2020(03)
■意識と体のバランス
++++
「ふぁ~わ。ふあ」
「なあ安曇野、時間間違ってないよな? 今ってまだ午後10時じゃんな」
「めっずらし、高木がこんな時間にアクビしてるとか。いつもなら生き生きしてるはずだし!」
音声作品を班ごとに制作するというゼミの通年課題も佳境に入っていた。12月になればいよいよ制作した作品の発表があって、その出来が今年度の演習Ⅰの成績にも大きく影響してくるそうだ。
作品制作の締め切りが近付くと、佐藤ゼミが占拠しているスタジオには昼夜がなくなる。昼間だろうと真夜中だろうと学生が何かしらの作業をしていて、ここで夜を越すということも日常になる。守衛さんにもそういう風に話が行っているんだ。
俺たち3班は佐竹さんと鵠さんが主に企画や声入れを担当して、俺と安曇野さんがそれを編集するという編成。そしてそのチームはそのまま朝型と夜型に分かれるから、みんなが起きてる時間帯に打ち合わせや録音をして、日付が変わってから2人で編集にスパートをかけるっていうスタイルなんだけど。ふわ。
「授業中も寝てたのにこんな時間でもまだ眠いとか、高木お前どっか具合でも悪いのか?」
「いや、昨日さあ、果林先輩に学内のジムに引きずられてさ」
「は? お前がジム?」
「こないだサークルでそういう話題になってね。俺はスタジオ泊で体が鈍ってるからって強制連行されてさ、今までの人生で一番筋トレしたよね。それで、体中バキバキで痛いし、疲れちゃったし、寝ても眠いし。生活リズムが崩れちゃって」
果林先輩式のトレーニングメニューは本当に壮絶だった。ランニングマシーンですっごい走るし、絵に描いたようなジムのマシンでのトレーニングも一通りやった。そのときの果林先輩は軍曹って感じだったな。俺とくるみ、それからすがやんはみっちりシゴかれましたよねー。
4限の時間にトレーニングをして、サークル後は帰ってすぐ寝ちゃった。今日の朝も体中痛くて痛くてなかなか起き上がれなくって。無理な運動はするモンじゃないなと思ったよね。それでも何とか大学には来たけど眠くて眠くて授業中にも寝ちゃってて、ってそれはいつもなんだけど。
「何だ、健全な生活になってるだけだし。ヒゲさんが聞いたら歓喜するんじゃない? その調子で成績も~って」
「えー、それもちょっと嫌だなあ」
「千葉ちゃん式のトレーニングだったら効きそうじゃんな。今度俺も教えてもらおうかな。もっとゴール下で当たり負けないパワーを付けないと。そのためには体幹かな」
「そっか、鵠さんは体育会系だから。うん、聞いてみたらいいんじゃないかな。もう、俺は眠くて眠くて」
「つか、いくらお前が文化系っつってもスキーは出来るんだから、全く運動出来ないワケじゃないじゃん? ほら、スキーに必要なボディーコントロールとかってあるじゃんな。そこは優れてんじゃね?」
「そういう系統のトレーニングはそこそこ出来たけど、だからと言って疲れないワケではないからね。あと、スキーって通年のスポーツじゃないし今は完全にオフってたから」
「確かに」
番組の発表までにはまだ時間があるとは言え、提出期限は案外すぐそこだ。編集して、それをモニターしてを繰り返しながら仕上げていかないといけないんだけど、如何せん今日はダメそうだ。
俺がダメでも安曇野さんがいるから編集自体は滞りなく進むけど、それでも夜型チームとしてちゃんと起きて見守ってた方がいいよねっていう思いも少し。企画の方は完全に朝型チームに任せてるし、俺の出来ることとはっていう話で。
「それで高木、アンタこの後起きてんの死ぬのどっち?」
「起きてようとは思ってるよ。でも、メイン編集は安曇野さんに任せたいかな。腕もパンパンでマウス握るのしんどいし」
「あっそう。それでもいいけどアタシの横で寝たら張っ倒すし!」
「出来ればお手柔らかに起こして欲しいかなとは」
