2020(03)
■疑惑の音楽経歴
++++
「おーい、スガー!」
「どうしたカン、騒々し――お前、また菜月さん拉致してきたのか」
「そりゃあ、その辺歩いてたら連れて来るよな」
「すぐそこに住んでるんだからその辺を歩いてるのは当たり前だろ」
すっかりUSDXの音楽拠点と化した須賀邸に、カンと菜月さんがやってきた。菜月さんはコンビニに行った帰りをカンに見つかり引き摺られて来た形だ。めんどくさいのに捕まった、というのは菜月さんの表情が物語っている。
USDXは須賀家の人たちにも割と好意的に受け入れられている。きららの取引先だという事情もあるからだろう。朝霞は星羅の友人という扱いだし、プロさんは外面はいい。ソルさんは社会人としての一般常識を持ち合わせていて、須賀邸へのフォローも忘れていない。
「すみません菜月さん、毎度毎度カンが」
「今日はゲームをやるだけっていう話だからな」
「だーいじょうぶだって! 今日は純粋に遊ぶだけ!」
菜月さんはUSDXの歌物動画にゲストボーカルのナユとして参加してくれているんだけど、本人はゲームが好きで普通によく遊んでいるそうだ。収録外でUSDXメンバーとテトリスで対決したんだけど、多くのメンバーがボコボコにされたから相当な腕前なのだろう。俺はパズルが得意だから辛勝したけど。
「さ! テトリス以外で何やる?」
「あれっ、もうやらないのか。こないだはあれだけ「ぜってーボコボコにしてやる!」とか言ってたのに」
「いや、テトリスで勝つのは諦めた。メンバーでスガしかお前に勝てないってことは、俺が勝つのは無理だ」
「ああそう。で、何やる?」
「お前スマブラもマリカーもそこそこつえーもんなー、何だったら勝てるかな」
「うちを負かしたいがための会か」
「カン、やるんだったら正々堂々勝負しろよ」
「わーってるよ!」
逆に2人とも知らないソフトでやるのがフェアかな、と言ってカンはダウンロードするソフトを探しにショップを漁っている。その間待たされている菜月さんに紅茶を出して、カンが本当に申し訳ないといつもの件を。
「粗茶ですが」
「いただきます。はーっ……何でカンノはここまでうちをボコボコにしたがるのか」
「元々が負けず嫌い気質だし、負けっ放しでいたくないと言うか。1つ負けたら2つ勝っとかないと気が済まない的な」
「めんどくさ」
「悪い奴じゃないんだけど、話がすぐ勝ち負けに発展するのはもったいないなとは思って」
「なあスガノ、あのギターは?」
「ああ、あれは朝霞のだな。前回置いてったんだ、またすぐ来るからって」
「朝霞のってことはレフティだよな。ちょっと触っていいかな」
「少しくらいならいいんじゃないかな」
すると菜月さんは朝霞のギターを奴と同じように構え、確かこうだったかな、と弦を弾き始めた。久し振りだからあんまり覚えてないなと苦笑しながら、それでも何となくそれらしく音が出ているのは凄い。もしかして経験者か。
かすかにギターの音が鳴っているのにカンが気付き、ショップそっちのけでこちらを見ている。これはもしかしなくても、菜月さん風に言えば面倒なことになりそうな気がする。だけど菜月さんはギターに集中していてその視線に気付かない。
「菜月お前ギター弾けんの!?」
「うわっ、何だカンノ! うちと勝負するゲーム探してたんじゃないのか!」
「いや、こっちの方が気になるだろ! しかもそれ朝霞のだろ!? お前もレフティか! えっ、普通に右利きじゃなかったっけ」
「基本右利きだけど、スポーツの時とかこういうときとかは左の方が使いやすいんだ」
「ああ、クロスドミナンスってヤツか。朝霞の両利きとはまたちょっと違うんだな」
「そういう呼び方をするんだな。ちょっとスッキリしたぞ」
「じゃなくて! スガ、話を逸らすな! お前どこでギターやってたんだよ!」
