2020(03)
■炎の瞳
++++
「皆さん、もし良ければおひとつどうぞ」
「わー! ありがとー! レナ、どこか行って来たの?」
「ちょっと山あいの方までバイクでひとっ走りしてきた。そこのお店で売ってたお菓子。美味しかったしくるみも良かったら」
「わーい、いっただっきまーす!」
「はい、高木先輩もどうぞ」
「ありがとう」
レナがみんなにツーリングのお土産を配ってくれている。秋冬らしくサツマイモを使ったお菓子のようで、それを順々にいただきまーすとひとつずつ手にしていく。俺もそれを頂いて、一口。うん、甘すぎなくて芋の味がしっかりしてる。美味しい。
「ツーリングって、どこに行きたいとかって決めて行くの?」
「決める時もあるし、決めない時もあるって感じです。今回は決めてました」
「へー。山の方に行ひははっはの?」
「くるみ、飲み込んでから喋りな。こないだすがやんがLINEに焚き火と焼き芋の画像のっけてたのに触発されて。それで、この近くでサツマイモを使ったお菓子とか名物とかがある場所を調べて行った」
「あ、俺の写真で? お前って思ったよりフットワーク軽いな」
「あの写真、ほんっとすがやんズルいって思った! ねえサキ!」
「え。俺に同意を求められても」
「ホント、すっげーずっこいよな! 俺だってあんな焚き火で焼き芋とかやってみてーし!」
「そうだよね! さすがシノは話が分かるね!」
レナのツーリングの発端は、すがやんが向島でやっていた焼き芋の写真だったらしい。そんな写真が送られて来たことは1年生たちから聞いて知ってたんだけど、さすが向島さんと言うか、自由と言うか。MBCCは焼き芋があれば食べる人ならたくさんいるだろうけど、自分たちで焼こうとはなかなかならないよね。
1年生たちの反応で言えば、食欲に寄っていたのがシノとくるみ。焚き火という行為自体への興味に寄っていたのがササとサキ。レナの反応は至って普通って感じだったけど、触発されてツーリングまでしてしまうなら意外に思うところはあったんだろうね。なかなか顔に出ない子だよね。
「でも、私もサツマイモスイーツ自体はついでって感じで、本当にいいなって思ったのは火を見つめることなんだよね」
「火を見つめる? レナ、火を眺めるの?」
「くるみ、キャンプファイア動画とかって知らない? 心を落ち着かせるとかよく眠れるとかのヒーリング効果が期待出来るって言われてて」
「へー、そうなんだ! レナは物知りだね!」
「人生への肯定感も強くなるって言うし、実際炎の動画を見てるだけでもネガティブな気持ちは消えてく。すがやんの写真を見て、そう言えば焚き火動画とかってあったなーと思って見始めたらハマっちゃって」
「玲那が今以上に肯定感を強めたら敵なしだろ」
「サキはもうちょっとあった方がいいと思うけどなー。基本自分下げだし。お前はすげーのに」
「うーん……特に自己肯定感とかは、低いよりは高い方がいいんだろうけど、高すぎても傲慢になりそうだし俺は今のままでいいや。あと、すがやんは話を盛りすぎ」
「自己肯定感が高すぎて嫌な振る舞いをしてる風に見える人っていうのは、自己肯定感が低いからそうなるんだよ。ちゃんと自分を見つめた上で、他者のこともきちんと尊重出来る人こそが、正しい自己肯定感の強い人だと私は思う。あ、サキは謙虚だけどもう少し自信持ってもいいとは私も思う」
「まあ、レナがそう言うなら」
「――っておーい! 何で俺はダメでレナなら納得すんだよ!」
すがやんがダメってワケじゃないと思うけど、レナの話すことには不思議な説得力があるんだなあとはこの数ヶ月でわかってきたことだ。自分とは違う他人を受け入れることに関して言えば、ササと付き合ってる時点で器の大きさや懐の深さが垣間見えてるんだけど。