「は? ふざけてんの? アンタの手持ちのフリスク全部冷水と一緒に喉に突っ込んでやろうか」
「あー、ごめんって。ふざけてはないです、はい」
鵠さんの活動リミットが大体日付が変わる頃だから、そこでやることも切り替わっている。もちろん朝型チームが起きているときも編集はしてるけど、打ち合わせ込みだからこれまでやったところの微修正が主だ。
夜型チームがガツガツ編集するのは新しい内容だ。それまでに打ち合わせた内容を踏まえて、これまで録音した素材を聞きながら取捨選択して組み合わせていくっていう。それで、夜が明けたら朝型チームに披露して、修正点を打ち合わせるんだ。
「ちょっと、眠気覚ましにコーヒーでも買ってこようかな」
「だったらアタシにもお茶買ってきて、後払いで」
「茶色いお茶ね。ホット? アイス?」
「アイス。どーせ冷めるし、この部屋暖房で乾燥してるし。ホットにしたかったらレンチンするから」
「鵠さんはこの後どうするの? ここで仮眠か、家に帰るか」
「今日は帰るわ。7時にまた来るし」
「7時にまた来るって言えるのが凄いよねえ。俺だったらずっと寝てるよ」
「まあお前はな。7時だったらさっき寝たとかそういうレベルじゃん?」
「由香里さんも明日の朝来るって言ってたし、それでいいっしょ。そしたら鵠沼、いる間はこのバカを起こし続けといて」
「わかった」
end.
++++
この時期はタカちゃんらに限らずスタジオ泊で賑わっているらしいスタジオです。空気も悪いし乾燥しがち。体調を崩さないといいね
果林式のトレーニングで筋肉痛になってしまったTKGである……急に果林と同等の運動をしたらそりゃ体もびっくりする
3班の面々が朝型夜型に分かれて効率よく作業してるんだなと。他の班ってどうやってんだろ、米ちゃんや樽中しょーゆ君の話も聞いてみたい
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「ふぁ~わ。ふあ」
「なあ安曇野、時間間違ってないよな? 今ってまだ午後10時じゃんな」
「めっずらし、高木がこんな時間にアクビしてるとか。いつもなら生き生きしてるはずだし!」
音声作品を班ごとに制作するというゼミの通年課題も佳境に入っていた。12月になればいよいよ制作した作品の発表があって、その出来が今年度の演習Ⅰの成績にも大きく影響してくるそうだ。
作品制作の締め切りが近付くと、佐藤ゼミが占拠しているスタジオには昼夜がなくなる。昼間だろうと真夜中だろうと学生が何かしらの作業をしていて、ここで夜を越すということも日常になる。守衛さんにもそういう風に話が行っているんだ。
俺たち3班は佐竹さんと鵠さんが主に企画や声入れを担当して、俺と安曇野さんがそれを編集するという編成。そしてそのチームはそのまま朝型と夜型に分かれるから、みんなが起きてる時間帯に打ち合わせや録音をして、日付が変わってから2人で編集にスパートをかけるっていうスタイルなんだけど。ふわ。
「授業中も寝てたのにこんな時間でもまだ眠いとか、高木お前どっか具合でも悪いのか?」
「いや、昨日さあ、果林先輩に学内のジムに引きずられてさ」
「は? お前がジム?」
「こないだサークルでそういう話題になってね。俺はスタジオ泊で体が鈍ってるからって強制連行されてさ、今までの人生で一番筋トレしたよね。それで、体中バキバキで痛いし、疲れちゃったし、寝ても眠いし。生活リズムが崩れちゃって」
果林先輩式のトレーニングメニューは本当に壮絶だった。ランニングマシーンですっごい走るし、絵に描いたようなジムのマシンでのトレーニングも一通りやった。そのときの果林先輩は軍曹って感じだったな。俺とくるみ、それからすがやんはみっちりシゴかれましたよねー。
