2020(04)

■限界睡眠時間の克服

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「うあ~、マジでねみー…!」
「シノ、何でそんな眠いんだ」
「や、眠い中おにぎりをちゃんと作ってきた俺を褒めるのが先だ」
「うん、それは純粋に偉いと思う。今日は何おにぎり?」
「今日はわかめごはん」
「あー、美味しい」

 火曜日は学科固有科目もあってそれなりに大事な曜日だという認識だ。だけどシノは物凄く眠そうにしている。どうしてそんなに眠いのかと聞いてはみたものの、バイトのせいなんだろうなとは薄々わかっている。年の瀬が近付いてくるにつれ、シノのバイトの時間はどんどん長くなっていたから。
 そんな中でもきっちり昼食に付けるおにぎりを作ってきたのは本当に偉いと思う。バイトも、このおにぎりも、来春からの1人暮らしに向けた貯蓄のための行動だ。最初は無骨だったおにぎりも、今では洗練されてきたのか見ていてとても美味しそうだなと思うまでになっていた。

「ほら、世間がどんどん冬休みになってるだろ。ネカフェに来る奴も多いんだよ」
「行きたくなる気持ちはわかる」
「だろ? まあ、言って夜が遅くても割とぶら~っとしてるだけだからさ、普通にテスト勉強してんだけど」
「うーん、テスト勉強は偉いけど仕事をちゃんとしてないっていうのは大丈夫なのか?」
「先輩も普通に動画とか見てるし全然平気なんだよこれが」
「へえ、まあでもネカフェならではの雰囲気なのかな」

 ちなみにシノのバイト先は地元のネカフェだ。働き方が割と自由なのと、営業時間が24時間だから深夜で割増料金になる時給が単純にオイシイという理由で働いているそうだ。普通のカフェほどガチガチした接客も必要ないし、茶髪でも全く問題ないのが楽だと言っている。
 ただ、夏休みや冬休みなどになると利用客も増えるしその年齢層もグッと下がって来る。時間帯を問わず多少は忙しくなってくるようだ。シノは1人暮らししたさに自ら深夜や休日も働けますという風に店側に言っているのでご覧の通りの状況になりがちだ。

「ちなみに、さっきの授業の最後にレポートの題目が発表されたけど、ちゃんと聞いてたのか?」
「えっ!? 何それ! 全然覚えてないんだけど!」
「はーっ……バイトもいいけど、学業に支障が出ない程度にしといた方がいいと思うぞ。少なくともテスト期間近くはな」
「ほんそれ。成績が悪いとヒゲさんに何言われたかわかったモンじゃない。ちょっゴメンササ、レポートの題目教えて」

 シノはMBCCのミキサーであることを武器に成績の要素を度外視で佐藤ゼミに入れることにはなったものの、ちゃんとしないといけないことには変わりない。俺たちがしょうもないことをしてたら先輩たちもチクチクと刺されるそうだし、それはさすがに気を付けたい。

「つかさ、前々から思ってたけどお前も結構夜遅くまで本読んだりしてるだろ?」
「そうだな。最近は玲那にお勧めされてるドラマとかを走破するのに遅くまでいろいろ見てるな」
「それで何で普通に動いてんだよ、意味わかんねーよ」
「確かに、飲んだ次の日とかも普通に朝から動けるし、その辺のバイタリティには自信あるな。まあ、過信しすぎちゃいけないんだろうけど」

 ここのところ、玲那がお勧めしてくれた特撮ドラマなんかを動画配信サービスでよく見るようになった。ああ、それでも最初は一応メカメカしい外国のアクション映画くらいから始まったんだけど、それらの感想を伝えていくうちにどんどんと核心に迫ってきたと言うか。
 せっかくお勧めしてくれたし、玲那は「無理して全部見なくても大丈夫」と言ってたんだけど、気付いたら普通に全部見てた。と言うか、俺も一般的な男児だったので特撮にはよくお世話になってたし、なんならちょっと覚えてるのとかもあった。懐かしくもあり、今見るとまた見方が変わるなと。

「くあーっ、俺もお前とか果林先輩ばりのショートスリーパーだったら授業も余裕なのになー!」
「言っとくけど俺は別にショートスリーパーってワケじゃないぞ。普段は7時間寝てるし」
「つか聞いていいか? 1限始まりの時ってお前何時起き?」
「8時」
「だよな、知ってた。7時の電車に乗らなきゃいけない俺と豊葦住みのお前の起床時間を比べちゃいけないってことくらいわかってたんだよ」
「まあ、この時点で既に2時間くらいの差は出来てるもんな。ちなみに電車の中では何してる?」
「寝てる」
「それでよく乗り過ごさないな」
「ああ、案外目的地近くなるとハッと目が覚めるんだよ」
「それも凄いな。ほら、地下鉄の環状線で寝て延々とぐるぐる回るとかあるだろ、お前そういうのはないの?」
「それはないな。ふぁ~あ。ねむ」

 でもバイトはしねーと1人暮らし出来ねーしなー、とシノは嘆いている。もちろんクリスマスやそれを過ぎて本格化する年末年始も出来るだけバイトに入るし、大晦日のド深夜にも働いているそうだ。ひょっとしなくてもここでスパートをかける気か。

「8号館のロビーのさ、ソファーがめーっちゃ気持ちよくて寝るのにちょうどいいんだよ」
「え、寝に行く的なこと?」
「や、まだ行かない。でも、学内で時間潰したいときとかにはたまに行くかな」
「へえ、みんないろいろだな。くるみはジムでシノは8号館。で、俺は図書館」
「え、くるみジム行ってんの?」
「お前、何気に人の話全然聞いてないんじゃないか?」


end.


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シノのおにぎりがだんだん様になって来ている様子。中に具は入れてるのかしら。味が欲しい時は混ぜご飯の素みたいなので作ってそう。
もし1人暮らしが出来るようになって、大学近くに住むようになったらどういうところでバイトするのかな。足も欲しいよね
人の話を聞いてない時のシノって眠そうにしてるのかな、それとも自分の目の前のことだけに一生懸命になってるのかな

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