2020(03)
■あの人からの金言
++++
こないだ、ひもじい思いをしているときに飯を食わしてもらってから、俺はたまに高崎先輩と話すようになっていた。高崎先輩が確実に学内にいるのは火曜日で、飯を食えるところか8号館のロビーによくいるという印象。で、今日は飯を一緒に食っている。あ、もちろん自分の分は自分で出してる。
「へー、台本をただ読んでると知らず知らずのうちにピッチが上がって巻き進行になるんすね」
「なりやすいっつー話な。それで結局10分巻いて番組を終わったから、俺らの班にその10分を乗せた結果100分番組になったっつーワケだ」
「その10分ってどうやって対処したんすか? 予定になかったんすから、アドリブっすよね」
「5分ダブルトークやって5分曲かけときゃすぐだ」
「くぁ~っ! 言ってみてー! カッコいー!」
今聞いていたのは、高崎先輩が2年生の頃のファンタジックフェスタの話だ。この年のファンフェスでは高崎先輩の班が100分番組をこなしたそうだ。他の班が60分番組だったことを考えると、40分増しってのはただただ凄くないかと。
で、それはどういうことだったのかを聞くと、大人の事情で足された30分と、現場の状況で乗せられた10分の結果だったらしい。どうして前の班の番組が10分も押してしまったのかというのはラジオの技術的な話でもあったから、とても参考になった。
「何で台本を読んでるとピッチが上がるんすかね」
「喋ることが一言一句決まってるし、他のことを入れる余地がねえのが関係してるかもしれねえな。手元見がちだし。他には、BGMがない状況で喋ってると早口になりやすいとかがある」
「ほうほう」
「インターフェイスだと星ヶ丘の奴がそうなりやすい傾向にあるな。ステージメインだとどうしてもラジオでも台本を作っちまうっつーか」
「あ」
「どうした」
「いや、夏合宿でペア組んでた相手がまさにそうだったなと思って。そこを単語レベルのネタ帳にするよう言ってたんすけど、星ヶ丘のステージの最盛期にやってたんで、すげー混乱させちまって」
「それで、どうだったんだ」
「星ヶ丘のステージが終わるまでラジオのことはパタッとやめて、ステージならステージ、ラジオならラジオっつって1コだけに集中させたっす。番組としては、まあ。ミスもありつつごまかしごまかし何とかやったって感じっすね」
「誤魔化す技術っつーのも時には必要だ。事故を起こさねえのが大事だからな」
「そっすね」
アナウンサーがテンパったり、ミキサーの操作ミスなんかで放送ミスはすぐに起こる。番組の本番だけじゃなくて、準備段階の頃から相手のことも気に掛けながら番組を作って行くのがいいそうだ。夏合宿での俺の判断を、高崎先輩は間違ってはいないとも言ってくれた。
「そうだ。話は全然変わるが、智也お前、背伸びたか?」
「それ、ササにも言われたんすよね。だから多分伸びてると思います。高崎先輩はたまにしか会わない人なんで、身長とかの変化は気付きやすいんすかね」
「つか、お前を最初見たときは俺よりちょっと小さいくらいだったはずだけど、今はもう抜かれただろ」
「えっ、抜きました?」
「俺が174だから、目線の感じで言うと175とか76とかにはなってんじゃねえか?」
「やっぱまだ育ち盛りなんすね! だから飯の量が要るんすよ!」
そう言われれば、そうなのかもしれない。この歳でそんだけ伸びるのかって言われそうだけど、高校卒業しても身長が伸びる晩熟タイプっていうのもあるそうだし、多分俺は実際にそれなんだと思うから。そっか、175いったのか。
「今の現役だと、果林以外で一番食うのってお前か?」
「多分俺っすね。次がササでその次がすがやんっすかね」
「ああ、陸も食うな。アイツはあんまガツガツしてねえけど食う量自体はまあまあある。それはそうと、大樹はあんだけしか食わなくて大丈夫なのか?」