4限の時間にトレーニングをして、サークル後は帰ってすぐ寝ちゃった。今日の朝も体中痛くて痛くてなかなか起き上がれなくって。無理な運動はするモンじゃないなと思ったよね。それでも何とか大学には来たけど眠くて眠くて授業中にも寝ちゃってて、ってそれはいつもなんだけど。
「何だ、健全な生活になってるだけだし。ヒゲさんが聞いたら歓喜するんじゃない? その調子で成績も~って」
「えー、それもちょっと嫌だなあ」
「千葉ちゃん式のトレーニングだったら効きそうじゃんな。今度俺も教えてもらおうかな。もっとゴール下で当たり負けないパワーを付けないと。そのためには体幹かな」
「そっか、鵠さんは体育会系だから。うん、聞いてみたらいいんじゃないかな。もう、俺は眠くて眠くて」
「つか、いくらお前が文化系っつってもスキーは出来るんだから、全く運動出来ないワケじゃないじゃん? ほら、スキーに必要なボディーコントロールとかってあるじゃんな。そこは優れてんじゃね?」
「そういう系統のトレーニングはそこそこ出来たけど、だからと言って疲れないワケではないからね。あと、スキーって通年のスポーツじゃないし今は完全にオフってたから」
「確かに」
番組の発表までにはまだ時間があるとは言え、提出期限は案外すぐそこだ。編集して、それをモニターしてを繰り返しながら仕上げていかないといけないんだけど、如何せん今日はダメそうだ。
俺がダメでも安曇野さんがいるから編集自体は滞りなく進むけど、それでも夜型チームとしてちゃんと起きて見守ってた方がいいよねっていう思いも少し。企画の方は完全に朝型チームに任せてるし、俺の出来ることとはっていう話で。
「それで高木、アンタこの後起きてんの死ぬのどっち?」
「起きてようとは思ってるよ。でも、メイン編集は安曇野さんに任せたいかな。腕もパンパンでマウス握るのしんどいし」
「あっそう。それでもいいけどアタシの横で寝たら張っ倒すし!」
「出来ればお手柔らかに起こして欲しいかなとは」
「は? ふざけてんの? アンタの手持ちのフリスク全部冷水と一緒に喉に突っ込んでやろうか」
「あー、ごめんって。ふざけてはないです、はい」
鵠さんの活動リミットが大体日付が変わる頃だから、そこでやることも切り替わっている。もちろん朝型チームが起きているときも編集はしてるけど、打ち合わせ込みだからこれまでやったところの微修正が主だ。
夜型チームがガツガツ編集するのは新しい内容だ。それまでに打ち合わせた内容を踏まえて、これまで録音した素材を聞きながら取捨選択して組み合わせていくっていう。それで、夜が明けたら朝型チームに披露して、修正点を打ち合わせるんだ。
「ちょっと、眠気覚ましにコーヒーでも買ってこようかな」
「だったらアタシにもお茶買ってきて、後払いで」
「茶色いお茶ね。ホット? アイス?」
「アイス。どーせ冷めるし、この部屋暖房で乾燥してるし。ホットにしたかったらレンチンするから」
「鵠さんはこの後どうするの? ここで仮眠か、家に帰るか」
「今日は帰るわ。7時にまた来るし」
「7時にまた来るって言えるのが凄いよねえ。俺だったらずっと寝てるよ」
「まあお前はな。7時だったらさっき寝たとかそういうレベルじゃん?」
「由香里さんも明日の朝来るって言ってたし、それでいいっしょ。そしたら鵠沼、いる間はこのバカを起こし続けといて」
「わかった」
end.
++++
この時期はタカちゃんらに限らずスタジオ泊で賑わっているらしいスタジオです。空気も悪いし乾燥しがち。体調を崩さないといいね
果林式のトレーニングで筋肉痛になってしまったTKGである……急に果林と同等の運動をしたらそりゃ体もびっくりする
3班の面々が朝型夜型に分かれて効率よく作業してるんだなと。他の班ってどうやってんだろ、米ちゃんや樽中しょーゆ君の話も聞いてみたい
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