2020(04)

■winter solstice ○○

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「ひゃっほーい」
「……えーと、これはどういった反応をすればよろしいのでしょうか」
「圭斗、それをやったところでお前のポジションを誰がやるんだ」

 サークル室に菜月先輩と圭斗先輩が遊びにいらっしゃった。その手には発泡スチロールの箱。圭斗先輩の第一声が縁起でもないと言うか何と言うか、去年村井さんが遊びに来ていたときのそれだ。それをなぞるとすれば、村井さんに対して「帰れ」と発していたのは圭斗先輩なんだけども。
 MMPのいつものネタと言え、圭斗先輩と村井さんの関係性が特殊なだけに、それをそのままなぞることはなかなか出来ない。ワンチャン律がやれるかやれないかだけど、先に菜月先輩のツッコミが入ったのでこの件はここで終了。

「ん、気を取り直して」
「圭斗先輩、4年生の先輩らが何の用スか?」
「今日は冬至だろう? MMPを覆う陰の空気が最大限増幅する実に良き日だね。それで、去年言っていた冬至カレーうどん大会をやろうと思ってね」
「あー、そーいやそンなコトも言ってヤしたねェー。夏至カレーに対抗する冬至○○の話っシたっけ」
「りっちゃん先輩、何すかそれ」
「あァー、カノンはいなかったから知らないスね。去年の夏、奈々が夏至カレーとかいう行事に盛り上がってたンすけど、生憎MMPは夏至を踊って祝うような陽気なキャラクターじャありヤせん。陽の力が弱まる冬至にこそ浮かれて然るべき陰の集団スわ」
「そこで夏至カレーに対抗する冬至○○を話し合った結果、至極真面目な成り行きで冬至にはカレーうどんを食べようということになったんだね」
「至極真っ当で何でカレーうどんになるんすか?」
「冬至にカボチャを食べるのも、んが付く食べ物を食べるっていうので南瓜なんだよ。それにカボチャは冬の野菜としてはビタミンなどの栄養が豊富で体にいい。カレーうどんは別名カレー南蛮で「ん」が2つ付くし、カレーのスパイスで体を温めて体調を整えようという」
「なるほど納得カタツムリっす! いーっすねー! カレーうどん美味しいっすよね!」

 こっちの思った以上にカノンが冬至カレーうどんに対して乗り気だった。そう、今日は冬至ということで日照時間が1年の中で一番短い。つまり菜月先輩が大喜びするという素晴らしい日。陰の集団MMPは冬至にこそ盛り上がるべきなのだ。

「この箱の中にはカレーうどんのカレーを作った鍋が入ってるんだけどね」
「え、ここで食べるンすか?」
「まあ、ロビーで鍋をやってる団体もいたくらいだし、それくらいならいいかなと思ってね」
「あー、確かにいヤすね。一応後で守衛さんに許可取っときヤすか」
「今回は菜月さん特製のカレーうどんだよ。あの菜月カレーをカレーうどん仕様にアレンジした最新作、食べたくないかい?」
「ナ、ナンダッテー!? それは素晴らしい!」

 以前菜月先輩からカレーうどんの試食をして欲しいと言われて開発段階のそれを味見させていただいていたんだけど、とうとう完成したのか。そもそもそのベースがあの菜月カレーという時点でマズい理由がないし、どんな風にまとまったのかが楽しみで仕方ない。
 律が守衛さんにこれこれこういう事情でロビーで火を焚きますと事情を説明して許可取りをしたところで、カセットコンロを手に一同はロビーに移動する。ローテーブルを囲んで、一見するとただの鍋パーティーなんだけど大学のサークル棟なんだよなあ。カレーの匂いが充満しそうで軽くテロだ。

「う~ん、これは美味しそうですね」
「間違いないスわ」
「それじゃあお前たち、菜月さん特製のカレーうどんを心して食べるように」
「はーい」

 使い捨ての丼に人数分のカレーうどんがよそわれる。いつもの菜月カレーとは違って使っているのは鶏のもも肉、そしてカレー南蛮らしくくたくたになったネギも入っている。うどんの麺は太い冷凍麺だけど、それは菜月先輩の好みだそうだ。

「ん、うまっ!?」
「やァー、さすが菜月先輩スわァー。美味いスねェー」
「うわー、うめー!」
「そう言えばカノンは菜月カレーは初めてかな?」
「はい! 初めてっす!」
「今日のカレーはカレーうどん仕様だけど、いつも僕たちが食べていた菜月カレーは俗に肉じゃがカレーとも呼ばれる味でね、実に美味しいんだよ」
「へー、肉じゃがってことは甘くどいんすか?」
「辛さの中に野菜の甘みが際立つ味だね」
「えー、食べたいっす!」
「あー、惜しいな。購買の抽選会でカノンが3等の米5キロを当ててればカレーパーティーをやろうかっていう流れになっただろうに」
「くあーっ! マジすか悔しー!」

 ちなみに、購買の抽選会ではすがやんが米5キロを当ててたんだよな。カノンは購買で使える文房具2000円券を当ててたから、全体の戦果としては悪い方ではなかったんだけど。それでも夢の国に行きたいって言って回してたから文房具券では悔しがってたんだよな。

「でも、暖房のないロビーで食ってるのにそんな寒くないっすね」
「コンロで火を使ってるし、そもそもカレーうどんがあったかいからね」
「いーっすね、MMP式の冬至! 夜はこれからっすね!」
「……カノンが完全に夏至を踊って祝う系のキャラな件」
「言ってやるな、野坂」


end.


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これを見ている感じ、奈々とカノンだけになってもそこそこ明るくやっていけそうだし、新歓次第ではMMPの復権もワンチャンあるぞ
と言うか例の抽選会で1年生コンビは2人とも景品を当ててたんですね。すがやんのお米はどうなったのかしら。
ひゃっほーいからの帰れのコンボは圭斗さんと村井おじちゃんの伝統芸だから、他の連中ではなかなかそうはいかんよ圭斗さん

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