2020(04)

■世紀の大放送実験

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「L先輩、これってどーゆー機材なんすか?」
「高木が言うには、これを食堂の機材に接続してやれば、理論上佐藤ゼミのラジオブースからの音を同時配信出来るらしい」
「マジすか! すげー!」

 高木から実験を手伝って欲しいと頼まれて、俺はシノを引き連れて第1食堂の事務所にお邪魔している。この実験を店長さんには快く了承してもらったので、あとは高木との連携でどこまでやれるかだ。
 アイツがゼミの機材の山の中から掘り起こしてきたらしい物を言われた通りに食堂の機材に接続する。高木は佐藤ゼミのラジオブースにいるから、スマホで連携しながらリアルタイムでの実験だ。

「シノ、お前は食堂の客席の方に行って音を聞いてきてくれるか。都度報告頼む」
「了解っす!」

 高木はLINEを入れてないから、SMSの方で連絡を取り合う。準備が出来たとメッセージを送信すると、実験を始めますと返信が来た。ジングルを3パターンほどリピートで流しますと。音楽だけでなくマイクテストも忘れない。
 俺の手元の機材でも一応モニターは出来るけど、肝心なのはシノのいる客席だ。客席の方ではどう聞こえるか。そもそも佐藤ゼミからの音は届くのかという話だ。「流してます」というメッセージに追随するように、「聞こえてます」とはシノ。
 それに対して「音量は?」とか「ノイズは?」と俺と高木がポコポコとシノを質問責めにする。音の聞こえ方はラジオブース側と食堂側、双方で調整してちょうどいいところを探さなければならないからだ。

「うーん、音量を上げるとノイズがちょっと入るか」

 食堂の機材の音量を上げるとノイズが強くなるようなので、佐藤ゼミ側の音量を上げてもらう。そっちではノイズの変化が少なかったようなので、食堂側の音量は触らない方が良いという結論が出た。
 高木によれば、食堂でもちゃんと聞こうとするには主音量のレベルが普段俺たちが番組をやっている時よりも少し大きめになるそうだ。それだと普段ゼミのラジオをメインで流しているラジオブース前と外のスピーカーが強くなりすぎるけど、自分で何とかするとのこと。

「L先輩、シノも。実験に付き合ってもらってありがとうございました」
「と言うかどうしたんだ、唐突にそんな実験なんて」
「ここだけの話なので内緒にしておいてもらいたいんですけど、シノ大丈夫? 喋らないでよ?」
「大丈夫っす! 絶対喋らないっす!」
「えーとですね、年明けの15日、金曜日ですかね。佐藤ゼミのラジオブースで高崎先輩と番組をやることになりました」
「えー! 高木先輩マジすか!?」
「いや、つか高木、お前どうやってあの人とそんな話付けたんだ? 高崎先輩って確かヒゲさんに関わりたくないって言ってラジオの話とか断り続けてきたんだろ」
「先生にはもちろん内緒ですよ。その日に果林先輩との番組の枠をもらってたんで、果林先輩に頼んで貸してもらいました。高崎先輩へのオファーは、FMにしうみで出待ちして頼み込んで。で、佐藤ゼミの番組じゃなくて、あくまでMBCC昼放送として。あのブースを乗っ取っちゃおうかなと思ったんですよね。で、せっかくMBCC昼放送だったら1月になっちゃってますけど第1食堂でも流したいなあと思って今回の実験を。年内にも1回果林先輩とゼミの昼放送があるので、そこでリハーサルをしようかと。MBCCの金曜日の枠が空いちゃうので」

 飄々とした顔をして言うけど、自分がどんだけヤバいこと言ってるのかわかってねーのかなコイツ。FMにしうみでの出待ちは学祭の時にサキがやってたけど、アイツは西海在住だからまだやりやすい。高木なんか思いっきり逆方向じゃねーか。
 それから、番組をやることが決定したってことは、高崎先輩とのプレゼンバトルに勝ったってコトだろ。どんな説得をして高崎先輩を落としたのかっていう方が気になりすぎて仕方ない。

「すげーっす高木先輩! どーやったらラジオブースの番組を食堂に飛ばすっつー発想になるんすか! 俺ら歴史の目撃者になるっつーコトっすよね!」
「それでシノに頼みたいんだけど、当日は学食の機材の方をお願いしていい? シノならMBCCで次期佐藤ゼミ生でもあるから頼みやすいし」
「え、ラジオブースの前で聞く気マンマンだったんすけど。あ、年内の方なら全然オッケーっす」
「高木、年明けの方は俺がやろうか。シノには生きた番組を目の前で聞かせてやりたい」
「L先輩すみません、お願いします」

 高木は今年になってパソコンやその他の新しい機材や手法を使い始めた途端生き生きし始めたけど、こうまで来るとコイツのスケールはどこまで広がるんだって末恐ろしくも感じる。高崎先輩相手にどんな手を使ってくるのかが今から楽しみだ。

「やっぱ、ゼミのラジオっすからそりゃあもうすっごい機材とかをバリバリつかってわーって感じにやるんすか!?」
「ううん、ミキサーと各種デッキだけっていう去年までのMBCCの仕様で行くよ。パソコンはファイル保存用。それでここまでやれるようになりましたよっていう、何だろ、証明?」
「高木、恩返しの方が近いんじゃないか」
「そうかもしれないですね。それをやるための番組です」
「えー、デッキとミキサーだけっすかー」
「シノ、コイツは元々それだけでああいう番組をやってたんだぞ。お前もしっかり勉強しとけ」
「はぁ~い」


end.


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タカちゃんが暗躍に向けて本格的に動いているようです。フェーズ2に入って暗躍に拍車がかかっている
あくまでMBCC昼放送としてのシンプルな機材構成での番組で勝負をかけたいというこだわり。タカちゃんの頑固さがちょっと出ている様子。
果林の協力もあってのブース乗っ取り作戦決行です。シノはじめMBCCの1年生たちにも歴史の目撃者になってもらいたいですね

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