2018
■消えたゼリーとしきたりと
++++
星港大学に入学して3週間ほど。授業が大学っぽくて感動してるし、サークルにも入った。サークルはちょっと前に話を聞いた放送サークルに決めた。だって先輩が優しそうだったから。それから、情報センターのバイトにも慣れてきた。
今日は授業の後からシフトが入っていて、4時半から午後9時までという4時間半のシフト。センターの開放時間は夜の8時までだけど、日報を書いたり片付けをしたり、明日の準備や掃除をしていると、それくらいの時間になってしまう。
時々、合間を見つけてお茶を飲んだり、簡単なおやつを摘んで息抜きをしたりすることも割と普通らしい。俺も今日は街に出かけて見つけたおやつを差し入れとして持ってきてみた。って言うか実は朝イチで持ってきて冷蔵庫に入れてあるんだけど。冷えたかなあ、わくわく。
「おはようございまーす」
「お、川北。来たか」
センターに来た俺を出迎えてくれたのは、珍しく(!?)事務所で受付の仕事をしていた林原さんだ。B番の主とまで言われる程B番……自習室にばかりいる林原さんでも、春山さんの意向で月に2、3回は受付をやることになっているらしい。
林原さんは自他ともに認める受付適性「×」で、俺が来たことでA番から離れられるとあからさまに肩の力が抜けた様子。俺は今のところどっちかに偏ったシフトじゃないけど、林原さんと組む時はA、春山さんの時はBが多い気がする。
「しかし、受付などという慣れんことをやると肩が凝るし疲れる」
「あっ、林原さん! 俺今日おやつ持ってきてるんですー! 甘くて美味しそうだなーって思って買ってきて、もう冷蔵庫の中に冷やしてあってー。食べてください!」
「ほう。ではもらおうか」
「はーい」
――と、冷蔵庫を開けた瞬間、俺は何が起こったのかまるで理解が出来なかった。小さなカップタイプのメロンゼリーがいくつも入ったプラスチックの容器を確かに入れたんだけど、20個は入っていたゼリーがあと1個になっている。
「川北、どうした」
「は、林原さ~ん! ゼリーが大量になくなっちゃってます!」
「ゼリーだったのか。それはどんなゼリーだ」
「昨日「北の大地の美味いもの展」っていうのがやってて、そこで買ったメロンゼリーです~! 一口サイズのゼリーが20個は入ってたんですけど~!」
「北辰の物産展か。川北、おそらくこれは不運が重なった結果、食われたな」
「え~!? えっ、不運って」
林原さんが持ってきてくれたゴミ箱を覗き込むと、やっぱりゼリーの殻が入っていた。今はB番で自習室にいる先輩が冷蔵庫を開けてゼリーを食べているのを林原さんは見ていたそうだ。それを何故不思議に思わなかったのかというと、情報センターの慣習にあった。
「春山さんが北辰の人でな」
「あ、そうなんですねー」
「で、あの人は帰省する度に土産を爆買いしてくる。それはもう妖怪菓子配りと呼んでも何ら語弊がない。で、このメロンゼリーも春山さんがよく買ってくる物だから、センター的にはまたあの人が持ち込んだんだろうという認識だった」
「そういうことだったんですねー」
「春山さんがセンターに持ち込む土産物の類は勝手に食っていいというのが暗黙の了解になっている。今回の件はそれが引き起こした事故だろう」
「そうだったんですねー」
「残り1個のゼリーはお前が食うといい。オレは春山さんの次の帰省時期を知っている。何の問題もない」
「ありがとうございますー」
ゼリーをつるっと口の中に滑らせると、メロンの濃い味がふわ~って広がって本当に美味しい。買って良かった! でも俺は1個しか食べてないんだよなあ。600円したんだよなあ……美味しいからいいんだけど、もうちょっと食べたかったなあ。そして、受付の席に着く前にお茶を淹れる。お湯は沸いてたから、後はカップにティーバッグを入れて、……って!
「林原さん!」
「今度はどうした」
「俺のほうじ茶が減ってます! 俺が飲んだ以上にティーバッグが減ってる気がします!」
「……この件は事故ではなく、確信犯的に行われた事案だな。川北、土田と顔を合わせたことはなかったか」
「ない、ですね。はい」
「そうか。では今顔合わせをするといい」
そう言って林原さんは自習室へ行ってしまった。そして帰って来れば、林原さんと一緒にやってきたのはショートカットの女の人だ。すっごいプロポーションだなっていうのが第一印象。あ、いや、やましい意味じゃなくてですけど!
「やァー、2年の土田冴スわ。ゼリーは自分が美味しくいただきヤした」
「1年の川北碧ですー」
「川北、ゼリーもほうじ茶もコイツの犯行だ」
「ゼリーの件は事故処理で問題ないですけど飲み物は各自じゃないんですかー」
「この土田は人の物を勝手に盗っていくことに罪悪感を持たん。持ち物の管理は気を付けろ」
「何卒ヨロシクオナシャース」
センタースタッフの磁石の数と、俺の知っている顔の数はまだ一致しない。これからどれだけ濃い人が出てきても、驚かない、驚かない。
end.
