2020(03)
■背後に気を付けて
++++
話が弾んでお酒が進んだ結果なのかもね。そこまでめちゃくちゃ弱くはないという風に本人からは聞いていたけど、それでもある程度飲めば酔ってしまうのかもしれない。酔いが回って目がちょっと据わった彩人は、肉を食べるのもそこそこに酒を煽り続けている。
今日はインターフェイスの夏合宿打ち上げという体の飲み会で、焼肉屋に来ている。席はくじ引きで決まったんだけど、彩人は飲み会が盛り上がって来てから移動してきたんだ。彩人だったら定例会でも一緒だし、インターフェイスの中でも仲のいい方だからちょっと安心した。までは良かったんだけど。
「サキく~ん、飲んでる~?」
「飲んでるよ」
「ウソだ~、顔とか全然普通じゃ~ん」
「飲んでても顔はあんまり変わんないんだよ」
「強いんすね~」
「そうだね。ウチは先輩もみんな強いし、1年もシノ以外みんな強いんじゃないかな」
「すげ~っすね~」
……って言うか、ササの強い視線を感じるんだけど、絶対気の所為じゃないよね。ササって多分彩人に対して並々ならぬ感情を抱いてて、俺はそれをどう表現したらいいのかわからないんだけど、敵視されないことを祈るだけと言うか。
元々、彩人は初心者講習会の後から俺と話したいと思ってくれてたそうで、ササに俺を紹介してって言ってたらしい。だけど、その話はササで止まってたみたいなんだよね。何か、俺が彩人と会うと何か都合の悪いことでもあるのかなと。聞きはしないけどさ。
「って言うか彩人、ちょっと飲み過ぎ。お茶か水飲んだ方がいいよ」
「そ~っすね~。あっ、お茶くださ~い」
「楽しくて飲み過ぎた?」
「そ~っすね~。いつもはここまでならないんで~」
「よく飲むの?」
「先輩と飲んだり~、みちると飲んだり~、あ~、あとは~、リクとも~、よく飲むかなあ~」
「へえ、ササとよく飲むんだ。どこで? やっぱ星港?」
「俺ン家で飯食って~、そんで飲む的な? でもアイツ、うちで飲むときも~、確かに俺の倍は飲んでるかもな~」
「そんなに部屋で飲むんだ。仲良いんだね」
「サキく~ん」
「わっ。ちょっと、大丈夫?」
「ん~、ねみ~……」
俺の肩に頭を置いて、彩人はとうとう喋ることもやめてしまった。起きてはいるようだけど、ちょっと、どうしたものか。この後、解散になったら星ヶ丘の先輩とかに預けた方がいいのかな。俺は家が逆方向だし彩人は体も大きいから、自分で歩けないとどうにも出来ない。
「サキ、大変だろ。そのポジション代わる」
「ああ、お願い出来る?」
ずっとこちらのことを気にかけていたらしいササが、見るに見かねたのかこっちのテーブルにやってきた。正直、俺よりはササの方がこの後のことを考えても彩人を預かるにはいいと思う。家の方角的にも、彩人が歩けなかった場合の対処に関しても。
「あ~……サキ君、聞~てくらさいよ」
「彩人、大丈夫? 話は聞くよ」
「お茶来ました?」
「来てる。はい」
「いただきます。あー……うま」
「それで、俺は何を聞けばいいの?」
「そーだサキ君、聞ーてくださいよ。リクってのはね、カッコいーんすよ。カンペキなんすよ。頭もいーし、顔もいいし、優しいし。たまーに俺の周りにいる人と張り合おうとすんのだけはアレなんすけど、目立った欠点は、少なくとも俺の目には、見えないんすよ。本当は、俺なんかが隣にいるのは勿体ない、いい男なんすよ」
――という彩人の話を、ササが普段サークル室では見せない複雑な顔をして聞いている。彩人は前後不覚って感じだから、この話を聞いているのが俺だけだと思っていて、ササがすぐそこにいることにも気付いていなさそうだ。
