2020(03)
■間のあの子
++++
「高木先輩、おはようございます」
「レナ。おはよう」
「先輩、私と一緒にお昼食べませんか?」
レナとは学部も文系と理系で全然違うし、サークルでもアナウンサーとミキサーという違いがあってMBCCの1年生6人の中では1番話す機会が少ない子だ。だから、こうして食事に誘われるとちょっと不思議な感じがする。
俺は揚げ鶏丼を、レナは海鮮丼を買って学生課へと続く建物の階段に腰掛ける。目の前には芝生と幅跳びの名所になっている池が広がっていて、夏ほどキツイ日差しでもなくなった今ではちょうどいい環境だ。そして、階段の脇には大きな黒いスピーカー。
「珍しいね、レナからの誘いなんて。何かあった?」
「最近みんなから高木先輩とご飯に行ったって話を聞いて、羨ましくなっちゃって」
急に横から大きな音が鳴り、圧がこっちにまでビリビリと伝わって来る。あの大きなスピーカーは佐藤ゼミの備品で、昼のラジオはあれを使って外にまで流している。そう言えば、そろそろラジオの研修が始まるんだっけ。
「この間から、陸が佐藤ゼミに受かったーって凄く喜んでて」
「そうなんだよ。ササはMBCCだけどアナウンサーだから合格特約みたいな物はないし、実力で合格したんだよ」
「ミキサーはあのブースで機材を扱うために積極的に採用されるんでしたっけ」
「そうだね。ラジオブースとか、オープンキャンパスとか。人目のある現場とか大舞台でいかに見栄を……じゃない、えーと」
「佐藤ゼミはこんなことが出来ます! って対外的にアピールするための切り札」
「そう言えば聞こえはいいね。だけど俺はやっぱりアナウンサーさんの方が大事だと思うよ」
「そうですか?」
「そうだよ。だってレナ、こうやって番組が流れてるじゃない。マイクのレベルだとか音の流れだとか、そんなことを意識しながら聞く人なんかそういなくない? 人の話の方が耳には入って来るんじゃないかなって」
「まあそうですね」
「先生はさ、社会学的なーとか知的なーとか言うけど、それならミキよりアナの質の向上に力を入れた方が絶対にいいんだよね。物事を多角的に捉えて何をどう喋るか考えなきゃいけないんだから。そういう意味で、ササの採用はゼミのラジオブースの未来を救ったと言っても過言じゃないよ」
ご飯を食べるのもそこそこに、俺がこのラジオブースについて思っていることをただただ語ってしまった。せっかくご飯に誘ってくれたのにこんな話でレナは引いていないだろうか。
「ごめんねレナ、愚痴っぽくなっちゃって」
「いえ。陸が高木先輩について言ってることの意味が少しわかったなと思って」
「またササが何か言ってたの?」
「また?」
「ササは彩人にも俺のことをいろいろ言ってたみたくて。しかもそれが誰の話ってくらいに褒め称えた内容で、聞いてるこっちが恥ずかしかったよ」
「もしかして、高木先輩は優しくて、程よい距離感で一緒にいると心がほどけて何でも話したくなっちゃうけど、現実的で厳しさもあるしアドバイスや叱る内容がすごく的確で、一見リーダーの補佐役に見えるけど実はその場を支配してて、それから――」
「ちょっと待って!? 増えてる! 何!? 何で俺がそんな黒幕みたいなことになってるの!? あーもー! サ~サ~! ホントにあの子は…!」
「陸、そうやって高木先輩に「あの子は」って感じで扱われるの、結構好きみたいですよ」
「え、そうなの?」
先輩に甘えたいんじゃないですか、とレナはくすくす笑っている。聞いてる話だと、俺のことを話してる時のササは、レナといる時とも彩人といる時ともまた違う顔らしい。カッコいい自分でいるための力がスッと抜けてる風にも見えるんだそうだ。彼女からだとそう見えるのか。
「でも、1年生の中じゃササが一番危なっかしいと言うか、心配と言うか……ほっとけないって思うよね。あ、内緒ね今の」
「危なっかしい」
