2020(03)

■勝利宣言にはまだ早い

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 緑ヶ丘との交流会当日。去年と同じで前半が緑ヶ丘主催の飲み会で、後半が向島主催の缶蹴り大会だ。まずは飲み会ということで、席順のクジを引いてその場所に座って行く。今回は向島8人、緑ヶ丘14人ということで、バランスよく配置されるよう決められているそうだ。
 そして今回の交流会という名の戦争にはリベンジマッチという意味があり、4年生の先輩方にもご参加いただいている。俺としては飲みの場でも菜月先輩か圭斗先輩のお近くの席にという思いがないことはなかったけど、人数バランス的に無理だろうな。仕方ない。

「あ、野坂先輩。ご無沙汰しています」
「ササ、久し振り。元気だったか」
「おかげさまで。あっ、高木先輩もここですか?」
「ササの横ではあるけど、厳密には隣の卓だね」
「えー、残念です」

 タカティに懐いているササが可愛いなあと思いつつ、この卓の他の席がどう埋まるのかがそわそわする。ちなみにここは誕生日席のある一番入り口側の5人卓。残る枠は向島1人に緑ヶ丘2人だ。

「ん、僕はここでいいかな。よろしく」
「よろしくお願いします」
「ナ、ナンダッテー!? は!? この確率で圭斗先輩にお越しいただけたとか奇跡か!? っしゃあ! これで勝てる!」
「野坂、落ち着け」
「はっ。申し訳ございません。圭斗先輩とご一緒出来ることの喜びがついうっかり控えめにですが出てしまいました」

 ササの隣、俺の向かいには何と何と圭斗先輩がいらっしゃったぜ! 控えめに言って大勝利だ! 圭斗先輩が隣にいらっしゃって、ササが控えめに会釈をしているのもまたいいぜ。目の保養だ。

「あーっ、ササと一緒だー! 野坂先輩、お隣失礼します!」
「おー、くるみ。来い来い」
「えーッ!? 野坂先輩くるちゃんの隣とかズルいッ! 交代してくださいッ!」
「圭斗先輩とササの向かいとかいう素晴らしいポジションだぞ、交代する意味がわからない。あと奈々は下心剥きだしだからセンサーが働いたんだな、ザマあ」
「あーもう本当に野坂先輩ってクズですよねッ!」
「はっはっは、ここに勝利宣言をさせてもらおうじゃないか」
「野坂、気持ちよく勝利宣言しているところを悪いけど、お前の戦いはこれからのようだよ」
「ん?」

 圭斗先輩のお声に、その指さす方にチラリと目をやると、視界に飛び込んで来たのはいつもの黄色……ではなく、迷彩柄のジャージだ。これはもしや、もしかしなくたってこの現場で起こり得る事象としてはなかなかに荒れる確率の高そうなヤツ。

「アタシの席はここだね。あっ、圭斗先輩お邪魔しまーす」
「5人卓に果林とか他の人の食う物がなくなるヤツじゃないか!」
「アンタにだけは言われたくないんですよねー」
「僕は食べる量が少ない方だからまだいいけど、ササとくるちゃんは他の卓への避難も視野に入れた方がいいよ」

 お誕生日席に陣取ったのは何と果林だ。これは、心してかからないと食いっぱぐれる。缶蹴りを前に食うものは食っておかないと活動するためのエネルギーが足りなくなるし、座席云々のことはすっかりどこかへ飛んで行った。

「え、っと……高木先輩、他の先輩たちもみんなざわざわしてますけど、もしかしてこの卓、相当ヤバいですか」
「食糧戦争の開戦は避けられないね。もし食べる物に困ったら、L先輩とかサキの卓に避難したらいいよ。その2人のどっちかがいるところならちょっと分けてもらえると思うから」
「高木先輩、食糧戦争って何ですか?」
「果林先輩と野坂先輩が食べる物を確保するための戦いだね。同じ卓にいる一般の人は大体食いっぱぐれる」
「えー! そんな凄いことになっちゃってるんですか!?」
「僕の知る限り、何だかんだ言って最近は食糧戦争もそこまでの規模で起こらなかったけど、今回は不可避だね」
「果林先輩も今年は1年生も食料を勝ち取っていけっていうスタンスで遠慮しなくなりましたからね」
「野坂、果林。食糧戦争を起こすのは結構だけど、一応は僕たちの食べる量が確保出来たのを確認してからにしろよ。わかったら返事」
「圭斗先輩一応確認ですけど、それは最初の一杯をよそってからなのか、それともみんながお腹いっぱいになってからなのかというのは」
「ん、そうだね……僕を含む3人が2回食べたら開戦を許可しよう。それから、数の限られた特殊食材の奪い合いは禁止」

 圭斗先輩が最低限のルールを制定してくれたおかげで、食糧戦争に秩序が生まれようとしていた。ササとくるみはもっといっぱい食べたければ器を持って他の卓を回ってくれということで落ち着く。Lとかサキとか、あんま食わない奴もいるにはいるからな。

「って言うか、果林先輩と野坂先輩の影に隠れて目立たないんだけど、一番奥も高崎先輩とシノと土田先輩っていう、なかなかなメンバーなんだよなあ……」
「うわー、引くわー……って、は!? 律の野郎またアイツ!」
「野坂、僕じゃご不満かな?」
「あ、いえ、そのようなことでは…!」


end.


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フェーズ1でも案外やってない果林とノサカの食糧戦争である。ヤバいとは常々言われてたんだけどね。今後そのシーンやるかしら
ノサカ的には菜月さんの近くが一番良かったんだろうけど、圭斗さんとササっていう目の保養枠に入れたのでオッケー。
果たして食糧戦争に秩序など本当にあるのだろうか。いや、ない。圭斗さんがどこまで審判として働いてくれるかがポイントですね。

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