「高校の音楽の授業で少し触ったくらいだからそこまでガツガツには出来ないとは言っておくぞ」
「いや、それでそんだけ出来りゃ十分だよ! へー、高校の授業かー。他に触ったことある楽器ってなんかある?」
「リコーダーとか鍵盤ハーモニカ、それからアコーディオン。ピアノは少しだけ弾けて、ドラムも高校の音楽の授業で少し触った。それくらいだぞ」
「えー、すげーすげー!」
菜月さんの音楽経歴(?)にカンがきゃっきゃとはしゃいでいる。アコーディオンも触ったことがあるという発言にはカンも本当に喜んでいる。それも学校行事でという話だけど、それでもアコーディオンを触ったことがある人は少ないだろうから、カン的には本当に嬉しいのだろう。
ただ、ドラムを触ったことがあるという発言には俺も何となく興味を引かれている。高校の授業で少し触ったくらいでどの程度出来るのかというのは、ちょっと見てみたいような気がしないでもない。これまでの付き合いで菜月さんは器用な人だとわかっているから、これも何となく形になってそうだという予想。
「菜月、ゲームは後だ! ギター持ってスタジオに来い!」
「は!? 今日は何もしないって」
「録音はしない! セッションに変更だ!」
「いや、このギターだって朝霞のだろ」
「いーからいーから! スガ、お前も来い!」
「仕方ないな」
end.
++++
家の場所が場所なので、菜月さんがちょこちょこカンDに引き摺られてしまうようになってしまいました。
菜月さんはパズルゲームが得意なので、USDXの中に放り込んでもバリバリに戦えるらしい。USDXのパズル担当はコンちゃんなのね。
音楽経歴云々の話は高崎ともしたことがあるのかしら。でもドラムの話とかちょっとしてそうだけどね。興味深いポイントね
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「おーい、スガー!」
「どうしたカン、騒々し――お前、また菜月さん拉致してきたのか」
「そりゃあ、その辺歩いてたら連れて来るよな」
「すぐそこに住んでるんだからその辺を歩いてるのは当たり前だろ」
すっかりUSDXの音楽拠点と化した須賀邸に、カンと菜月さんがやってきた。菜月さんはコンビニに行った帰りをカンに見つかり引き摺られて来た形だ。めんどくさいのに捕まった、というのは菜月さんの表情が物語っている。
USDXは須賀家の人たちにも割と好意的に受け入れられている。きららの取引先だという事情もあるからだろう。朝霞は星羅の友人という扱いだし、プロさんは外面はいい。ソルさんは社会人としての一般常識を持ち合わせていて、須賀邸へのフォローも忘れていない。
「すみません菜月さん、毎度毎度カンが」
「今日はゲームをやるだけっていう話だからな」
「だーいじょうぶだって! 今日は純粋に遊ぶだけ!」
菜月さんはUSDXの歌物動画にゲストボーカルのナユとして参加してくれているんだけど、本人はゲームが好きで普通によく遊んでいるそうだ。収録外でUSDXメンバーとテトリスで対決したんだけど、多くのメンバーがボコボコにされたから相当な腕前なのだろう。俺はパズルが得意だから辛勝したけど。
「さ! テトリス以外で何やる?」
「あれっ、もうやらないのか。こないだはあれだけ「ぜってーボコボコにしてやる!」とか言ってたのに」
「いや、テトリスで勝つのは諦めた。メンバーでスガしかお前に勝てないってことは、俺が勝つのは無理だ」
「ああそう。で、何やる?」
「お前スマブラもマリカーもそこそこつえーもんなー、何だったら勝てるかな」
「うちを負かしたいがための会か」
「カン、やるんだったら正々堂々勝負しろよ」
「わーってるよ!」
