2020(03)
■あれから1年が経って
++++
「高木先輩って、どうやって今みたいなミキサーとしてのスタイルにたどり着いたんですか?」
定例会終わりで鍋をやることになっていたらしい彩人の部屋に招かれて、俺も一緒にご飯を食べてたときのこと。話は思いがけず俺のミキサーとしてのスタイルについて飛んでいた。
その話を振ってきたのはササ(場所が彩人の部屋だしご愛敬的な感じで当たり前のようにいる)だけど、すがやんもサキも興味津々っていう感じだ。言って何か特別な経緯があってそうなってるワケでもないし、何て話したものか。
「そういや高木さんって一般的に言われる緑ヶ丘のイメージとは違うっすよね」
「一般的な緑ヶ丘のイメージってアレでしょ。基礎がきっちりなってて、お手本通りの番組をみんなが高いレベルでやってるっていう」
「そうっすね」
「確かに俺は緑ヶ丘っぽくないとはよく言われるよね。向島の人だけど、野坂先輩に代表されるようなお手本通りの番組なんて実際インターフェイスの場ではほとんどやったことないし」
「過去の番組を聞きましたけど、野坂先輩の番組って本当にきっちりしてましたね。キューシートを見ながら聞くのが楽しい番組でした」
「ああ、うん。分析好きのサキには楽しいだろうね」
「高木先輩の番組もそうやって聞くのが楽しいです」
「そう。楽しんでもらえてるなら何より」
俺のスタイルと言えば、オープニングから曲1、トーク1曲2……と言った綺麗な構成じゃなくて、とにかく型を取り払って音の流れや繋ぎ目がスムーズに、いい感じになることだけをイメージした構成だ。
今ではそれが俺の代名詞みたいになってるし、インターフェイスの中でも斬新な構成と言えばタカティ、みたいな風には言われてるみたいだ。今となってはそれを自然にやれるようにはなったけど、去年の今頃は、苦しかったなあ。
「実は、俺もよくある構成の番組をやろうともがいてた時期があったんだよ」
「え、そうなんですか」
「うん。去年の昼放送なんだけどね。ペアの相手が高崎先輩で。毎回番組が終わったら講評をもらってたんだ。どこが良かったとか悪かったとか。も~う毎回プレッシャーで」
「想像しただけで吐きそうだ」
「うん。あの果林先輩が恐れる高崎先輩だもんなー、めちゃくちゃ厳しそうだな」
今のアナウンサー陣も果林先輩にはビシバシしごかれてたけど、やっぱり高崎先輩のそれとは見劣り……と言ったら語弊があるか。高崎先輩の方が圧が強い分、雰囲気補正もあって厳しさに拍車がかかっていたように思う。
「ダメ出しされたところを直そうって毎回気を付けて番組をやるでしょ。それを繰り返すうちにこう、よくいるミキサーになってたんだよね。高崎先輩は俺とだったら面白い番組が出来るかなと思ってくれてたみたいなんだけど、結果としては期待を裏切る形になっちゃって。秋学期まるっと番組をやって、今の俺は伊東先輩の劣化コピーで、荒削りでも夏合宿の時の方が圧倒的に良かったって言われた時は……何と言うか……しばらくしてから悔しさがこみ上げてきたな」
「高木先輩のスタイルで高崎先輩がやるとか、そんなんぜってーカッケーじゃないすか! めっちゃ聞きたかったっす!」
「今の西海のラジオも聞いてるけど高木先輩のスタイルとはまた違うし、興味は俄然あるね。カッコいいんだろうな。聞いてみたかったな」
「サキ君が言うなら相当カッコいい先輩なんすね、その高崎さんて」
「彩人? 何でサキの言うことを根拠にするんだ。いや、実際格好いい先輩ではあるけどだな」
「それから俺は、相手がどんなアナウンサーさんだろうと自分の音でやろうって決めたんだよ。それで、たまたまその都度ペアになる人が俺のスタイルを知ってくれてて、任せたいって言ってくれて、現在に至ってるって感じ」
さすがに奇抜な構成に対応出来そうにない人相手のときはしないけど、そうじゃないときは大体遊ばせてもらってるかな。あと、佐藤ゼミ関係のときは大体果林先輩と組んでるから、2人とも悪乗りが加速してるって感じでもっと楽しい。
「高木先輩、高崎先輩との昼放送で、悔いとかはないですか?」
