2020(04)
■違う空を目指しても
++++
「それじゃ、今日もお疲れー、かんぱーい!」
「乾杯」
今日はバンド練習の後でカンとサシ飲みだ。カンとは1年の時に出会って今まで仲良くしてきたけど、自分たちでも意外に思ったのが、案外サシ飲みとかの機会がなかったということ。いつも他のバンドメンバーだったり星羅やきらら、今だとUSDXメンバーたちがいたりするんだよな。
――というワケで、たまには2人水入らずで飲もうぜという話になり、現在に至る。串カツ屋のカウンターに並んで座り、生中のジョッキを重ねる。最初にオススメの7種盛りを頼み、改めて互いに向き合うんだ。
「何か、2人だけで飲むってのも変な感じだな」
「意外な奴と2人で飲むってのは割とあるんだけど、お前とっつーのはこの4年間でもなかなかなかったよな」
「意外な奴と飲んだのか?」
「最近ならユーヤとサシ飲みした。年末の話とか聞きたくてさ」
「お。高崎君年末来るって?」
「ライブはやらないけどスタッフとして来いって長谷川さんに招集されたってよ」
「そう言えば彼、去年もバーカウンターの向こうが指定席だったもんな」
「ユーヤはソルの舎弟っつーか強火オタクみたいなモンだから、いくら長谷川さんがめんどくさくてもソルのベースのあるトコにはいるんだよ」
ソルさんこと塩見さんは、古くからの付き合いの高崎君には自分のオンラインでの活動のことを、オンでの付き合いから始まったカンには自分の過去のことをそれぞれ掻い摘むように話していたそうだ。星港を統べた元ヤンで現会社員兼ベーシスト兼ゲーム実況者という異色の経歴は、朝霞が知ればもれなく飛び付くだろう。
カズが主催した高崎君の誕生会にひょんなことから呼ばれた俺は、同じドラマーとして彼と少しだけ話していたんだけど、また年末に会う機会がありそうで今から楽しみだ。年末の音楽祭には今年もいろんな人が呼ばれているらしい。新たな出会いもあるだろうか。
「高崎君と言えば、俺は最近カズと会ってたんだよ」
「マジか。カズなー、アイツは将来設計とかめちゃくちゃちゃんとしてそうじゃんな」
「まさにそうで、こないだ割とガチな人生相談してたんだよ」
「人生相談? スガが、カズに?」
「ああ。カズな、先月結婚したんだって。それでさ、俺もその辺の事については考えておきたいだろ。現実的にどう進めていくものなのかっていうのを教えてもらったり」
「――じゃねーよおいおい、お前今すげーコトをサラッと言ったぞ!? は!? 結婚!? 同棲とか、婚約じゃなくて?」
「ああ。ガチな入籍。結婚だよ」
「っつーと、あのポニテの彼女と!?」
「以外に誰がいるんだよ」
「はー、卒業前に結婚かー、思い切ったなー」
俺はまだ星羅の意思をちゃんと聞いてないからまずはそこからなんだけど、それを前提に当事者を含めた全員が話を進めてしまっているような雰囲気があるから、まずしっかりと話をするならしておかなきゃなと思う。
そういった意味でカズの経験談は非常に参考になった。そもそも、俺たちの年代でそういう話が出来る人間はそうそういない。結婚情報誌なんかはあるけど、リアルな体験談に勝るものもそうないだろうし。
「家のこととか、保険のこととか、将来の家庭計画とかいろいろ聞いてさ」
「つってもお前の場合、誠司さんがあの豪邸にお前の部屋まで寄こしてくれてるくらいだし、住む家に関しては大した問題じゃなくね?」
「そのことなんだけどさ。俺は院に進学するし星羅は薬学部だから6年まであるだろ。問題はその後だよな。星羅は就職を向島だけに絞ってなくて、自分のやりたい仕事があればどこのエリアにでも行くって言ってるんだ」
「いや、つかエリアから出て星羅の病院とか大丈夫なのか」
