2020(03)
■What to talk about
++++
「ああ、菜月先輩! お待たせしました!」
「そんなに待ってないぞ。でもお腹空いたな。夕飯時と言え、平日だしスッと店に入れるといいんだけど」
「そうですね。立ち話も難ですし、行きましょうか」
サークルを終えたその足で、いつもとは逆のホームから豊葦市駅行きの電車に乗る。駅で菜月先輩と落ち合い、どの店に行こうかと明るい街に目をやる。今日は菜月先輩の誕生日ということで、一緒に食事でもとお誘いさせていただいたんだ。
駅から徒歩1分くらいのところにある鶏肉料理をメインにした店に入ることに決め、階段を下って行く。さすがに12月の夜ともなると随分と冷え込んでいて、寒さにはお強い菜月先輩でもネイビーのダウンジャケットを着こまれている。
「おっ、入れそうだな」
「そうですね。カウンターでもよろしいですか?」
「ああ。問題ないぞ」
席に着くなりお通しが出て来たので、とりあえず最初の一杯を頼もうかとメニューを一緒に眺める。俺はビールを、菜月先輩はレモンサワーで乾杯を。最近は飲み会続きで何となくビールを飲んでいるうちに少し慣れた感がある。比較的安価なのでこれで。
「それじゃ、乾杯」
「お疲れさまです。菜月先輩お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。何か、お前がカルピスサワーじゃないと変な感じがするな」
「生中が安いなと思って。最近では結構慣れたので普通に飲めるようになりましたが、カルピスサワーもこの後飲みます」
「慣れか」
「慣れですね。最近は短いスパンでインターフェイスの飲みや緑ヶ丘との交流会もあったので」
「ああ、そういう。確かにこないだ来週はインターフェイスって言ってたな」
フードはとりあえず焼き鳥と軟骨の唐揚げ、それからだし巻き卵を注文。何と言うか、今年に入って菜月先輩と2人でという機会がグッと減ったこともあって、何から話していいやらわからないなと思いつつ酒を煽る。
「インターフェイスの飲み会はどうだったんだ」
「大変素晴らしい目の保養で」
「お前は本当にブレないな」
「――という冗談はさておき、まあ、何でしょうか……大層な褒め殺しに遭って死ぬかと思いました」
「褒め殺し?」
「緑ヶ丘のササは覚えていらっしゃいますか? 背の高い1年生の」
「ああ、白パーカーのな」
「はい。アイツが俺をオールSの秀才でスポーツ万能、容姿端麗の完璧超人で気取らない人柄の親しみやすい先輩とか何とかと、それは誰だと机をひっくり返したくなる衝動に駆られる紹介をしやがりましてですね」
「お前が普段圭斗にやってることと全く同じじゃないか」
「圭斗先輩に関しては事実ではありませんか。俺のそれは、成績は確かに現状まだオールSですしスポーツも、人並みにはこなします。ですが! 容姿端麗ではないだろうと! それはもっともっと、そう、それこそ圭斗先輩のようにお美しい方に対して使う言葉でだな! ササともあろう文学少年が言葉の使い方を間違ってないかと! しかも俺はササや彩人と比べても身長だって低いし完璧超人じゃあ断じてない」
「まあ、身長で人としてのカッコよさは決まらないけどだな。ただ、確かにお前を完璧超人と言うには、まだ甘い」
「ですよね! さすが菜月先輩でいらっしゃいます!」
くぅーっ、さすが菜月先輩だぜ! 俺なんかが完璧超人であるはずがないんだぞ! もう、俺はこの人に一生ついて行くしかないのではないか? あと、身長で人としてのカッコよさは確かに決まらないが、俺はもう少し背が欲しかったとは思う。
「見る目が甘いと言うか、付き合いの短さもあるんだろうけどな。他校の先輩って凄く見えがちだし」
「それはわかる気がします」
「お前はうちと割と長く付き合ってる同じ大学の後輩だから、ボロクソに言うことにも抵抗はないし」