「大樹…? ああ、サキか! 一瞬誰かわかんなかった! そーなんすよ、サキは全然食わねーんですよ! 肉よりも魚の方が好きだし、大丈夫かなって思います」
「肉より魚の方が好きなのはただの好みだろ」
「でも、肉まんとあんまんであんまんを選ぶんすよ!?」
「それも好みの話だろ」
「えー、俺は絶対肉まん食うのに」
「そうは言っても、同じ条件ならくるみとか、絶対あんまんを選びそうな奴もいるだろ」
「まあそうっすけどね。確かにくるみなら絶対あんまんだな。高崎先輩は肉まんっすよね!」
「そうだな。――と言いたいところだが、俺は甘党だし、状況によっちゃ普通にあんまんを食う可能性もある」
あのくるみと一緒にカフェでケーキとか食ってるって話だったなそーいや。くるみと同レベルで高崎先輩は甘いものが好きで、特に重たい系の甘いのが好きらしい。今回の飯でもメニュー表でデザートはチェックしてたし、やっぱ必要なんだろうな。
「ただ、肉まんとあんまんどっちか選ぶってよりは、おやつに肉まんでデザートにあんまん、俺ならどっちも食う」
「それはもしも話の答えとしては反則っす! でも、俺も金があったら多分そうするっす」
「金があったらな。そうだ、もし1人暮らしするんなら、出来る出来ないに関係なく物件はもう探した方がいいぞ。今じゃ合格前契約みたいな制度もあるし、うかうかしてたら次の1年にいいトコ食われるぞ」
「そうっすよね! 確かに! 助言あざっす!」
end.
++++
高崎がササキトリオを名前で呼ぶのは単純にややこしいからです。名前は全然違うから差別化出来るっていうだけのヤツ。
しかしシノは結構ガツガツいくなあ。タカちゃんにも機材管理の何たるかをうんたらかんたらってマンツーマンでやってたみたいだし。
そしてシノの身長が結構伸びてたのかな。高崎より小さかったのに今じゃちょっと大きくなった様子。本人曰く晩熟型。
.
++++
こないだ、ひもじい思いをしているときに飯を食わしてもらってから、俺はたまに高崎先輩と話すようになっていた。高崎先輩が確実に学内にいるのは火曜日で、飯を食えるところか8号館のロビーによくいるという印象。で、今日は飯を一緒に食っている。あ、もちろん自分の分は自分で出してる。
「へー、台本をただ読んでると知らず知らずのうちにピッチが上がって巻き進行になるんすね」
「なりやすいっつー話な。それで結局10分巻いて番組を終わったから、俺らの班にその10分を乗せた結果100分番組になったっつーワケだ」
「その10分ってどうやって対処したんすか? 予定になかったんすから、アドリブっすよね」
「5分ダブルトークやって5分曲かけときゃすぐだ」
「くぁ~っ! 言ってみてー! カッコいー!」
今聞いていたのは、高崎先輩が2年生の頃のファンタジックフェスタの話だ。この年のファンフェスでは高崎先輩の班が100分番組をこなしたそうだ。他の班が60分番組だったことを考えると、40分増しってのはただただ凄くないかと。
で、それはどういうことだったのかを聞くと、大人の事情で足された30分と、現場の状況で乗せられた10分の結果だったらしい。どうして前の班の番組が10分も押してしまったのかというのはラジオの技術的な話でもあったから、とても参考になった。
「何で台本を読んでるとピッチが上がるんすかね」
「喋ることが一言一句決まってるし、他のことを入れる余地がねえのが関係してるかもしれねえな。手元見がちだし。他には、BGMがない状況で喋ってると早口になりやすいとかがある」
「ほうほう」
「インターフェイスだと星ヶ丘の奴がそうなりやすい傾向にあるな。ステージメインだとどうしてもラジオでも台本を作っちまうっつーか」
「あ」
「どうした」
