2017(03)
■限界間近のシリアル定食
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9月は大祭実行委員にとっては書き入れ時。遊びやバイト、そして勉強までをかなぐり捨てて11月アタマに控える大学祭に向けた準備に奔走することになる。まあ、勉強は別にいつでも捨ててるという個人的な事情はともかく。
大祭実行委員は揃いのつなぎと法被を持っている。俺は割と年中薄緑のつなぎを着ているけど、他のメンバーもつなぎを着出すといよいよかっていう気になってくる。役職持ちじゃない一般の連中も出てくる時期だし。
「あ~、疲れた~!」
「委員室に戻ってちょっと休もう」
今は倉橋と一緒に学内を回ってブースの配置を確認するという作業をしていた。紙の上では計算出来ていても、現地に行くと思わぬ障害があったりする。トラブルを未然に防ぎ、快適なブース運営をしてもらうための仕事になる。
それはつまり外回りということになるんだけど、9月と言ってもまだまだ暑い。ちょっと外を歩けば汗をかくし、冷たい物が恋しい。それでなくても俺たち役員はぶっ通しで作業をしている。こまめな休息は必要だ。
「倉橋、冷蔵庫に何か飲みモンとかなかったっけか」
「ちょっと見てみよっか」
大祭実行の委員会室には冷蔵庫やカセットコンロがある。大祭が近くなるとここで寝泊まりをするなんてことは当たり前で、ソファも当然ベッド代わり。さすがに洗濯機はないけど、タライと洗濯板はある。
「……って、何これ! 飯野、これはひっどい!」
「何だこれ。見たことないボトル」
「グリーンスムージーって書いてる。あっ、よく見たらあれフルグラの箱じゃん!」
お世辞にも大きくはない一人暮らし用の冷蔵庫の中には、グリーンスムージーと書かれた紙ボトルが4本ほど詰められている。それと豆乳が2本。それで結構な場所を取っている上に、同じ種類の板チョコが6枚。
床を見ればフルーツグラノーラが箱で用意されているし、脇には素焼きのアーモンド。ここで寝泊まりをすることが前提になればある程度の食糧を確保する必要が出てくるのはわかる。だけどこれは悪質だ。
「誰だこんなことすんのー」
「どー見たって相川でしょ、こんなの」
「相川かー。そう言われりゃそれっぽい。つか携帯タイプのバランス栄養食ブームは終わったのか」
「知らない。ってか共用の冷蔵庫占拠されると困るんだけど。飯野、スムージー飲む?」
「もっとさっぱりしたモンがいい。炭酸とかお茶とかさ」
すると、ソファの陰からむくりと起き上がる毛布の塊。噂をすれば相川だ。どうやらここで寝ていたらしい。起きるなり相川は深い紙皿にグラノーラを盛り、その上に豆乳をかけ、紙コップにスムージーを注いで手を合わせる。
淡々と用意され、始まった食事に俺も倉橋も言葉が出ない。いや、そうじゃねーよとそれまで話していた本題を思い出したのは相川が食後のデザートとして冷蔵庫から板チョコを取り出したときのこと。
「ちょっと飯野、本題」
「あっそうだ相川! お前、私物で冷蔵庫占拠すんな!」
「あ、何か誰も使ってなかったからいいかなと思って。お前らも使うならスペース空けるし」
「って言うかスムージーと豆乳は常温保存出来るでしょ? すぐ飲む分だけにしてよ冷蔵庫に入れるの。あとアタシもスムージー飲んでみたい」
「いや、つか飲みたいのかよ倉橋」
「だって飯野気になるじゃん高いんだよこれ」
こんな状況だからこそ栄養をちゃんととらないとというのもわかんないでもないけど、それにしたってなあ。とか何とか思っている間に準備されていた相川定食。何か倉橋のテンションが上がってるなあ。
「つか相川、どうしてお前ってこんな食生活なんだ?」
「忙しいときこそゆとりが欲しい。大祭も大事だけど、それで睡眠時間や飯は削れないんだよ俺は。でもここじゃ時間や調理法がないし、最低限の飯で栄養を取るにはって考えたらこうなった。あとは単純に味が美味い」
つまり、これは相川なりに考えた修羅場メシとか勝負メシとかそんなようなこと。俺で言うところのかき玉汁。ちょっと違うか。
「本当はヨーグルトとハチミツも欲しいところなんだけど」
「でも冷蔵庫占拠するのはやめてよね」
「善処します」
end.