「ササと彩人の前で改めてボロクソに言っていただきたいくらいです。MMPではクズの一言で済む俺の素だって、気取らない人柄って。何をどう見たらそうなるんだ」
「本当だな。お前はクズでネガティブでどうしようもない奴だけど、悪い奴ではないし、実際身内以外の奴がお前をボロクソに言ってたらうちは多分そいつに対してそれなりに怒るから身勝手なんだけど」
「えーと……それは、どういう…?」
「仮にも3期1年半番組でペアを組んだ相棒だぞ。悪いところも知ってるけど、いいところもそれなりに知ってる。ただただお前をボロクソに言ってる奴に対しては、お前はコイツの何を知ってるんだって」
「俺には菜月先輩のそのお気持ちだけで十分です」
「まあ、実際お前をボロクソに言ってる奴なんかうちの知る限り圭斗や同期たちくらいだし、結局は内輪のノサカイジリ程度なんだよな」
俺に対して菜月先輩が仰ったことは、そのまま主語などをひっくり返したのが俺の気持ちではあるのだけど。それにしたって今のお言葉が嬉しすぎてそれはそれで死ねるし酒に逃げるしかなくなってきてるんだよな。
「圭斗だって村井サンをボロクソに言ってるけど、0.5割くらいは褒めてるし、何だかんだで悪友なんだよな」
「圭斗先輩と村井さんに関してはただの先輩後輩と言うよりはやや特殊な関係性にも見えますが」
「うん、まあ、飲もうか。別の話もしよう」
「そうですね」
end.
++++
ついさっき抽選会で顔を合わせてたと思うんだけど、実は密かにその後の約束をしてたんですね。なんやい。
圭斗さんと村井のおじちゃんのいつものヤツは本当にたまーに見たくなるヤツ。フェーズ2では頻発出来ないから昔のお話を読み返そう。
4年生で卒業間近の菜月さん。刻一刻とお別れの時が迫っているぞ。ちなみにこの段階で単位は程よく余裕になってます。
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「ああ、菜月先輩! お待たせしました!」
「そんなに待ってないぞ。でもお腹空いたな。夕飯時と言え、平日だしスッと店に入れるといいんだけど」
「そうですね。立ち話も難ですし、行きましょうか」
サークルを終えたその足で、いつもとは逆のホームから豊葦市駅行きの電車に乗る。駅で菜月先輩と落ち合い、どの店に行こうかと明るい街に目をやる。今日は菜月先輩の誕生日ということで、一緒に食事でもとお誘いさせていただいたんだ。
駅から徒歩1分くらいのところにある鶏肉料理をメインにした店に入ることに決め、階段を下って行く。さすがに12月の夜ともなると随分と冷え込んでいて、寒さにはお強い菜月先輩でもネイビーのダウンジャケットを着こまれている。
「おっ、入れそうだな」
「そうですね。カウンターでもよろしいですか?」
「ああ。問題ないぞ」
席に着くなりお通しが出て来たので、とりあえず最初の一杯を頼もうかとメニューを一緒に眺める。俺はビールを、菜月先輩はレモンサワーで乾杯を。最近は飲み会続きで何となくビールを飲んでいるうちに少し慣れた感がある。比較的安価なのでこれで。
「それじゃ、乾杯」
「お疲れさまです。菜月先輩お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。何か、お前がカルピスサワーじゃないと変な感じがするな」
「生中が安いなと思って。最近では結構慣れたので普通に飲めるようになりましたが、カルピスサワーもこの後飲みます」
「慣れか」
「慣れですね。最近は短いスパンでインターフェイスの飲みや緑ヶ丘との交流会もあったので」
「ああ、そういう。確かにこないだ来週はインターフェイスって言ってたな」
フードはとりあえず焼き鳥と軟骨の唐揚げ、それからだし巻き卵を注文。何と言うか、今年に入って菜月先輩と2人でという機会がグッと減ったこともあって、何から話していいやらわからないなと思いつつ酒を煽る。