「いや、夏合宿でペア組んでた相手がまさにそうだったなと思って。そこを単語レベルのネタ帳にするよう言ってたんすけど、星ヶ丘のステージの最盛期にやってたんで、すげー混乱させちまって」
「それで、どうだったんだ」
「星ヶ丘のステージが終わるまでラジオのことはパタッとやめて、ステージならステージ、ラジオならラジオっつって1コだけに集中させたっす。番組としては、まあ。ミスもありつつごまかしごまかし何とかやったって感じっすね」
「誤魔化す技術っつーのも時には必要だ。事故を起こさねえのが大事だからな」
「そっすね」
アナウンサーがテンパったり、ミキサーの操作ミスなんかで放送ミスはすぐに起こる。番組の本番だけじゃなくて、準備段階の頃から相手のことも気に掛けながら番組を作って行くのがいいそうだ。夏合宿での俺の判断を、高崎先輩は間違ってはいないとも言ってくれた。
「そうだ。話は全然変わるが、智也お前、背伸びたか?」
「それ、ササにも言われたんすよね。だから多分伸びてると思います。高崎先輩はたまにしか会わない人なんで、身長とかの変化は気付きやすいんすかね」
「つか、お前を最初見たときは俺よりちょっと小さいくらいだったはずだけど、今はもう抜かれただろ」
「えっ、抜きました?」
「俺が174だから、目線の感じで言うと175とか76とかにはなってんじゃねえか?」
「やっぱまだ育ち盛りなんすね! だから飯の量が要るんすよ!」
そう言われれば、そうなのかもしれない。この歳でそんだけ伸びるのかって言われそうだけど、高校卒業しても身長が伸びる晩熟タイプっていうのもあるそうだし、多分俺は実際にそれなんだと思うから。そっか、175いったのか。
「今の現役だと、果林以外で一番食うのってお前か?」
「多分俺っすね。次がササでその次がすがやんっすかね」
「ああ、陸も食うな。アイツはあんまガツガツしてねえけど食う量自体はまあまあある。それはそうと、大樹はあんだけしか食わなくて大丈夫なのか?」
「大樹…? ああ、サキか! 一瞬誰かわかんなかった! そーなんすよ、サキは全然食わねーんですよ! 肉よりも魚の方が好きだし、大丈夫かなって思います」
「肉より魚の方が好きなのはただの好みだろ」
「でも、肉まんとあんまんであんまんを選ぶんすよ!?」
「それも好みの話だろ」
「えー、俺は絶対肉まん食うのに」
「そうは言っても、同じ条件ならくるみとか、絶対あんまんを選びそうな奴もいるだろ」
「まあそうっすけどね。確かにくるみなら絶対あんまんだな。高崎先輩は肉まんっすよね!」
「そうだな。――と言いたいところだが、俺は甘党だし、状況によっちゃ普通にあんまんを食う可能性もある」
あのくるみと一緒にカフェでケーキとか食ってるって話だったなそーいや。くるみと同レベルで高崎先輩は甘いものが好きで、特に重たい系の甘いのが好きらしい。今回の飯でもメニュー表でデザートはチェックしてたし、やっぱ必要なんだろうな。
「ただ、肉まんとあんまんどっちか選ぶってよりは、おやつに肉まんでデザートにあんまん、俺ならどっちも食う」
「それはもしも話の答えとしては反則っす! でも、俺も金があったら多分そうするっす」
「金があったらな。そうだ、もし1人暮らしするんなら、出来る出来ないに関係なく物件はもう探した方がいいぞ。今じゃ合格前契約みたいな制度もあるし、うかうかしてたら次の1年にいいトコ食われるぞ」
「そうっすよね! 確かに! 助言あざっす!」
end.
++++
高崎がササキトリオを名前で呼ぶのは単純にややこしいからです。名前は全然違うから差別化出来るっていうだけのヤツ。
しかしシノは結構ガツガツいくなあ。タカちゃんにも機材管理の何たるかをうんたらかんたらってマンツーマンでやってたみたいだし。
そしてシノの身長が結構伸びてたのかな。高崎より小さかったのに今じゃちょっと大きくなった様子。本人曰く晩熟型。
.