「最近の感じだとそこまででもって感じ」
「どこのエリアとか目星はあんのか?」
「本人的には緑風って。星羅は新薬の研究よりは後発医薬品の方に進みたいから、それが盛んなところがいいって考えてて」
「お前はどーすんだよ」
「俺はリモートワークが出来る会社に就職するか、星羅が行くエリアで就職してついてく感じになるかなとは。いや、もちろん俺の現段階での考えだけどな」
――という話を星羅も家族には簡単に話していて、まだ結婚云々の話すらしてないのにそうなること前提で計画が進んでる感があるから俺もちゃんとしときたいってちょっとだけ焦ってるんだ。だけど外堀から固められたんじゃなく、あくまで俺の意思と周りの思惑が合致してるという形だ。
「……そっか。もしかしたらお前とも今ほど頻繁に会えなくなるかもなんだなー」
「言ってネット環境があればそんなに距離は問題にならないし、仮に緑風だったなら実際の距離も遠くないしな」
「暇を見つけて緑風旅行か。俺も3年目とかになれば生活リズムもわかって来てるだろうしワンチャンあるな。おいスガ、美味いモンとか面白いトコとか調べとけよ」
「緑風と言えば海の幸かな。日本酒と一緒にこう。ああ、いいな」
「かーっ、結婚かー! 孤高の作曲家の俺には無縁だなー!」
「カン、どこから突っ込めばいい」
「や、突っ込むトコなんかねーよ!」
end.
++++
「ユーヤはソルの強火オタクみたいなもの」というのがカンDから見た高崎の評価のようですね。年末の話もちらほら。
本人たちの間では意外にやってないという認識だったらしいスガカンのサシ飲み。外で飲むとかも案外少なそうだもんねこの2人。
自称・孤高の作曲家のカンDだけど、彼は将来のことをどう見据えて……いや、孤高の作曲家なのか
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「それじゃ、今日もお疲れー、かんぱーい!」
「乾杯」
今日はバンド練習の後でカンとサシ飲みだ。カンとは1年の時に出会って今まで仲良くしてきたけど、自分たちでも意外に思ったのが、案外サシ飲みとかの機会がなかったということ。いつも他のバンドメンバーだったり星羅やきらら、今だとUSDXメンバーたちがいたりするんだよな。
――というワケで、たまには2人水入らずで飲もうぜという話になり、現在に至る。串カツ屋のカウンターに並んで座り、生中のジョッキを重ねる。最初にオススメの7種盛りを頼み、改めて互いに向き合うんだ。
「何か、2人だけで飲むってのも変な感じだな」
「意外な奴と2人で飲むってのは割とあるんだけど、お前とっつーのはこの4年間でもなかなかなかったよな」
「意外な奴と飲んだのか?」
「最近ならユーヤとサシ飲みした。年末の話とか聞きたくてさ」
「お。高崎君年末来るって?」
「ライブはやらないけどスタッフとして来いって長谷川さんに招集されたってよ」
「そう言えば彼、去年もバーカウンターの向こうが指定席だったもんな」
「ユーヤはソルの舎弟っつーか強火オタクみたいなモンだから、いくら長谷川さんがめんどくさくてもソルのベースのあるトコにはいるんだよ」
ソルさんこと塩見さんは、古くからの付き合いの高崎君には自分のオンラインでの活動のことを、オンでの付き合いから始まったカンには自分の過去のことをそれぞれ掻い摘むように話していたそうだ。星港を統べた元ヤンで現会社員兼ベーシスト兼ゲーム実況者という異色の経歴は、朝霞が知ればもれなく飛び付くだろう。
カズが主催した高崎君の誕生会にひょんなことから呼ばれた俺は、同じドラマーとして彼と少しだけ話していたんだけど、また年末に会う機会がありそうで今から楽しみだ。年末の音楽祭には今年もいろんな人が呼ばれているらしい。新たな出会いもあるだろうか。