++++
大祭も大事だけど睡眠時間や食事は削れない相川。どこぞのロイド君にも聞かせてやりたいですね。爪の垢でも煎じて飲め
いつからか相川が何かバランス栄養食だのスムージーなどを食するキャラクターになっていた。前はチョコレートを欲していたね。
ハチミツは常温で保存した方が固まらないし場所もあまりとらなさそう。いざとなればお湯に溶かして飲めばいいよ
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9月は大祭実行委員にとっては書き入れ時。遊びやバイト、そして勉強までをかなぐり捨てて11月アタマに控える大学祭に向けた準備に奔走することになる。まあ、勉強は別にいつでも捨ててるという個人的な事情はともかく。
大祭実行委員は揃いのつなぎと法被を持っている。俺は割と年中薄緑のつなぎを着ているけど、他のメンバーもつなぎを着出すといよいよかっていう気になってくる。役職持ちじゃない一般の連中も出てくる時期だし。
「あ~、疲れた~!」
「委員室に戻ってちょっと休もう」
今は倉橋と一緒に学内を回ってブースの配置を確認するという作業をしていた。紙の上では計算出来ていても、現地に行くと思わぬ障害があったりする。トラブルを未然に防ぎ、快適なブース運営をしてもらうための仕事になる。
それはつまり外回りということになるんだけど、9月と言ってもまだまだ暑い。ちょっと外を歩けば汗をかくし、冷たい物が恋しい。それでなくても俺たち役員はぶっ通しで作業をしている。こまめな休息は必要だ。
「倉橋、冷蔵庫に何か飲みモンとかなかったっけか」
「ちょっと見てみよっか」
大祭実行の委員会室には冷蔵庫やカセットコンロがある。大祭が近くなるとここで寝泊まりをするなんてことは当たり前で、ソファも当然ベッド代わり。さすがに洗濯機はないけど、タライと洗濯板はある。
「……って、何これ! 飯野、これはひっどい!」
「何だこれ。見たことないボトル」
「グリーンスムージーって書いてる。あっ、よく見たらあれフルグラの箱じゃん!」
お世辞にも大きくはない一人暮らし用の冷蔵庫の中には、グリーンスムージーと書かれた紙ボトルが4本ほど詰められている。それと豆乳が2本。それで結構な場所を取っている上に、同じ種類の板チョコが6枚。
床を見ればフルーツグラノーラが箱で用意されているし、脇には素焼きのアーモンド。ここで寝泊まりをすることが前提になればある程度の食糧を確保する必要が出てくるのはわかる。だけどこれは悪質だ。
「誰だこんなことすんのー」
「どー見たって相川でしょ、こんなの」
「相川かー。そう言われりゃそれっぽい。つか携帯タイプのバランス栄養食ブームは終わったのか」
「知らない。ってか共用の冷蔵庫占拠されると困るんだけど。飯野、スムージー飲む?」
「もっとさっぱりしたモンがいい。炭酸とかお茶とかさ」
すると、ソファの陰からむくりと起き上がる毛布の塊。噂をすれば相川だ。どうやらここで寝ていたらしい。起きるなり相川は深い紙皿にグラノーラを盛り、その上に豆乳をかけ、紙コップにスムージーを注いで手を合わせる。
淡々と用意され、始まった食事に俺も倉橋も言葉が出ない。いや、そうじゃねーよとそれまで話していた本題を思い出したのは相川が食後のデザートとして冷蔵庫から板チョコを取り出したときのこと。
「ちょっと飯野、本題」
「あっそうだ相川! お前、私物で冷蔵庫占拠すんな!」
「あ、何か誰も使ってなかったからいいかなと思って。お前らも使うならスペース空けるし」
「って言うかスムージーと豆乳は常温保存出来るでしょ? すぐ飲む分だけにしてよ冷蔵庫に入れるの。あとアタシもスムージー飲んでみたい」
「いや、つか飲みたいのかよ倉橋」
「だって飯野気になるじゃん高いんだよこれ」
こんな状況だからこそ栄養をちゃんととらないとというのもわかんないでもないけど、それにしたってなあ。とか何とか思っている間に準備されていた相川定食。何か倉橋のテンションが上がってるなあ。
「つか相川、どうしてお前ってこんな食生活なんだ?」
「忙しいときこそゆとりが欲しい。大祭も大事だけど、それで睡眠時間や飯は削れないんだよ俺は。でもここじゃ時間や調理法がないし、最低限の飯で栄養を取るにはって考えたらこうなった。あとは単純に味が美味い」
つまり、これは相川なりに考えた修羅場メシとか勝負メシとかそんなようなこと。俺で言うところのかき玉汁。ちょっと違うか。
「本当はヨーグルトとハチミツも欲しいところなんだけど」
「でも冷蔵庫占拠するのはやめてよね」
「善処します」
end.
++++
大祭も大事だけど睡眠時間や食事は削れない相川。どこぞのロイド君にも聞かせてやりたいですね。爪の垢でも煎じて飲め
いつからか相川が何かバランス栄養食だのスムージーなどを食するキャラクターになっていた。前はチョコレートを欲していたね。
ハチミツは常温で保存した方が固まらないし場所もあまりとらなさそう。いざとなればお湯に溶かして飲めばいいよ
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