その話に対して俺はいろいろ邪推することは出来るけれども、多分ナンセンスだろうし聞くだけにとどめる。酔ってて自分が何を喋っているのかもわかっていない可能性もある。ここまで酔ってると、肯定も否定もきちんと届かないと思うから。
「……うん、そうだね。ササは本当にいい奴で、凄い奴だと俺も友達の1人として思ってるよ」
「そーっすよね。リクはすげーんすよ。だけど、アイツには俺の心配よりも、自分の好きなようにしてて欲しいなーとも、思うんすよ」
「まあ、そういうところもあるよね。周りが見え過ぎてて自分が二の次になるタイプと言うか」
「細かいことはともかく、アイツは最高なんすよ。んー……何で俺なんかを選んでくれたんだろうなー……」
「彩人、お茶飲んで」
「あざっす」
「彩人は本当にササの事が好きなんだね」
「サキ君のことも好きっすよ、大好きっす! ずっと前から話したいって思ってたのにリクの野郎、俺とサキ君を会わそうとしないとか何考えてんだバカじゃねーのか! それだけはぜってー許してねーし! それから――」
あー……。彩人に絡まれてるこのポジションをササに代わってもらうはずが、今までの惚気っぽい話から愚痴っぽい話になってしまった。ササの方もまーたちょっと複雑な顔をしてこの件を聞いてるし。
「ササ、この場所代わってくれない?」
「今俺が出るともれなく痴話喧嘩めいた物が始まるけど、それでもいいなら」
「それじゃ、交代で」
end.
++++
彩人がただ惚気てるだけの話だし、ササも通常運転。サキはドンマイ。酔っぱらってる彩人に絡まれてるのは大変だろうなあ。
サキは酔ってる奴には肯定も否定もきちんと届かないってのをわかってるので、彩人の話は耳に入れる程度。
って言うか痴話喧嘩めいた物が始まっても全然構わないというスタンスなのね。おーい、レナー、出番だぞー。何とかしてくれー
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話が弾んでお酒が進んだ結果なのかもね。そこまでめちゃくちゃ弱くはないという風に本人からは聞いていたけど、それでもある程度飲めば酔ってしまうのかもしれない。酔いが回って目がちょっと据わった彩人は、肉を食べるのもそこそこに酒を煽り続けている。
今日はインターフェイスの夏合宿打ち上げという体の飲み会で、焼肉屋に来ている。席はくじ引きで決まったんだけど、彩人は飲み会が盛り上がって来てから移動してきたんだ。彩人だったら定例会でも一緒だし、インターフェイスの中でも仲のいい方だからちょっと安心した。までは良かったんだけど。
「サキく~ん、飲んでる~?」
「飲んでるよ」
「ウソだ~、顔とか全然普通じゃ~ん」
「飲んでても顔はあんまり変わんないんだよ」
「強いんすね~」
「そうだね。ウチは先輩もみんな強いし、1年もシノ以外みんな強いんじゃないかな」
「すげ~っすね~」
……って言うか、ササの強い視線を感じるんだけど、絶対気の所為じゃないよね。ササって多分彩人に対して並々ならぬ感情を抱いてて、俺はそれをどう表現したらいいのかわからないんだけど、敵視されないことを祈るだけと言うか。
元々、彩人は初心者講習会の後から俺と話したいと思ってくれてたそうで、ササに俺を紹介してって言ってたらしい。だけど、その話はササで止まってたみたいなんだよね。何か、俺が彩人と会うと何か都合の悪いことでもあるのかなと。聞きはしないけどさ。
「って言うか彩人、ちょっと飲み過ぎ。お茶か水飲んだ方がいいよ」
「そ~っすね~。あっ、お茶くださ~い」
「楽しくて飲み過ぎた?」
「そ~っすね~。いつもはここまでならないんで~」
「よく飲むの?」
「先輩と飲んだり~、みちると飲んだり~、あ~、あとは~、リクとも~、よく飲むかなあ~」
「へえ、ササとよく飲むんだ。どこで? やっぱ星港?」