「一見クールでしっかりしてるように見えるけど、実直さの制御は苦手だよね。あと、自分がこうしなきゃって思ったら視野が狭くなって、自分が本当にすべきことの判別が出来なくなるトコがある。ゼミのエントリーシートではササの勝負がバッチリハマったけど、多分たまたまだから」
「なるほど、高木先輩だから知る陸の欠点ですね」
「だから、シノがいてくれて本当に安心。場面場面でシノのお世話をすることで周りを気遣う広い視野や良識を保てるし、ササが立ち止まることがあったとしてもシノが力強く引っ張ってくれると思うから。ササの心を支える上で、レナとも彩人とも違うシノの役割ってヤツかな。相棒には恵まれてるんだよね」
「陸もシノの事は相棒として本当に信頼してますし、高木先輩みたいな先輩にも恵まれて、私も本当に安心しました」
「ササは人を見る目はあると思うけど、俺の評価だけはどうにかならないかなあ……過大評価だよ」
「私は言うほど過大評価でもないと思いますよ」
私といる時の陸はカッコよくありたがる節があるから欠点とかミスした話ってあんまりないんですよね、とレナは漏らす。その点、俺相手のササはちょっとダメなところも垣間見えてギャップが大きいみたいだ。でも、そのギャップがレナには逆に良かったみたい。
「先輩、また一緒にご飯かお茶して下さいね」
「ササの話を聞くのに?」
「それもありますけど、サークルの場だと先輩と絡む機会もあまりなかったんで。私の話や、先輩の話もしましょう」
「あ、そうだね。ササの話しかしてないや」
end.
++++
実はあまり絡みのなかったタカちゃんとレナです。すがくるサキとかササシノはそれぞれきゃっきゃしてるんだけど、レナはなかなかね。
ササレナはササがカッコよくありたいと思ってそうしてるけど、完全に力関係はレナのが強いよなあ
と言うかササのTKG観がまたちょっと物騒な感じに増えてるんだよなあ……そういや何かこないだそんなようなことを思ってはいたみたいだけど。
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「高木先輩、おはようございます」
「レナ。おはよう」
「先輩、私と一緒にお昼食べませんか?」
レナとは学部も文系と理系で全然違うし、サークルでもアナウンサーとミキサーという違いがあってMBCCの1年生6人の中では1番話す機会が少ない子だ。だから、こうして食事に誘われるとちょっと不思議な感じがする。
俺は揚げ鶏丼を、レナは海鮮丼を買って学生課へと続く建物の階段に腰掛ける。目の前には芝生と幅跳びの名所になっている池が広がっていて、夏ほどキツイ日差しでもなくなった今ではちょうどいい環境だ。そして、階段の脇には大きな黒いスピーカー。
「珍しいね、レナからの誘いなんて。何かあった?」
「最近みんなから高木先輩とご飯に行ったって話を聞いて、羨ましくなっちゃって」
急に横から大きな音が鳴り、圧がこっちにまでビリビリと伝わって来る。あの大きなスピーカーは佐藤ゼミの備品で、昼のラジオはあれを使って外にまで流している。そう言えば、そろそろラジオの研修が始まるんだっけ。
「この間から、陸が佐藤ゼミに受かったーって凄く喜んでて」
「そうなんだよ。ササはMBCCだけどアナウンサーだから合格特約みたいな物はないし、実力で合格したんだよ」
「ミキサーはあのブースで機材を扱うために積極的に採用されるんでしたっけ」
「そうだね。ラジオブースとか、オープンキャンパスとか。人目のある現場とか大舞台でいかに見栄を……じゃない、えーと」
「佐藤ゼミはこんなことが出来ます! って対外的にアピールするための切り札」
「そう言えば聞こえはいいね。だけど俺はやっぱりアナウンサーさんの方が大事だと思うよ」
「そうですか?」
「そうだよ。だってレナ、こうやって番組が流れてるじゃない。マイクのレベルだとか音の流れだとか、そんなことを意識しながら聞く人なんかそういなくない? 人の話の方が耳には入って来るんじゃないかなって」
「まあそうですね」
