2020(03)

■煩悩バイオリズム

++++

「あっ、野坂先輩。今週もよろしくお願いします」
「こちらこそ。あ、今回果林は別の卓だしこの店は食べ放題だから安心してもらって」
「あはは、そうですね。今日は俺もいっぱい食べようと思います」

 モニター会に来た3年ということで、インターフェイスの夏合宿打ち上げにお呼ばれした。先週は緑ヶ丘との交流会、そして今週はインターフェイスと、飲み会が続くと年末に近付いてるなとしみじみ思う。そして今回も例によってクジで座る席が決まるのだけど。

「あっ、リクと一緒だ。よろしくー」
「よろしく」
「えーと、3年生の先輩で」
「向島の野坂さん。インターフェイス的にはマーシーさんっていう」
「知ってるよ、初心者講習会の講師だった先輩くらい覚えてるっつーの。あっ、自分、星ヶ丘の谷本彩人っす。うわー、すげー先輩と一緒とか」
「改めて、向島の野坂雅史。あ、そんな凄い人じゃないし彩人も気楽にしてて」
「すんません、お邪魔します」

 はー!? 同じ宅にササと彩人っていう、今のインターフェイス屈指のイケメンが揃ってしまっただと!? 先週の鍋に引き続き席運ヤバない!? 圭斗先輩とご一緒出来たというだけでも相当な贅沢だったのに、今週もこんなにいい思いをしていいのか!? 挙動不審にならないようにしないと。

「あっ、あたしここだー。青女の本宮ちとせです。お邪魔します」
「くるみと一緒の班だった子だね。俺は緑ヶ丘のササ。佐々木陸」
「星ヶ丘の谷本彩人」
「ササ君の話はくるちゃんから聞いてるよー。すっごく頭が良くて、気が利いて、カッコいいんだよね。彩人君はこんにちは」
「いや、くるみ、どんな話をしてるんだ……」
「いいじゃねーか、事実なんだから」
「あっ、すみません先輩に挨拶もしないで!」

 確か、ちとせって子は奈々がくるみとセットで溺愛してるんだっけか。小さくてかわいくて~とか。かの誰得プロジェクトでぜひ獲得したいタイプの超絶かわいい春風系の子なんですよ~とかって熱弁してたけど、確かに奈々受けしそうなタイプの子かなと。
 ……と言うか、何かすっごい恨み辛みの乗った視線とかオーラっていうのを感じるんだよな。言わずもがなその発信源がちょっと離れたところにいる奈々からだっていうのはわかるんだけど。大方先週に引き続いて溺愛してる1年と俺が一緒になったのがムカつくんだろう。ドヤ。

「キーッ! 野坂先輩ッ! 先週はくるちゃんで今週はちとせちゃんを見せつけて来て、さらにイケメンを侍らせてるとかッ! 煩悩の塊なのにどーしてッ!」
「日頃の行いだな」
「はーッ!? いたいけな後輩をイジメてるじゃないですかッ!」
「は? 奈々がいたいけな後輩?」
「あんまり意地悪をするなら菜月先輩と圭斗先輩に言いつけてシメてもらいますからねッ!」
「残念だったな、俺にはそれすらも光栄でしかない」

 奈々はエージとハナが回収してくれて事なきを得たけど「先週って?」と彩人とちとせが首を傾げている。緑ヶ丘と向島の交流会があったんだよとササが説明を入れてくれて、その時も俺と一緒だったんだという補足も。

「緑ヶ丘と向島がそういうことを出来るのも、活動形態が似てたり大学が豊葦だからってこともあるんすかね」
「まあそうだろうな」
「この歳になるとなかなか缶蹴りなんかしないっすよ」
「それが、向島じゃよくあることなんだよな。彩人って走るのとかスポーツって得意?」
「いやあ、全然っすよ。根っからの文化系なんで。走る速さだけは人並みっすけど、スポーツはあんま得意じゃないっすね」

 ササはこないだの缶蹴りでも結構動けてたし、スポーツもそつなくこなす文武両道タイプなんだなと確認した。彩人は本人曰くスポーツが得意じゃないのか。確かに背の割に体つきも結構華奢だもんな。文化系と言われても納得だ。

「彩人君って高校の時とか何の部活やってたの?」
「文芸部。小説を書いたりする人もいたけど、俺は専ら読書専って感じで。読んだ本の感想をみんなで言い合ったりしてたかな」
「読書が好きなんだね。あ、ササ君も読書が好きなんだよね」
「ちとせは? 読書とか」
「あたしはライトノベルをちょっと読むくらいかな」
「野坂先輩は」
「俺も活字だったらラノベくらい。紙の本なんかあとは精々技術書とか、それくらい」
「そう言えば、野坂先輩はインターフェイスで構築している新システムにも関わられてるんでしたね」
「関わってるって言っても、Lが書いたコードをレビューしたり、仕様をちょっと提案してる程度で」
「え、すげー!」
「彩人、野坂先輩は大学の成績もオールSの秀才でスポーツ万能、容姿端麗っていう完璧超人だぞ。それなのに気取らない人柄の親しみやすい先輩で」
「え、ヤバない?」
「ヤバい」
「いやいやいや、ちょっと待てササ。俺はそんなに凄くないしそもそも俺の成績がどこから漏れているのかと」
「どこからとかいうレベルじゃなく共有されてる一般的な認識でした」
「ナ、ナンダッテー!?」

 そしてさらに缶蹴りの時も菜月先輩とのコンビがヤバかったとか、その他ササの褒め殺しに彩人とちとせがすごいすごーいと上乗せして来て、何かもう恥ずかしすぎて肉食うどころじゃないし何なら死ぬ。

「野坂先輩、俺、ライスMサイズ頼みますけど良かったら一緒にどうですか?」
「あ、俺はLにしようかな」
「リクって結構食うよなー」
「彩人、食べっぷりで言えば野坂先輩の方がいいんだぞ」
「えっ、マジすか」
「ササ、頼むからマジでもうやめてくれ!」


end.


++++

ノサカのくじ運が絶好調をキープしているようです。イケメンを引き付ける運だったり、奈々受けのする女子もおまけについてくるようですね
そして褒め殺しのササはノサカにも適用されるのであった。オールSの秀才でスポーツ万能、容姿端麗まではよく言われるけど気取らない人柄の親しみやすい先輩…?
向島じゃあただのクズで通ってるのにササのフィルターって物凄いなあと思うのであった、まる

.
84/100ページ