++++
ミドリドンマイ。冴さんの登場パターンは大体着替えシーンの出落ちが多いのですが、今回はゼリーを食べるという悪行である。
「オレは春山さんの次の帰省時期を知っている」www これは意訳すると「買って来させる」という意味ですね……
これからどれだけ濃い人が出て来ても驚かない。きっとその言葉通りにミドリには変人耐性が出来て来るんだなあ。まあ、最初はわーって言うだろうけど
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星港大学に入学して3週間ほど。授業が大学っぽくて感動してるし、サークルにも入った。サークルはちょっと前に話を聞いた放送サークルに決めた。だって先輩が優しそうだったから。それから、情報センターのバイトにも慣れてきた。
今日は授業の後からシフトが入っていて、4時半から午後9時までという4時間半のシフト。センターの開放時間は夜の8時までだけど、日報を書いたり片付けをしたり、明日の準備や掃除をしていると、それくらいの時間になってしまう。
時々、合間を見つけてお茶を飲んだり、簡単なおやつを摘んで息抜きをしたりすることも割と普通らしい。俺も今日は街に出かけて見つけたおやつを差し入れとして持ってきてみた。って言うか実は朝イチで持ってきて冷蔵庫に入れてあるんだけど。冷えたかなあ、わくわく。
「おはようございまーす」
「お、川北。来たか」
センターに来た俺を出迎えてくれたのは、珍しく(!?)事務所で受付の仕事をしていた林原さんだ。B番の主とまで言われる程B番……自習室にばかりいる林原さんでも、春山さんの意向で月に2、3回は受付をやることになっているらしい。
林原さんは自他ともに認める受付適性「×」で、俺が来たことでA番から離れられるとあからさまに肩の力が抜けた様子。俺は今のところどっちかに偏ったシフトじゃないけど、林原さんと組む時はA、春山さんの時はBが多い気がする。
「しかし、受付などという慣れんことをやると肩が凝るし疲れる」
「あっ、林原さん! 俺今日おやつ持ってきてるんですー! 甘くて美味しそうだなーって思って買ってきて、もう冷蔵庫の中に冷やしてあってー。食べてください!」
「ほう。ではもらおうか」
「はーい」
――と、冷蔵庫を開けた瞬間、俺は何が起こったのかまるで理解が出来なかった。小さなカップタイプのメロンゼリーがいくつも入ったプラスチックの容器を確かに入れたんだけど、20個は入っていたゼリーがあと1個になっている。
「川北、どうした」
「は、林原さ~ん! ゼリーが大量になくなっちゃってます!」
「ゼリーだったのか。それはどんなゼリーだ」
「昨日「北の大地の美味いもの展」っていうのがやってて、そこで買ったメロンゼリーです~! 一口サイズのゼリーが20個は入ってたんですけど~!」
「北辰の物産展か。川北、おそらくこれは不運が重なった結果、食われたな」
「え~!? えっ、不運って」
林原さんが持ってきてくれたゴミ箱を覗き込むと、やっぱりゼリーの殻が入っていた。今はB番で自習室にいる先輩が冷蔵庫を開けてゼリーを食べているのを林原さんは見ていたそうだ。それを何故不思議に思わなかったのかというと、情報センターの慣習にあった。
「春山さんが北辰の人でな」
「あ、そうなんですねー」
「で、あの人は帰省する度に土産を爆買いしてくる。それはもう妖怪菓子配りと呼んでも何ら語弊がない。で、このメロンゼリーも春山さんがよく買ってくる物だから、センター的にはまたあの人が持ち込んだんだろうという認識だった」
「そういうことだったんですねー」
「春山さんがセンターに持ち込む土産物の類は勝手に食っていいというのが暗黙の了解になっている。今回の件はそれが引き起こした事故だろう」
「そうだったんですねー」
「残り1個のゼリーはお前が食うといい。オレは春山さんの次の帰省時期を知っている。何の問題もない」
「ありがとうございますー」
ゼリーをつるっと口の中に滑らせると、メロンの濃い味がふわ~って広がって本当に美味しい。買って良かった! でも俺は1個しか食べてないんだよなあ。600円したんだよなあ……美味しいからいいんだけど、もうちょっと食べたかったなあ。そして、受付の席に着く前にお茶を淹れる。お湯は沸いてたから、後はカップにティーバッグを入れて、……って!
「林原さん!」
「今度はどうした」
「俺のほうじ茶が減ってます! 俺が飲んだ以上にティーバッグが減ってる気がします!」
「……この件は事故ではなく、確信犯的に行われた事案だな。川北、土田と顔を合わせたことはなかったか」
「ない、ですね。はい」
「そうか。では今顔合わせをするといい」
そう言って林原さんは自習室へ行ってしまった。そして帰って来れば、林原さんと一緒にやってきたのはショートカットの女の人だ。すっごいプロポーションだなっていうのが第一印象。あ、いや、やましい意味じゃなくてですけど!
「やァー、2年の土田冴スわ。ゼリーは自分が美味しくいただきヤした」
「1年の川北碧ですー」
「川北、ゼリーもほうじ茶もコイツの犯行だ」
「ゼリーの件は事故処理で問題ないですけど飲み物は各自じゃないんですかー」
「この土田は人の物を勝手に盗っていくことに罪悪感を持たん。持ち物の管理は気を付けろ」
「何卒ヨロシクオナシャース」
センタースタッフの磁石の数と、俺の知っている顔の数はまだ一致しない。これからどれだけ濃い人が出てきても、驚かない、驚かない。
end.
++++
ミドリドンマイ。冴さんの登場パターンは大体着替えシーンの出落ちが多いのですが、今回はゼリーを食べるという悪行である。
「オレは春山さんの次の帰省時期を知っている」www これは意訳すると「買って来させる」という意味ですね……
これからどれだけ濃い人が出て来ても驚かない。きっとその言葉通りにミドリには変人耐性が出来て来るんだなあ。まあ、最初はわーって言うだろうけど
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