1日の終わりに炎が揺れている動画を見て、ネガティブなこともリセットしてまた新しい日を迎えるというのがレナのルーティンになったらしい。ツーリングの目的地に設定していたのも、薪ストーブのあるお店だったそうだ。
「私、将来は家に薪ストーブ置きたいかも」
「……玲那、薪割りもやるんだろ?」
「やるね。案外いいストレス発散になるかも」
「つか、薪ストーブを置ける家って普通に一軒家じゃんな。でけー家になるぞ」
「ササ、いっぱいいっぱい稼がないとね!」
「陸さん、薪ストーブの脇でロッキングチェアに揺られつつ読書する時間ってどう思いますか」
「壁一面の本棚とロッキングチェアは俺の担当で」
「うわチョロっ」
ササとレナの結婚観はともかく、薪ストーブのあるリビングっていうのは確かにちょっと憧れるかも。北欧とか、あっちの方のイメージかな。そう言えば、焚き火動画ってよく眠れるようになるんだっけ。ちょっと、俺も一般的な時間に眠れるように焚き火動画、試してみようかな。
「今調べたら、薪ストーブでいろいろ出来るみたい。薪ストーブ料理っていうジャンルもあるくらいだし。焼き芋も遠赤外線の効果で美味しく出来るとかって」
「わ、ローストビーフうまそー」
「あったかい明るさの部屋で薪ストーブを眺めながらそれで作った料理を摘まんで一杯。夢があるね」
「好きだな~サキも」
「ササ、ホームパーティー開いてくれていいんだぞ。差し入れ持って行くし」
「あっ、あたしも行く行く!」
end.
++++
レナはフットワークが軽いしこれまで語られてないだけで結構アクティブに動く子だと思っている
薪ストーブでゆらゆら揺れる炎を眺めて1時間とか余裕でイケそうだし、サキとかもそういうのは好きそう。
すがやんがサキを上げてもいつものことだからもう「はいはい」って感じになっちゃってるんだろうなあ。ドンマイすがやん
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「皆さん、もし良ければおひとつどうぞ」
「わー! ありがとー! レナ、どこか行って来たの?」
「ちょっと山あいの方までバイクでひとっ走りしてきた。そこのお店で売ってたお菓子。美味しかったしくるみも良かったら」
「わーい、いっただっきまーす!」
「はい、高木先輩もどうぞ」
「ありがとう」
レナがみんなにツーリングのお土産を配ってくれている。秋冬らしくサツマイモを使ったお菓子のようで、それを順々にいただきまーすとひとつずつ手にしていく。俺もそれを頂いて、一口。うん、甘すぎなくて芋の味がしっかりしてる。美味しい。
「ツーリングって、どこに行きたいとかって決めて行くの?」
「決める時もあるし、決めない時もあるって感じです。今回は決めてました」
「へー。山の方に行ひははっはの?」
「くるみ、飲み込んでから喋りな。こないだすがやんがLINEに焚き火と焼き芋の画像のっけてたのに触発されて。それで、この近くでサツマイモを使ったお菓子とか名物とかがある場所を調べて行った」
「あ、俺の写真で? お前って思ったよりフットワーク軽いな」
「あの写真、ほんっとすがやんズルいって思った! ねえサキ!」
「え。俺に同意を求められても」
「ホント、すっげーずっこいよな! 俺だってあんな焚き火で焼き芋とかやってみてーし!」
「そうだよね! さすがシノは話が分かるね!」
レナのツーリングの発端は、すがやんが向島でやっていた焼き芋の写真だったらしい。そんな写真が送られて来たことは1年生たちから聞いて知ってたんだけど、さすが向島さんと言うか、自由と言うか。MBCCは焼き芋があれば食べる人ならたくさんいるだろうけど、自分たちで焼こうとはなかなかならないよね。
1年生たちの反応で言えば、食欲に寄っていたのがシノとくるみ。焚き火という行為自体への興味に寄っていたのがササとサキ。レナの反応は至って普通って感じだったけど、触発されてツーリングまでしてしまうなら意外に思うところはあったんだろうね。なかなか顔に出ない子だよね。
