2020(04)
■積み重ねる記憶
++++
「おーいユーヤぁ」
「遅えよ。寒くてしょうがねえ」
「ンだと、時間きっかりに来てんだろーがよ。ほら行くぞ」
太一に呼び出され、連れて行かれたのは某所飲み屋。何でも、積もる話があるとかないとか。元々音楽関係の知り合いだが、その関係で何か喋ることでもあるのだろうか。コイツはバンドを掛け持ちしたりネット上でも作った曲を公開したり忙しくしているようだが。
「くぁーっ! 卒研仕上げた後のビールがうめー!」
「もう卒論終わったのか」
「年末年始はクソ忙しいからよ。本来なら時間ギリギリまで粘るべきなんだろうけど、ンなコトやってる時間がねーんだよ」
「理系は卒研って言うんだな」
「つかユーヤ、お前は卒研終わったん?」
「俺は最後の追い込みをやってるトコだな。フィールドワークのまとめとかな」
緑ヶ丘では卒論の提出が1月8日の5時までとか、確かそれくらいだったと思う。それまでに紙で刷った物を学生課に提出して、一応ファイルでも安部ちゃんにメールで提出しなければならないということになっている。
先月で全てのフィールドワークを終え、今はそれらで得た物をまとめて文章にしている。それなりにちゃんと着地出来そうだし、今から詰むことはないだろうからヒゲのところに行かなくて済みそうでただただホッとしている。
「お前今年の年末って声かかってる?」
「あー、例の音楽祭か。何か長谷川から連絡来たけど、ドラムやらないならバーカウンターで酒出せっつって招集はされてる」
「現場にはいるんだな」
「顔出さねえとあのクソ野郎がうるせえからな。それから、拓馬さんも来るし一応」
拓馬さんと言えば、9月には「スラップソウルは長くない」という風に言っていたが、あれから割とすぐにバンドは解散したって聞いた。ただ、バンドを解散してからも拓馬さんは音楽を続けていると聞いて、どこかで「そうだよな」と強がって、己を安心させた自分がいた。
俺が荒れていたときに星港の街で出会った拓馬さんと打ち解けたって程じゃないけど、それなりに話していたのも音楽のことだ。俺はドラムをやっていて、拓馬さんはベースをやっていて。セッションの経験はないけど、当時の数少ない楽しかった記憶のひとつだ。
それが去年開かれたシャッフルバンド音楽祭なる内輪ライブ企画と、壮馬が思い付きで復活させたThe Cloudberry Funclubというバンドのサポメンとして拓馬さん(と太一)を招集させてもらったことで実際一緒にプレイすることが出来て。きっとこれも学生時代の楽しい記憶として残るだろう。
「そーだ、俺さ、CONTINUEでも出るんだけど、ソルと、スガと、リンと4人で即興バンド組んでやることにしてんだよ!」
「は? 何言ってんだお前。即興バンド?」
「まー言って即興でもないんだけどな。USDXの元いるバンドマンがパソコンの画面から飛び出して現世に降り立ったってだけの話だし」
拓馬さんと太一はネット上、ゲームの世界で出会った所謂オンライン上の友達というヤツで、今ではゲーム実況ということをグループでやっているらしい。そのグループでは音楽活動もしているとかで、太一が作った曲を定期的に公開しているとか何とか。
その曲も聞いたけど普通にカッコ良かったから、これを拓馬さんがやってるならむしろアリじゃねえかと1人で興奮していたのは少し前のこと。拓馬さんと太一の他には太一の相棒のドラマー・菅野と、リン君がバンドメンバー。確かに腕の立つ顔ぶれだ。
「ほら、年末はソーマも来るだろ、アイツ本業はいいのかよって感じだよな!」
「それな。年末なんか音楽で飯食ってる奴は休む時間もないくらいの方がいいだろうに。そうだ太一、お前就職すんだろ。音楽で飯食ってくのか?」
「もちろんよ!」
「マジか」
「ゲーム会社に就職決まってっから! ほら? 俺って音楽も書けるけどパソコンのプログラムの方も、ハードの方も扱えるし!?」
「いろんな強みがあるんだな」