「そりゃああるよ。多分、サークル関係で一番の心残りじゃないかな。ずっと引っかかってるし。自分のこともそうだけど、やっぱり3年生相手の最後のクールだったわけじゃない。高崎先輩はどうだったのかなとも思っちゃうし」
「あー……俺も、L先輩の最後の相手になるんですね。そう考えたら何かしんみりしてきた。彩人、何か飲ませて」
「台所にあるから勝手に飲んで」
「はいはい」
「高木さん、ワンチャンリベンジの機会ってないんすか?」
「厳しいね。4年生はもう卒業するし、MBCCの昼放送ももう終わるし枠はいっぱいだし」
「枠がないならあるトコに借りたらいいんじゃないすか? 俺も留学してますし」
「それとこれとは事情が違うでしょ」
「それか、佐藤ゼミのラジオブースでやるとか。高木先輩の力で何とか、こう」
「俺はともかく高崎先輩は先生アレルギーみたいなところがあるし、ブースには入ってくれないよ」
「逆に、高木先輩が年内のうちにFMにしうみに殴り込むとか」
「ええー……サキ、大胆な案を出すね。出来ないよ、公共の電波だよ」
今の俺なら去年の俺には出来なかったことが出来るし、もしも実現できるならやってみたいとは思う。だけど、物理的な問題がある。何とか合法的にそれをぶち破れる手段があるなら検討の余地はあるけど、どっちにしても果林先輩に1回相談かな。
「あー、頭がこんがらがってきた。彩人、何か飲ませて」
「何飲みます? ウィスキーとかブランデーもありますよ」
「あ、ウィスキーもらえる?」
end.
++++
フェーズ1の今頃、高崎とタカちゃんが組んでたんですね、昼放送は。それをユノ先輩やら育ちゃんやらが外野でやいのやいの言ってたのが懐かしい。
定例会メンバーはすっかり仲良しなようですね。サキの口数の多さ(当人比)からも彩人とは打ち解けている様子。
しかしサキよ、年内のうちにお前がFMにしうみに殴り込みに行けばええやんってなかなかな案ですね。
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「高木先輩って、どうやって今みたいなミキサーとしてのスタイルにたどり着いたんですか?」
定例会終わりで鍋をやることになっていたらしい彩人の部屋に招かれて、俺も一緒にご飯を食べてたときのこと。話は思いがけず俺のミキサーとしてのスタイルについて飛んでいた。
その話を振ってきたのはササ(場所が彩人の部屋だしご愛敬的な感じで当たり前のようにいる)だけど、すがやんもサキも興味津々っていう感じだ。言って何か特別な経緯があってそうなってるワケでもないし、何て話したものか。
「そういや高木さんって一般的に言われる緑ヶ丘のイメージとは違うっすよね」
「一般的な緑ヶ丘のイメージってアレでしょ。基礎がきっちりなってて、お手本通りの番組をみんなが高いレベルでやってるっていう」
「そうっすね」
「確かに俺は緑ヶ丘っぽくないとはよく言われるよね。向島の人だけど、野坂先輩に代表されるようなお手本通りの番組なんて実際インターフェイスの場ではほとんどやったことないし」
「過去の番組を聞きましたけど、野坂先輩の番組って本当にきっちりしてましたね。キューシートを見ながら聞くのが楽しい番組でした」
「ああ、うん。分析好きのサキには楽しいだろうね」
「高木先輩の番組もそうやって聞くのが楽しいです」
「そう。楽しんでもらえてるなら何より」
俺のスタイルと言えば、オープニングから曲1、トーク1曲2……と言った綺麗な構成じゃなくて、とにかく型を取り払って音の流れや繋ぎ目がスムーズに、いい感じになることだけをイメージした構成だ。
今ではそれが俺の代名詞みたいになってるし、インターフェイスの中でも斬新な構成と言えばタカティ、みたいな風には言われてるみたいだ。今となってはそれを自然にやれるようにはなったけど、去年の今頃は、苦しかったなあ。
「実は、俺もよくある構成の番組をやろうともがいてた時期があったんだよ」
「え、そうなんですか」
「うん。去年の昼放送なんだけどね。ペアの相手が高崎先輩で。毎回番組が終わったら講評をもらってたんだ。どこが良かったとか悪かったとか。も~う毎回プレッシャーで」