「でも、私もサツマイモスイーツ自体はついでって感じで、本当にいいなって思ったのは火を見つめることなんだよね」
「火を見つめる? レナ、火を眺めるの?」
「くるみ、キャンプファイア動画とかって知らない? 心を落ち着かせるとかよく眠れるとかのヒーリング効果が期待出来るって言われてて」
「へー、そうなんだ! レナは物知りだね!」
「人生への肯定感も強くなるって言うし、実際炎の動画を見てるだけでもネガティブな気持ちは消えてく。すがやんの写真を見て、そう言えば焚き火動画とかってあったなーと思って見始めたらハマっちゃって」
「玲那が今以上に肯定感を強めたら敵なしだろ」
「サキはもうちょっとあった方がいいと思うけどなー。基本自分下げだし。お前はすげーのに」
「うーん……特に自己肯定感とかは、低いよりは高い方がいいんだろうけど、高すぎても傲慢になりそうだし俺は今のままでいいや。あと、すがやんは話を盛りすぎ」
「自己肯定感が高すぎて嫌な振る舞いをしてる風に見える人っていうのは、自己肯定感が低いからそうなるんだよ。ちゃんと自分を見つめた上で、他者のこともきちんと尊重出来る人こそが、正しい自己肯定感の強い人だと私は思う。あ、サキは謙虚だけどもう少し自信持ってもいいとは私も思う」
「まあ、レナがそう言うなら」
「――っておーい! 何で俺はダメでレナなら納得すんだよ!」
すがやんがダメってワケじゃないと思うけど、レナの話すことには不思議な説得力があるんだなあとはこの数ヶ月でわかってきたことだ。自分とは違う他人を受け入れることに関して言えば、ササと付き合ってる時点で器の大きさや懐の深さが垣間見えてるんだけど。
1日の終わりに炎が揺れている動画を見て、ネガティブなこともリセットしてまた新しい日を迎えるというのがレナのルーティンになったらしい。ツーリングの目的地に設定していたのも、薪ストーブのあるお店だったそうだ。
「私、将来は家に薪ストーブ置きたいかも」
「……玲那、薪割りもやるんだろ?」
「やるね。案外いいストレス発散になるかも」
「つか、薪ストーブを置ける家って普通に一軒家じゃんな。でけー家になるぞ」
「ササ、いっぱいいっぱい稼がないとね!」
「陸さん、薪ストーブの脇でロッキングチェアに揺られつつ読書する時間ってどう思いますか」
「壁一面の本棚とロッキングチェアは俺の担当で」
「うわチョロっ」
ササとレナの結婚観はともかく、薪ストーブのあるリビングっていうのは確かにちょっと憧れるかも。北欧とか、あっちの方のイメージかな。そう言えば、焚き火動画ってよく眠れるようになるんだっけ。ちょっと、俺も一般的な時間に眠れるように焚き火動画、試してみようかな。
「今調べたら、薪ストーブでいろいろ出来るみたい。薪ストーブ料理っていうジャンルもあるくらいだし。焼き芋も遠赤外線の効果で美味しく出来るとかって」
「わ、ローストビーフうまそー」
「あったかい明るさの部屋で薪ストーブを眺めながらそれで作った料理を摘まんで一杯。夢があるね」
「好きだな~サキも」
「ササ、ホームパーティー開いてくれていいんだぞ。差し入れ持って行くし」
「あっ、あたしも行く行く!」
end.
++++
レナはフットワークが軽いしこれまで語られてないだけで結構アクティブに動く子だと思っている
薪ストーブでゆらゆら揺れる炎を眺めて1時間とか余裕でイケそうだし、サキとかもそういうのは好きそう。
すがやんがサキを上げてもいつものことだからもう「はいはい」って感じになっちゃってるんだろうなあ。ドンマイすがやん
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