2020(04)

■夢の未来への礎となれ

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「よーし、それじゃあ準備を始めます! MMPの皆さんもよろしくお願いしまーす!」
『はーい』

 今日はすがやん主動で向島さんの年末特番の収録が行われる。それをどうして緑ヶ丘大学のMBCCの部屋で指揮しているのかと言うと、今回の番組は緑ヶ丘と向島の合同制作で、距離があってもリアルタイムで声を飛ばせば番組になるんじゃないか、という実験でもあった。
 せっかくパソコンやスマートフォンがあるんだから、それらを使って通話すればミキサーに繋いでひとつの番組として記録出来るんじゃないかっていうことだね。その話をすがやんが提案したときに、向島さんはすごくノリノリだったそうだ。
 せっかく緑ヶ丘の自分が向島に留学してるんだから、いっそ2団体の合同番組を作ってしまえばいいんじゃないか。そこまでの規模の番組はこれまでの歴史の中でもやってないんじゃないかって。すがやんはそんな風に考え付いたそうだ。
 3年生の先輩たちが、それをどうすれば実現出来るかなとすぐに考え始めたその姿勢は、すがやんだけじゃなくて向島の1、2年生も凄いなって思ったって。そうだよなあ。いくら悪乗りがベースと言っても面白いこと、新しいことを本当にやっちゃうもんね。

「カノン、そっちどうだー?」
『声は届いてる! でもねー、こっちの通信環境がちょっと不安っちゃ不安。賭けだな!』
「最悪その辺は編集でどうとでもしよう!」
『そーだな!』

 今回は向島スタイルということで、生でぶっ通しの番組をベースにしながらも、必要があれば編集を使おうというスタンス。緑ヶ丘大学はサークル棟にもインターネット環境が整備されてるけど、向島大学はそうじゃない。
 こっちの声を受けるパソコンは野坂先輩が用意してくれてるけど、それもスマホのテザリングで動かしてるんだそうだ。一般的にWi-Fi接続のイメージがあるけど今回はUSB接続だから回線やバッテリーは比較的安定するのかな。そこでパッとケーブルとかが出て来る辺りがさすが野坂先輩だ。

『それで、これが改めて今回のキューシート! ちょっとだけ変わってるから緑ヶ丘の皆さんにも周知よろしくー』
「はーい。あっ、皆さん、キューシートの確認お願いします!」
「こうやってリアルタイムでキューシートが送られてくる時代だべ」
「ネット環境があれば出来ちゃうんだよね。もしかしたらインターフェイスでやる番組も、リモート顔合わせとかになる時が来るのかもね」
「ちょっと味気ないけど、それはそれでありなのかもな」
「雨の日とかはそれで済ませられれば楽かなとは。必要に応じて方法を選んでいけたらいいのかもね」

 ちなみに、今回使っているのはDiscordだ。向こうは野坂先輩や神崎先輩がよく使っているし、こっちも俺やサキ、レナが使ってて馴染みがあったからこれで行ってみようかって。何なら複数人でも会話に参加出来るから、別にマイクの前にいなくたって番組内で喋れるんだ。
 実際サキとレナは緑ヶ丘と向島の合同企画として恒例になりつつある缶蹴り大会の、緑ヶ丘会場にするならここだという場所の現地レポートを担当することになっている。最近サキとレナが結構仲が良いみたいなんだよね。番組でもペアだし、息が合って来たのかな。

「今までって番組でスマホを使うのはご法度だったのに、それで通話した内容をそのまま番組にするとか。昔の人らが見たら発狂するんじゃね?」
「せっかくなら驚いてもらおうよ。温故知新だっけ? 昔のことも大事にしながら新しいことをやるって」
「どっちかと言えば不易流行の方が今の俺らには合ってるべ」
「それ、どういう意味?」
「いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていく、的な」
「さすがエイジ。まさにそれだね」
「温故知新はすがやんが専攻にしてる学問じゃね? 文化財とか発掘とかさ。昔の事をたずね求めて、そこから新しい知識や見解を導くことっていう」
「確かに」

 すがやんとカノンのやり取りの中で、着々と本番オンエアに向けた準備が整って行く。そして外での中継に出ているサキとレナとも通話のテストをして、行けそうなら1回録音テストをするという流れだ。
 1時間にわたる番組の中では、向島さんの10大ニュースを紹介しながら合間合間にミニコーナーを挟む。カノンが入ってくれたこと、すがやんが留学に来たこと、大学祭でポテトがたくさん売れたこと……向島さんも、今年はいろいろあったみたいだ。ウチはどうだったかな。

『タカティ、野坂です』
「あ、野坂先輩お疲れさまです」
『そっちの機材面のことはよろしくお願いします』
「はい。こちらもよろしくお願いします」
『何かあれば適宜テキチャで伝えるって感じで』
「了解です」
『そっちでも収録する?』
「そうですね。何があってもいいようにBGMとマイクとパソコン、スマホは全部別トラックで独立した音として録音しようかと」
『おー、やるね。今は時間ないし環境とかまた今度教えて』
「了解です。こっちは準備出来てますし、あとは向島さんのタイミングでオッケーです」
『それじゃ、カノンに戻します』
『それじゃあ1分後に始めまーす!』

 いよいよ今年の総まとめにして新たな冒険が始まる。番組の構成自体は至ってよくあるそれに近いんだけど、こういう手法で遊べるっていうことがすごくワクワクする。後から編集できちんとひとつの番組に出来たら、4年生の先輩たちにも聞いてもらいたいな。


end.


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今期MBCC&MMPの集大成にして総決算、年末番組は一緒に番組をやろうということになったようです。冒険していくスタイル。
新しいことをやるときにはちょっとくらいふざけていた方がこれというアイディアも出て来るのかもしれない。それが代々MMPに伝わってきた空気。
その流れを見ながらしみじみとしているのがこれからの時代を引っ張って行く現2年生のタカエイ。 だけどTKGにはもうひと勝負あるぞ

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