「想像しただけで吐きそうだ」
「うん。あの果林先輩が恐れる高崎先輩だもんなー、めちゃくちゃ厳しそうだな」
今のアナウンサー陣も果林先輩にはビシバシしごかれてたけど、やっぱり高崎先輩のそれとは見劣り……と言ったら語弊があるか。高崎先輩の方が圧が強い分、雰囲気補正もあって厳しさに拍車がかかっていたように思う。
「ダメ出しされたところを直そうって毎回気を付けて番組をやるでしょ。それを繰り返すうちにこう、よくいるミキサーになってたんだよね。高崎先輩は俺とだったら面白い番組が出来るかなと思ってくれてたみたいなんだけど、結果としては期待を裏切る形になっちゃって。秋学期まるっと番組をやって、今の俺は伊東先輩の劣化コピーで、荒削りでも夏合宿の時の方が圧倒的に良かったって言われた時は……何と言うか……しばらくしてから悔しさがこみ上げてきたな」
「高木先輩のスタイルで高崎先輩がやるとか、そんなんぜってーカッケーじゃないすか! めっちゃ聞きたかったっす!」
「今の西海のラジオも聞いてるけど高木先輩のスタイルとはまた違うし、興味は俄然あるね。カッコいいんだろうな。聞いてみたかったな」
「サキ君が言うなら相当カッコいい先輩なんすね、その高崎さんて」
「彩人? 何でサキの言うことを根拠にするんだ。いや、実際格好いい先輩ではあるけどだな」
「それから俺は、相手がどんなアナウンサーさんだろうと自分の音でやろうって決めたんだよ。それで、たまたまその都度ペアになる人が俺のスタイルを知ってくれてて、任せたいって言ってくれて、現在に至ってるって感じ」
さすがに奇抜な構成に対応出来そうにない人相手のときはしないけど、そうじゃないときは大体遊ばせてもらってるかな。あと、佐藤ゼミ関係のときは大体果林先輩と組んでるから、2人とも悪乗りが加速してるって感じでもっと楽しい。
「高木先輩、高崎先輩との昼放送で、悔いとかはないですか?」
「そりゃああるよ。多分、サークル関係で一番の心残りじゃないかな。ずっと引っかかってるし。自分のこともそうだけど、やっぱり3年生相手の最後のクールだったわけじゃない。高崎先輩はどうだったのかなとも思っちゃうし」
「あー……俺も、L先輩の最後の相手になるんですね。そう考えたら何かしんみりしてきた。彩人、何か飲ませて」
「台所にあるから勝手に飲んで」
「はいはい」
「高木さん、ワンチャンリベンジの機会ってないんすか?」
「厳しいね。4年生はもう卒業するし、MBCCの昼放送ももう終わるし枠はいっぱいだし」
「枠がないならあるトコに借りたらいいんじゃないすか? 俺も留学してますし」
「それとこれとは事情が違うでしょ」
「それか、佐藤ゼミのラジオブースでやるとか。高木先輩の力で何とか、こう」
「俺はともかく高崎先輩は先生アレルギーみたいなところがあるし、ブースには入ってくれないよ」
「逆に、高木先輩が年内のうちにFMにしうみに殴り込むとか」
「ええー……サキ、大胆な案を出すね。出来ないよ、公共の電波だよ」
今の俺なら去年の俺には出来なかったことが出来るし、もしも実現できるならやってみたいとは思う。だけど、物理的な問題がある。何とか合法的にそれをぶち破れる手段があるなら検討の余地はあるけど、どっちにしても果林先輩に1回相談かな。
「あー、頭がこんがらがってきた。彩人、何か飲ませて」
「何飲みます? ウィスキーとかブランデーもありますよ」
「あ、ウィスキーもらえる?」
end.
++++
フェーズ1の今頃、高崎とタカちゃんが組んでたんですね、昼放送は。それをユノ先輩やら育ちゃんやらが外野でやいのやいの言ってたのが懐かしい。
定例会メンバーはすっかり仲良しなようですね。サキの口数の多さ(当人比)からも彩人とは打ち解けている様子。
しかしサキよ、年内のうちにお前がFMにしうみに殴り込みに行けばええやんってなかなかな案ですね。
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