「インターフェイスの飲み会はどうだったんだ」
「大変素晴らしい目の保養で」
「お前は本当にブレないな」
「――という冗談はさておき、まあ、何でしょうか……大層な褒め殺しに遭って死ぬかと思いました」
「褒め殺し?」
「緑ヶ丘のササは覚えていらっしゃいますか? 背の高い1年生の」
「ああ、白パーカーのな」
「はい。アイツが俺をオールSの秀才でスポーツ万能、容姿端麗の完璧超人で気取らない人柄の親しみやすい先輩とか何とかと、それは誰だと机をひっくり返したくなる衝動に駆られる紹介をしやがりましてですね」
「お前が普段圭斗にやってることと全く同じじゃないか」
「圭斗先輩に関しては事実ではありませんか。俺のそれは、成績は確かに現状まだオールSですしスポーツも、人並みにはこなします。ですが! 容姿端麗ではないだろうと! それはもっともっと、そう、それこそ圭斗先輩のようにお美しい方に対して使う言葉でだな! ササともあろう文学少年が言葉の使い方を間違ってないかと! しかも俺はササや彩人と比べても身長だって低いし完璧超人じゃあ断じてない」
「まあ、身長で人としてのカッコよさは決まらないけどだな。ただ、確かにお前を完璧超人と言うには、まだ甘い」
「ですよね! さすが菜月先輩でいらっしゃいます!」
くぅーっ、さすが菜月先輩だぜ! 俺なんかが完璧超人であるはずがないんだぞ! もう、俺はこの人に一生ついて行くしかないのではないか? あと、身長で人としてのカッコよさは確かに決まらないが、俺はもう少し背が欲しかったとは思う。
「見る目が甘いと言うか、付き合いの短さもあるんだろうけどな。他校の先輩って凄く見えがちだし」
「それはわかる気がします」
「お前はうちと割と長く付き合ってる同じ大学の後輩だから、ボロクソに言うことにも抵抗はないし」
「ササと彩人の前で改めてボロクソに言っていただきたいくらいです。MMPではクズの一言で済む俺の素だって、気取らない人柄って。何をどう見たらそうなるんだ」
「本当だな。お前はクズでネガティブでどうしようもない奴だけど、悪い奴ではないし、実際身内以外の奴がお前をボロクソに言ってたらうちは多分そいつに対してそれなりに怒るから身勝手なんだけど」
「えーと……それは、どういう…?」
「仮にも3期1年半番組でペアを組んだ相棒だぞ。悪いところも知ってるけど、いいところもそれなりに知ってる。ただただお前をボロクソに言ってる奴に対しては、お前はコイツの何を知ってるんだって」
「俺には菜月先輩のそのお気持ちだけで十分です」
「まあ、実際お前をボロクソに言ってる奴なんかうちの知る限り圭斗や同期たちくらいだし、結局は内輪のノサカイジリ程度なんだよな」
俺に対して菜月先輩が仰ったことは、そのまま主語などをひっくり返したのが俺の気持ちではあるのだけど。それにしたって今のお言葉が嬉しすぎてそれはそれで死ねるし酒に逃げるしかなくなってきてるんだよな。
「圭斗だって村井サンをボロクソに言ってるけど、0.5割くらいは褒めてるし、何だかんだで悪友なんだよな」
「圭斗先輩と村井さんに関してはただの先輩後輩と言うよりはやや特殊な関係性にも見えますが」
「うん、まあ、飲もうか。別の話もしよう」
「そうですね」
end.
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ついさっき抽選会で顔を合わせてたと思うんだけど、実は密かにその後の約束をしてたんですね。なんやい。
圭斗さんと村井のおじちゃんのいつものヤツは本当にたまーに見たくなるヤツ。フェーズ2では頻発出来ないから昔のお話を読み返そう。
4年生で卒業間近の菜月さん。刻一刻とお別れの時が迫っているぞ。ちなみにこの段階で単位は程よく余裕になってます。
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