2020(03)

■先輩もまた後輩

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「それじゃ、食べよっか。タカちゃんどんどん食べてね」
「はい。いただきます」

 タカちゃんから一緒にご飯でもどうですかと誘われ、2人で囲む土鍋には鶏団子鍋。さすがにいっちー先輩みたく自分で団子を丸めるだけの気力はないから冷凍の鶏団子だけど。タカちゃんの部屋が進歩したなと思うのは、こたつ机に卓上コンロ、そしてその上の土鍋ですよ。
 さすがにこたつ布団はまだ用意してないそうだけど、卓上コンロと土鍋は冬と春の境目の頃に、お鍋シーズンの終わりで少し値段が下がってたのを買ったんだって。去年の今頃は机もなかったから、人が集まる割にこの部屋でお鍋をやることはなかったんだよね。

「果林先輩、ごはんも炊けてますから食べてください」
「ありがと。でも、タカちゃんからご飯でもって誘われて、ちょっと驚いたよね」
「最近じゃそこまでレアでもないと思いますけど」
「まあね。でも、何かあった?」
「いえ、何もないですよ? ああ、強いて言えば、俺も先輩とご飯が食べたいなと思って」
「どゆこと?」
「星ヶ丘の彩人とご飯を食べに行ったら――」

 ササから今度は自分も誘ってくれって言われたからご丁寧にササとご飯を食べに行って、そしたらその話がすがくるサキに伝わってその3人とご飯に行って、そしたらその話がレナに伝わって一緒に学内で青空ランチしてたんだって。

「……っていう感じで、最近は1年生とご飯を食べる機会がすごく多くて」
「へえ。大人気だね先輩。てかアタシ今の2年生にそんなに懐かれたことないよね普通に」
「どっちかと言うと果林先輩は今の4年生の先輩に懐いてた側じゃないですか?」
「確かに。高ピー先輩といっちー先輩の後ろくっついて回ってご飯食べてたわ。あ、タカちゃんもっと食べて。1回鍋さらって次の煮るから」
「あ、じゃあいただきます。でも、俺は1年生にごちそうしてあげたりっていうことはなかなか出来ないですし、ただただ一緒にご飯を食べてただけですよ」
「1年生もタカちゃんに奢りは期待しないって。ただただ一緒にご飯を食べたかっただけだよ」
「そうなんですかね。ああ、でも、そう言われればそうなのかもしれないですね。俺もただただ果林先輩とご飯を食べたいなって思って至ってるのが今なので」

 タカちゃんも嬉しいことを言ってくれるねえ。1年半も経てばそれなりに仲良くなってるみたいだ。MBCCに入って来たばっかりの頃は本当に静かで、人見知りで、サークル室の隅っこの方でちんまりしてたんだけど。
 だけどそれが今じゃ1年生たちに先輩先輩って懐かれて、慕われてるからね。しかもMBCCだけじゃなくて他校の子からも慕われてるって。何がいいんだろうな。タカちゃんの人柄とか雰囲気なのかなやっぱり。

「そう言えば、シノとはご飯に行ってないの?」
「シノは外食すると出費がかさむからって言って、機材管理が何たるかをマンツーマンで教えてくれーって」
「それがシノなりのタカちゃんへの懐き方なんだね。へえ、シノって倹約してるんだね」
「余程切実に1人暮らしがしたいんでしょうね。だから昼もおにぎりを作って持って来たり第1学食で量を食べたりしてますよ」
「量を食べたいなら確かに第1学食の方がいいよ。って言うか今の1年生で1番食べるのはシノだよね」
「そうですね。シノは結構ガッツリと食べますね。1番食べないのはサキですかね。多分女子2人より食べる量は少なそうです」
「すがくるサキと行った時はどうだったの?」
「その3人とは向島さんがよく行くっていうお店に行ったんですよ。すがやんと俺が普通の定食で、くるみが小うどんの定食を食べてたんですけど、サキは牛すじうどんの単品でしたね。ちなみに、定食は主食とごはんとうどんのセットで。一見多いかなって思うんですけど、美味しいんで食べちゃうんですよね」
「えー、アタシも行きたい!」
「そしたら、すがやんに声かけてみますか?」
「いいね、行こうよ」
「果林先輩には満腹セットっていうのがお勧めですね。向島さんの登竜門になってるとにかく量が多い系のメニューなんですけど。チキンカツが2枚と麺類とご飯大盛りですね。まあ、果林先輩にはウォーミングアップにもならないでしょうけど」

 実際、今のお鍋だってタカちゃんが1回食べてる間にアタシがどんどん食べちゃってるからね。まあ、アタシは自分の食べる量を分かってるからきっちり材料もそのように買ってるけどさ。チキンカツもうどんかそばも食べたいよね。もちろん大盛りのごはんも。

「あ、タカちゃん煮えたよ。食べなきゃなくなるよ」
「あっはい、いただきます。あっ、あっふい」
「大丈夫? 飲み物飲み物。水がいい? それともお酒?」
「とりあえず水で。果林先輩、お酒飲みます?」
「飲む」
「それじゃあ持って来ますね。俺も飲もうかな。ビールがあるんですよ」
「えっ、自分で買った?」
「自分で買いました。果林先輩とサシメシなら」
「ビールの練習ね」
「はい。ビールに慣れて普通に飲めるようになるまでは、もう少し先輩に甘えさせてもらおうと」
「お姉さんに任せなさい。じゃ、開けましょうか」


end.


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タカりんが正義というだけのお話。後輩たちに懐かれていたタカちゃんだけど、そんなタカちゃんもまた後輩なのであった。
こないだの焼肉でみちるに明かされてた話にしてもそうだけど、タカちゃんは果林との食事が楽しいようです。楽しいことはいいことだ
向島の登竜門に関しては、安くて量が多いんだったらシノにも良さそうな話だろうけどね。絶賛倹約中だもんね。

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