「俺ン家で飯食って~、そんで飲む的な? でもアイツ、うちで飲むときも~、確かに俺の倍は飲んでるかもな~」
「そんなに部屋で飲むんだ。仲良いんだね」
「サキく~ん」
「わっ。ちょっと、大丈夫?」
「ん~、ねみ~……」
俺の肩に頭を置いて、彩人はとうとう喋ることもやめてしまった。起きてはいるようだけど、ちょっと、どうしたものか。この後、解散になったら星ヶ丘の先輩とかに預けた方がいいのかな。俺は家が逆方向だし彩人は体も大きいから、自分で歩けないとどうにも出来ない。
「サキ、大変だろ。そのポジション代わる」
「ああ、お願い出来る?」
ずっとこちらのことを気にかけていたらしいササが、見るに見かねたのかこっちのテーブルにやってきた。正直、俺よりはササの方がこの後のことを考えても彩人を預かるにはいいと思う。家の方角的にも、彩人が歩けなかった場合の対処に関しても。
「あ~……サキ君、聞~てくらさいよ」
「彩人、大丈夫? 話は聞くよ」
「お茶来ました?」
「来てる。はい」
「いただきます。あー……うま」
「それで、俺は何を聞けばいいの?」
「そーだサキ君、聞ーてくださいよ。リクってのはね、カッコいーんすよ。カンペキなんすよ。頭もいーし、顔もいいし、優しいし。たまーに俺の周りにいる人と張り合おうとすんのだけはアレなんすけど、目立った欠点は、少なくとも俺の目には、見えないんすよ。本当は、俺なんかが隣にいるのは勿体ない、いい男なんすよ」
――という彩人の話を、ササが普段サークル室では見せない複雑な顔をして聞いている。彩人は前後不覚って感じだから、この話を聞いているのが俺だけだと思っていて、ササがすぐそこにいることにも気付いていなさそうだ。
その話に対して俺はいろいろ邪推することは出来るけれども、多分ナンセンスだろうし聞くだけにとどめる。酔ってて自分が何を喋っているのかもわかっていない可能性もある。ここまで酔ってると、肯定も否定もきちんと届かないと思うから。
「……うん、そうだね。ササは本当にいい奴で、凄い奴だと俺も友達の1人として思ってるよ」
「そーっすよね。リクはすげーんすよ。だけど、アイツには俺の心配よりも、自分の好きなようにしてて欲しいなーとも、思うんすよ」
「まあ、そういうところもあるよね。周りが見え過ぎてて自分が二の次になるタイプと言うか」
「細かいことはともかく、アイツは最高なんすよ。んー……何で俺なんかを選んでくれたんだろうなー……」
「彩人、お茶飲んで」
「あざっす」
「彩人は本当にササの事が好きなんだね」
「サキ君のことも好きっすよ、大好きっす! ずっと前から話したいって思ってたのにリクの野郎、俺とサキ君を会わそうとしないとか何考えてんだバカじゃねーのか! それだけはぜってー許してねーし! それから――」
あー……。彩人に絡まれてるこのポジションをササに代わってもらうはずが、今までの惚気っぽい話から愚痴っぽい話になってしまった。ササの方もまーたちょっと複雑な顔をしてこの件を聞いてるし。
「ササ、この場所代わってくれない?」
「今俺が出るともれなく痴話喧嘩めいた物が始まるけど、それでもいいなら」
「それじゃ、交代で」
end.
++++
彩人がただ惚気てるだけの話だし、ササも通常運転。サキはドンマイ。酔っぱらってる彩人に絡まれてるのは大変だろうなあ。
サキは酔ってる奴には肯定も否定もきちんと届かないってのをわかってるので、彩人の話は耳に入れる程度。
って言うか痴話喧嘩めいた物が始まっても全然構わないというスタンスなのね。おーい、レナー、出番だぞー。何とかしてくれー
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