「高崎君と言えば、俺は最近カズと会ってたんだよ」
「マジか。カズなー、アイツは将来設計とかめちゃくちゃちゃんとしてそうじゃんな」
「まさにそうで、こないだ割とガチな人生相談してたんだよ」
「人生相談? スガが、カズに?」
「ああ。カズな、先月結婚したんだって。それでさ、俺もその辺の事については考えておきたいだろ。現実的にどう進めていくものなのかっていうのを教えてもらったり」
「――じゃねーよおいおい、お前今すげーコトをサラッと言ったぞ!? は!? 結婚!? 同棲とか、婚約じゃなくて?」
「ああ。ガチな入籍。結婚だよ」
「っつーと、あのポニテの彼女と!?」
「以外に誰がいるんだよ」
「はー、卒業前に結婚かー、思い切ったなー」
俺はまだ星羅の意思をちゃんと聞いてないからまずはそこからなんだけど、それを前提に当事者を含めた全員が話を進めてしまっているような雰囲気があるから、まずしっかりと話をするならしておかなきゃなと思う。
そういった意味でカズの経験談は非常に参考になった。そもそも、俺たちの年代でそういう話が出来る人間はそうそういない。結婚情報誌なんかはあるけど、リアルな体験談に勝るものもそうないだろうし。
「家のこととか、保険のこととか、将来の家庭計画とかいろいろ聞いてさ」
「つってもお前の場合、誠司さんがあの豪邸にお前の部屋まで寄こしてくれてるくらいだし、住む家に関しては大した問題じゃなくね?」
「そのことなんだけどさ。俺は院に進学するし星羅は薬学部だから6年まであるだろ。問題はその後だよな。星羅は就職を向島だけに絞ってなくて、自分のやりたい仕事があればどこのエリアにでも行くって言ってるんだ」
「いや、つかエリアから出て星羅の病院とか大丈夫なのか」
「最近の感じだとそこまででもって感じ」
「どこのエリアとか目星はあんのか?」
「本人的には緑風って。星羅は新薬の研究よりは後発医薬品の方に進みたいから、それが盛んなところがいいって考えてて」
「お前はどーすんだよ」
「俺はリモートワークが出来る会社に就職するか、星羅が行くエリアで就職してついてく感じになるかなとは。いや、もちろん俺の現段階での考えだけどな」
――という話を星羅も家族には簡単に話していて、まだ結婚云々の話すらしてないのにそうなること前提で計画が進んでる感があるから俺もちゃんとしときたいってちょっとだけ焦ってるんだ。だけど外堀から固められたんじゃなく、あくまで俺の意思と周りの思惑が合致してるという形だ。
「……そっか。もしかしたらお前とも今ほど頻繁に会えなくなるかもなんだなー」
「言ってネット環境があればそんなに距離は問題にならないし、仮に緑風だったなら実際の距離も遠くないしな」
「暇を見つけて緑風旅行か。俺も3年目とかになれば生活リズムもわかって来てるだろうしワンチャンあるな。おいスガ、美味いモンとか面白いトコとか調べとけよ」
「緑風と言えば海の幸かな。日本酒と一緒にこう。ああ、いいな」
「かーっ、結婚かー! 孤高の作曲家の俺には無縁だなー!」
「カン、どこから突っ込めばいい」
「や、突っ込むトコなんかねーよ!」
end.
++++
「ユーヤはソルの強火オタクみたいなもの」というのがカンDから見た高崎の評価のようですね。年末の話もちらほら。
本人たちの間では意外にやってないという認識だったらしいスガカンのサシ飲み。外で飲むとかも案外少なそうだもんねこの2人。
自称・孤高の作曲家のカンDだけど、彼は将来のことをどう見据えて……いや、孤高の作曲家なのか
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