逆に2人とも知らないソフトでやるのがフェアかな、と言ってカンはダウンロードするソフトを探しにショップを漁っている。その間待たされている菜月さんに紅茶を出して、カンが本当に申し訳ないといつもの件を。
「粗茶ですが」
「いただきます。はーっ……何でカンノはここまでうちをボコボコにしたがるのか」
「元々が負けず嫌い気質だし、負けっ放しでいたくないと言うか。1つ負けたら2つ勝っとかないと気が済まない的な」
「めんどくさ」
「悪い奴じゃないんだけど、話がすぐ勝ち負けに発展するのはもったいないなとは思って」
「なあスガノ、あのギターは?」
「ああ、あれは朝霞のだな。前回置いてったんだ、またすぐ来るからって」
「朝霞のってことはレフティだよな。ちょっと触っていいかな」
「少しくらいならいいんじゃないかな」
すると菜月さんは朝霞のギターを奴と同じように構え、確かこうだったかな、と弦を弾き始めた。久し振りだからあんまり覚えてないなと苦笑しながら、それでも何となくそれらしく音が出ているのは凄い。もしかして経験者か。
かすかにギターの音が鳴っているのにカンが気付き、ショップそっちのけでこちらを見ている。これはもしかしなくても、菜月さん風に言えば面倒なことになりそうな気がする。だけど菜月さんはギターに集中していてその視線に気付かない。
「菜月お前ギター弾けんの!?」
「うわっ、何だカンノ! うちと勝負するゲーム探してたんじゃないのか!」
「いや、こっちの方が気になるだろ! しかもそれ朝霞のだろ!? お前もレフティか! えっ、普通に右利きじゃなかったっけ」
「基本右利きだけど、スポーツの時とかこういうときとかは左の方が使いやすいんだ」
「ああ、クロスドミナンスってヤツか。朝霞の両利きとはまたちょっと違うんだな」
「そういう呼び方をするんだな。ちょっとスッキリしたぞ」
「じゃなくて! スガ、話を逸らすな! お前どこでギターやってたんだよ!」
「高校の音楽の授業で少し触ったくらいだからそこまでガツガツには出来ないとは言っておくぞ」
「いや、それでそんだけ出来りゃ十分だよ! へー、高校の授業かー。他に触ったことある楽器ってなんかある?」
「リコーダーとか鍵盤ハーモニカ、それからアコーディオン。ピアノは少しだけ弾けて、ドラムも高校の音楽の授業で少し触った。それくらいだぞ」
「えー、すげーすげー!」
菜月さんの音楽経歴(?)にカンがきゃっきゃとはしゃいでいる。アコーディオンも触ったことがあるという発言にはカンも本当に喜んでいる。それも学校行事でという話だけど、それでもアコーディオンを触ったことがある人は少ないだろうから、カン的には本当に嬉しいのだろう。
ただ、ドラムを触ったことがあるという発言には俺も何となく興味を引かれている。高校の授業で少し触ったくらいでどの程度出来るのかというのは、ちょっと見てみたいような気がしないでもない。これまでの付き合いで菜月さんは器用な人だとわかっているから、これも何となく形になってそうだという予想。
「菜月、ゲームは後だ! ギター持ってスタジオに来い!」
「は!? 今日は何もしないって」
「録音はしない! セッションに変更だ!」
「いや、このギターだって朝霞のだろ」
「いーからいーから! スガ、お前も来い!」
「仕方ないな」
end.
++++
家の場所が場所なので、菜月さんがちょこちょこカンDに引き摺られてしまうようになってしまいました。
菜月さんはパズルゲームが得意なので、USDXの中に放り込んでもバリバリに戦えるらしい。USDXのパズル担当はコンちゃんなのね。
音楽経歴云々の話は高崎ともしたことがあるのかしら。でもドラムの話とかちょっとしてそうだけどね。興味深いポイントね
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