「先生はさ、社会学的なーとか知的なーとか言うけど、それならミキよりアナの質の向上に力を入れた方が絶対にいいんだよね。物事を多角的に捉えて何をどう喋るか考えなきゃいけないんだから。そういう意味で、ササの採用はゼミのラジオブースの未来を救ったと言っても過言じゃないよ」
ご飯を食べるのもそこそこに、俺がこのラジオブースについて思っていることをただただ語ってしまった。せっかくご飯に誘ってくれたのにこんな話でレナは引いていないだろうか。
「ごめんねレナ、愚痴っぽくなっちゃって」
「いえ。陸が高木先輩について言ってることの意味が少しわかったなと思って」
「またササが何か言ってたの?」
「また?」
「ササは彩人にも俺のことをいろいろ言ってたみたくて。しかもそれが誰の話ってくらいに褒め称えた内容で、聞いてるこっちが恥ずかしかったよ」
「もしかして、高木先輩は優しくて、程よい距離感で一緒にいると心がほどけて何でも話したくなっちゃうけど、現実的で厳しさもあるしアドバイスや叱る内容がすごく的確で、一見リーダーの補佐役に見えるけど実はその場を支配してて、それから――」
「ちょっと待って!? 増えてる! 何!? 何で俺がそんな黒幕みたいなことになってるの!? あーもー! サ~サ~! ホントにあの子は…!」
「陸、そうやって高木先輩に「あの子は」って感じで扱われるの、結構好きみたいですよ」
「え、そうなの?」
先輩に甘えたいんじゃないですか、とレナはくすくす笑っている。聞いてる話だと、俺のことを話してる時のササは、レナといる時とも彩人といる時ともまた違う顔らしい。カッコいい自分でいるための力がスッと抜けてる風にも見えるんだそうだ。彼女からだとそう見えるのか。
「でも、1年生の中じゃササが一番危なっかしいと言うか、心配と言うか……ほっとけないって思うよね。あ、内緒ね今の」
「危なっかしい」
「一見クールでしっかりしてるように見えるけど、実直さの制御は苦手だよね。あと、自分がこうしなきゃって思ったら視野が狭くなって、自分が本当にすべきことの判別が出来なくなるトコがある。ゼミのエントリーシートではササの勝負がバッチリハマったけど、多分たまたまだから」
「なるほど、高木先輩だから知る陸の欠点ですね」
「だから、シノがいてくれて本当に安心。場面場面でシノのお世話をすることで周りを気遣う広い視野や良識を保てるし、ササが立ち止まることがあったとしてもシノが力強く引っ張ってくれると思うから。ササの心を支える上で、レナとも彩人とも違うシノの役割ってヤツかな。相棒には恵まれてるんだよね」
「陸もシノの事は相棒として本当に信頼してますし、高木先輩みたいな先輩にも恵まれて、私も本当に安心しました」
「ササは人を見る目はあると思うけど、俺の評価だけはどうにかならないかなあ……過大評価だよ」
「私は言うほど過大評価でもないと思いますよ」
私といる時の陸はカッコよくありたがる節があるから欠点とかミスした話ってあんまりないんですよね、とレナは漏らす。その点、俺相手のササはちょっとダメなところも垣間見えてギャップが大きいみたいだ。でも、そのギャップがレナには逆に良かったみたい。
「先輩、また一緒にご飯かお茶して下さいね」
「ササの話を聞くのに?」
「それもありますけど、サークルの場だと先輩と絡む機会もあまりなかったんで。私の話や、先輩の話もしましょう」
「あ、そうだね。ササの話しかしてないや」
end.
++++
実はあまり絡みのなかったタカちゃんとレナです。すがくるサキとかササシノはそれぞれきゃっきゃしてるんだけど、レナはなかなかね。
ササレナはササがカッコよくありたいと思ってそうしてるけど、完全に力関係はレナのが強いよなあ
と言うかササのTKG観がまたちょっと物騒な感じに増えてるんだよなあ……そういや何かこないだそんなようなことを思ってはいたみたいだけど。
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