「そーよ。あっ、ユーヤお前も就職だろ? 何すんの?」
「まあ、俺は星港市のために働くことになるんだろうな」
「え、何それ」
「来春からは星港市職員だ」
「は!? 公務員っつーコト!?」
「だな」
「えー!? やー、今まで聞いた進路の中でお前が一番ビビった! えー!」
「そんなに驚くことかよ」
確かにリン君の進学とか、そういうのに比べればそこに行くかっていう感じはあるけど、そこまで驚かれることかと。俺だって生粋の星港市民だし。いや、生粋の星港市民でも職員になろうっつーヤツはそこまで多くないか。
「話は戻るけど、拓馬さんとの即興バンドっつーヤツ? どういう形態のバンドなんだよ。ロックとかポップとか、ボーカルありとかなしとか」
「ジャズみもちょっとあるロックっぽいインストバンドだな。ほら、朝霞がいねーから詞がねーんだよ」
「あ? もしかして壮馬が提供したギター練習曲とかいうのって」
「朝霞の練習用だよ。アイツは真面目だからちょっと出来るようになったけど、キョージュは不真面目だからバイオリンの練習しねーしあの野郎」
太一はブツクサと文句を垂れているが、それでも本当に不満だという顔でもないからそれはそういうものだと踏ん切りがついているのだろう。ネット上、リアル、公私、コイツはその都度求められた音楽や作りたい音楽を書き続けるだけだ。
「ユーヤ、公務員は金持つだろ。奢れよ」
「何言ってんだ。音楽で当てる方がデカいだろ。お前が奢れよ」
end.
++++
多分これから腐れ縁みたくなっていくのであろう高崎とカンDです。何だかんだここは仲が良いっぽいですね。
カンDの進路も無事に決まってましたし、高崎も進路が正式に決まってからは少しずつですが人に話すこともしている様子。
と言うかトリプルメソッドの年末のスケジュールよ。ガツガツに埋まって来るのはこれからなのかしら。頑張れ。
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「おーいユーヤぁ」
「遅えよ。寒くてしょうがねえ」
「ンだと、時間きっかりに来てんだろーがよ。ほら行くぞ」
太一に呼び出され、連れて行かれたのは某所飲み屋。何でも、積もる話があるとかないとか。元々音楽関係の知り合いだが、その関係で何か喋ることでもあるのだろうか。コイツはバンドを掛け持ちしたりネット上でも作った曲を公開したり忙しくしているようだが。
「くぁーっ! 卒研仕上げた後のビールがうめー!」
「もう卒論終わったのか」
「年末年始はクソ忙しいからよ。本来なら時間ギリギリまで粘るべきなんだろうけど、ンなコトやってる時間がねーんだよ」
「理系は卒研って言うんだな」
「つかユーヤ、お前は卒研終わったん?」
「俺は最後の追い込みをやってるトコだな。フィールドワークのまとめとかな」
緑ヶ丘では卒論の提出が1月8日の5時までとか、確かそれくらいだったと思う。それまでに紙で刷った物を学生課に提出して、一応ファイルでも安部ちゃんにメールで提出しなければならないということになっている。
先月で全てのフィールドワークを終え、今はそれらで得た物をまとめて文章にしている。それなりにちゃんと着地出来そうだし、今から詰むことはないだろうからヒゲのところに行かなくて済みそうでただただホッとしている。
「お前今年の年末って声かかってる?」
「あー、例の音楽祭か。何か長谷川から連絡来たけど、ドラムやらないならバーカウンターで酒出せっつって招集はされてる」
「現場にはいるんだな」
「顔出さねえとあのクソ野郎がうるせえからな。それから、拓馬さんも来るし一応」
拓馬さんと言えば、9月には「スラップソウルは長くない」という風に言っていたが、あれから割とすぐにバンドは解散したって聞いた。ただ、バンドを解散してからも拓馬さんは音楽を続けていると聞いて、どこかで「そうだよな」と強がって、己を安心させた自分がいた。
