厳格な決まりはないらしいし、１月中にでも行くか？」
「マジで！ やった！」
「彩人、そういやクリスマスだしコンビニにケーキでも買いに行く？」
「……いや、ケーキは明後日死ぬほど食うことになるらしいから、今日はいいわ」
end.
＋＋＋＋
サササイのクリスマスイブの話だけど、レナのやることがだんだんエスカレートしているような気がする。それをササが受け入れちまうから
朝霞Ｐとふしみんのことも彩人はちょっと聞いてたみたいだけど、今まで通りふしみんの姿もアパートのその辺で見かけたりするのかしら。
高木さんに２人の付き合いがバレたのはササがやらかしたからね、仕方ないね。みちるは特殊例でしょう。
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「彩人、明日授業は？」
「普通に１限からある」
「じゃああんまり遅くならない方がいいな、年末だし」
「そういう自分は大丈夫なのかよ、豊葦なのに」
今までクリスマスという行事を意識してたのは、それこそプレゼントをもらえるかもらえないかっていう年頃までの話で、陰キャを極めていた中学高校では単純に12月24日だなあ、25日で冬休みだなあっていうくらいで。
だけど今年は違った。リクからクリスマスの予定を聞かれた時に、授業とバイトしかないなって言ったら、じゃあ会おうって。もしやこれがクリスマスにデートをする恋人たちというヤツなのかと、俺は異文化のクリスマスをとうとう体験することになったんだ。
とは言え、やってることはいつもとそんなに変わらない。授業終わりに普通に買い物とか飯に行って、強いて違う点があったとすれば、イルミネーションをチラ見して帰ってきたくらいで。今も普通に部屋で飲んでるけど、至って普段通りだもんな。
「最近は玲那がお勧めしてくれた作品とか見るのに結構夜更かしが続いてるんだよな。でも割と平気だし、次の休みに寝溜める」
「俺さ、何をするにしても飯と睡眠時間を削るのは絶対やめろって部活の先輩たちからキツク言われてんだよな。リク、お前もちゃんと寝た方がいいぜ」
「と言うか、先輩たちがみんなして彩人にそう言ってるのか？」
「……と言うか、朝霞さんがステージの準備期間には寝ず食わずで台本書く人だったんだって。出来上がって来るのは確かにすげー台本なんだけど、朝霞さん本人はみるみる痩せてくし顔もクマが凄くて鬼気迫ってるし、それでステージが終わった後にはぶっ倒れてたからっつって」
「すげーな、そこまで来ると」
「で、先輩たちが「プロデューサーならまず自分の体調管理をしろ」っつって」
「あれ、そう言えば今日朝霞さんは？ やっぱりイブだし彼女とデートとか」
「や、ちょっと黙ってみ？」
そして俺たちは耳を隣の、301号室方面に集中する。すると多少の生活音が聞こえる。ちなみにバイトは日中だったらしいから、今は普通に部屋にいるのかな。安いアパートだから、そうやって在宅か留守かっていうのを確認出来るんだよな。
前まではそれで勝手に部屋に行き来してたんだけど、例の件があって以来はこうやって在宅を確認した上で連絡してから行くようにはしてるよな。もっと安いトコだとちょっと水道を強く回したりするだけでも音が聞こえたりするらしいけど、うちはさすがにそこまでではないかな。
「あ、いる」
「何か俺も最近聞いたんだけど、結構前に彼女さんと別れてたらしいわ」
「そっか。いい人なのにな」
「あの人、クリエイターを恋愛対象として見れないっぽいんだわ」
「ああ、同じ土俵で切磋琢磨し合う間柄を抜けきらなかった的な？」
「そうそう、そんな。でも全く関係が変わってないとかで、普通に元カノさんが朝霞さん家で部活の……ああ、映研で映像作品の脚本書いてる人なんだけど元カノさん、その人の書いてる脚本を読んだり、作ってくれた飯食ったり映画見たりしてるって」
「……それは付き合っているのでは？」
「別れたんだって。その話を聞いてさ、関係性って名前だけで測ったり、縛ったり出来るモンじゃねーのかなとも思ったりもした」
朝霞さんに聞いたら、元カノさんは“同志”と言うのが一番適切な表現かもしれないと言っていた。俺はリクと付き合ってるけど、恋人らしさとは、的な。いや、別に何がしたいとかそういうアレはないんだけど、難しいな～と思って。
朝霞さんと元カノさんはまだ付き合ってると思われても誤解されかねないけど実際は付き合ってない。例えばだけど、俺とリクは付き合ってるけど、付き合ってるようにはよほどじゃない限りは見えないんだろうなとは。高木さんはともかくみちるにバレたのはやっぱ特殊なケースだとは思う。
「そういや、レナとはデートとかしないのか？ 明日？」
「いや、玲那とは初詣に行くことにしてるんだ。その頃は彩人、実家だろ？」
「ですね、はい」
「だから、お前がこっちにいる間はお前といて、お前が実家に帰ったら玲那と過ごすことにしてる」
「へー。初詣の他には何すんの？」
「玲那お勧めの作品鑑賞会を、ビジホに部屋取って２泊３日コースでガッツリ。映画とかドラマとかのDVDを持ち込んでアーリーチェックインからのレイトチェックアウトで延々と見るっていう」
リクによれば、レナは最近になって自分のガチな趣味をリクにプレゼンし始めたそうだ。ロボットなどが活躍するアクション洋画から始まり、リクが釣れた段階で戦隊モノやライダー系という本番に入ったそうで、今度の鑑賞会も延々とそういう会になるらしい。
「鑑賞会はともかく、初詣は俺も行きてーなぁー」
「まあ、初詣にはいつまで行かなきゃとかいう厳格な決まりはないらしいし、１月中にでも行くか？」
「マジで！ やった！」
「彩人、そういやクリスマスだしコンビニにケーキでも買いに行く？」
「……いや、ケーキは明後日死ぬほど食うことになるらしいから、今日はいいわ」
end.
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サササイのクリスマスイブの話だけど、レナのやることがだんだんエスカレートしているような気がする。それをササが受け入れちまうから
朝霞Ｐとふしみんのことも彩人はちょっと聞いてたみたいだけど、今まで通りふしみんの姿もアパートのその辺で見かけたりするのかしら。
高木さんに２人の付き合いがバレたのはササがやらかしたからね、仕方ないね。みちるは特殊例でしょう。
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