俺が荒れていたときに星港の街で出会った拓馬さんと打ち解けたって程じゃないけど、それなりに話していたのも音楽のことだ。俺はドラムをやっていて、拓馬さんはベースをやっていて。セッションの経験はないけど、当時の数少ない楽しかった記憶のひとつだ。
それが去年開かれたシャッフルバンド音楽祭なる内輪ライブ企画と、壮馬が思い付きで復活させたThe Cloudberry Funclubというバンドのサポメンとして拓馬さん(と太一)を招集させてもらったことで実際一緒にプレイすることが出来て。きっとこれも学生時代の楽しい記憶として残るだろう。
「そーだ、俺さ、CONTINUEでも出るんだけど、ソルと、スガと、リンと4人で即興バンド組んでやることにしてんだよ!」
「は? 何言ってんだお前。即興バンド?」
「まー言って即興でもないんだけどな。USDXの元いるバンドマンがパソコンの画面から飛び出して現世に降り立ったってだけの話だし」
拓馬さんと太一はネット上、ゲームの世界で出会った所謂オンライン上の友達というヤツで、今ではゲーム実況ということをグループでやっているらしい。そのグループでは音楽活動もしているとかで、太一が作った曲を定期的に公開しているとか何とか。
その曲も聞いたけど普通にカッコ良かったから、これを拓馬さんがやってるならむしろアリじゃねえかと1人で興奮していたのは少し前のこと。拓馬さんと太一の他には太一の相棒のドラマー・菅野と、リン君がバンドメンバー。確かに腕の立つ顔ぶれだ。
「ほら、年末はソーマも来るだろ、アイツ本業はいいのかよって感じだよな!」
「それな。年末なんか音楽で飯食ってる奴は休む時間もないくらいの方がいいだろうに。そうだ太一、お前就職すんだろ。音楽で飯食ってくのか?」
「もちろんよ!」
「マジか」
「ゲーム会社に就職決まってっから! ほら? 俺って音楽も書けるけどパソコンのプログラムの方も、ハードの方も扱えるし!?」
「いろんな強みがあるんだな」
「そーよ。あっ、ユーヤお前も就職だろ? 何すんの?」
「まあ、俺は星港市のために働くことになるんだろうな」
「え、何それ」
「来春からは星港市職員だ」
「は!? 公務員っつーコト!?」
「だな」
「えー!? やー、今まで聞いた進路の中でお前が一番ビビった! えー!」
「そんなに驚くことかよ」
確かにリン君の進学とか、そういうのに比べればそこに行くかっていう感じはあるけど、そこまで驚かれることかと。俺だって生粋の星港市民だし。いや、生粋の星港市民でも職員になろうっつーヤツはそこまで多くないか。
「話は戻るけど、拓馬さんとの即興バンドっつーヤツ? どういう形態のバンドなんだよ。ロックとかポップとか、ボーカルありとかなしとか」
「ジャズみもちょっとあるロックっぽいインストバンドだな。ほら、朝霞がいねーから詞がねーんだよ」
「あ? もしかして壮馬が提供したギター練習曲とかいうのって」
「朝霞の練習用だよ。アイツは真面目だからちょっと出来るようになったけど、キョージュは不真面目だからバイオリンの練習しねーしあの野郎」
太一はブツクサと文句を垂れているが、それでも本当に不満だという顔でもないからそれはそういうものだと踏ん切りがついているのだろう。ネット上、リアル、公私、コイツはその都度求められた音楽や作りたい音楽を書き続けるだけだ。
「ユーヤ、公務員は金持つだろ。奢れよ」
「何言ってんだ。音楽で当てる方がデカいだろ。お前が奢れよ」
end.
++++
多分これから腐れ縁みたくなっていくのであろう高崎とカンDです。何だかんだここは仲が良いっぽいですね。
カンDの進路も無事に決まってましたし、高崎も進路が正式に決まってからは少しずつですが人に話すこともしている様子。
と言うかトリプルメソッドの年末のスケジュールよ。ガツガツに埋まって来るのはこれからなのかしら。頑張れ。
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